それぞれの目的
「異世界のんびり素材採取生活」本日発売です。
書店などで見かけた際は、是非ともよろしくお願いします。
「学園の課題がどうとか言っていましたが、四人はここに何をしにきたんですか?」
ネルネを引きはがし、冷気で休憩を図っている中、俺は好奇心から尋ねた。
貴族であるフランリューレたちが、どのような課題でこのような過酷な場所にやってきたのか気になる。
「わたくしたちの通う、魔法学園の中間試験ですわ」
「……僕たちのグループはレディオ火山に生息する、マグマゴーレムを倒し、素材を持ち帰ることなんです」
フランリューレとギールスの言葉に、アレクとネルネも同意するように頷いた。
魔法学園。この世界では魔法や教養を学ぶために学園があると聞いたことがある。
フランリューレたちはそこに通う生徒のようだ。
「それは実技試験のようなものですか?」
「……うん。上位学年になると、毎回こんな風に実地で魔物を倒す試験を課せられる」
「レディオ火山の魔物だなんて俺たちも運がねえぜ。楽な環境の魔物なら、もっとサクッと終わるのによ」
「……多分、それがわかっているから、先生たちはここの魔物を指定したんだと思う」
どうやら、そのグループの力量によって、課題の難易度も変わるようだ。
エルドではフランリューレたち以外の学生は見ていない。
準備不足やら管理の甘さなどが目立つ彼女たちであるが、怪我を負うことなく火山の奥にまで到達することができている。しっかりとした実力はあるのだろうな。
それにしても、魔物を討伐して素材を持ち帰るのが課題とは、魔法学園というのも中々にスパルタだな。
「そして、暑さで水分と魔力を摩耗する中、シュウさんと遭遇したというわけですの」
「それは大変でしたね」
よりによってレディオ火山とは。魔物の強弱ならまだしも、自然はいくら対策していてもどうしようもない時があるからな。
まあ、それも踏まえての経験だと思うが。
「シュウさんは、何か依頼を受けてきたのですか?」
「俺はヴォルケノスの卵を採りに」
「ヴォルケノスって危険度Bの魔物だよな? しかも、成体の討伐をしちゃいけねえっていう……」
アレクも知っているのか、依頼内容を聞いて「うげえ」と顔をしかめる。
「……Bランク冒険者にもなると、依頼も大変」
「そうなんですよね。一人で卵を採るのにもヴォルケノスが見張っていて大変なので、エルドに戻って手伝いを募集しようかと」
互いに困難にぶつかっているからか、思わずため息が出る。
「でしたら、そのお手伝い。わたくしたちにさせて頂けませんか?」
「え? フランリューレさんたちが?」
「そうですわ」
フランリューレの突然の提案に驚いてしまう。
ギールス、アレク、ネルネもその提案には別に驚いてはいないようだ。
フランリューレがそう提案すると読んでいたのか、反対する理由がないのか。
正直言って、フランリューレの提案は嬉しい。
現状だとわざわざエルドの冒険者ギルドまで戻って、募集を募る必要がある。
勿論、すぐに集まるとは限らないし、集まってもそれは信頼もない赤の他人だ。
金銭状での契約を交わしただけの人間。
ギルドによって規律があるものの、そこでのトラブルは自己責任だ。
そういった意味でも、依頼を手伝ってくれるものは信頼のできる者がいい。
フランリューレたちの実力を見たわけではないが、四人ともここまで無傷でたどり着けている時点で実力はある。
ちょっと会話をしてみたが、俺と同じく世間知らずの部分はあるものの、素直ないい子たちだ。最大の障害である信用面の条件をクリアしていると言ってもいいだろう。
「どうして俺の依頼を手伝おうと?」
色々と気になる点はあるが、まずそこが気になった。
「厳しい時こそ助け合う。シュウさんの信念に感動したのですわ」
まさか、さっきの自分の台詞を持ち出されるとは思わなかった。改めて第三者に言われると恥ずかしいな。
「しかし、それは理由の半分であり、もう半分は私たちの課題を手伝ってもらうためです」
「マグマゴーレムの討伐を? まったく関係のない俺が介入してもいいのですか?」
「いえ、これはわたくしたちの試験ですので、シュウさんにそこまでしてもらうつもりはありません」
「……シュウさんはあくまで現地の協力員として、マグマゴーレムの探索を手伝ってもらいたいです」
「シュウさんの氷魔法と水魔法があれば、この洞窟にいても大して疲れねえしな!」
「僕たちは体力と魔力を必要以上消耗することなく、マグマゴーレムの討伐に挑めるのです」
どうやら討伐に関しては俺の力は一切求めておらず、あくまで目的の魔物までの随行を要請したいようだ。討伐に他人の力を一切借りようとしないとは、殊勝な考えだ。
確かに俺がいれば、水の心配はいらないし、冷気で身体を包むことができるので暑さに苦しむこともない。ここの環境を半減させる頼もしい援護役だろうな。
フランリューレの提案に動揺せず、文句を言わなかったのは、他の三人もこの取り引きを狙っていたからであろう。
若いながらも貴族ということか。油断できないな。
「少々グレーっぽい気もしますが、いいんですか?」
気になるのは、そのようなことをして違反にならないかだ。学生にとって、大事な試験だ。
落第させるような原因にはなりたくない。
「今回は偶然、現地で出会った冒険者と協力した形になりますし、討伐をしてもらうわけでもないので違反にならないかと」
「このくらいであれば、荷物の運搬役に人を雇っているのと変わりませんよ。勿論、シュウさんの貢献はそれ以上ですが」
「……ぶっちゃけ、酷いグループはお金で高ランクの冒険者を雇って達成してたりもする」
うん、なんだか魔法学園の闇を見たような気がするが、そこは気にしないことにしよう。
彼女たちが、そこまで自信をもって大丈夫だというなら気にしないことにする。
これでフランリューレたちの狙いはわかったが、個人的な部分で気がかりがある。
俺の表情が晴れないのを見てか、ネルネが率直に尋ねてくる。
「……何か不満でもある?」
「討伐ではないとはいえ、危険度Bの魔物がいる場所に連れていっていいものかと……」
一番危険な役割は俺が引き受けるとはいえ、間違いなくヴォルケノスと接敵することになる。
ただの子供ではないとはいえ、そんなところに彼女たちを連れていっていいものか。
「Bランク冒険者のシュウさんより強いとまで言えねえけど、こっちもそれなりの経験は積んでるから役に立つぜ?」
「僕たちの心配なら無用です」
「……討伐は荷が重いけど、卵をとるために注意を引いて、逃げるだけなら問題ない」
「そういうことですの」
俺の表情から読み取ったのか、アレクたちが覚悟のこもった言葉を言う。
あどけない顔立ちからは、それぞれが積み上げてきた自信というものがあった。
そうだったな。この子たちは、ただの子供じゃないんだ。魔法学園に通う生徒であり、魔法使いだ。
そこら辺にいる子供と同じ扱いをしては失礼だろう。
冒険者にだって、この子たちと同じぐらいの年齢で活躍している子はいっぱいいる。年齢なんて関係ない。
というか、今の俺は若返っているので、この子たちとそれほど年齢だって変わらないしな。
「わかりました。お手伝いをしますので、こちらも是非お願いします」
「提案を受けてくださり、感謝いたしますわ」
「……シュウさんがいれば、課題なんてクリアしたも当然」
こうして俺たちは互いに協力し合うことで、ぞれぞれの目的に挑むことになった。
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