貴族の子供たち
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翌朝。宿でしっかりと英気を養った俺は、再びレディオ火山にやってきていた。
地図を広げると、昨日様々なルートや魔物の情報が書き込まれている。
主要の最短ルートを通るのでなく、脇道を利用することで距離こそ遠くなるが魔物との接触を回避しやすくなる。
それに気付くことができ、いくつかのルートを割り出すことができた。
マグマレスの群生地帯さえ、切り抜けられれば一人でも卵を運び出すことができるはず。
しかし、それには大きな障害があった。
「ヴォルケノスの活動時間だな……」
巣の主であるヴォルケノスをどう掻い潜るかが問題だ。
できればいない時を見計らって悠々と取りたいものである。
ひとまず、ヴォルケノスがいるかを確かめるために、俺は火山内を進んでいく。
一度通ってしまえば慣れたもので、ブリザードで魔物を蹴散らし、マグマを凍らせながら最短距離で進んでいくとあっという間に巣にたどり着いた。
傾斜を登ってこっそりと巣を覗くと、案の上ヴォルケノスが巣を守っていた。
大きな身体と長い尻尾で卵を隠し、外敵から守ろうとしているのが伝わってくる。
卵が一つ俺に奪われたと認識しているのでヴォルケノスの警戒心は比較的に上がっていた。
瞳はしっかりと周囲を見渡しており、油断した空気は感じとれない。
これじゃあ、迂闊に巣を離れるタイミングも減っているだろうな。食料をどこかに隠しているか、下手したら食事をやめて守りに入っているかもしれない。
それくらいの高い警戒心を持っているのがヒシヒシと伝わっていた。いつの世も母親というのはたくましいものだ。
そんな覚悟を持っている魔物を殺さず、傷つけ過ぎず、卵だけを奪って逃げるというのはかなり難易度が高いな。
ヴォルケノスが食事などで巣を離れるタイミングがないか、二時間程度観察し続けたがその様子は見られない。
三時間目に軽く周囲を見回り始めたので、俺は気配を掴まれる前にそっと巣を離れることにした。
念のために洞窟内まで引き返した俺は、一人唸る。
「……マズいなぁ。隙がない」
そう、巣を守るヴォルケノスの隙があまりにもないのだ。
やはり、昨日俺の姿を目視されたというのが大きいだろう。あの時点で目視されなければ、ヴォルケノスも他の魔物なども警戒して疑心暗鬼になっていたはず。
そうなっていれば、まだ付け入る隙はあった。
しかし、俺の姿をバッチリ見られたお陰で人間に対する警戒心が跳ね上がっている。
警戒が解けるまで時間をかける方法もあるが、あまり時間をかけると卵が成熟して子供が生まれてしまう。
そうなると次の産卵、あるいは違う個体の巣を見つける必要があるが、近辺にそのような巣があるという情報は聞いていない。
仮にあったとしても、あまり遠すぎると運搬をするのが不可能だ。
やはり、ベストなのは頂上部にあるヴォルケノスの巣だろう。
「……一人じゃ厳しいかもしれないな」
ヴォルケノスをおびき出して、ブリザードで足だけを凍りつかせる方法もあるが、下半身だけの中途半端な方法では力で破られる気がするし、炎を吐いて溶かされるかもしれない。
俺が魔法をかけて、誰かが運び出すとかだと何とかなるか?
頼むべき相手として頭に浮かぶのは、この街にいる知り合いのロスカだ。
以前もデミオ鉱山に一緒に入って、魔物を倒し、鉱石を採取した仲だ。
力量も知っているし、信頼もできる。
しかし、彼女は純粋な冒険者ではない。この街には修行のために訪れているのであって、冒険者をするために来ているのではない。
ただでさえ、俺がうっかりと話した蒸留酒騒動のせいで修業が止まっているのだ。この上、依頼まで手伝ってくれとはさすがに言えない。
ドロガンはわからないが、新しくできたバリスも蒸留酒で忙しそうだ。
面倒であるが、街にある冒険者ギルドでメンバーを募集するか? 危険な依頼なのであまり受けてくれる人もいなさそうであるが、これが一番成功確率が高そうだ。
方針を切り替えた俺は、エルドに戻るべく下山していく。
すると、前方から四つの人影が見えた。
一瞬、リザードマンかと思って身構えたが、それは魔物ではなく人間であった。
冷静に考えれば、調査スキルに反応していないので魔物ではないことはわかるな。
「やべっ! リザードマンだ!」
「くっ、こんな時にっ!」
向こうも同じような勘違いをしたのか、そんな声が聞こえてくる。
この洞窟内にはリザードマンが結構いるからな。薄暗い洞窟の中ではリザードマンなのか人なのかちょっとハッキリしないところがある。
俺も最初は相手をリザードマンかと思っちゃったし。
なんて呑気に苦笑しているが、このまま誤解を受けたままでは攻撃が飛んできそうだ。
「リザードマンじゃありません。俺は冒険者ですよ!」
「喋るリザードマンか! やべえぞ! これが噂の上位個体か!?」
声をかけたというのに、まさかの勘違い!?
「……違う」
「しっかりとシルエットを見ろ。どう見ても人間じゃないか」
「お、おお? 本当だ」
「まったく、アレクってば早とちりしないでくださいませ。こちらが焦りますわ」
しかし、他の三人はちゃんと人間だということに気付き、勘違いをしていた少年を諫めてくれた。
警戒心を解いた少年たちがこちらに寄ってくる。
薄暗い人影がマグマの光で露わになる。
「あ、君たちは昨日道具屋にいた学生たち」
学生服ということや、目玉が飛び出そうになる値段のアイテムを二つも買っていたので、かなり印象に残っていた。
「わたくしたちを知っていますの?」
「……湧き水筒を買う時、近くにいたお兄さん」
金色の長い髪にカールをくわえた品のいい少女が訝しむが、隣にいた青髪の少女が説明してくれた。
どうやらこの眠そうな瞳をした魔法使いの少女は、俺があの道具屋にいたことをしっかりと覚えていたようだ。
「すみません、かなり高いアイテムを買っていらっしゃるのを目にしたので記憶に残っていまして……」
「うん? アイテムならあのぐらいの値段じゃねえのか?」
「違う街で買えば、あの半分くらいの値段で買えますよ」
少なくてもルミアの売ってくれた湧き水筒は、あれよりもかなり安かった。
エルドで買わなければ、違う街の店でも安く買えたでだろう。
「な、なんですって!? あの、店主ぼったくりじゃありませんの!?」
「いや、市場価値を調査せず、準備を怠った僕たちのミスだ……」
金髪のお嬢様の怒りを、眼鏡の少年が諫める。
あそこの店主とは知り合いになったので、文句を言いに殴り込まないでくれて助かる。
「貴重な情報をありがとうございます。勉強になりました。あの、わたくしフランリューレ=ライラートといいますわ」
「……私はネルネラート=アグペディオ。長いからネルネでいい」
「俺はアレク=ウォーカーだ!」
「僕はギールス=ワイト」
当たり前のように全員が名字を持っている。育ちの良さから予想していたが、やはり全員貴族のようだ。
名乗られた以上はこちらも名乗る他ない。
「Bランク冒険者のシュウと申します」
「「Bランク!?」」
「マジかよ。シュウさん、すげえ冒険者なんだな!」
「……失礼だけど、そんな風には見えないから」
「よく言われます……」
ネルネの率直な言葉に苦笑する。
俺はどこからどう見ても、屈強な冒険者には見えないしな。
魔物の討伐は専門外の採取冒険者なので、そのように言われても仕方がない。
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