火山泥
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泥パックというのは知っている。前世の俺もたまにではあるが使っていたくらいだ。
【レディオ火山の湧き泥 高品質】
レディオ火山から湧き出た、きめ細かく滑らかな鉱泥。
ミネラルが多く含まれており、肌にとてもいい。
効能としては、泥に含まれる細かい粒子が肌表面だけでなく、毛穴にまで詰まった汚れを吸着し、優しく落とす。
さらに泥に含まれるミネラルのお陰で肌のターンオーバーも促進され、しっとりとした肌になる。(効果には個人差があります)
鑑定してみると店主の言う通り、高品質な泥だった。
美容としての効果を知りたいと思ったからか、美容成分について詳しく表示された。
「マジックバッグ持ちの俺なら……」
「採取して売り放題だ。そういうわけで俺の分も樽で採取してくれ」
「勿論です」
これならグランテルにいる女性たちのお土産として立派に機能する。今回はどんなお土産にするべきか悩んでいたために、このような名産品を得ることができたのはとても嬉しい。
前回は海産物を持って帰らなかったので期待を裏切ってしまったが、これなら文句を言われることもないだろう。
モジュラワームの美容液を採って帰った時も、ラビスをはじめとするギルド職員たちはすごく喜んでいたし。
いくら採取しても余ることはない気がするが、いくら採取しておいても売れるので損はない。
「教えてくれてありがとうございます」
「気にするな。俺も楽をしてより儲けたかっただけだ」
このような素材の宝庫を教えてくれた店主には感謝だ。
「俺は一足先に帰る。樽は店に持ってきてくれ」
「わかりました! 採取して持っていきますね!」
「あと、採取が終わったら入ってみるといい。肌が綺麗になる」
店主はそう言うと、すたすたと消えていった。
マジックバッグから樽を取り出し、早速湧き出している泥を採取する。
樽がいっぱいになれば、しっかりと蓋をして新しい樽に切り替える。
マジックバッグがないのであまり店主の分を持って行っても迷惑か。
樽、二個分くらいにしておこう。
店主の分とは別に、十個ぐらいの樽を泥で満タンにしてお土産用にする。
「せっかくだし俺も浸かってみるか」
全身、泥パックをして肌を綺麗にするのも悪くない。清潔感は大事だからな。
タオルとマジックバッグは地面に置いて、そのまま泥に入る。
若干ぬるめの泥が全身を包み込む。若干の気持ち悪さのようなものがあるが、泥の中とはそういうものだ。お湯に入るのとは違うし。
そのまま全身を浸し、顔にまでしっかりと泥をつけてパックする。
「おお、身体が浮く」
泥よりも身体の方が軽いのか、ふわふわと身体が浮いた。
意識して沈めようとしても身体が沈むことはない。不思議な体験だ。
火山から泥が湧き続けているのか、下からはポコポコと泥が湧いている感触がする。
「なんか変な感じだな」
これが泥風呂というものか。また一つ貴重な体験ができたような気がする。
満足して上がろうとすると、身体に泥がまとわりついてきてとても重い。
温泉でかけ湯をして泥を流そうかと思うが、温泉まで歩くことすら億劫だったので水魔法で泥を流した。
しかし、水では完全に落ち切らなかったが、歩くだけなら十分だ。
そのまま温泉に戻り、マジックバッグから取り出した桶でかけ湯をすると、完全に泥が落ち切った。
「おお、肌がすべすべだ」
泥が肌や毛穴の汚れを吸着して落としてくれたのだろう。
俺の肌はしっとりすべすべな肌になっていた。指で触ってみると、まるで別物だ。
「これだけ効果があると、グランテルに戻った時が怖いな」
温泉に浸かりながら、そんなことを呟いた。
◆
天然温泉を満喫し、残りのルートを確認し終わった俺は、帰りの馬車を利用してエルドに戻った。
そして、俺は真っ先に温泉で出会ったドワーフの店に寄る。
「例の奴、樽に入れておいたんで置いておきますね!」
そして、三つの樽を置くと、店主に呆れられた。
「……樽は二つで十分だ。それ以上は値下げされる」
あまり多くの量を売りに行っても買い叩かれてしまうのだろう。
貴重なものであるからこそ、流す量は慎重にということか。
「わかりました。それじゃあ、二つ置いていきます」
「ああ、助かった」
結構な重さがあるにも関わらず、店主は泥が満タンに入った二つの樽をそれぞれの腕で持ち上げた。
かなりの重さがあるのだが、さすがはドワーフだ。身体が小さくてもパワフルだな。
店の奥へ引っ込んだ店主を見送り、俺は外に出る。
「見つけたぞ! ここにいたか!」
すると、遠くでバリスが指をさし、いつの間にか周りを多くのドワーフが取り囲んできた。
「ちょ、ちょ、何ですか!?」
身長が小さいとはいえ、毛むくじゃらで強面のドワーフに囲まれると中々に威圧感がある。
というか、バリスをはじめとするドワーフは見たことがある。具体的には宿の酒場でだ。
とすると、このドワーフたちの用件というのは……
「お前さんの言っていた蒸留酒とやらを作ってみた! 合っているか確証が欲しいから味見をしてくれ!」
「蒸留酒? もうできたんですか?」
そう言って、突き出してきたコップの中には透明な液体が。
鼻を近づけなくても微かにアルコール臭が漂ってくるほどの強さ。
多分、しっかりと蒸留されている。
その話をしたのは昨夜だ。まさか、たった一日半程度で設備を作り上げ、蒸留したものを作ってみせたというのか。
【蒸留酒 品質 普通】
エールを蒸留したもの。アルコール度数は六十。
鑑定してみると、予想通り蒸留酒と表示されていた。
既に蒸留酒とわかっているのだが、俺が話した手前試飲するしかなさそうだ。
バリスからコップを受け取って、俺は僅かに口に含む。
度数がかなり高いだけあって、喉の奥で焼けるような強さがある。俺からすれば、ただのアルコール液にしか思えないような強さだ。
「少し荒いですが、間違いなく蒸留酒ですね」
「おお!」
俺からお墨付きがもらえたからか、バリスをはじめとするドワーフたちが喜び、手を打ち付け合った。
「やったな!」
「おうとも」
小さなおっさんたちが群れて喜んでいる。
まだ品質は甘いが、俺の話したうろ覚えの知識でここまでたどり着いてみせるとは、ドワーフの酒への執着が恐ろしいな。
「もっと時間を重ねて研磨すれば、もっといいものができあがりそうですね」
「アルコールを抽出して、さらに濃度を上げるとはシュウの知識には恐れ入ったぜ。なにせ酒には慣れてる俺たちでさえもガツンときたからな」
「これを最初に一気飲みした時の衝撃は忘れられない」
「喉や胃の中が焼けるような感覚がいいのぉ!」
「次はアルコール度数七十%まで蒸留しよう」
こいつらアルコール度数六十%でも一気飲みしているのか。普通の人間なら急性アルコール中毒になってもおかしくないぞ。
酒の耐性もドワーフは桁違いだ。しかも、まだまだ度数を上げようとしている。
「度数の向上だけでなく、色々な酒を蒸留してみたり、木製の樽で熟成させて香りをつけてみてくださいね」
「おお、そうだな。色々な味のものを作らねえとな」
度数の向上だけでなく、色々な種類のものも作り上げてほしい。
そうすれば、いつかは俺も気に入る酒に巡り合うことができるかもしれないから。
ロックや水割りでゆっくりと飲めば、楽しめるお酒も多そうだ。
「そういえば、いきなり蒸留なんてしていますけどロスカさんの修行は?」
「ん? 修行なんかよりも今は蒸留に決まってるだろ?」
真顔でそれが当然とばかりに応えるバリスを見て、俺はロスカに悪いことをしたなと思った。せっかく修行にやってきたのに俺のせいで出来ないでいる。
これは宿に帰った時に一言謝罪を入れておいた方が良さそうだ。
「よし、蒸留酒をもっと改良し、いい酒を造るぞ!」
「「おおおおおお!」」
バリスたちはそのような雄叫びを上げると、さらなる改良をするべく去っていった。
宿に戻ると、部屋ではべろんべろんに酔っぱらったロスカがいて、よくわからない言葉で怒られた。予想通り、ロスカは修行ではなく、蒸留酒作りを手伝わされたそうだ。
なんかごめんよ。
発売を祝して、発売まで毎日更新です。