エルド
申し訳ありません、1話抜けて投稿してしまいました。
お手数おかけしますが、前話の「高級馬車」を読んで頂けると助かります。
「レディオ火山が見えたぞ」
馬車に揺られて五日目の午後。
対面に座っているドロガンが呟いたので、気になった俺とロスカは窓の外に身を乗り出してみる。
「あれがレディオ火山か」
「遠くで見てもデカいっすね!」
遥か遠くにそびえ立つ巨大な二つ山があった。
距離はかなりあるだろうが遠目に見てもわかる大きさだった。
あそこに数々の貴重な素材があり、依頼の目的であるヴォルケノスの卵があるのか。
過酷な環境だと聞いているが、遠くから見る限りでは大き目の山にしか見えないな。
近くまで行ったらやはり暑いのだろうな。
「もうすぐエルドに着くはずだ。降りる準備をしておけ」
レディオ火山から視線を下ろすと、前方には城壁が見えていた。
あそこがドロガンの故郷でもあるエルドらしい。
徐々に城壁が近付いてきたので、俺たちは手荷物をしっかりと整える。
門番は人間ではなく、ドワーフだった。
ずんぐりとした体を銀色の甲冑が包み込んでいる。
なんだか小さな騎士のようで可愛らしいが、持っている得物は自分よりも大きなハンマーといかつかった。
高級馬車のお陰かあまり時間をかけることなく、検査を済ませて中へと入れてもらう。
お世話になった御者の人に礼を言って、馬車から降りた。
「いやー、本当に馬車の旅なのかって思っちゃうくらい快適だったっすね。シュウさんがこれで移動したいって言っていた気持ちが痛いほどわかるっす」
「移動中を楽しむのも醍醐味ですし、現地に着いて疲れていたら楽しめるものも楽しめないですし」
これが通常の馬車であれば、狭い中に荷物同然に押し込められるわけでストレスも半端ない。くつろいで座ることもできず、全身のあちこちが痛み、睡眠だって満足にはとれない。
そんな状態では目的地に着いても求めることは、まず身体を休めることになってしまうからな。せっかく目的地に着いたというのにそれではあまりに勿体ないだろう。
旅を最大限に楽しむためなら、このくらいのお金は高くあるまい。
軽く伸びをして身体をほぐす。ロスカも同じように伸びをして尻尾をピンと立てていた。
「まずは宿を探すか」
「親方は実家に泊まらないんすか?」
「一人暮らしだったからな。住んでた家も誰かが住んでるだろう」
家族がいるものと思っていたが、どうやらここに住んでいた時から一人だったようだ。
いそうではあったが、ドロガンの年齢が定かではないので何ともいえないな。あるいは何かしらの過去があったのかもしれない。
ひとまず、ドロガンとロスカも宿に泊まるようだ。
この街の宿の良し悪しを知らないので、俺も二人についていくことにする。
エルドは鍛冶の街と言われるだけあって、そこかしこから武具を作る音がする。
食料を売っている店よりも、武具屋の方が多いんじゃないかってくらいだ。
あちこちで屈強なドワーフが鉄を打っている。
人口の比率としてはドワーフが六割、それ以外の旅人が四割といった程度。
旅人の服装を見るにほとんどが冒険者だ。ドワーフたちの武具を求めて、あちこちからやってきているのだろうな。
「ドワーフがたくさんいると聞いていましたが、予想以上にたくさんいますね」
「本当っすよ。親方と同じような人がいっぱいで怖いっす――痛っ!」
ロスカが辟易するように呟くと、ドロガンが無言で拳骨を落とした。
ドロガンには失礼かもしれないけど、ロスカの言葉には同意だ。
どのドワーフもずんぐりとした肉体に髭を生やしている。それなりに差異はあるが、似ているなと思うドワーフも少なくない。
間違えないように注意しないとな。
「この宿にする」
しばらく歩いていると、ドロガンが宿屋らしく建物の前で言った。
それなりの大きさのある石造りの宿でしっかりしていそうなところだ。
「決め手はなんなんすか?」
「併設されている酒場が地下にあることだ。他の奴等がバカ騒ぎしてもうるさくない」
それだけドワーフの酒飲みが激しいということだろうか。
ちょっとこの街の酒場に入るのが怖くなってきた。
「いらっしゃーい」
ドロガンに付いていって宿の中に入ると、褐色肌の少女が出てきた。
トテトテと歩いて、受付台のところに顔を出す。
「可愛らしいですね」
「そうっすね」
「そう褒めてくれるのはありがたいけど、あたいはいい歳した大人なんだけどね」
「「ええっ!?」」
少女が口にした言葉を聞いて、俺だけでなくロスカも驚きの声を上げる。
「ドワーフの女は皆こんなもんだ。人間の見た目を基準にして接するとぶん殴られるぞ」
「あたいは宿をやって慣れているから大丈夫だけどね」
「「し、失礼しました」」
完全に子供の扱いをしていた俺とロスカは素直に謝る。
完全に見た目は少女であるが、どうやら立派な大人の女性らしい。
一体何歳なのか非常に気になるが、恐ろしくて聞けない。さすがに優しいこの人でもぶん殴ってくるような気がする。
男性は髭もじゃだけど、女性はロリっ子なのか。ドワーフという種族は不思議だ。
「それで宿泊だね? 申し訳ないけど二人部屋と一人部屋が一つずつしか空いてないだけど」
どうやら全員が一人部屋をとるというのはできないようだ。
「ああ、それならあたしと親方が同じ部屋でいいっすよ」
「ええ? それなら俺とドロガンさんが同じ部屋の方がよくないですか?」
普通は男性と女性で別れるものだと思うんだけど。
「別にいつも工房で寝泊まりしてるっすからねぇ」
「弟子に手を出すほど落ちぶれていねえよ」
どうやら二人とも工房で寝泊まりしていたようだ。それで関係がなんともないってことは、本当に問題ないんだろうな。
「なんすかその言い方は! これでもあたしモテるっすからね!」
「必死こいて自分に装飾したらの話だろ」
ロスカとドロガンがギャーギャーと言い争う。
「あっちの二人は置いておいて先にあんたから進めようか」
「……お願いします」
◆
無事に部屋をとることができた俺は部屋に入ってくつろいでいた。
一人部屋ではあるが部屋はそこまで狭くない。
建物が石材でできているので、猫の尻尾亭とまた違った部屋の雰囲気だな。
「シュウさん、あたしたちの荷物を貰ってもいいっすか?」
「いいですよ。入ってください」
そういえば、ロスカとドロガンの日用品は俺のマジックバッグに収納しているんだった。
慌てて立ち上がると、ロスカとドロガンが入ってくる。
俺はマジックバッグから二人の荷物を取り出してあげた。
ロスカとドロガンはそれぞれの荷物を持ち撃上げる。
「運ぶの手伝いますよ」
「さすがはシュウさん、気が利くっすね!」
ロスカはかなり荷物が多いので、二人の部屋まで持って行って荷物を下ろした。
「少し早いですけどシュウさんも晩御飯どうっすか?」
「行くのは地下の酒場だけどな」
「是非ご一緒させてください」
明日から俺は依頼に。二人は鍛冶にとりかかるだろうからな。
一緒に過ごせる時間は少ないだろう。せっかく一緒にきたのだから食事くらいは共に楽しみたい。
「それじゃあ、ご飯を食べに行くっす!」
荷物を部屋に置いたドロガンとロスカと共に、俺は宿の地下にある酒場に向かった。
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