火山対策アイテム
前話のヴォルケノスについての記述を少し緩和させました。絶滅指定でらなく、減ってきてるからできるだけ倒さないでね〜みたいな感じです。
カルロイドから依頼を頼まれた俺は、グランテルに戻るなりドロガンの工房に向かった。
何故いきなり工房を訪ねるのかというと、レディオ火山の傍にはドワーフが多く住んでいる鍛冶町エルドがあるそうだ。
ドロガンの故郷がそこだとカルロイドから聞いたので、レディオ火山について有益な情報が得られるのではないかと思った。
いつも通り工房に入ると、ロスカが冒険者を相手に接客していた。
展示スペースにはドロガンの姿はない。鍛冶場か奥の部屋にいるのだろうか。
もしかしたら、またタイミング悪く寄り合いに行っているのかもしれない。
ロスカにドロガンがいるか聞きたいけど、今は仕事中なので邪魔をしないように武器を眺めておく。
以前は無骨な武器や防具が多かったのだが、ロスカが装飾人として正式に携わってからは見た目にも気を遣われている物も多くなったな。
それにより若干値段が上がっているものもあるが、懐の寂しい者向けに無骨なままの物も残っているようだ。その辺は客層への配慮が見受けられるな。
「どうした? 今日は何の用だ?」
しみじみと武器を眺めていると、どこから湧いたのかドロガンがひょっこりと出てきた。
手には桶があることからどうやら水を汲みに行っていたようだ。
工房に籠っているイメージがあるが、ロスカが忙しい時は自分のことくらい自分でやるよな。
というか俺が店内にいて武器を買いにきたとは思わないようだ。まあ、俺は採取者だし、魔法を主体にして戦うタイプなので扱えないから買わないんだけどね。
「今日はドロガンさんにレディオ火山について聞きたくてやってきました」
「……どうして俺に聞くんだ?」
「カルロイド様からドロガンさんはエルドの出身だと聞いたもので」
「なるほど、その様子からして領主から依頼でも頼まれたか?」
「なんすかなんすかシュウさん! 領主様からの頼み事っすか!?」
接客が終わったのかロスカがこちらに寄ってくる。
客の相手をしながらもしっかりと俺たちの話を聞いていたらしい。恐るべし獣人の聴覚だ。
「はい、ヴォルケノスの卵の採取を」
「また難しい依頼をぶん投げられたものだな」
難しい表情を浮かべるドロガン。
「それってそんなに難しんっすか?」
「当り前だ。ヴォルケノスを倒さずに卵だけを採取することは当然のこと、レディオ火山の自然環境が何よりも敵だ。熱気の漂う過酷な気温、全てを呑み込むマグマ。そこに巣食う魔物もそこらにいる奴等よりも質が悪い」
そこに足を運んだこともあるのだろう。ドロガンの言葉は実感のこもったものだった。
「だが、その分採れる素材はいい。火山地帯とあってか鉱石類が豊富だし、そこでしか採れないものもある。魔物の素材も丈夫で、熱に強い耐性を持っている。命知らずの冒険者が一攫千金を夢に見て挑戦しているな」
危険ではありがそこだけでしか採れない素材などがあるのだな。
それさえあるのであれば俺が採取に行く意味はある。
「なるほど。では、採掘道具も必要ですね」
「ここまで言って怯まないとはお前も相当な命知らずだな」
「稀少な素材のためですから」
色々な素材を採取するのが俺の生き甲斐なのだ。その程度の脅しで俺は引いたりしない。
「まあ、覚悟があるのならいい。お前さん、いつエルドに向かうんだ?」
「具体的な期日は設定されてないですけど、できるだけ急いでほしいと言われているので明日には」
「それならちょうどいい。俺が案内してやる」
「え? ドロガンさんも付いてくるんですか?」
「いや、ちょっとした里帰りだ。俺は採取にまで付いていかねえよ」
ビックリしたドロガンも採取にくるのかと思った。
「親方! 店とあたしはどうするんですか!?」
「店は一旦閉める。お前も一緒に付いてこい。前々から装飾技術を学びたいと言っていただろ。装飾をやっている知り合いのところに行ってこい」
「親方! 覚えてくれていたんすね! あたし感激したっす!」
「ええい、くっ付くな!」
感激して抱き着いてくるロスカを鬱陶しそうに振り払うドロガン。
なんだかんだと弟子の事を考えてくれているようだ。
ドワーフがたくさんいる街に行くだけで、ロスカにとってはいい刺激となるだろう。そこで仕事ができるなら学べることもきっとある。
「それなら親方が情報を教え、エルドを案内する代わりに、シュウさんが道中の安全を保障するっていうのはどうっすか?」
「おお、それはいいな」
引っぺがされたロスカが妙案とばかりに提案し、ドロガンがそれに乗る。
「いいですよ。俺にとって損はないですし」
「それじゃあ決まりだな」
ドロガンとロスカの旅費が経費として計上されるかはわからないが、信頼できる人間と旅ができ、情報を貰えると思えば決して悪くはない。
計上されなくても俺がお金を出すつもりだ。宿代なんかは別だけど。
高級馬車の良さを知ってしまうと、ギュウギュウに詰め込まれる馬車にはもう戻れないのだ。
◆
ドロガンによると、レディオ火山の暑さは想像以上に過酷で、アイテムやら装備によるサポートが必須なのだそうだ。具体的にはそれらがないと深部には入れないくらい。
俺は氷魔法が使えるので熱さを和らげることができるが、道具による対策もしておいた方がいいのでルミアの店に寄ることにした。
リンドブルムでアイテムの素晴らしさは知っているかな。やはり持っておくと心強さが段違いなのだ。
「なるほど。それでしたらこちらにある品物がオススメです」
レディオ火山に向かうことを説明すると、ルミアは暑さ対策ができるアイテムを並べてくれた。
【冷却シート】
氷の魔力が込められている冷却シート。貼れば半日程度は冷感が持続する。医療用具として使われることもある。凍傷に注意。
【湧き水筒】
水筒の内部に水の魔力が込められた石が設置されてある。魔力を込めることで持続的に水が生成される。満杯になるとそれ以上増えることはない。
魔石が劣化すると、水が出なくなる。
【火除けの指輪】
高温の攻撃を緩和する。許容上限を超えると宝石が割れてしまう。
鑑定してみるとより詳しく情報が出てくる。
「冷却シート。とても良さそうですね」
「はい、血管が多く通っている首や脇などに貼れば、暑さが緩和できると思います。もし、火傷をしてしまった際には、これを貼るだけで応急処置にもなります」
いつでも氷魔法が使えるとは限らないからな。
「おでこに貼ると気持ちよさそうですね」
「あー、思っている以上に冷たいのでここで貼ると凍傷になりますよ」
思わず熱冷シート思い出していると、ルミアが苦笑いしながら言う。
「もしかして、貼ってみたことあります?」
「……はい、シュウさんと同じようなことを考えてやってみました」
やけに実感がこもっているのはルミアが実際に低温火傷になってしまったのかもしれないな。おでこを赤くしてしまうルミアを想像して少し笑った。
「氷の魔力ではなく、清涼感を感じられる成分のあるものを混ぜれば安全で気軽に涼めるかもしれませんね」
確か前世の熱冷シートはそんな感じだった気がする。
なんとなく軽くぼやいただけなのだがルミアは強い興味を示した。
「――ッ!? 後で試作してみていいですか!?」
「あっ、はい。どうぞ」
前のめりになるルミアに驚きつつ了承すると、彼女はメモに何かを書き出して一息ついた。さすがに今すぐ作り出して我を忘れるほどではないらしい。常識と理性を持っているのがサフィーとの大きな違いだろうな。
「こちらの湧き水筒は、魔力を込めるだけで水を生成してくれるんですね」
「はい、熱帯地域や乾燥地域ではすぐに喉が渇いてしまうので、こういったアイテムは重宝されています。注意点としては水筒が満たされるまで時間がかかることですね」
厳しい暑さがある場所にいると身体から水分が抜けて、すぐに水を欲してしまう。
俺はマジックバッグを持っているので、いつでもどこでも水を飲めるが、必需品に近いアイテムらしいので持っておいた方がいいだろう。
なかったら怪しまれるかもしれないしな
ルミアによるとこの五百ミリリットルが満たされるのに二時間程度かかるようだ。
すぐに満たされるからといってガブガブ飲んでいたらあっという間になくなるだろうな。
そして、最後は赤い宝石をした指輪だ。
「火除けの指輪はどの程度の熱を緩和してくれるんです?」
「危険度Cの魔物が扱う炎ならば十回は緩和してくれるはずです」
危険度Cが放ってくれる魔物の熱量ってどの程度なのだろう。一般的な魔法使いのファイヤーボールなら余裕ってことだろうか?
正直、物差しがよくわからない。
「何とも曖昧ですみません。レディオ火山の魔物が相手では荷が重いと思うので、ちょっとした気休めだと思って頂けると」
そんな俺の戸惑いに気付いたのか、ルミアが申し訳なさそうにする。
「そうですね。もしものためのアイテムですから」
何事も過剰に期待してはいけない。生身であれば軽減の恩恵すらないのだ。
もしもの時の死傷率を下げてくれるアイテムだと思えば十分だ。
「こちら三つで金貨五十枚になりますが、いかがします?」
「全部買わせてください。どれも役に立ちそうですから」
「ありがとうございます!」
有用なアイテムだけあって中々の値段であるが、レッドドラゴンの素材の値段やら依頼の達成金などからすると微々たるものだ。
あまりお金を使わない性分なので、好きなことをする時は遠慮なくお金を使うことにしよう。
お金を支払い、アイテムをマジックバッグに収納する。
マジックバッグのことはルミアも知っているので、気を遣わなくていいので楽だ。
「いいですね。貴重な素材がたくさんあるレディオ火山。師匠が帰ってきていれば、私も行きたかったです」
主であるサフィーはまだグランテルに帰ってきていない。まだリンドブルムの海底神殿の調査に付き合わされているようだ。
さすがに弟子であるルミアを勝手に連れ出すわけにはいかないからな。店の経営もあるし。
まあ、どちらにせよ厳しい場所らしいので連れていくつもりはなかったのだけれど。
「いい素材があれば持ち帰ってきますよ」
「本当ですか!? できれば熱石、魔鉄、炎の黒砂にファイヤーバードの羽根に――」
「‥‥すみません、メモに書き記してもらえますか?」
ルミアに喜んでもらえるように軽い気持ちで言ってみたが、これは早まったかもしれない。
下手をしたらヴォルケノスの卵よりも困難なものが混じっているかもしれないので、採取できたらと念を押すことにした。