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第六十五話「そっちの気が?」


 十三歳になってからもう半年が過ぎている。胸がますます膨らんできているけど触っても硬い。次第に硬くなっているようだ。こんなに硬いものなのだろうか?病気ということはないと思いたいけど……。まさに青い果実ということなのだろうか。


 カーンブルクの造船所とキーンの港建設は順調に進んでいる。カーンブルクではすでに造船所部分の建物は建設が終わっておりキャラベル船の建造も進んでいる。船着場も拡張工事を行なっているけどそれはまだ完成まで時間がかかるだろう。


 造船所そのものは極端に言えば大きながらんどうの建物があれば良いわけで船渠を掘って水上から船を引き上げたり進水させたり出来るようにさえなれば建造自体は開始出来なくはない。もちろん単純に船渠を掘って回りを建物で囲めば終わりというわけにはいかないけどあくまで極端な例だ。


 カーンブルクの方は造船所を建てれば良いだけだし船着場の拡張は別工事だからお互いに影響はない。それに比べてキーンは大規模工事だからまだまだ港全体の完成までは相当時間がかかると思う。


 それでもキーンの方も造船所の建設はかなり進みキャラック船の建造が開始されている。港の完成と同時に進水式を行い今建造中のキャラック船がキーンの新港の第一号船になる。気の長い話だけどこういうものは先を見据えて進めなければ行き当たりばったりというわけにもいかない。


「もう!フロト!遅い!」


 そしてやってきたいつもの場所でいつものように怒られる。でもこれが怒っているわけじゃないことを俺はもう知っている。


「ごめんなさい」


「私……、いっぱい待ってたんだからね……」


 そう言ってそっと俺の腕に抱きつくと一緒にいつもの石まで歩いていって腰掛ける。そうなのだ。最近のミコトはこうしてしおらしいことが多い。最初の頃はずっと怒ってるような調子だったけど最近ではこうしてしおらしくって大人しくなってきた。


 それだけミコトが精神的に大人になったからなのか。それとも俺と打ち解けて甘えてくれるようになったからなのか。中々判断しづらいところではあるけどそんなことはどちらでも良い。重要なのはこうしてミコトがキュッと俺の腕に抱き付いて甘えてきてくれているということだ。


 こう……、俺と同じまだ硬い青い果実がギュッ!と押し付けられている。でも何か硬いというか硬すぎる。最近思うようになったけどもしかして……。


「ねぇミコト、もしかしてサラシか何か巻いているの?」


 そうなのだ。サラシでも巻いていなければおかしいと思うほどに不自然に硬い。


「え?あぁ、うん。よくサラシなんて知ってるね?うちでは皆巻いてるよ」


 やっぱりか……。いくら俺達の胸が今硬い時期だったとしてもさすがに硬すぎると思った。この硬さはサラシで締め付けてるからか。


 これはクルーク商会に言って本格的に下着を開発した方が良いかもしれないな。あまりサラシで締め付けるのも良くないかもしれない。何よりミコトに抱きつかれた時に俺がミコトの青い果実を楽しめない!


「どうしたのフロト?始めよう?」


「ええ、それじゃ今日はミコトが先生だったわね」


 あれからも俺達はお互いに言葉や文字を教え合い実はもうほとんど完全にわかると言っても過言じゃないくらいには覚えている。だけど日課というかいつものこととしてこうしてまだお互いに教え合っている。特に専門用語なんかは単語を覚えるしかないので全部覚えたつもりの母国語ですら知らない言葉が出てくるのだから語学に終わりはない。


 そうして言葉を教えあう傍らミコトに種籾を持ってきてもらって栽培方法を聞いてきてもらい試験的にカーン家でも栽培している。現在お米と大豆を栽培しており生育状況は良好だ。また取れたお米や大豆から色々なものを作る方法も聞いている。


 性格は大人しくなったというかしおらしくなったミコトだけどずぼらなのは変わっていない。醤油や味噌の作り方も聞いてきて欲しいと言ったのに結局肝心なことを聞いてきてくれていなくて、こちらからあれこれ何度も質問してようやく大体の工程がわかったくらいだ。


 それでも成功するかどうかはわからないけど現物の醤油と味噌も少量もらったので、開発する最終目標のサンプルがあるだけこれまでよりもずっと実現性が高いだろう。俺が口頭で適当にこんな感じのもの、と言って開発してもらっても中々うまくいかないからね。


「どうしたのフロト?顔が真っ青だよ!?」


「ん?何?何でもないよ?」


 本当は何でもないことはないけど平気な振りをしておく。だけどミコトには通じないようだ。


「何でもないことないでしょ!どこか具合が悪いの!?どうして黙ってたの!?」


 う~ん……。そろそろかなとは思ってたけど急にこんなに痛くなるとは思ってなかったんだもん……。それにお腹が痛いとか言えないし……。


「大丈夫だよ。これはアレだから……」


「アレ?」


 俺が言葉を濁しているのにミコトは察してくれない。こういう時ははっきり言った方が良いのだろうか。ミコトにも余計な心配をかけているようだし言った方がいいのかな……。でも何だか気恥ずかしい……。アレの日だって言うのがこんなに恥ずかしいものだとは思わなかった。


 女性は皆そうなのかな。それとも俺は元男だから?歳を取ってくればそうでもないんだろうけどやっぱり思春期頃の女の子達も俺と同じような気持ちになるのかもしれない。


「あの日でちょっとお腹が痛いだけだから……」


「あの日って?」


 あぁもう!察して欲しい!これじゃただのお腹が痛い人みたいじゃん!


「月のもの!生理!月経!」


「あっ……、ごめんなさい……」


 イライラしているせいかきつい言い方になってしまった。ミコトがシュンと項垂れる。


「あぁ、私こそごめんなさい……。ミコトのせいじゃないのにね。本当にごめんなさい」


 項垂れたミコトの頭を俺の胸に抱き寄せる。別にミコトが悪いわけじゃないのに怒鳴りつけるなんて俺は最低だ……。


「ううん。今のは私が悪かったから……。でもこうしてると何だか安心する」


 ミコトが少しだけ俺を抱き締め返してくる。ギュッ!と力一杯じゃなくて少しだけ、キュッと軽く。暫くそのままミコトの頭を撫でているといつの間にか寝息が聞こえてきていたのだった。




  =======




 う~ん……、辛い……。それでなくともあの日で辛いのにミコトが俺の胸に顔を埋めたまま眠ってしまった……。動くに動けない。


 まぁいい。今動いたら絶対下が大惨事になる……。これでもすでに何度もこれを経験しているからわかる。今下手に動いたら下は血塗れだ……。じっとしていても垂れてくるわけで大丈夫なわけじゃないけど今無理に力むというか立ち上がって動くとドバッと……。


 やめよう……。あまりそのことについて深く考えてはいけない。


「うぅん……」


「お?」


 ミコトが起きたかな?と思ったけどそんなことはなかった。少しモゾモゾと動いただけでまだ気持ち良さそうに寝ている。俺の胸に顔を埋めて息苦しくなったのか少し横を向いただけでまだスースー眠ったままだ。


「んぅ……、フロトぉ……、しゅきぃ……」


「えっ!?」


 何?何だって?フロトが好き?今そう言ったか?


 ……いやいや、落ち着け俺。まず今のは寝言だ。そもそもどういう文脈で言ったつもりなのかわからない。夢の中で俺と一緒に何か食べている夢でそれが好きだと言ったのかもしれない。


 考え出せばキリがないわけでミコトが俺のことを好きだと言ったとは限らない。その上その好きというのがどういう意味での好きかもわからない。友達として好きなのかもしれないし恋人にしたい好きなのかもしれない。俺の都合の良いように解釈して下手なことをして余計嫌われたら最悪だ。


 まずはミコトの気持ちを確かめることが肝心であってちょっと寝言でそれっぽいことが聞こえたからと調子に乗ってはいけない。


 だから落ち着け俺!このバクバクいってる心臓よ鎮まれ!それからミコトの唇を注視している俺の視線よ動け!


 駄目だ……。意識しないようにしようと思えば思うほど意識してしまう。最初はただの可愛らしい女の子だと思っていたミコトも最近妙に女らしくなってきた時がある。


 ふとした時に出てくる大人びた顔や女性を意識してしまうような体の変化、そしてこの柔らかそうな唇……。


 下を向けば俺の胸に横向きに頭を預けているミコトの唇が見える。その唇に触れたい。ちょっとだけ……、ちょっとだけミコトの顔を持ち上げて俺の顔の高さと合わせたら……、軽く触れるくらいなら目も覚めないんじゃ……。


 ドキドキしながらミコトの顔を俺の胸から少しずつゆっくり離す。そして徐々に俺も背中を丸めてミコトの顔の高さと俺の顔の高さが同じくらいになるように……。


「んんっ……、フロト?」


「え……?ひゃぁっ!」


 急にパチリと目が開いたミコトと目が合う。あまりの驚きにちょっと腰を浮かしてお腹に力を入れて力んでしまった俺は……。


「あっ……」


 股の間に嫌な感触が広がったのだった。




  =======




「ごめんなさい……」


「いいのよ……。ミコトのせいじゃないから……」


 大惨事となった下の処理をした俺はまだ謝ってくるミコトの頭をポンポンと撫でる。アレがくるのは女なら仕方が無いことであってミコトにだってあの日はくるだろう。急に寝落ちしてもたれかかられたのは驚いたけどそれは俺にとっても至福の時間だったからそのこと自体に怒るつもりもない。


 そもそも俺が寝ているミコトに悪戯しようとしたからあんなことになったわけで自業自得だ……。いつもなら寝ている相手にあんな卑怯なことをしようなんて思わないはずなのに今日の俺はどうかしている……。


 もちろん俺は女の子とキャッキャウフフで百合百合したい。だけどそれは合意の上でお互い納得し楽しくしたいのであって相手が合意もしていないのに無理やりなんて駄目だ。


「えっと……、今日はもう帰るね?」


「うん……。折角の時間なのに寝てしまってごめんなさい」


 実際今日はもういつも帰る時間も過ぎている。どうしてミコトが寝落ちしたのかわからないけど寝不足なのだろうか。ミコトも色々と忙しい中でここに来てくれているんだと思う。


「眠ってしまうほど疲れているの?あまり無理はしないでね。私はミコトが体調を崩す方が心配だわ」


「大丈夫。いつもちゃんと寝てるよ?今日は何でだろうね。フロトの胸が心地良かったからかな……」


 少し赤い顔でこちらをチラチラ見ながらそんなことを言う。もしかしてやっぱりミコトはそっちの気があるんじゃ?押し倒したりしてもオッケーしてくれるのかも……。


 なんてな。駄目駄目。焦りは禁物だ。こういうことはお互いきちんと気持ちを通わせてからでないと駄目だ。


「私の胸でよければいつでも貸すわよ」


「――ッ!それって……、ううん。何でもない。それじゃまたねフロト」


「御機嫌ようミコト」


 何か言いかけたようだけど途中でやめたミコトを追及していると時間がどんどん過ぎてしまう。名残惜しくはあるけど今日はもう帰ろう。そう思ってミコトと別れて走り出す。


「……あっ」


 そしてミコトが見えなくなるほど走っていたら……、俺の下はまた大惨事になっていた……。




  =======




 最近俺は切実な問題に悩まされている。それはこの世界の下着問題だ。男性用下着は所謂現代風に言えば短パンのようなものを紐でくくるタイプで面倒だしゆるゆるだし実用性で言えば現代とは比べるべくもない。そして女性にいたっては下なんて基本的に穿いてないのが普通だ。上だってしてない。


 胸がきちんと保持されていないのは色々と不便だし、スカートが少し捲れただけで下が丸見えになってしまうのも俺は未だに慣れない。十三年以上もこういう暮らしをしているのに未だにスカートが捲れてしまうのではないかと思うと気になって仕方がないのだ。


 何より問題なのがあの日の時だ。俺のように突然あの日になると下が大惨事になる。いや、俺が知識がないだけで普通の人なら周期なりを考慮してそろそろだなと備えているものなのかもしれないけど、女性歴が浅い俺がそんなことに気が回るはずもない。誰も教えてくれないし……。


 せめて前世でネットなりで調べて知識があればよかったんだけど……、前世男の俺がそんなことに詳しければそれはそれで何かと問題だろう。


 そういうわけでせめてあの日が近づいてきた頃くらいには下着のようなものを着用しておいて、ある程度大惨事を防げないだろうかと考えているけど中々良い案が浮かばない。致命的なのがゴムがないことだ。


 ゴムがあればお手軽に穿くだけの下着が出来そうな気がするけどゴムがない以上はブカブカの下着を紐で縛って留めるしかない。でもそれじゃあの日の対策として意味がない。


 ブカブカじゃなくてキュッと体にフィットしてある程度漏れを抑えてくれるようなものが欲しい。この世界にある男性用下着のようにブカブカじゃ結局横から漏れてしまって意味がない。


 でも当然これまでにも色々な人が様々なことを考えて開発してきたわけで、今俺が急に考えようと思ったって良い案が出るはずもない。ゴムを入手して現代風の下着を開発するだけというなら簡単なんだけど……。


 この俺にとって喫緊の課題である下着問題がどうにかならないかと知恵を絞っているけど何も浮かばないのだった。



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