第五百四十一話「王の狙いは?」
昨日は皆にとても気持ち良い目に遭わされてしまった。じゃなくて、大変な目に遭わされてしまった。お陰で今日はテカテカ、じゃなくてクタクタだ。
「フローラ様、本日はいかがいたしますか?」
「今日は一度カーンブルクに戻ってからカーザーンへ帰りましょう」
「かしこまりました」
まだ皆が寝ている間に俺とカタリーナだけ起きて朝の準備を進める。昨日は疲れのあまりフローレンで力尽きたけど、今日は一度カーンブルクに戻って用を済ませてから、家族に会いにカーザーンへ向かおう。
両親とは戦場に出ている間も一緒だったからよく会っていたけど、他の家族とは離れ離れだったもんな。まぁゲオルク兄とは別に何ヶ月か会ってなくても普通だけど、生まれたての可愛いマティアスとヴィルヘルミナには会いたい。
そんなわけで朝の修行や仕事を済ませた俺は、カーンブルクに寄ってからカーザーンへと向かったのだった。
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「マティアス~~~!ヴィルヘルミナ~~~!フローラお姉ちゃんですよぉ?わかりまちゅかぁ?」
ベビーベッドを覗き込みながら、可愛い可愛い弟妹達に呼びかける。でも何かあまり相手にされていない。
はっ!?もしや……、何ヶ月ぶりに見たから俺がお姉ちゃんだとわからないのか!?
「二人ともさっきお乳を飲んだところだからおねむなんだよ」
「ゲオルクお兄様……」
俺がマティアスとヴィルヘルミナの様子を見ていると兄がやってきてそんなことを言った。くそぅ!訳知り顔でそんなことを言いやがって!俺が赤ん坊の扱いも知らないからって!自分は俺達がいない間二人の様子を見てたからって!くそぅ!くそぅ!お兄ちゃん面してんなよ!
「何で僕が睨まれてるのかわからないけど……。おかえり、フローラ」
「はい。ただいま戻りました」
苦笑いしながら兄がそんなことを言ってくれた。ちぇっ……。何だかんだ言ってもやっぱり兄は兄なんだよな……。もう一つ上の兄はアレだったけど……、ゲオルク兄はちゃんと兄をしてくれている。
「あらあら。ゲオルクもフローラちゃんも仲良しさんねぇ。お母様も入れてちょうだい」
「お母様……、父上も……」
そこへ父と母が入って来た。久しぶりに一家全員が揃ったようだ。まぁ一番上の兄はいないけど……。フリードリヒはこれから一生俺にそのネタでいじられるのかもしれないな。自業自得だし可哀想とも思わないけど、俺だけじゃなくて家族の皆も同じことを思ってそうだ。
「さぁさぁ、フローラちゃん、私達もお昼にしましょう」
「はい」
せっかくだからカーザーンに戻ったら家族皆で食事にしようと言っていた。皆も待っていてくれたようだからこれ以上待たせるのも悪いだろう。今日は久しぶりに兄も揃って皆で食事を楽しんだのだった。
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何日かカーン領、カーザース領で滞在しながら仕事をしている間に、カンベエやミカロユス、それからエンゲルベルトなど各地に分かれていた重要な者達が戻ってきていた。各地の防衛などに関して重要な人物には引き続き残ってもらっているけど、これからプロイス王国に向かって交渉するために必要な人材には戻ってもらっている。
カンベエやミカロユスは外交交渉などの担当官なんだからもちろん俺について来てもらうし、今回はエンゲルベルトも知らん顔とはいかない。エンゲルベルトは国境の移動によってフラシア王国に所属していたけど、今回の件でプロイス王国貴族として復帰してもらうことになる。
これまでの多少の経緯も説明しなければならないだろうし、今回の戦争での活躍についても説明しなければならない。その上で今回の活躍の褒美としてプロイス貴族として迎え入れてもらうと共に、所領安堵や、場合によってはさらなる褒美も貰わなければならないだろう。
俺の狙いとしてはマルク伯にもカーン派閥に入ってもらおうと思っている。というよりエンゲルベルト自体が今更他の派閥に行こうと考えていないだろう。そういう諸々のこともプロイス王国に認めさせなければならない。
「全員揃いましたね」
「「「はっ!」」」
今回俺に同行させるメンバーで重要なのは交渉役のカンベエ、ミカロユスと立場を認めてもらいたいエンゲルベルトだけだ。うちはとりあえずこのメンバーがいれば良い。
「それではお母様、行って参ります」
「いってらっしゃいフローラちゃん」
母に見送られながらカーザーンの船着場から船に乗り込む。父と俺達はこれから船に乗って王都へ向かわなければならない。他の三家の代表達もそれぞれ王都へ向かっているはずだ。日時を示し合わせて王都に上る約束をしているから、皆何か特別なことでもない限りは王都に揃うだろう。
「それではマリア、ゲオルク、留守は任せたぞ」
「はい、父上。いってらっしゃいませ」
「あなた、早く帰って来てね」
おーおー……。息子と娘が見てる前でお熱いことで……。熱い抱擁とキスを交わした両親は名残惜しげに離れて船に乗り込んだ。今回は別に戦いがあるわけでもない……、はずなので母は領地に残る。さすがにまた幼い弟妹を残して母まで連れて行くわけにはいかないからな。まぁ俺はお嫁さん達を連れていくけどね!
俺達を乗せた船はカーザーンを出港してキーンへと到着。キーンで船を乗り換えてステッティンへと向かった。ステッティンからは陸路で王都へと入る。このルートは今まで何度も通ってきたルートだから慣れたものだ。
今回協力してもらった連合軍の五家は皆基本的にプロイス王国西方に領地を持つ。他の家の代表も移動に時間がかかるようならとうちの船も勧めている。全員がうちの船で来るわけじゃないだろうけど、予定の日までには皆揃うことだろう。
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王都のカーザース邸に到着してから暫く、俺はたまにはシャルロッテンブルクへも視察に出ていたけど、生活は基本的にこちらのカーザース邸で送っていた。本当なら今頃学園で最後の学年の後期授業を受けている所だろうけど、今更俺が学園に行ってもすることもない。
クリスタやジーモンやエンマは今頃授業中だろう。休みの間は実家に帰っていたり、うちに来たりと色々あったけど、ちゃんと学園が始まるまでには王都に戻っているはずだ。俺も始業式くらいは出るはずだったんだけど……、あんな戦争のお陰でそれどころじゃなかったからな……。
「全員揃ったな。それでは王城へと向かおう」
「はい」
五家の代表、といってもほとんど当主と、ラインゲン家からはエミッヒに加えてカールも、それからうちはカンベエとミカロユスを連れて、また五家以外にエンゲルベルトも入れて全員で揃って王城へと向かう。今日は面会の予約を取っているからすぐに王様達に会えるだろう。
王城に到着するとすぐに会議室に通された。謁見の間とかじゃない。また俺が行くといつも通される後宮でもない。王城の会議室だ。王様とディートリヒ以外には誰もいなかった。
今日はまだ本当の戦いの日じゃない。今日はあくまで俺達が王様に報告と事前相談をする場であり、今後他の貴族も交えてフラシア王国との戦争の経緯や賠償についての話し合い。まぁぶっちゃけて言えば取り分の話し合いが行なわれることになる。
今日の話は建前上は王様に終戦の報告と、得た賠償についての報告となる。実質的には俺達や王国、他の貴族達の賠償の取り分についての事前調整というわけだ。
「まずは一言、皆の者、大義である。フラシア王国との戦い実に見事であった」
「「「「「はっ!」」」」」
まぁ王様の立場からすれば正式な場ではそう言うしかないだろう。俺と話す時はもっとラフな感じだけど、さすがにこれだけ他の貴族もいれば……。
「まぁ硬い挨拶はこの程度にしておこう。それよりもこの報告はまことか?」
いきなり砕けたな……。まぁこちらとしても変に硬いよりやりやすいけど……。他の貴族の皆はちょっとポカンとしてるんじゃないのか?
「はい。報告書に書いてあることは全て本当のことでございます」
「ふ~む……」
王様が何を難しい顔をしているのかわからない。領土や賠償金が少なすぎたか?何故もっと取ってこなかったのかとお怒りなんだろうか?
「フラシア王国がこれほどの領土割譲と賠償金の支払いに応じたというのか?一体どれほど完膚なきまでに叩きのめせばこのような条件を飲むというのか……。にわかには信じられぬ……」
んん?ヴィルヘルムさんは何をおっしゃっておられるんですかね?これほども何もむしろかなり優しい条件にしてやったはずだ。領土だって俺達が占領、奪還した場所までだし、賠償金の金額もかなり少ない。正直俺達が使った戦費の方が高いくらいだ。さらにここからプロイス王国に分けられるかと思うと俺達は大赤字だろう。
「まぁ良い……。それで……、この割譲された領土と賠償金だが……、其方らだけで分けよ。プロイス王国にも他の貴族にも分ける必要はない」
「…………は?」
王様の言ってることが一瞬理解出来ずに間抜けな声が漏れてしまった。俺達が全部取って良い?そりゃそれは当たり前だろうと言いたいところだけど、実際にそんなことはあり得ないと思っていた。普通なら国が取る分があるだろう。それに他の貴族も口を出してくるはずだ。
「ただしそれは余が認めただけで他の貴族達は黙って引き下がるまい。それを説得するのが其方らの仕事となる。見事他の貴族共を黙らせたならばその取り分は其方らの自由にするが良い」
あ~……。そういうことかよ……。国が分け前を取ると言い出せば他の貴族達も便乗してくる。そうなると王様が他の貴族達と交渉して取り分を分配しなければならない。だから王様は国の取り分はいらないからお前達で決めろと言っているわけだ。それなら王様は煩わしい交渉に参加する必要がない。
でもいいのか?もしこれだけの領土を俺達だけで得たら、ちょっとした小国レベルになってしまうぞ?たぶん俺達の家と今回得た領地を加えればホーラント王国と南ホーラントを加えたくらいの広さにはなりそうだ。ホーラント王国全土と言えば結構な広さがある。そもそも小国とはいえ一国だからな。
俺達がそんな広大な領地を得たら一国として独立するとか思わないんだろうか?力を持たせすぎだと思わないんだろうか?王様とディートリヒが何を考えているのかわからない。
「カーン侯爵は特にこれを受けるしかないぞ。マルク伯爵の扱いについてもその中に含まれておる。見事全土を他の貴族達から守りきり、手に入れれば、そこにマルク伯領を作るがよい」
「はっ……」
うっわぁ……。こいつ最低だな……。エンゲルベルトの地位と領地を守りたければ、俺が矢面に立って他の貴族達を退けてその領地を守れと言っている。そうすればマルク伯爵の地位も王国が追認してやるということらしい。
「それからこれらの領地を得た場合に……、カーン侯爵には色々と他の爵位を受けてもらう。それは……」
………………
…………
……
王様とディートリヒの説明を聞いてげんなりする。こいつら俺を休ませる気なんてないみたいだな……。もしこれを受けたら俺はフラシア王国国境を一手に引き受けなければならなくなる。それに国内貴族達も俺に向かってくることになるだろう。
俺に広大な領地と絶大な権限を与える代わりに、面倒事も仕事もしがらみも、何もかもを俺に丸投げするつもりのようだ。やってくれる……。
「それで良いな?」
「はっ……」
「うむ。ならばあとは他の貴族共を集めての会議を開くばかりだな」
「それじゃご苦労さん。下がって良いよ」
「「「「「はっ!」」」」」
そう言われて俺達は王様の前を辞する。他の代表達も全員で一度カーザース邸に集まることになった。
「いやぁ!めでたいね!」
「さすがはカーン卿」
「これで我らも安泰だ」
皆がそうやって喜んでくれるけど俺は喜べない。そりゃあんたらは今後の自分達も安泰だと思うかもしれないけど、その全ての責任を背負わなければならない俺の身にもなって欲しい。
それでなくとも俺は、プロイス王国の東や南東にも広大な領地を持ち、ブリッシュ・エール王国の王をして、今回からはホーラント王国の王まで加わった。さらにプロイス王国の西の守護まで担わされる俺はいつになったら休めるというのか……。
「では……、次は貴族達が集まった会議での対策といきましょうか」
「カンベエとミカロユスに全て任せるというのは……?」
「なりません。我々もお手伝いはしますがあくまでカーン様が主体でなければなりません」
「はぁ……」
そうなるだろうなとは思っていたけど……、やっぱり俺が出なきゃだめか……。
いつも読んでいただきありがとうございます。
読者の皆様にはご迷惑をおかけしますが作者が体調不良のため暫く休載いたします。風邪のような症状なので数日で回復するのではと思いますが、体調不良なので何日後に再開とは断言出来ません。
体調が直り次第再開いたしますので暫くお待ちください。




