第五百四十話「逆襲!」
カンベエとミカロユスは他の四家と話し合って、それぞれの要求などを摺り合わせていた。ヴァルテック卿は金銭だけでも良いと言っていたけど実際にそれは難しい。もし俺達の損失や賠償を全て金銭で補償しようと思ったらとんでもない額になる。いくら大国フラシア王国といえどそんな多額の金銭を一度に払うことは出来ない。
単純に考えても戦勝側は最初に戦争を吹っ掛けられたホーラント王国に始まり、プロイス王国、ブリッシュ・エール王国、アラゴ王国と四カ国にも及ぶ。それぞれが動員した兵と日数、延べ人数で考えただけでも各国の戦費は相当なものだ。それを全て支払うだけでもフラシア王国の財政が吹っ飛んでしまう。
そこからさらに実費以外にも、所謂迷惑料や慰謝料に当たる分まで払わせたらフラシア王国が倒れてしまうだろう。そして黙って従っても国が倒れて滅ぶというのなら、相手も降ることを拒否する可能性が高い。
だからフラシア王国が耐えられる範囲に収めようと思ったら、賠償金や領土割譲の範囲を無闇に広げすぎるのは愚策だ。ヤケクソになって徹底抗戦されないように、ある程度は相手も飲める条件でなければならない。ヴァルテック卿に全額現金で補償するとなるとかなりの額がかかってしまうから現実的じゃない。
代わりに領土を割譲させて、今後そこから入ってくるであろう収入という形で賠償として納得してもらうしかないだろう。ブリッシュ・エールもホーラントもそういう方向で調整している。まぁそもそもどちらも俺が頂点の国だしな……。
フラシア王国は四カ国を相手に交渉しているつもりかもしれないけど、そのうちプロイス、ブリッシュ・エール、ホーラントは実質的には俺一人が王なわけだし……、実は交渉相手は俺とアラゴ王国だけだとは夢にも思ってないんじゃないだろうか。
うちの三カ国が意見を合わせるんだから、アラゴ王国も逆らいようがない。アラゴ王国が納得しない、合意しないというのなら、じゃああとはアラゴ王国だけで戦えと言われたら困るだろうからな。だから結局今回の講和会議は俺の胸先三寸ということになる。
俺達プロイス連合軍の要求や取り分を決めてから、カンベエとミカロユスは講和会議に向かって出発していった。それから間もなく、ホーラント王国にいるラモールから連絡があった。ウィレム二世とその関係者を処分したと……。
確かに俺達はホーラント王国を乗っ取ろうとは思っていたけど、別に無理に前政権の者達を皆殺しにしたいと思っていたわけじゃない。もし現状に満足して大人しくしているのなら生かしておいても良いとは伝えておいた。でも現実にはそうはならなかった。
報告書で見た限りでは、ホラント=ナッサム系の将軍や参謀や総督達はほとんど碌な奴ではなかったようだ。自分達の権力と懐具合にしか興味がなく、ホーラント人を見殺しにしても、搾取しても何とも思わないような奴らばかりだったらしい。そういう者は徐々に戦死として前線で消されていったようだ。
ラモールはホーラント人の士官達を仲間に引き込み、ウィレム二世派の息のかかった者達の中でも碌でもない奴を調べて、戦場での名誉の戦死に見せ掛けて始末していった。さらに停戦後はアムスタダムに戻り、王都に巣食っていた権力の中枢にいたウィレム二世派を捕えて粛清。
またウィレム二世も俺、ウィレム三世を殺して実権を取り戻そうとしていたということで『病によって急死』ということになったようだ。
「はぁ……。世知辛い世の中ですね……」
まぁ……、将来の禍根を絶ったと思えば止むを得ないことだったと割り切るしかないのかもしれない。いくら停戦中とはいえまだ終戦じゃない。いつ交渉決裂で敵が動いてくるかもしれないし、俺達はまだ当分この占領、奪還地から動けない。
交渉決裂となったら即座にブリッシュ・エール軍がパリスに侵攻することにはなっているけど……、出来ればうまく纏まって欲しいものだ。
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レイスワイクで講和会議が開かれることになっていた日から数日後……、俺達の下に連絡が届いていた。
「講和条約が結ばれたようです。こちらの条件は全て通ったようですよ」
「そうか……」
「ふ~……」
五家が集まっての話し合いで報告の内容を確認する。俺達としては最初にやや条件を吹っ掛けて、フラシア王国が交渉してくればどこまで譲歩するかを決めていた。でもどうやらフラシア王国はこちらの最初の条件を丸呑みしたようだ。交渉でもっと値切ってくるかと思ったけど……。
「今度は我々はプロイス王国と交渉しなければなりませんね……」
「まったく……、戦争は後始末の方が手間がかかる……」
本当にその通りだ。俺達はフラシア王国と講和を結んだからはい終わりとはいかない。今度はフラシア王国から得た物をプロイス王国と話し合って取り分を決めなければならない。
もちろんプロイス王国は一切フラシア王国との戦争に協力していない。ほとんど俺達五家だけで戦ったようなものだ。物資の購入などで優先はしてもらえていたけど、別に格安だったとか、購入資金の支援とか、そういうものは一切ない。俺達が相場で、いや、急ぎだからと相場よりやや高いくらいで買っていただけだ。
普通ならそんな状況なんだから分け前も俺達五家だけで決めれば良いと思う所だけど、世の中はそう単純でも簡単でもない。いざ成果を持って国へ帰ったら、今度は国内の他の者達がその成果に群がってくる。今回得た物も全てが俺達の所には入ってこないだろう。国が召し上げる分もある。
俺達は国へ戻ったら今度はプロイス王国内でこの取り分について交渉しなければならない。それがまた酷く面倒だ……。
「防衛の分担は以前決めた通りで良いな?それではプロイス王国へと戻ろう」
「はい」
講和条約が結ばれたからといって全て引き上げて後は知りませんとはいかない。これからも国境警備や各地の治安維持はしなければならず、俺達が仕事が終わったからと全軍引き上げて後は放置とは出来ない。
戦時中よりは兵力を減らせるとはいえ、俺達が占領してきた地域は広すぎる。俺達だけで維持するのは相当な労力が必要だ。何とか各地でも治安維持部隊などを徴用して、それぞれ各地で対応出来るように進めるけどそれまでまだまだ時間がかかる。
ようやく戦争が終わっても俺達はお役御免とはならず……、まだまだ忙しいことを覚悟しながら帰路につくことにしたのだった。
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戦争に参加した各家も一度領地に帰って、それぞれ休息を取ることにした。王都へも報告に行かなければならないけどそれはまだ少し先だ。連絡そのものはしているから問題はない。俺達だって何ヶ月も戦場に出たままだったんだから、一度領地に帰ってしなければならないことがたくさんある。
「疲れましたね……」
「それではフローラ様、その疲れを癒されるためにも皆でお風呂に入りましょう」
キラーンと……、カタリーナが目を光らせてそんなことを言う。俺達は今、レイン川を下ってヘルマン海へと出て、ディエルベ川を上ってフローレンへと戻って来ていた。陸路より直線距離では遠回りかもしれないけど、船で移動した方が圧倒的に速い。
フローレンまで戻って力尽きた俺は、もうカーンブルクまで移動するのも面倒でそのままフローレンの屋敷で一泊することにした。両親は一刻も早くヴィルヘルミナとマティアスに会いたかったみたいで、こちらに泊まることなくすぐにカーザーンへと戻っている。
本当は俺だって弟妹達と会いたい。別に弟妹達が大事じゃないからフローレンで休んでゆっくりしていても平気だというわけじゃない。だけどこんな疲れた状態で何を置いてもまずヴィルヘルミナとマティアスに会いに!という気力もないのも事実だ。
弟妹達だけが放っておかれているのなら急いで戻ったかもしれないけど、兄が面倒を見ていたし、両親も急いで戻ったんだから俺までどうしても急がなければならないという状況じゃない。決して俺が弟妹達に薄情だからじゃないんだからね!
「カタリーナにお任せします……」
「えっ!?」
俺がそう答えると言い出したカタリーナの方が驚いた顔をしていた。どうやら俺がそんな素直に言う事を聞くとは思っていなかったようだ。
「本当にフローラさんはお疲れなのですわね……」
「よし!それじゃ僕達が頑張ろう!」
「フロトのこと綺麗に洗ってあげるね!」
皆がそう言ってくれるから今日はもう皆に任せることにした。いつもなら口先だけでも抵抗したり遠慮したりするんだけど……、本当にもう疲れたよ……。
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「はい、フロト。手を上げて」
「はぁ~ぃ」
ルイーザに言われるがままに手を上げる。皆に全身を洗ってもらって蕩けるようだ。眠気も凄くて目を開けていられない。俺も思っていた以上に疲れていたらしい。確かに疲れているなとは思っていたけどここまでだったとは……。
「あらあら~。フローラちゃんはおねむでちゅね~。は~い。あとはお姉ちゃん達に任せておきましょうねぇ~?」
「うん……」
何か耳心地の良いアレクサンドラの声を聞きながら、ついに俺は瞼も開けていられなくなったのだった。
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「…………ん?」
「あっ……、フロト、起きた?」
何かサワサワと気持ち良い感覚が体の芯に燻っている。ずっと柔らかい刺激で高められていたような、何ともいえない気持ち良いのに物足りないもどかしさを覚える。
「えっ!?皆さん、何をしておられるのですか!?」
フワフワした感じから急速に目が覚めてくると俺は自分の現状に驚いた。俺は今裸でベッドに転がされて、同じく裸のお嫁さん達と体を密着させていたようだ。何だってこんなことに?
「フロトが疲れてたみたいだから癒してあげてたのよ!」
「いや……、意味がわかりませんが……」
俺が疲れていて癒してくれようとしていたというのは良いとしよう。それと何故俺も皆も裸でベッドに転がっているのか、その関連性がまったくわからない。
「フロトがお風呂で気を失っちゃったから、こうして皆で拭いてからお布団に運んで、温めていたんだよ」
ますます意味がわからない。確かに素肌同士で密着した方が温め効果がある!みたいな話は聞いたことがある。でもそれは例えば俺が凍えているとか、熱が出ているとか、そういう状況での話じゃないだろうか?何で疲れてお風呂で寝てしまったからといって、裸で体をくっつけて温める必要があるのかわからない。
「フロトは難しいことを考えすぎさ!考えるより感じろだよ!」
「クラウディア……、それは何か違うのでは?」
何かクラウディアの勢いに騙されそうだけど俺は騙されないぞ。何か言ってることが明らかにおかしい。
「フローラさんは嫌でしたの?」
「全然嫌じゃないです」
うん。そうだ。嫌じゃない。むしろウェルカム。だったら何故俺が文句を言う必要があるのか。文句を言う必要は何もない。そして俺達が話しているのに、未だにモソモソと布団の中で動いている君……、いい加減出てこようか?
「カタリーナ……、いい加減出てきなさい……」
「今良い所なのですが……」
布団の中からヒョコッとカタリーナが頭を出した。何が良い所だというのか……。モゾモゾとずっと布団の中で動いて……、あまり俺の色々な所を刺激しないで欲しい。
「フローラ様がされていた『まっさ~じ』を見て覚え、私達はお互いの体を実験台にして技術を高めてまいりました。必ずやフローラ様にもご満足いただけると自負しております」
「あの……、ですからそんな自負は必要ないので普通にしておいてください……」
カタリーナは俺が皆にしていたマッサージを見て覚えて、それを皆でお互いにし合うことで、どこが気持ち良いとか、どこは痛いとか、力加減や押す場所を勉強したらしい。その努力は買うし大したものだと思うけど、今は静かに眠りたい。
そもそも俺は女の子にマッサージをするのは好きだけど、自分が人にマッサージをされるのはあまり好きじゃない。確かに悪くはないんだろうけど、どうにも人に身を委ねて好き勝手されるというのは抵抗があるようだ。
「まぁまぁフロト、そう言わずに」
「私達も練習したんですよ」
「いつもフローラさんがしてくださいますから、今日は私達がして差し上げますわよ」
「ちょっ!まっ、皆さん待ってください!落ち着きましょう?話せばわかります!」
俺に纏わり付いていたお嫁さん達が俺のことをガッシリと捕まえる。完全にお嫁さん達に捕まった俺はもう逃げられない。
「さぁフロト!覚悟してよね!」
「まいりますフローラ様」
「ちょっ!まっ……、アッー!」
皆をマッサージするのが俺の十八番だったはずだけど、何度も披露しているうちに敵に吸収されてしまったらしい。いつものマッサージをやり返された俺は軽く昇天させられてしまったのだった。




