第五百三十二話「マッサージ研究!」
南門が突如炎に包まれた時は驚いた。俺が狂信者のような者達と戦っていると突然南門が燃え上がり、それに驚いて狂信者達も逃げ出してしまった。
敵がいなくなって若干手の空いた俺が南門へ行ってみれば、門から逃げようとする者が多すぎるためにミコトが門を封鎖しようと魔法を放ったとのことだった。一度点けてしまったのならばもう仕方がないということで炎を維持してもらい、南門の封鎖はこれで良しとすることにして俺は再び町へと戻る。
もう門の付近で敵を抑える必要がなくなったので、早急に攻城戦を終わらせようと敵首脳陣を探す。北の主力部隊の戦況はわからないけど、聞こえてくる怒号や音からして作戦は順調に進んでいるんだろう。敵首脳陣がこの状況を見れば降伏してくれるはずだ、と思っていた……。
でもそんな俺に向かってルイ・ド・ボウルボン=コンッデと名乗る老貴族が声をかけてきた。まぁ老貴族といっても五十代か、六十代か……。現代日本ならまだまだ現役と言えそうな年齢だけど、こちらの寿命や働き盛りの年齢から考えればもうそろそろ引退を考えてもおかしくないような年齢だろうか。
俺達は大勢の捕虜を取っているから捕虜を尋問して相手の情報も得ている。今回の戦争で実質的な現場トップクラスの連中はテュレンネ大元帥という者とコンッデ公という者らしい。そう、目の前の貴族ルイ・ド・ボウルボン=コンッデこそがその現場トップの一人だろう。他に同じ名前で年齢の近い者がいるとは聞いていない。
いつもなら敵の首脳陣を先に殺して敵軍を混乱に陥れて……、とか考える所だけど、さっさと戦闘を終わらせるのなら指揮官達に負けを認めさせて降伏させた方が余計な犠牲を出さずに済む。そして何よりもコンッデ公はフラシア政府にも大きな影響力を持っているだろう。
このケロン攻略戦を早く終わらせたいというのも確かにあるけど、コンッデ公を捕まえてうまく使えば、このフラシア王国との戦争そのものも早く終わらせられるかもしれない。
どの道、フラシア王国全土を占領するだけの兵力はないのだから、どこかでこちらも停戦、終戦を考えなければならない。俺の理想としてはこの先……、レイン川などのプロイス王国がフラシア王国に奪われた領土を奪還完了すれば後は無理に戦う理由はない。
どうにかコンッデ公をうまく使って、こちらの都合の良いタイミングで、こちらに都合の良い講和条件で手打ちにしたい所だ。それに利用出来るから俺はコンッデ公を生け捕りにすることにした。
こういう奴は何故か負けると『殺せ』『殺せ』と言うけど、殺せと言われたからとはいそうですかと殺していては何人殺さなければならないのか……。こちらとしてはまだ利用価値があるのだからそう簡単に死んでもらっては困る。
コンッデ公を捕えて降伏を勧めると、素直に降伏を受け入れたコンッデ公は連れていた兵達を各地に放った。あちこちの部隊に降伏を呼びかけに行ったようだ。それで残った敵が全て降るとは思えないけど、例え一部でもそれで降ってくれたらラッキーという所だろうか。
コンッデ公を連れた俺は、ケロンに篭っていた軍が作戦本部に利用していたという施設に向かって移動を開始したのだった。
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「いつまでむくれているつもりだ?」
「別に……。むくれてなどおりません……」
フラシア軍の作戦本部が置かれていた施設で俺は今頬を膨らませていた。父が声をかけてくるけど俺の機嫌が直ることはない。俺がむくれている理由は敵の扱いについて納得いっていないからだ。
俺がコンッデ公を連れて作戦本部に来るとケロン大司教やその側近達はまだここに残っていた。コンッデ公の側近達はまだ戦っている部隊を纏めるために町に出ていたようだけど、ケロン大司教とその側近達は自分達だけここに隠れていた。
絶対将来の禍根になると思った俺はケロン大司教とその側近達をどうにかして処刑するつもりだった。こいつらが生きていても碌な事はない。でも俺の到着から間もなく父達もここへとやってきて、ケロン大司教達を処刑することに待ったをかけた。
俺からすればコンッデ公はこの戦争を早期に終結させるために使いたいから生かしておきたい。それに比べて将来の禍根になりかねないケロン大司教とその側近達はどさくさに紛れて始末したかった。でも父は逆だ。
父の考えではコンッデ公は殺してしまっても仕方がない。フラシア軍の指揮官であり貴族であり軍人だ。出会えば殺しあうのも当然だろう。それに比べてケロン大司教は教会関係者で、未だに教会内においても大きな権力や影響力を持っている。そのケロン大司教を始末しては折角中立不干渉の言質を引き出した教会が敵対してくるかもしれないという。
父の言っていることもわかる。確かにケロン大司教を処刑すれば領主同士の争いには不干渉と言った教会も、大司教が殺されたから報復だ!とばかりにそれを口実にして割り込んでくるかもしれない。ケロン大司教を殺すということは、ケロン領主を討ったのか、ケロン大司教を討ったのかややこしい。それを口実にされるリスクは高い。
でもそれは俺達が生け捕りにしたケロン大司教を処刑したりした場合の話だろう。例えば……、戦闘のどさくさで部下や信者に殺されてしまったり、誤って何かに巻き込まれて命を落とすこともあるだろう。それに関しては俺達がとやかく言われる筋合いはないんじゃないだろうか?というよりないよな。
だから俺は戦争のどさくさに紛れて始末するつもりだったのに……、父がそれは駄目だって止めるからケロン大司教はまだ生きている。
「教会関係者の捕虜達の扱いは私に任せてもらう。それで決着したはずだが?」
「そうですね……。ですから何も文句はありません……」
俺は別に文句の一つも言っていない。もちろん納得していないけど、何も口を挟んでいないんだからいいじゃないか……。あとは父の好きにしてくれ……。
「ふぅ……。フローラ……、ケロン大司教を始末するのは早計だ。ここで弱らせておくのは良いが始末してしまってはリュクセムブール枢機卿を抑える者がいなくなる。力は削ぐが、我々に逆らわないようにしてリュクセムブール枢機卿への壁にするのだ」
「それは……、わかりますが……」
父の考えもわかるしその方が合理的に見えるのもわかっている。でも人をはかる時に合理性だけで考えては駄目だ。どれほど合理的な答えでも、人自身が必ず合理的答えを選ぶとは限らない。
今後台頭してくるであろうリュクセムブール枢機卿を抑えるのにケロン大司教を当て馬にするのは合理的だ。でもケロン大司教がリュクセムブール枢機卿との対決よりも、両者が結託して俺達に復讐する道を選ぶかもしれない。そうなった時に、やっぱりケロン大司教は始末しておいた方がよかったと言っても遅い。
とはいえ……、俺は教会内の事情には詳しくない。そういうことは父に任せておく方が良いか……。
「はぁ……。わかりました。全て父上にお任せします」
「うむ……。すまぬな。フローラの手柄を奪ってばかりで」
「いえ……。手柄として首が欲しいわけではありませんのでお気になさらないでください」
俺は何も手柄として大将首が欲しいわけじゃない。ケロン大司教を残しておくリスクを考えているだけだ。でも排除した場合のリスクやデメリットも考えれば父の案が悪くないことは俺も理屈では理解している。感情が納得しないだけだ。
でもそれも父に任せると決めた俺はもうそれ以上言わないことにして仕事を進めることにしたのだった。
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ケロンを落とすとボーンも一緒に手に入った。ケロンにはボーンの兵も集まっていたのでボーンにはもうあまり兵力が残っていなかった。それにケロン大司教とコンッデ公が俺達の手に落ちて降ったから、それを突きつければボーンもすぐに降伏を受け入れた。
ケロンとボーンが落ちたから次はフランクフートアムメインの攻略だ。フランクフートアムメインが落ちれば奪われた領土の大半は回収出来たことになる。最後の山場はフランクフートアムメインの攻防戦だろう。
それでケロンとボーンに分かれて軍を駐留させている俺達だけど一つだけ問題があった。それはケロンの南門が焼け落ちてしまって城壁、城門として機能していないことだ。
南門はミコトが火の魔法を放って燃やしてしまった。戦闘中はもうやってしまったから門から逃げようとする者達を抑えるためにそのままでいいと言ったけど……、いくら鉄や岩やレンガで出来ていても、長時間高熱で燃やされれば崩れ落ちるのは道理だろう。
反射炉とかで耐熱煉瓦で最初から中で燃やす用途に作られているというのならともかく、ただの城壁や城門をミコトの炎の魔法で焼いてしまえば焼け落ちるに決まっている。
結果、門だけじゃなくて城壁まで脆くなっており、下手に刺激を与えるだけでも崩れてしまいかねない状況になっている。というか実際にあちこちが崩れてきている。
敵兵の侵攻とか、盗賊の侵入というのならそれほど大した脅威でもない。そもそも南門の先にあるボーンまで既に掌中に収めているんだから、南門に敵が攻撃を仕掛けてくる可能性はかなり低い。それよりも問題なのはこの世界には普通にモンスターがうろうろしていることだ。
当然この付近にだってモンスターはいるわけで、敵軍が攻めてくるよりもずっと高い確率でモンスターがやってくる。しかもモンスターには朝も夜も関係ない。
城壁に守られている間はある程度手抜きの監視でも、城門をしっかり閉じてさえいれば安全だった。でも今は城門も城壁も崩れている。そんなところへモンスターがやってきたら侵入し放題だ。これからは俺達の拠点の一つになるわけで、ケロンをモンスターに荒されるわけにはいかない。
「はぁ……、ミコトにはおしおきが必要みたいですね……」
「ちょっ!?どうしてよ!ちゃんとしたら抱き締めてくれるって約束だったじゃない!」
いや、ルイーザと同じようにという約束だっただけで抱き締めるとは言ってない。そもそもルイーザと抱き締め合ってもいなかったし。そしてミコトはまったくちゃんとしていない。騒動を起こしたり変なことはするなって言ってたのにきっちりやってくれている。これは笑って許せないぞ。
「門と城壁を焼き崩すなんてやりすぎです」
「あの時フロトも来て、そのまま燃やしておけって言ったじゃない!」
「確かに言いました。ですがそれはもう火を放ってしまったからです。それならば今更消すよりも戦闘が終わるまで封鎖するのに炎で封鎖している方が良いかと思っただけです。最初からミコトがあのようなことをしなければ火を点けておけなどとは言いませんでした」
あの時はもう仕方がないと思って利用したけど、だからってあんなことをしたのが許されるわけじゃない。
「わっ、私をどうする気?」
俺がジリジリとミコトに近づくと、その分だけミコトも下がる。いつもはミコトの方から俺に迫ってくる癖に、こんな時だけは逃げるんだな……。
「確かにミコトには色々と働いてもらいました。働きに対する報酬も必要でしょう。ですので罰と報酬を同時に渡そうと思います」
「何?何なの?どうするつもりなのよ!?」
明らかに不安そうなミコトがさらに逃げる。でも逃げられない。すかさずルイーザがミコトを捕まえていた。
「私も怒ってるんだよ!ミコト!」
「ちょっ!ルイーザ!離して!」
「もう遅い!」
「きゃーーーっ!」
ルイーザに気を取られた隙に俺が一気に間合いを詰めた。不意を突かれたミコトはあっさり俺に捕まってベッドに転がされる。
「ふっふっふっ……。覚悟してくださいね、ミコト」
「いや……、いやぁぁぁ~~~っ!」
嫌がるミコトを剥いて、転がして、その体に手を伸ばす。
「ここはどうですか?」
「ぎゃーーーっ!痛い痛い痛い!」
グリグリとマッサージをするとミコトが本気で痛がった。気持ち良い所もあるみたいだけど、今回はあちこちをグリグリしているから結構痛いようだ。
「これは?」
「あっ……、それくらいなら……、って、待って待って!痛い痛い!力を入れすぎよ!」
あちこちを確かめるように、じっくり全身をマッサージする。ミコトは痛がっていたけど、前世で俺がされて気持ち良かったマッサージとかも参考にしてるんだけどなぁ……。
でもそう言えば子供とかはマッサージとかを痛がったりするよな?大人だったら気持ち良い所でも、子供だったら痛かったりするみたいだし、慣れもあるだろうけど年齢とか体の硬さや悪さも関係してそうだ。
「ふっふっふっ!まだまだ試させていただきますよ!」
「アッー!」
この日はミコトの悲鳴が響き渡っていたけど、他のお嫁さん達はミコトの自業自得だと、誰も助けに入ることはなかったのだった。




