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第五百二十九話「終盤戦に入る!」


 父に呼び出されて聞かされた話に驚いた。どうやらうまく教会からケロン大司教領攻撃のお墨付きを貰ってきたらしい。よく教会が教会領であるケロン大司教領を攻撃することを許したなと思うけど、話の顛末を聞けばわからなくもない。


 父はさすがに長年高位貴族をしているだけあってか色々と詳しいようだ。俺は教会内の権力争いなんてまったく知らない。教会の権力構造もよくわかっていないし、教区とか位階とか言われてもさっぱりだ。父はそれを利用してうまく教会の中立不干渉をもぎ取ってきたらしい。


 ケロン大司教は周辺の司祭や司教達から疎まれていた。ただ広大な領地も持つ大司教と表立ってぶつかって対抗出来る教会関係者はいなかったようだ。でもメッツ司教の地位に居た人がリュクセムブール枢機卿に任命されたことで状況が変わったらしい。


 枢機卿ともなればその権限は絶大であり、ケロン大司教のように広大な領地に裏打ちされた財力や兵力はなくとも、教会内においては圧倒的な権力を握っていたようだ。


 教会内での権力は絶大でも財力や兵力がないリュクセムブール枢機卿と、教会内では多少立場は劣るものの広大な領地と財力と兵力を持つケロン大司教。この構図で両者は危ういバランスの上で拮抗していた。もしそんな状況でケロン大司教の領地を失わせることが出来たならば……、リュクセムブール枢機卿にとってはまたとない好機だ。


 だから両者の争いを利用して、父はリュクセムブール枢機卿からケロン大司教領での戦闘について、教会の中立不干渉という言質を取ってきた。でも……、


「ちち……、カーザース卿……、このためにリュクセムブール枢機卿に一体どれほどの見返りを……?」


 父上と呼びかけて慌てて言い換える。これだけの働きかけをしたならば、直接渡した金銭はもちろんのこと、何らかの条件や譲歩があるに違いない。でなければ教会が教会領を失うような条件を飲むはずがないだろう。もしケロン大司教の頭を挿げ替えるだけで教会領が維持されるとかならまったく意味がない。


「なに、大したことではない。一億ポーロの寄付とケロン大司教領解体後も教会の存続と布教を認めることだけだ」


「一億……?」


 確かに一億ポーロは大金だ。でも辺境伯の財力から言えばどうということもない。手痛い出費であることは間違いないだろうけど、支払いに苦慮したり、払うために借金したりというほどでもないだろう。


 そもそもケロン大司教領から上がってくる税金や利益を考えれば一億ポーロくらいすぐに捻出出来るわけで、一億ポーロぽっちでケロン大司教領を売り払っては教会が大損なのは間違いない。それなのに何故教会が一億ポーロでケロン大司教領を売ったのかが不明だ。


「何故そのようなはした金で……」


「おいおい……。一億ポーロをはした金と言えるのはカーン卿くらいだろう……」


「そうだね。私も一億ポーロ貰えるなら欲しいくらいだよ。ははっ!」


 う~ん?そうか?侯爵家ともなれば一億ポーロくらいは余裕で捻出出来るだろう。気軽にポケットマネーで、とは言えないだろうけど、これだけ戦争を繰り返していればその中の経費でそれくらいは落とせる。


 それに俺だって一億ポーロそのものを大したことがないと言うつもりはない。俺だって一億ポーロ、今すぐにポケットマネーで出せと言われたらちょっとへそくりを崩さなければ足りない。でもケロン大司教領を売り払うにしては破格すぎるだろう。


「教会は領地経営の難しさを理解している。自分達で領地経営を行なって税を集めるよりも、人の土地で教会だけ経営して寄付を集める方が良いという考えに傾いてきているのだ」


「なるほど……」


 確かにそれはわかる。ここ数年?十何年?くらいの間にプロイス王国やフラシア王国など、この辺り一帯は何故だか急激に貨幣経済が発達してきている。ただ贅沢な暮らしがしたいだけならば金を集めれば良い。そして金を集めるだけならば領主をするよりも商売をする方が良い。鼻の利く者達は次第にそちらにシフトしつつある。


 俺だってただ金を稼いで贅沢をしたいだけなら商会の経営だけに専念した方がよほど稼げるだろう。俺が領地を賜らず、ただの辺境伯家の娘の一人だったならカンザ商会の経営に集中していたに違いない。


 まぁ領主なら大規模インフラとか、大勢の人間を徴用したり、土地開発とか、資源採掘とかの許可がいらないのは便利が良い。俺がしたいことをやろうと思ったら領主、いや、国王とか皇帝くらいの権限が欲しい。だから俺にとっては貴族の地位や領地もありがたいと言えばありがたかった。


 その教会の……、リュクセムブール枢機卿は、もう時代的に教会が直接統治するよりも教会経営にだけ集中して、信者達の奉仕や寄付を集めた方が良いと認識しているということか。それなら今後負債になりかねない領地経営をすっぱり諦めて今高く売っておき、その地の教会だけ握っておけば良いというのも頷ける。


 ただ……、これでケロン大司教をどうにかしても、今度は結局そのリュクセムブール枢機卿とその子飼いの者にケロン一帯をいいようにされるのでは……?むしろ先を見る目から考えるとリュクセムブール枢機卿の方が厄介かもしれない。とはいえ、今はケロン大司教をどうにかするほうが先か……。


「それでは当家で五千万ポーロ負担いたしましょう」


「プロイス王国に出してもらえばいいんじゃないかい?」


 暢気なヴァルテック卿に他の二人の冷たい視線が刺さった。これはヴァルテック卿が悪い。


「ここまで我々が片付けてきたのに、今更国に介入する口実を与えるおつもりか?」


「金を出させれば領地や権利も寄越せと言われかねん」


「え~?いくら何でもそこまで図々しいかなぁ?」


 ヴァルテック卿は戦上手だけど宮廷工作は苦手らしい。宮廷なんて一ポーロでも出させれば途端に口を出してくるような奴らだ。折角ここまでプロイス王国の援助も支援もなしにやってきたんだから、こんな所で奴らに口出しさせるような隙を与えたくはない。


「申し訳ないがうちは一千万ポーロしか出せない」


「うちも今は火の車だなぁ。それじゃうちも一千万ってことでお願い出来るかな?」


 うちとカーザース家だけで出すつもりだったけど二人も一千万ずつ出してくれることになった。カーザース家が残り三千万という負担割合だ。父は自分が纏めてきたものだからカーザース家で出すと言っていたけど、ここまでの戦争でもカーザース家には多大な負担をしてもらっている。途中で倒れられても困るし、分担出来る負担は分担しようということで纏まった。


「さて……、これで心置きなくケロンとボーンを攻められるようになったけど……、どうする?」


「「「…………」」」


 ヘラヘラと軽い感じだったヴァルテック卿の顔がギラリと変わる。さすが戦争狂のヴァルテック家だ。その迫力は中々のもので、普通の人を相手にこれだけの顔を見せればほとんどの者はビビるだろう。


「偵察してきた所、ケロンはこのような感じでした」


 そう言って俺は詳細なケロンの地図を出した。まぁ素人の俺が見て来ただけだから正確とは言い難いけど、それでも実際に見て来たからかなり詳しいと思う。さらに地図上には描けない点も色々と説明していく。


 俺は父の策がうまくいくまでの間に実際にケロンに侵入してきた。それを基に地図作成のプロに製図してもらったというわけだ。現実と寸分違わない、とは言えないけど、これを見るだけでも全体の雰囲気はわかる。


 まずケロンもボーンもレイン川の西岸に町の中心地がある。これまでのデュイスブルクやデューセルドラフは川の東岸に中心地があったことを考えれば配置が異なる。


 さらに町を迂回する大きな街道がない。主な街道はレイン川沿いに町に真っ直ぐ入っており、町を迂回して南へ向かうような街道で大きく大軍が通れるような道はなかった。つまり攻める場合は北から南下していく一方向からしか攻められない。


 これまでの戦闘でも散々言ってきたけど、俺達の戦い方は包囲殲滅が基本だ。散々篭城されてお互いに消耗した上で、敵に撤退、後退されてしまっては色々と都合が悪い。情報を持ち帰られるのも困るし、俺達は町の占領や領土の奪還よりも、まずは敵兵を始末してフラシア王国の消耗を誘っている。


 他の戦線の損害もあるだろうからはっきりした数字はわからないけど、俺に入ってきている報告や、これまで倒してきた敵の数から考えて、フラシア王国はすでに十万単位の損害が出ているだろう。


 いくらフラシア王国が大国であろうとも、農民に槍を持たせて戦わせているだけだとしても、すでに十万単位の損害が出ているとすればそれは笑っていられない損害のはずだ。ここからさらに十五万、二十万と増やしていけばそう遠くないうちに戦争を諦めるだろう。


 そのためには敵を逃がさず、一戦一戦きちんと損害を上積みしていかなければならない。その上で重要拠点を攻略し、敵を再起不能に追い込む。こちらがフラシア王国全土を占領するだけの兵力がない以上はそうやって勝つしかない。


「レイン川東岸に関してはこの街道がある。これを利用すれば北と東は封鎖出来るだろう。うまくすれば東岸の南方面まで回りこめるかもしれない。しかし……」


「西岸が厳しい……、か……」


 今までは町の中心がレイン川東岸だったこともあり、川が敵の退路を絶ってくれていた。でも今度は俺達は川の東岸にいるのに敵は西岸にいる。西へ逃げようとしてもホーラント王国に入ってしまうけど、一度西へ逃げてから南下すれば良いだけだ。すぐ目の前に国境があるわけじゃない。


 ケロンで考えれば、レイン川西岸からホーラント王国方面へと伸びる主要街道がある。さらに西岸で南のボーンへと伸びる主要街道もある。もし俺達が北や東から攻め込んでも、敵は西や南へ逃げてしまう。これをどうにかしないことには攻略作戦を実行出来ない。


「密かに川を遡上してケロン南方に部隊を送り込みましょう」


「正気か?ケロンは町中を川が流れている。それはカーン卿の地図に描かれていることだ。貴殿が実際に見てこられたのだろう?」


 確かにケロンの中心は川の西岸にあるけど、町は川を挟んで両側に広がっている。これまでの町のようにほとんど東岸側にあった町とはまるで違う。でもだからこそ付け入る隙がある。


「確かにケロンでは町の中をレイン川が流れています。ですが夜ともなれば暗く、ほとんど川は見えません。灯りを灯して進めば別ですが、黒く塗った船で上も黒い幕で覆えば夜陰に紛れて町の上流まで気付かれずに上れるでしょう」


「しかしそれでは方向を見失ったり、座礁してしまうのでは?」


「それはその通りです。ですので上流へと回る部隊は私が率いて行きましょう」


 俺の言葉に三人はお互いに目配せし合っていた。確かに暗い夜の川で、自分達も姿を隠すために黒塗りの船に黒い幕をしていてはお互いの姿もわからないだろう。


 だから先頭の船に俺が乗り込み先導しつつ、後続の船とは黒いロープを繋げてはぐれないようにする。


「見つからないような船ということは小型船か?西と南を封鎖出来るほどの人数は運べないだろう?」


「一晩で運べる人数は限られるでしょう。そして何度も往復していれば敵に見つかる可能性が高まります。連れて行ける兵は少数にならざるを得ません。遡上する部隊の目的を南のボーンとの連絡の切断だけに絞るべきです。他の任務までさせようとしてはどちらも失敗しかねません」


「ならば西はどうする?西へ逃げた後、南下されては逃げられるだろう」


「その日は何故かブリッシュ・エール、ホーラント連合軍が国境を越えて付近を警戒しているかもしれません」


「「「なるほど……」」」


 俺の言葉の意味を理解して三人は頷いた。その日は南ホーラント奪還のために動いているブリッシュ・エール、ホーラント連合軍の一部が国境を越えてケロン西側付近を巡回警備することになっている。


 町の攻略で手を借りるとあれこれ面倒なことになるけど、国境付近で、何故か誤って越境してしまっていた両軍が偶然遭遇して戦闘になったとしても止むを得ないだろう。ケロンにいるフラシア軍が西へ脱出するかどうかもわからないけど、脱出したとしてもその先で誰かと出会うことがあっても不思議じゃない。


「それでは南を封鎖するカーン卿が一番手薄で危険ということになるが……」


 父が少し俺を心配しているような顔で見ていた。連れていける兵も少ないし、銃火器もほとんど持っていけない。小銃ならともかく、カーン砲を積んでいくのは大変だからな。


「ご心配には及びません。そのために私が向かうのです」


 何故か知らないけどフラシア軍は母、『血塗れマリア』を極端に恐れている。俺と子飼いの部隊だけならば俺が素顔を晒していても問題ない。南側に血塗れマリアがいると思わせれば敵は南から突破しようとはしないだろう。


 情報が完全に通達されないだろうから一部は逃げてくると思うけど、それを俺が相手にして暴れていればそのうち敵も引き返すに違いない。


「ふぅむ……」


「敵なんて逃げてもいいからカーン卿には無事であってもらいたいね。これからの戦争でもカーン卿の力は必要だからさ!」


「はい。私もこの程度の戦闘で命を懸けるつもりはありません。無理であれば敵を逃がしても退避します」


 敵が俺を血塗れマリアだと思わなくて大勢突撃してきてもそのまま倒せばいい。俺がまた暴走して大変なことになったら困るけど、少なくとも俺がフラシア兵に討たれるなんてことは……、たぶんないだろう。



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― 新着の感想 ―
[一言] 枢機卿から得られた言質は大司祭の戦争介入『には』教会は不干渉であるってことだけなんだよなぁ 枢機卿の名のもとで聖戦として教会が介入してくる可能性は十二分にある 手薄なのに些か油断しているフロ…
2020/11/13 17:24 リーゼロッテ
[一言] ママンを真似して突っ込む訳やな( ˘ω˘ )
[一言] ケロン大司教とリュクセムブール枢機卿が対立して力も拮抗してたから、ある意味バランスが取れてたとも考えられるよね。それが無くなると、一方に権力が集中する事になるのかな…。今回の教会との取引が、…
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