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第五百二十四話「どっちが本物?」


 デューセルドラフに駐留するフラシア軍指揮官達とテュレンネ大元帥、コンッデ公はこれからの作戦について話し合っていた。


「私は一万の兵を連れてフランクフートアムメインに向かう」


「「「「「…………は?」」」」」


 いきなりのテュレンネ大元帥の言葉に全員が言葉を失う。まったく意味がわからない。何故これからデュイスブルクやウッパータルから攻めてくるであろうプロイス軍と戦おうとしている時に、最高指揮官たる大元帥が一万もの兵を最前線から引き抜いて遥か後方へ移動しなければならないというのか。


「まずデューセルドラフの兵はすでに三万七千にまで達している。デューセルドラフで賄える兵を遥かに超えているのはわかるだろう。このまま包囲戦になればこちらはあっという間に干上がってしまう」


「それは……」


「確かに……」


 テュレンネの言葉に指揮官達もお互いに目配せし合ってから頷く。デュイスブルクとウッパータルから無事に後退した軍に加えて、エーセンから脱出した兵なども合わせて、すでにデューセルドラフには三万七千もの兵が集まっている。


 もう少しでデューセルドラフの全市民に届こうかというほどに兵がいては、その兵に食わせる食料だけでも大変な量になってしまう。


 今は軍が持ってきた食料や毎日輸送されてくる物資でどうにかなっているが、プロイス軍が攻めてきて包囲されてしまえば物資の備蓄はまったく足りない。こんな調子では数ヶ月も耐えられないだろう。


「それにしても何故フランクフートアムメインに……」


 指揮官達にはそれがわからなかった。すぐ南方のケロンにでも下がるというのなら話はわかる。一箇所に大軍が居ては負担が大きすぎて維持出来ない。だからすぐ後方の都市にも分散して負担を軽減し、もしデューセルドラフが攻撃を受けたらすぐに後方から援軍として駆けつける。それはどこでも行なわれている当たり前の戦術だ。


 しかしテュレンネが言い出したフランクフートアムメインは遥か遠方に位置する。そんな所からではデューセルドラフが攻撃を受けても援軍の要請が届くまで何日もかかるだろう。


 フランクフートアムメインは大陸の中央付近に位置し、レイン川のかなり上流で合流している支流の一つ、メイン川沿いにある。レイン川からメイン川に入って少し遡ればフランクフートアムメインに辿り着く。確かにフランクフートアムメインは重要都市ではあるが、今わざわざテュレンネ大元帥が大軍を連れて向かう理由がわからなかった。


「ふむ……。わからないか……。ならば説明しよう。敵軍の中には『血塗れマリア』がいる。これはすでに明らかになっている事実だ。よもや血塗れマリアが居た場合の対処法を知らぬ者はこの中にはいまい?」


「……血塗れマリアが敵軍にいる場合、最低でも二箇所、可能ならば三箇所以上を同時に攻撃すること……、ですか」


「そう!そうだ!わかっているのなら良い。私はそのためにフランクフートアムメインへと向かい、プロイス王国南方を荒してくる。他にも……、そうだな。コンッデ公にはデューセルドラフとフランクフートアムメインの中間地点辺りを攻撃してもらおう。そうすれば我々が勝てる」


 プロイス王国の怪物『血塗れマリア』とまともに戦うためには、フラシア王国が誇る英雄数人がかりでなければ戦いにすらならない。そのため戦うための戦力や準備、作戦がある場合以外は見つけたら直ちに逃げろという命令が徹底されている。


 だが単純に敵に血塗れマリアがいるからと撤退、後退を繰り返していてはどんどん攻め込まれてあっという間に負けてしまうだろう。フラシア軍とて愚かではないのだからそんな単純な負け方はしない。そこで考え出されたのが『対血塗れマリア用三点同時攻撃』だった。


 血塗れマリアと遭遇した軍は余計な被害を出さないようにとにかく撤退戦を行なう。その撤退する部隊がいかに被害を減らせるかが重要だ。撤退することによってその一点ではフラシア軍は後退し、占領地や領地を放棄することになるだろう。


 しかし血塗れマリアは一人しかいない。同時に何箇所も戦うことは出来ず、物理的に絶対到達し得ない場所での戦闘にはどうやっても現れることはない。それを利用するのが三点同時攻撃戦法だ。


 一点では負けて後退しても、二箇所を同時に攻めていればもう片方で勝てば良い。敵の最大戦力である血塗れマリアがいないのであれば弱兵のプロイス軍にフラシア軍が負けるはずがない。一箇所で負けて放棄しても、一箇所で勝ち占領すれば差し引きで負けない。さらにこれが三箇所同時となれば、一箇所で負けても二箇所で勝てる。


 一箇所で負けて二箇所で勝ちを繰り返していけば最終的にはフラシア軍が勝てる。確かに戦術レベルにおいては血塗れマリアは脅威以外の何物でもないが、戦略的に見れば広大な国境線全てを血塗れマリア一人で守ることは出来ない。一箇所でだけ負けを甘受しても他で勝てば良いのだ。それこそが国家規模の戦略というものだ。


「デューセルドラフの軍はここで敵を引き付ける。私はフランクフートアムメインに向かってプロイス王国南方を攻める。コンッデ公はボーンから西へプロイス王国を攻めるというのはどうだろう」


 テュレンネは作戦図にパチパチと駒を置いて行く。デュイスブルク、デューセルドラフ、ケロン、ボーンとやや東に曲がりながら南南東くらいの方角に並んでる。しかしボーンから先、フランクフートアムメイン付近でレイン川は一度東へ曲がり、また南へと曲がる。なのでボーンからフランクフートアムメインまでは直線でざっと南東方向となる。


「これでは我らは捨て石なのでは……」


 デューセルドラフの指揮官達は誰もがそう思っている。しかし誰も口に出せなかったが一人そう言った。テュレンネは大きく頷いてから言葉を続けた。


「どの道どこかには血塗れマリアが現れ、誰かは相手をしなければならない。もしこのデューセルドラフに血塗れマリアが現れたならば直ちにケロンへ後退すれば良い。それは何も敵前逃亡ではないのだ。いくら血塗れマリアといえどこのデューセルドラフを落とすのには時間もかかろう。血塗れマリアを発見したら後退すれば良いのだ」


 確かにテュレンネの言葉は正しい。三点同時攻撃戦法でも誰か、どこかの軍は血塗れマリアの相手を受け持たなければならない。しかしいざそれが自分だとなれば素直に納得は出来ないだろう。しかし大元帥による命令であれば従うしかない。逆らうのならばそれに見合うだけの理由か代わりの作戦を提示して説得しなければならない。


「決まりだな」


「お待ちください。せめて連れていく兵はもう少し減らせませんか?ここがプロイス軍の大軍に狙われるのは確実です」


「ふむ……。良いだろう。ならば私が五千、コンッデ公が二千としよう。コンッデ公もそれでよろしいな?」


「むぅ……」


 コンッデ公はテュレンネの見事な手腕に舌を巻いていた。作戦が素晴らしいとか采配が冴えているという意味ではない。暫くテュレンネと行動を共にしていたコンッデ公はテュレンネがそんな情報を知り得なかったことを知っている。それなのに口八丁で周囲を丸め込み、自らだけはこの危険な戦場から離脱する算段までつけてしまった。しかもそれに反対する明確な根拠はない。


 確かにコンッデ公はテュレンネが口八丁で誤魔化しているだけだと思っている。しかしそれを証明する手段がない。むしろテュレンネの正しさばかりが証明されてしまっている。作戦も言っていることも妥当であり、テュレンネも敵前逃亡をしようとしているわけではない。


 自ら別の戦線に赴いてそちらを牽制すると言っている。本来なら大元帥ほどの地位にある者がわざわざ最前線まで出て自ら兵を率いる必要はない。それをしているだけでもテュレンネ大元帥は軍人として立派だと言わざるを得ないだろう。


 ここでテュレンネを糾弾しようとしても勝ち目はない。それがわかったコンッデ公は黙ってその作戦を受け入れた。しかしこのままテュレンネをのさばらせておくわけにはいかない。フラシア軍のためにも、コンッデ公はテュレンネを排除するために動く決断をしてデューセルドラフを出たのだった。




  ~~~~~~~




 テュレンネが五千、コンッデ公が二千の兵を連れて出て行ってから暫くして、デューセルドラフはプロイス軍の大軍に包囲されていた。


「ふん!降伏勧告などと小賢しいわ!見るからに我が軍の方が多い。攻城戦においては攻める方が不利であり大量の兵を必要とする。確かに敵も多いが三万の兵が駐留するデューセルドラフをあの程度の手勢で落とせるはずがない!」


 北の城門を預かる守将は城壁の上から眼下のプロイス軍を見て吼えた。これだけ堅牢な大都市を三万もの軍で守っていればそう簡単に落とされるはずがない。唯一心配があるとすれば食料や物資の備蓄だが、何ならあの程度の包囲などこちらから打って出て食い破ってやっても良いかもしれない。


 そう思っていた……。敵の鬨の声が上がるまでは……。


 予告通りの時間が経ち、プロイス軍から鬨の声が上がったかと思うと、大轟音と共に城壁が揺れた。そして……、乾いた高い音が聞こえたと思った時、額に強い衝撃を受けた。ヨタヨタと後退りながらドロリと垂れてくるものを拭う。


「……あ?あぁ~……」


 北門の守将は開戦と同時に額を打ち抜かれ倒れた。一瞬で大混乱に陥った北門では最早組織的に防衛する態勢は失われ、まともに指揮を執れる者もおらず、戦闘開始早々に突破されてしまったのだった。




  ~~~~~~~




 戦闘開始から僅かな時間で、デューセルドラフの町の中にプロイス軍が雪崩れ込んできていた。まさかそんなすぐに城壁が破られると思っていなかった後詰めの部隊は慌てて敵を食い止めようと動く。


「いいか!ギリギリまで息を潜め、敵を引き付けてから放て!指示があるまでは先走って放つことがないように耐えろ!」


「「「はっ!」」」


 物陰に潜み矢を番える弓兵達は、突入してきているプロイス軍を食い止めるべく息を殺してその時を待っていた。しかしやってきたのは立派な鎧に身を包んだ騎兵一騎だった。兵達が隊長にどうするか視線で指示を仰ぐ。


「立派な鎧だ……。指揮官に違いない。後方に敵部隊がいる場合こちらの位置がバレてしまうが……、大将首だ。やるぞ……。まだ引き付けろ……。まだ……、まだ……、よし!放て!」


 必殺の距離まで引き付けてから一斉に矢を放った。これだけの攻撃を受ければどんな英雄でも一溜まりもない。そう勝利を確信したはずなのに……。


「馬鹿なっ!?」


 不意打ちであれほどの矢を浴びせたというのに指揮官はその矢を全て叩き落としてしまった。さすがに馬までは庇えなかったのか馬には矢が当たって倒せたが、その指揮官は信じられないことに倒れる馬から飛び降りまったくの無傷だった。あり得ない。そんな人間離れした芸当が出来るのは英雄格の者だけだ。


 そして……、その馬から飛び降りた者の頭から兜が飛んでいった。ハラリと美しく舞う長い金髪に、碧眼の整った美しい顔がこちらを見ている。その姿を見た瞬間……、兵達は一瞬で恐慌状態に陥った。


「ヒッ!」


「ちっ、『血塗れマリア』だ!」


「血塗れマリアだぁぁぁぁぁあああああっ!」


 この戦場には血塗れマリアが来ている。兵達の間でもまことしやかに囁かれていた噂。それは本当だったのだ。人間離れした身体能力を持ち、美しく長い金髪に絶世の美貌を誇る碧眼の悪魔……。あれこそがプロイス王国の『血塗れマリア』に違いない。


 逃げ出した弓兵達は……、振り返った時に見た。この距離をあり得ない速度で詰めてきたかと思うと邪悪な笑みを浮かべて剣を振りかぶる悪魔の姿を……。彼らの意識はそこで途絶えたのだった。




  ~~~~~~~




「ほっ、報告します!北門より血塗れマリアが突入してきているとの情報が入っております!」


「「「なんだと!?」」」


「馬鹿な……」


「この短時間にどうやって城壁を越えて来たというのだ……」


 デューセルドラフの作戦本部では予想通りの存在と、予想外の展開に動揺が走っていた。血塗れマリアが来るであろうことは予想していたが、降伏勧告があってからまだこれほどの時間しか経っていないのにすでに侵入されているなど予想外どころではない。


「……集められる者を全員集めろ!南門から脱出する!血塗れマリアが出たとあってはこれ以上の戦闘は無意味だ!」


「「はっ!」」


 元々血塗れマリアの姿を見たらすぐに逃げるつもりだったのだ。それが少し早くなっただけのことに過ぎない。事前に考えていた通りに指示を出してから指揮官達も作戦本部を出る。しかし……、もう遅かった。北の方がやたら騒がしい。その騒ぎの原因に気付いた者達は慌てて南へと馬を走らせる。


「馬鹿な……!馬鹿なぁぁぁっ!」


「もっ、もうそこまで来ているだと!」


「はやく……、はやくにげなければ……」


 遠目にもわかるほど目立つ長い金髪を振り乱して、その近くにいる兵達をバラバラにしながら吹き飛ばしている化物の姿がはっきり見える。兵も将もなく、全ての者が悲鳴を上げながら、とにかく一歩でも先に、南門に向かって駆けていた。


 最初は自分達の後ろに何千もの兵が居たはずだ。それくらいの陣容だった。それなのに……、馬を全力で走らせているのに……、どんどん迫ってくる。兵達が空を舞い、馬が嘶く。『剣を振り回しながら生身で走っている人間』の方が『脚も気にせず全力で走らせている馬』よりも速い!どんどん距離が詰められる。


 意味がわからない。何故こんなことになったのかわからない。とにかく恐怖に駆られて、大も小も垂れ流し、涎に涙に鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら、全速力で馬を走らせる。今までこれほど馬を走らせた記憶などない。馬を走らせるのも体力が必要であり、鍛錬も怠り鈍っている上官達では本来出来なかったであろうことを、火事場の馬鹿力とばかりに発揮する。


「ヒィッ!ヒィッ!」


「もっ、もう少しだ……」


「開門!開門~~~っ!門を開けろーっ!」


 先頭を駆けていた者達は南門の近くまで迫っていた。もう少しでこの地獄から抜けられる。後ろから迫る金髪の悪魔はまだ追ってきているが、このままいけば逃げ切れる。そう思った瞬間……。


 ドゴーーーーンッ!


 という音と共に城門が吹き飛んだ。何事かと思いながらその先を見てみれば、晴れた土煙の先、城門の前に立っていたのは、長い槍を構えた金髪の美女……。


 戦斧よりも巨大な刃をつけ、鉤爪までついた異様な雰囲気を纏う長い槍を持ち、風に靡くほど柔らかく美しい長い金髪に、全てを見通すかのような碧眼の美女と言えば一人しかいない。


「『血塗れマリア』!?」


「馬鹿な!?それでは後ろのは偽者か?」


「それこそ馬鹿を言うな!あんな化物が二人もいてたまるか!」


「そうだ!後ろを見てみろ!足で走って馬を追い越し、あれだけの兵を皆殺しに出来る化物がそう何人も……」


「だったらアレは誰なんだ!どちらが血塗れマリアなのだ!」


 フラシア軍指揮官達は涙を流しながら纏まらない無意味な議論を交わしていた。そんなことを言っている場合ではない。本当は理性ではそれを理解している。しかし今もまだそんな無駄な言葉を言い合っていた。いや、他に言える言葉などないのだ。その先の自分達の運命を理解しているから……。


「あらぁ……。フロー……、カーンちゃんに随分取られてちゃってるわねぇ。お母様も頑張らなくっちゃね!」


「……あっ」


 フラシア軍の先頭を走り南門を目指していた者は、門の前にいた金髪の悪魔が一瞬にして消えたのを見た。それに遅れるようにして門の前の石畳が砕け、飛び散り、砂煙が舞い上がった。さらに遅れて『ドンッ!』と何かを思いっきり踏みつけたような音が届いた。


 しかし……、音を聞いた時には自分は逆さまに世界を見ていた。そして僅かに回る世界で、馬も人もバラバラに弾け飛んでいるのを見た。最後の意識で自分の体を見ようとしていたが、ついにどれが自分の体か見分ける前にその意識は永遠に閉ざされたのだった。



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 新作連載を開始しています。よければこちらも応援のほどよろしくお願い致します。

イケメン学園のモブに転生したと思ったら男装TS娘だった!

さらに最新作を連載開始しています。百合ラブコメディ作品です。こちらもよろしくお願い致します。

悪役令嬢にTS転生したけど俺だけ百合ゲーをする
― 新着の感想 ―
[良い点] これはすべてGoogle翻訳で書かれました。 このシリーズをありがとうございました! それは、領土管理、戦争と戦術、そしてたくさんの百合の本当に興味深い組み合わせです。 私は政治と戦争を…
[一言] 増えるマリア(獄)
[一言] 技の一号、力の二号! 今夜はお前と俺でダブル血塗れマリアだからな しめやかに爆発四散するフラシア軍に合掌 テュレンネ、異能生存体か何かかと思ったけど、そこまでではなくてタイタニックから逃…
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