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第四百九十九話「ホーラント南西での戦い!」


 カーザー王様がホーラント王国南西の砦から出立されて暫く、カーン・カーザース連合軍からの伝令を受けてゴトー達は動き始めた。カーン・カーザース軍の打ち合わせも終わり、全て作戦通りに実行されることが通達されている。ならばあとはその通りに動くだけだ。


「くっくっくっ!それでは始めましょうか……。我らがカーザー王様の覇業の一歩を!」


「ゴトー殿……。それではまるで我らの方が悪役のようですが……」


 ラモールの呆れもゴトーには通じず、完全に悪役にしか見えない仮面の男にブリッシュ・エール王国の指揮官達も賛同する。


「我らがカーザー王様に勝利を!」


「「「「「勝利をっ!」」」」」


 全員が拳を突き上げる。ラモールは砦に残って砲兵部隊を指揮しつつ、砦のホーラント軍との連携を取り、渡りをつける役目がある。また本来海軍の将であるラモールは陸戦が出来ないわけではないが得意ということもない。そこで海戦に近い砲撃戦の指揮が向いているだろうと砦に残されることになった。


「それよりもやはりゴトー殿は残られた方が良いのでは……」


 砦を出て洪水線を迂回し、フラシア軍の背後から攻撃する部隊の指揮としてゴトーまで出向くことになっている。ゴトーが優秀な指揮官であるとしても、重要な地位にいるゴトーが自ら戦場に出て危険な任務をこなすというのはラモールには理解出来ない。


「心配はご無用。私に危険など及びません。これから行なうのはカーザー王様がお授けくださった神託をただなぞるだけのこと……。我らの勝利は全て約束されているのです!」


「「「「「おおっ!」」」」」


 もはや狂信と言っても過言ではないほどにカーザー王、フロト・フォン・カーン様を信じ切っている……。それを悪いとは言わないが、それでも万が一のことを考えれば重要な地位にいるゴトーには自らの身も省みて欲しいと思わずにはいられない。


 戦争そのものには勝てるだろう。ラモールも負けるつもりはまったくない。しかし戦場に出れば何が起こるかわからないものだ。戦闘そのものには完全に勝っていたのに、自軍の指揮官があっけなく死ぬなんてことを今まで何度も経験してきた。戦争や一戦闘に勝つことと、指揮官の安全は関係ない。勝っていても死ぬ者は死ぬのだ。


「ラモール殿の懸念もわかる。だがそのための我々だ。迂回部隊の将軍、指揮官の方々の護衛は我々に任せてもらおう」


「うむ……」


 ムサシやジャンジカとその子飼いの特殊部隊があちこちで指揮官や将軍達の護衛についている。ラモールもその護衛を信じていないわけではないが、だからといって重要な役職に就いている者が最前線に出るのもどうかと思っているのだ。


「そもそも我らの主からして御自ら戦場に立たれているのだ。今更であろう?」


「ふっ……。それもそうか」


「よしっ!それではブリッシュ・エール軍、出るぞ!」


「「「「「おおおおぉぉぉーーーーっ!」」」」」


 鬨の声が上がり、ブリッシュ・エール軍は砲兵千を残して四千が砦を出た。洪水線を東に迂回してフラシア軍の背後に回るべく、迅速に、しかし静かに、フラシア軍にその牙を突き立てるために動き始めたのだった。




  ~~~~~~~




 順調に、作戦通り洪水線を迂回してフラシア軍の背後に回ったブリッシュ・エール軍は最後の作戦会議を開いていた。


「今までは伝令も歩哨も見逃していたが、これから見つけた敵は全て気取られる前に始末しろ。洪水線に張り付いているフラシア軍に一切伝令も出させず、完全に包囲して洪水線方向へ押し付ける。後は砦からの砲撃と包囲からの鉄砲攻撃で敵を殲滅だ!」


「はっ!」


 作戦決行のあまり前から敵の伝令や歩哨を遮断してしまってはこちらの動きがバレてしまう。今までは見逃していたが、これからはもう作戦決行まで時間がない。これからは敵を見逃さず全て始末しこちらの動きを敵に知らせないようにする。


 敵を半包囲しているブリッシュ・エール軍がそのまま北上や北東方面へ前進すれば敵は洪水線とブリッシュ・エール軍に挟まれて身動きが取れなくなる。ヤケクソで突撃してきてもブリッシュ・エール軍の火器を掻い潜るのは不可能だろう。


 そして洪水線側に敵部隊を押し付ければ砦からの砲撃が十分届く。フラシア軍は南や南西側から追い立てられ、北東の洪水線で足を取られ、砦からの砲弾の雨に晒される。


 逃げ道もなければ対抗策もない。迂回してきたブリッシュ・エール軍四千に比べて敵は二万数千ほど。五倍から六倍くらいの敵がいると思われるが、森の中から鉄砲隊による狙撃を行なえば敵は大混乱に陥るだろう。そしてそこへ砦からの砲撃が加われば敵の殲滅も一気に加速する。


「それではそちらは任せるぞ、ジョン・マールボロス陸将」


「はっ!お任せください!必ずやカーザー王様に勝利を!」


 フラシア軍の南側を指揮するのはゴトーだ。そして南西側を受け持つのはジョン・マールボロス陸将だった。最後の打ち合わせも終わり、各人がそれぞれ配置につく。ホーラント王国に侵攻してきていたフラシア軍を排除するための戦いの火蓋が切って落とされたのだった。




  ~~~~~~~




 ホーラント王国南西部で膠着状態に陥っているフラシア軍は今日も退屈していた。


「ふあぁ~~~っ……」


「大きな欠伸だな。隊長にどやされるぞ」


 相棒の大あくびに苦言を呈する。歩哨中だというのに緊張感もなく欠伸などしていては隊長に見つかったら何を言われるかわからない。


「そうはいってもよ。敵は水没した向こう側。こっちはフラシア王国の支配地側だ。歩哨で警戒しろっつっても無意味だろ?」


 本隊は一応ホーラント王国南西の洪水地帯に向かって警戒している。とはいえこちらが洪水地帯を渡れないのと同じように、敵も洪水で水浸しの中を攻めてくる方法はない。自分達は本隊南の森を警戒しているが北東方向にいるホーラント軍以外は周囲は全てフラシア領になっている。味方しかいない場所で一体何を警戒しろというのか。


「それはそうかもしれないけど、お前が欠伸してて怒られたら俺までとばっちりを受けるんだよ。だから……」


 そこまで言いかけた時、どこからかパァンッ!という乾いた音が響いた。そしてベチョリと自分の顔に何か粘ついた液体がかかった。


「……え?」


「…………」


 さっきまで欠伸をしていた同僚が……、頭に風穴を開けて倒れ込んだ。そしてもう一度パァンッ!という音が響いた時、自分もまた同僚と同じように倒れこんでいた。男の意識はそこで永遠に閉ざされたのだった。


「てっ、敵襲っ!敵襲~~~~っ!」


「何事だ!」


「何の音……、ぎゃっ!」


 パンッ!パンッ!パンッ!


 と、あちこちから高い乾いた音が響き渡る。森の中で音が反響していてどこから聞こえるのかわからない。ただわかることは友軍の兵士達があちこちで血飛沫を上げて倒れているということだけだった。


「何だ?何が起こって、がっ!」


「ぷぎゃっ!」


「魔法だ!魔法攻撃だ!下がれ!」


「距離を取れ!敵の魔法の射程外まで下がって森から引き摺り出せ!」


 あちこちから次々に音が鳴り響き、あっという間に生きている友軍の数が減っていく。明らかに南の森の中から魔法攻撃を受けている。だから北へ下がって敵を森から引き摺り出すのだ。


 魔法の射程はそれほど長くないというのが常識だ。だから騎士は魔法使いとの距離を詰めて戦えば怖くない。当然魔法使いもそれがわかっているから騎士に距離を詰められない工夫をしている。今回のような襲撃もそうだ。


 もし相手の姿も確認出来ない状況で魔法使いに近づこうと森に入っていけば、向こうはこちらの位置を把握しているのにこちらは相手を探しながら森を歩き回らなければならない。そうなれば見つける前に大勢の犠牲を出してしまうだろう。ならば敵が隠れられない場所まで引っ張ってくれば良いのだ。


 森から離れて距離を取れば魔法使い達は遮蔽物の多い森から出てこない限り攻撃出来なくなる。魔法使いが見える範囲に出て来さえすれば騎士の踏み込みの方が速い。大勢で突撃するなり、身体能力強化に優れる騎士に踏み込んでもらうなり、魔法使いを倒す方法などいくらでもある。そのはずだった……。


「おっ、おいっ!この攻撃どこまで届くんだ!」


「これほど森から離れているのに……、まだ魔法がっ、ぐびゃっ!」


 普通の魔法使いならばもう森から姿を現さなければ魔法が届かないほどの距離を取っているはずなのに、未だに森からはパンパンと乾いた音が響き、後退中の友軍が次々に倒れていく。とにかく敵の攻撃が届かないところまで下がろうと南の森側に布陣していた部隊は北東の本隊と合流するまで下がったのだった。




  ~~~~~~~




「一体何事だ?」


「はっ!周囲の森を警戒していた友軍が襲撃を受け、この本隊まで後退してきたようです!」


 二万数千にもなるフラシア軍のホーラント本土進攻部隊は、北東の洪水線で対峙する本隊、南の森を警戒する部隊、南西の森を警戒する部隊の三軍に分かれて布陣していた。その南と南西の部隊が両方とも本隊がいる北東の洪水線の前まで後退してきていた。


「両方同時に襲撃だと?歩哨達は一体何をしていたのだ!」


 南西方向まで回り込まれるまでに何故敵を発見出来なかったのか。指揮官はそこに怒りを覚えたが今はそんなことを言っている場合ではない。


「ええい!どうせ北東方向は洪水で身動きが取れん。敵も攻撃してくる方法はない。北東の洪水地帯を背にして南と南西から攻撃してきている敵に備えるぞ!」


「はっ!」


 すぐに情報が伝達され、宿営地を捨てて洪水地帯のすぐ前まで下がり布陣を完了する。敵が南と南西から襲ってきているのならそちらにだけ注意すればいい。これまで幾日も対峙してきたが、ついぞホーラント王国は攻撃してこなかった。いや、攻撃出来ないのだ。


 フラシア軍が洪水地帯の向こうのホーラント軍に有効な攻撃が出来ないのと同じように、ホーラント側からもフラシア軍に攻撃などしようがない。ならば背後は安全。迂回してきてこちらの背後を取ったつもりであろうが、最初の奇襲さえ凌げば兵の質でも量でも勝るフラシア軍がホーラント軍などに負けるはずがない。


「よし!防衛線を二重に張れ!敵を近づけるな!少し持ち堪えれば敵の勢いは衰える!その時に反撃に打って出……」


 指揮官がそこまで言った時……、遥か後方、北東にあるホーラント軍の砦からドンッ!という腹に響く音が聞こえた。ヒュルルルゥーーーと、何かが近づいて来るかのような音が続き、自分達の少し手前の上空でそれがバァンッ!と音をさせて弾けたかと思うと……、フラシア軍の頭上から鉄の破片の雨が降り注いだ。


「うあぁっ!」


「ぎゃぁっ!」


「うぎゃぁ!」


 破片が急所に当たって即死した者。ただ体中に破片が突き刺さりのた打ち回る者。一瞬何が起こったのか理解出来ず、大半の者が屈みながら呆然としていた。しかし考えている暇などない。


 ドンッ!ドンッ!ドンッ!


 と次々と砦の方から同じ音がし、煙と炎が見えた。


「まっ、まずい!全員回避!回避しろ!」


 何をどう回避しろというのか。物凄い速度で飛んで来る鉄の雨を全て避けろとでも言うのか。誰もが何をどうすれば良いのかわからない。


「お?あれは破裂しないぞ!やった!これなら……」


 あちこちで空中で破裂して鉄の破片を撒き散らしていたが、一つ破裂することなく降ってきた。でかい一発ならうまくすれば避けられる。そう思っていたが……。


 ドパァンッ!


「ぐわぁっ!」


「ぎゃぁっ!」


「いてぇ!いてぇよぉっ!」


 空中で破裂しなかった弾は地面に落ちると同時に破裂し周囲に破片と爆風を撒き散らした。空中で破裂しようが地面で破裂しようが、どちらにしろ人間に避けられるものではない。一度あのドンッという音が響くと何人、何十人もの兵士が悲鳴を上げて倒れていく。


「にっ、にげろ!ここにいたら向こうから撃たれる!」


「あっ!馬鹿っ!そっちは……」


 パパパパパンッ!


 洪水地帯から離れようと逃げ出した者達は、南から響いた高い音と共に倒れピクリとも動かなくなった。あの音が響くたびに何人、何十人の兵士が血飛沫を上げる。


 洪水地帯に留まっていては砦から降ってくる鉄の雨に吹き飛ばされ、南や南西に逃げようとすれば森から放たれる魔法によって穴だらけにされる。どうしようもない。打つ手などない。逃げ道も、対処法も、勝機も、何もない。


「ひいぃっ!」


「助けてくれぇ!」


 このあと数時間の戦闘で、フラシア軍のホーラント侵攻部隊主力二万数千の大半はその命を落とし、大量の負傷者と一部の降伏した捕虜以外は物言わぬ死体へとその姿を変えたのだった。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 榴弾って完成してたっけ?
[良い点] ブリッシュ・エール王国の者共が怖すぎだよ~w。 あまりにも狂信的過ぎてヤバいっすwww。 [一言] 嗚呼…、阿鼻叫喚の地獄絵図~。 近代兵器の知識が無いから、対処のしようがないんだよな~……
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