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第四百九十四話「看病?」


「ん……」


 ぼんやり目を開ける。ここはどこだっけ……?明らかに見たこともない室内に、自分が何故こんな所にいるのか思い出そうとして考える。


「フローラ様?フローラ様!お目覚めになられたのですね!」


「カタリーナ?」


 俺が眠っていたベッドの横に座っていたらしいカタリーナが俺に覆い被さってきた。声は上げていないけど静かに泣いているのがわかる。泣いているのはわかるけど……、どうして泣いているのかはわからない。


「カタリーナ……」


「今の物音は何?」


「もしかしてフロトが目を覚ましたのかい?」


 そっと俺の上に覆い被さっているカタリーナの背中に手を回そうとした瞬間、扉がバカーンッ!という音を立てて開かれて四人のお嫁さん達が飛び込んできた。そして俺とカタリーナの様子を見て皆一斉にベッドにダイブしてきた。


「カタリーナだけずるいじゃない!私も混ぜなさいよ!」


「私も心配したんですのよ!」


「チッ!」


 あっ!今カタリーナが舌打ちしたぞ。俺には聞こえた。絶対聞き間違いじゃない。本当に舌打ちしたはずだ。もしかして……、嘘泣きだった?


「まぁまぁ、皆で楽しもうじゃないか」


「えっと……、お邪魔します……」


「ぐぇっ!」


 結局皆がベッドに飛び込んできてギュウギュウと押し潰されてしまったのだった。まぁ本当はぐぇって言うほど痛くも重くもないんだけどね。




  ~~~~~~~




 さて、目が覚めてすぐにお嫁さん達による手荒い祝福を受けたわけだけど、そう言えばぼんやりとどうしてこんなことになっているのか思い出してきた。


 確か俺はハーメレン奪還作戦で……、何て言うんだろう?感知魔法?まだはっきりと名前を決めてないから名前で呼べないんだけど、人や物を遠くからでも感知してまるで見ているかのように判別出来る魔法を発動させていた。


 見ているかのようなとは言ったけど、実際に視覚で得られるような映像として見ているわけじゃない。全ての物質や生物に含まれている魔力を感じ取って、どこにどんな形でどれだけの魔力を含んだ物があるかを立体的に把握出来るようにしている、とでも言えば良いのだろうか。


 それだけ聞くととても便利で凄い魔法のように思える。何故日頃から使っていないのかと思うだろう。でもこれは得られる情報が膨大すぎる。物凄く極端に言えば、空気中の微生物やウイルス、細菌、砂の一粒一粒にいたるまで全ての情報を克明に頭に叩き込まれているようなものだ。その情報量はあまりに多すぎて人間の脳では処理し切れない。


 フラシア軍がどこに潜んでいるかわからない状況で、これ以上町に被害を出させず、そしてこちらがなるべく被害を受けずに敵を襲撃するためには敵がどこに何人潜んでいるか知る必要があった。だから俺はこの未完成の感知魔法を使ったわけだけど……、結果は処理が追いつかず脳がパンクしてしまったというわけだ。


「鏡はありますか?」


「はい……。酷い顔になってるわよ……」


 ミコトが渡してくれた手鏡を覗き込むと……、確かにそこには酷い顔があった。まだ顔色も悪いし目が赤くなっている。もしかしたら目の血管が切れてしまったのかもしれない。まぁ結膜下出血というのは割りとよくあるものだったはずだ。それと同じかどうかはわからないけど直ちに問題はないだろう。見た目が悪いことさえ我慢すればどうということはない。


 あと鼻のまわりというか鼻の中というかも赤黒い。鼻血の跡だろう。かさぶたのようになっている。無理に取ろうとしたらまた血が出て来るかもしれないから暫くは放置しておくしかないだろう。見える部分はさすがに綺麗にしておくけど……。


 まだ頭はガンガンと痛い。酷い二日酔いとか、何かの病気の時のような感じだ。もしかしたら脳内でも出血して……、なんてこともあるかもしれない。脳内での出血が原因でこのあと暫くしたら死ぬなんて可能性も十分あり得る。


「もう!どんな無茶したのよ!」


「今後笛は禁止ですわね」


「えっ!?ちょっ、ちょっと待ってください!笛は関係ありませんよ!?こうなった原因は感知魔法です!笛は大した負荷にはなっていなかったので無関係です!」


 折角これから通信手段として笛による連絡方法を普及出来ないかと考えていたのに、こんなところで笛を禁止されたら困る。そもそも笛での伝達は『ささやき』で音を広めるよりも笛の方が広がりが大きいから負担は軽い。広範囲にささやきをするのは俺しか出来なかったけど、笛を使えば他の者にも出来る可能性が高い。


「ふ~ん。それじゃ感知魔法は禁止ね!」


「あっ……」


 嵌められた……。俺が原因は感知魔法だと言ったから、感知魔法は危ないから禁止するという皆の意見に反対出来なくなった。だって俺自身が原因だったと認めてしまったんだから……。金輪際一切禁止というわけじゃないだろうけど、もっと安全になるまで大規模に使うのは禁止だろう。


 まぁ……、俺だってあんなことで死にたくはない。今回ぶっ倒れてわかった。あれは下手すれば死ぬ。人間の脳で処理し切れる情報量じゃない。魔法そのものはそう難しくないけど、脳への負担が大きすぎてあのまま使っていれば命を削ることになるだろう。そのうち脳がおかしくなるか、血管がぶち切れて倒れて死ぬか……。


 どちらにしろ碌な結末にはならないだろう。何とかもっと実用に堪えるだけの改良をしないことには気楽に使って良いものではない。


「それではフローラ様、お体をお拭きします」


「あっ!ちょっ!カタリーナ!?」


 いきなり……、話の流れをぶった切ってカタリーナが俺を脱がせようとしてきた。もし脳の血管とかが切れてたら風呂に入ったりするのは良くないだろう。だから清潔に保つためには体を拭くしかない。それは良いけど何故今いきなりなんだ?


「ちょっとカタリーナ!貴女はこの前フロトの背中を流したでしょ!今度は交代よ!」


「確かに皆さんで順番を話し合いましたがそれに今回のことは含まれておりません。今回のことは想定外ですのでフローラ様のメイドたる私がフローラ様のお世話を担当いたします」


「そんなのずるいわよ!おかしいじゃない!想定外で回数が増えたって、その分順番を進めれば良いだけでしょ!」


 何なんだ?いきなり何かわけのわからないことになり始めたぞ……?


「どっちにしろ次は私の番じゃないし……、私はフロトのために食事を作ってくるね!」


「あっ!ルイーザ!それも抜け駆けでしょ!」


 もうてんやわんやで収拾がつかない。暫く纏まりそうにないから諦めた俺はミコトの突っ込みをただぼーっとテレビでも観てるつもりで眺めていたのだった。




  ~~~~~~~




 え~……、そんなわけで俺の看病?介護?を行なう担当が色々と決まったらしい。皆に言われるまでもなく俺だって今無理をしようとは思っていない。もし本当に脳出血していたらあまり動いたりしたら危険だろう。


 まぁどちらにしろ、もしこの世界で脳出血していたら治療法もなく自然に任せるしかないわけだけど……。それでもわざわざ無茶をして完全に脳梗塞とか脳溢血で死ぬというようなつもりはない。一応回復魔法をかけつつ安静にして様子を見ようと思っている所だ。


 なので看病してくれるのはとてもありがたいんだけど……、皆に任せて本当に大丈夫なんだろうか?


「さぁフロト!食事が出来たわよ!」


「ミコト、ありがとうございます」


 ミコトがまだコトコトと音を立てている土鍋のようなものを持ってきた。ミコトは魔族の国、日本のような文化と風習を持った国の育ちだからお粥を作ってくれると言っていた。だから蓋を開ければお粥が……。


「え~……。ミコト?これは?」


「おかゆよ!」


 これが……、お粥?俺には熱湯に浸した生米にしか見えない。


「生米から炊いたのですか?」


「そうよ?当たり前じゃない!」


 そうなのか?当たり前なのか?炊いたお米をお粥にするなら少し炊くだけでお粥が出来ると思う。もちろん生米からだってお粥は作れるだろう。でも生米から炊くんだったら長時間炊かないと駄目なんじゃないだろうか?これはどう見ても沸騰したお湯に生米を放り込んだだけにしか見えない。


「食べさせてあげるわね!ふーっ!ふーっ!はい!」


「ちょっ!あつっ!まだ熱いですよ!?」


 グイグイ押し付けてくるお粥?はまだ熱々だった。ふーふーしてくれたのはいいけどまるで冷めてない。


「あ゛っ!あづっ!う゛っ!」


 熱々のものを無理やり口に放り込まれる。俺がイヤイヤをしているのにお構いなしだ。口に入れないと体にかけられそうだから渋々口に入れるけど熱くて口の中を火傷する。


「ぶっ!しょっぱっ!生!」


 しかも滅茶苦茶しょっぱい。そして予想通り米はまだ生だった。まるで炊けてない。おかしい……。お粥なんて米を水多めで炊けば出来るんじゃないだろうか?水の量次第で濃い薄いというのはあるだろう。ほとんど汁のようなお粥もあれば、ちょっと柔らかめに炊いたご飯のようなお粥もあるだろう。でもお粥なんて水多めでご飯を炊けば良いだけだろう?何故失敗する?


 そもそも……、皆料理の腕が良くなってなかったか?確か手料理を振る舞ってもらったはずだ。その時は普通に食べられたはずなのに何故……。


「ちょっとフロト!何も吐き出すことはないでしょ!」


「……ミコト、貴女はちゃんと味見しましたか?していないでしょう?今食べてみなさい……」


「何よ。お粥くらい……。…………ペッ」


 自分の時はちゃんとふーふーして冷ましてから一口含んだミコトは……、しばらく我慢しようとして結局我慢出来ずに吐き出していた。そして何も言わずに土鍋のような器を持って出て行った。やっぱり味見すらしてなかったんだな……。


 本当におかしい……。前にミコトの料理も食べさせてもらったはずだ。あの時はもっとちゃんと出来ていたはずなのに何故お粥みたいな簡単なものが出来ないんだ?


「フッ……」


「あっ……」


 その時……、扉から出て行ったミコトを、後ろからフッと笑っていたカタリーナの姿が一瞬見えた。




  ~~~~~~~




 ミコトの料理を待っていたらいつになるかわからないので先に体を拭くことになった。担当はアレクサンドラだ。ベッドに体を起こした俺は自分で服を脱いで背中をアレクサンドラの方に向けた。


「それではいきますわ!」


「ひゃぁっ!つめたっ!水!水ですよそれ!それに絞らないと!」


 アレクサンドラが俺の背中に押し当てたタオルは……、水でべっちゃべちゃのまま滅茶苦茶冷たかった。まず……、タオルはきちんと絞ろうよ……。それは桶にタオルを入れてそのままじゃないのかね?それから桶の中の液体……、普通こんな時に体を拭く場合はお湯じゃないのか?明らかにそれは水だろう?


「ちゃんとお湯ですわよ!それに精一杯絞りましたわ!」


 えぇ……。一体何をしているのかと思って後ろを振り返ってみれば……、桶の水は確かにほんのり水よりは温度が高いかもしれない。でもほぼ水だ。ちょっとだけ温い水だ。さらにアレクサンドラはタオルを絞っているつもりのようだけどまるで絞れていない。力がないとは思っていたけどここまでなのか……。


「はい!もう一度いきますわよ!」


「ちょっ!待って!わひゃっ!冷たい!待って!待ってぇ~~っ!」


 おかしい……。何だこれは?病気とかで看病してもらう時はもっとこう……、幸せになれるものじゃないのか?俺は今何かの罰ゲームをさせられているのか?それに皆は一体どうしてしまったんだ?いつもはもっとしっかりちゃんとやってくれているはずなのに……。


「はっ!?」


「フッ」


 まただ……。今度は扉の外からアレクサンドラの方を見ながらカタリーナが笑っていた。


 そうか……。わかったぞ……。いつも……、お嫁さん達がどうにか料理を作れたり、家事のようなことが出来ているのは……、いつもカタリーナのサポートがあったからなんだ……。料理も作り方を指示して、家事も全て段取りをカタリーナが行い、家事の出来ないメンバーはただそれに従っていただけだった……。そのカタリーナが何も手伝わないとこんな大惨事になるというわけだ……。


 たぶん皆だって出来ることもあるだろう。でも出来ないこともある。ミコトだって過去に作ったことがある料理なら、同じ料理でよければ出来るものもあるのかもしれない。でもお粥なんて作ったことがない。だから作り方がわからないんだ。


 アレクサンドラも桶のお湯がどれくらいが良いのかわからない。タオルを絞る力も足りない。いつもならカタリーナがうまくやってくれることも、今回は仕事を取り上げられて拗ねてしまったカタリーナが協力してくれないから出来ないんだ。


 ヤバイ……。もしかして俺はこの看病という名の拷問によってここで命を落とすかもしれない。カタリーナさん!いえ、カタリーナ様!どうにかしてください!助けて!


「ふふふっ」


 でも……、カタリーナは不敵に笑っているだけだった。俺や皆が音を上げるのを待っているんだろう……。くそぅ!くそぅ!もうどうしようもないのか……。俺達はカタリーナに屈するしか……。


「もう!ミコト!何やってるの!こうだよ!はい!出来上がり!早くフロトに持っていこ?」


「そうね!これこそお粥よ!」


 そんな時、開け放たれた扉からそんな声が聞こえてきた。そして再びミコトが土鍋を持ってきていた。またかと思ったけど……、フワリと良い匂いが漂う。これは……、もしかしてちゃんと出来ている?


「さぁ召し上がれ!」


 パカッ!と蓋を開けてみれば……、今度こそお粥が出来ていた。しかもいくつか刻んだ野草が入っている。七草粥のようだ。


「ふーっ!ふーっ!はい、あ~ん」


「あ~ん……」


 今度はちゃんとふーふーしてから食べさせてくれた。熱くない!しかもおいしい!


「おいしいです。ちゃんとお粥が出来ていますよ」


「当たり前じゃないの!」


 その当たり前が出来てなかったのは誰ですかね……?


「ちょっとアレクサンドラ!これお水だよ!ちゃんとお湯で拭いてあげないと!さぁ、お湯に替えにいこ?」


 俺が服を羽織りなおしてお粥を食べている間にアレクサンドラは連れて行かれてしまった。そしてお湯に張り替えた桶を持ってやってきた。お粥を食べ終わった俺は再び服を脱いで拭いてもらう。


「ほら。こうして絞ると絞りやすいよ。うちの妹達でもこれでしっかり絞れるから」


「本当ですわね!さぁフロト!いきますわよ!」


「おっ?おぉっ……。おふぅ……」


 程よく温かいタオルで背中を人に拭いてもらうととても気持ち良い。完璧だ。お湯の温度も絞り方も完璧だ……。


 ミコトもアレクサンドラも……、この聖女ルイーザ様に指示されてから完璧に出来るようになった。これだよこれ……。これこそが看病されているというものだ。あぁ極楽極楽。


「ぐぬぬっ!」


「あっ……」


 ふとそう言えば協力してくれていなかったカタリーナはどうなったかと思って扉の方を見てみれば、物凄い形相でルイーザを睨んでいたけど、俺にジトーッと見られているのに気付いたら逃げ出したのだった。



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 新作連載を開始しています。よければこちらも応援のほどよろしくお願い致します。

イケメン学園のモブに転生したと思ったら男装TS娘だった!

さらに最新作を連載開始しています。百合ラブコメディ作品です。こちらもよろしくお願い致します。

悪役令嬢にTS転生したけど俺だけ百合ゲーをする
― 新着の感想 ―
[一言] 影武者から何から何まで、今回のMVPはルイーザなのでは
[一言] 特に理由のないメシマズという暴力がフローラ様を襲う――!! 驕れるカタリーナは久しからず。 苦しむフローラ様を見てほくそ笑むとかやらかすから大聖女ルイーザにかっさらわれるのさ。。。 まるでイ…
[良い点] 百合百合回キターーー!(゜∀゜)。 戦記物の真面目な話から、たまに来る百合物語の緩急が素晴らしいwww。 [気になる点] 感知魔法は、回復魔法と併用すれば、脳への負荷を和らげる事が出来ない…
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