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第四百八十話「禅譲!」


 ゴトーに説明を受けてから俺はある人物と面会していた。ウィレム王の孫、ウィレム二世だ。ウィレム二世はウィレム王の末子、フレデリックの息子でありウィレム王から見て孫ということになる。そのウィレム二世は今実務から離れているウィレム王に替わって政務、軍務を取り仕切っており、実質的に次の王になるのが確実と言われている人物だ。


 他にも大勢の伯父や従兄弟達がいるはずだが、何故ウィレム王の末子フレデリックの息子であるウィレム二世がその地位に就いているのか。それは相当激しい権力争いがあったらしい。


 まぁ詳しいことはわからないし、どうせ他国の内情なんて知ったことじゃない。血縁同士で骨肉の争いをするのはどこでも同じだし、ホラント=ナッサム家がどんな血なまぐさいことをしていようと俺には無関係だ。いや、だった……。


 そのウィレム二世がウィレム王から譲位を受けて正式にウィレム二世王として即位し、すぐに俺がウィレム二世の養子となってウィレム三世として禅譲を受けることになるまでは……。


 何故そんなことになっているのか意味がわからない。いや、ゴトー達から話は聞いたからわかってはいるけど、何故こんなことになってしまったのか……。養子といってもカーン家やカーザース家の者としてではなくカーザー王としてだから実質的には架空の人物も同然だけどな……。


「おおっ!よく来てくれたな!貴殿がカーザー王か!まぁかけ給え」


「…………」


 ゴトーに先導されてウィレム二世に会ったけど……、第一印象は最悪だな。俺は今仮面をしてカーザー王としてウィレム二世と会っている。仮にも一国の王であるカーザー王に対して今の言葉はないだろう。それもこちらはホーラント王国に助力するために来た援軍だ。


 実際はホーラント王国を救うためだけにきた援軍じゃないけど、それでも彼らからすれば俺達は窮地に駆けつけてくれた貴重な援軍の指揮官や王だ。その相手に向かってこの態度はないだろう。こいつは自分の立場というものを自覚しているのだろうか?


 まぁ……、だからこそゴトーの計画通りに進んでいるんだろうけど……、それにしても、そりゃこんな奴らが国の中枢に居座っていたら国も滅ぶわなと思わざるを得ない。今回のゴトーの企みやフラシア王国の侵攻がなくても早晩ホーラント王国は滅んでいたのではないだろうか。


 どうせ滅ぶのならばゴトーの策に乗って俺達にとって都合の良い結末に誘導しても良いだろう。こいつらがこのままフラシア王国に飲み込まれるのはこちらとしても都合が悪い。それならば俺達も少しばかり介入させてもらうとしよう。


「貴殿には建前上私の養子になってもらい、私が祖父から譲り受ける王位をすぐに譲ることになる。その後貴殿はブリッシュ島の兵を使ってフラシア王国を撃退する。戦後は私がホーラント王国を統治し、貴殿はホラント=ナッサム家の後ろ盾でブリッシュ国を統治出来るということで良いな?そしてホーラント王は貴殿一代のみとし、その次はまた私の子孫に王位を返す」


「ゴトーより話は伺っております」


 俺は言葉少なにそう答える。あまりこいつと長々話をする気がしない。言っていることがあまりに自分勝手すぎる。もちろん今ウィレム二世が言ったことはゴトーが吹き込んだことだ。でもそれを当然のこととして受け入れるということは、本人が元々そういう風に思っていたからに他ならない。


 ブリッシュ・エール王国を僻地の田舎と見下し、窮地に駆けつけてくれた援軍を軽く見ている。今にも滅びそうな自国の立場も理解出来ず、ただ偉そうに踏ん反り返っているばかりだ。こんな馬鹿が相手なら相応に扱ってもこちらが気に病むことはない。


 ホーラント王国そのものにはそれほど敵意も嫌悪もないけど、ホラント=ナッサム家の者達には嫌悪感しか持てない。ウィレム王も、このウィレム二世も、本当に碌な奴がいないんだなという感想だ。プロイス王国の本家ナッサム家も碌な奴らじゃないし、そういう家系なのかと思わずにはいられない。


「貴殿は仮にも名誉あるホラント=ナッサム家の一員となるのだ。言動にはくれぐれも気をつけてくれ給えよ」


「気をつけましょう」


 ニヤニヤと笑っているウィレム二世の考えていることはわかる。ゴトーの説明からすると、カーザー王がホラント=ナッサム家に入りウィレム三世となるのは建前上のことということになっている。でもウィレム二世はこう考えているはずだ。


 もしウィレム三世、カーザー王に何かあれば、それはホラント=ナッサム家がブリッシュ・エール王国に対する正統性を主張出来るようになる、と。


 別にそれは何もおかしなことじゃない。現在カーザー王は妻子もなく跡継ぎもいない。そんな立場の王が死ねば当然多少なりとも縁のある者がブリッシュ・エール王国の王位を主張するだろう。それはウィレム二世だけじゃなくてこの世界の貴族なら誰でもそうする当然の対応だ。


 もちろん今すぐ俺を暗殺しようなんて思ってはいないだろう。これからフラシア王国と戦って追い払ってもらわなければならないのに、この時点で俺を暗殺なんてしたらブリッシュ・エール王国の援軍も霧散してしまうかもしれない。


 だけど……、例えばもしフラシア王国との戦争中に戦死したり、戦争が終わった後で俺が急死すれば……、カーザー王がウィレム二世の養子であることを逆手に取ってブリッシュ・エール王位への正統性を主張するだろう。そういう計算があるから戦時中である今は一先ずカーザー王との養子縁組とウィレム三世への禅譲を認めている。


 でもな……、それを考えているのはお前だけじゃないんだよ。せめてお前達がもうちょっとまともなら……、俺もゴトーの計画を聞いても止めたかもしれない。でもこうして会ってはっきりわかった。こいつらにこの地は任せられない。


 プロイス王国貴族としても、ブリッシュ・エール王としても、この地をこいつらに任せていては大変なことになる。だから……、俺はもう迷わないことにするよ。


 ホーラント王国とホラント=ナッサム家は自分達の言動に対するツケを払う時が来た。ここからは俺も遠慮はなしだ。ゴトー達の計画に乗ることにさせてもらう。




  ~~~~~~~




 俺とウィレム二世が会って翌日、すぐにウィレム二世戴冠の式典が行なわれた。事前にもうすぐに開けるように準備されていたんだろう。この手際の良さはゴトーによるものだろうな。ウィレム二世はボンボン育ちで馬鹿っぽいしここまで気が回るとは思えない。


 戦時中であることもあって比較的略式ではあったけど、それでも正式に譲位が行なわれ、ウィレム王はウィレム一世として退位し、孫のウィレム二世が王となった。


 俺達がアムスタダムに乗り込んだ時に騒動になってから、ウィレム一世は療養という名目で表舞台から姿を消していたけど、今日見てみればとても老け込んでいた。ゴトー達の拷問が原因じゃないだろう。ここに戻ってきた時はもっと元気だった。明らかにホーラント王国がウィレム一世を弱らせたんだろう。


 ウィレム一世はもうホーラント王国にとって都合が悪い存在だった。援軍を頼みに来たブリッシュ・エール王国に対しても無礼を働きまくってたからな。全ての責任を押し付けて消えてもらうのがホーラント王国にとって都合が良い。


 それからウィレム二世が自分の即位のためにウィレム一世を弱らせ、さっさと譲位させようと考えていたんだろう。だからすぐには死なないけど明らかに弱るようにさせていた。それはウィレム一世の介護などをしていた者達の証言からすでに把握している。


 俺達を見ても最早まともに反応も出来ないくらいになっているウィレム一世は、ウィレム二世への譲位が終わるとよぼよぼと周りの者に介助されながら玉座を下りた。そこへウィレム二世が立ち会場中から盛大な拍手が送られる。


 普通ならこれで式典はお終いだ。若くて才能溢れる新たな王が誕生し、新生ホーラント王国はウィレム二世の下でフラシア王国と戦っていくことになる……、はずだった。でもそうはならない。


「ここで余は大事な発表をしなければならない」


 ザワザワと、新王となったウィレム二世の言葉に参列した貴族や軍人達が騒ぎ出す。一体何事かと思いながらその続きを聞いた者達はひっくり返るような思いだっただろう。


「今よりブリッシュ・エール王国のカーザー王を余の養子とし、この場をもって余は退位しカーザー王、いや!ウィレム三世に譲位することを宣言する!」


「なっ!?」


「どういうことだ?」


「ウィレム二世王は今戴冠されたばかりではないか」


 この話を知らなかった者達はいきなりの話に混乱している。誰でもそうなるだろう。折角新王が即位し、これから新体制でやっていこうと言った瞬間にその王が退位すると言っているんだ。何を言っているのかと思うことだろう。


 それにしてもウィレム二世も中々大したものだ。確かに馬鹿ではあるけど無能ではないのかもしれない。これまで血族を蹴落としてでも王位に就こうとしていた者が、状況が状況とはいえようやく念願の王位に就いたというのに即座にそれを放棄出来るんだ。ただの無能にはそんな大胆な真似は出来ないだろう。


 普通の小物や愚か者ならば権力や王位に固執してゴトーの計画に乗ってこなかっただろう。まぁその場合はゴトーが違う計画を考えていただろうから、そもそもこの計画自体がウィレム二世の性格を読んだゴトーが考えた計画なんだけど……。


 ともかく普通なら折角得られた王位をすぐに捨てるなんて出来ない。でもウィレム二世は王位という名誉よりも実利を選んだ。王位を俺に譲っても実質的には自分がホーラントの実権を握れると思っているからこそではあるにしても、普通なら中々そんな決断は出来ないだろう。


 別に褒めているわけじゃないけど、権力や実利のためなら名誉や称号を簡単に捨てられるというのは大したものだ。ウィレム二世の権力や利益への執着は本物だと言わざるを得ない。


 大混乱の参列者を無視して、式典は次の段階へと進んでいく。ウィレム二世は即位後僅か一時間にも満たないであろう時間で退位し、養子となったカーザー王がウィレム三世として即位することになった。


「これによりホーラント王国とブリッシュ・エール王国は同君連合となった!両国はこれから手を取り合って国難に立ち向かって行こうではないか!」


「「おおっ……」」


「なるほど……」


「ホーラント王国ばんざーい!」


「ブリッシュ・エール王国ばんざーい!」


 やれやれ……。自分が主導権を握りたいからパフォーマンスをしたのか、ただ単に目立ちたがりだからでしゃばっただけなのか……。ウィレム三世がさらに新王として即位したというのに、すでに退位したウィレム二世先王様がわざわざでしゃばって声を上げてくれるとはね。


 多くの貴族、軍人の前で、正式にホーラント王位はカーザー王、ウィレム三世が引き継いだ。これでもう誰も文句を言う権利もケチをつける根拠もない。何しろホラント=ナッサム家が自らすすんで王位を差し出したんだからな。


 ゴトーの計画はこれで終わり……、なわけがない。むしろこれからが始まりだ。こんな汚いことを考えるなんてゴトーもやはりこの時代に生まれ育った王族の一人ということか。俺一人だったら絶対にこんなこと考え付かないわ……。


 普段の俺だったら相手が可哀想すぎてここまで出来ないけど……、ホラント=ナッサム家やウィレム二世が相手なら遠慮する必要はない。これからが始まりだ。ウィレム二世は精々自分の愚かさを悔やむがいい。




  ~~~~~~~




 カーザー王がウィレム三世として即位した翌日、アムスタダムの港には兵士が溢れ返っていた。ブリッシュ・エール王国で遠征のために待機していた兵五千が悠々とヘルマン海を渡ってきたからだ。


 ゴトーが言っていた通り五万五千はすでに遠征準備を終えて待機しているけど、予備兵力もなく五万五千全てをホーラント王国に上陸させる理由はない。フラシア王国がブリッシュ島に攻撃してこないとも限らないし、フラシア王国沿岸への攻撃部隊も残しておきたい。


 ということでとりあえずアムスタダムには五千の兵を輸送してもらった。ゴトー辺りはカーザー王の威光を示すために大軍を送った方が良いと言っていたけど、ラモールやゴトーを交えてそこまで大軍は必要ないと話し合って決めたことだ。俺の独断で五千にしたわけじゃない。


「ほー!これがブリッシュ・エール兵か!」


「こんなに援軍がきてくれるなんて!」


 港で援軍の到着を眺めていた民衆からはかなり好意的な感想が溢れていた。それはそうだろう。南西国境だけじゃなくて、俺達がプロイス側へ奇襲してきていた部隊を追い払うまでは東の国境まで迫られていたんだ。もしあのまま両面を同時に攻撃されていればホーラント王国は今頃なくなっていたかもしれない。


 そんな国家存亡の危機を理解している国民達は今強いリーダーを求めている。その力を示すのに大勢の軍を見せ付けるというゴトーの案は間違いじゃない。ただそこまで多くなくとも十分に効果は得られる。このたった五千の兵ですら今のホーラント国民には救世主の大軍に見えることだろう。


「そろそろ始めようか」


「はっ!全てをカーザー王様のものにするために!」


 ゴトーがニヤリと笑う。こいつは本当に何だか悪者顔が板に付いてきたな……。



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― 新着の感想 ―
[一言] ゴトー、顔の火傷も相まってとても(ry
[一言] 何か壮大なドッキリを見ているかの様だww。 だけど、これはドッキリではなくてマジなんだけどねwww。
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