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第四百六十七話「大カーン同盟!」


 本国……、いや、ブリッシュ・エール王としてはここが本国だから……、本拠地?それも立場によってどこが本拠地か変わるし……、う~ん……。まぁ何でもいいか。急いでカーン騎士爵領に送った命令のお陰ですぐに出動可能な艦隊がコルチズターへとやってきた。その数は僅かに五隻……。


 この五隻は最新鋭艦でありキーン軍港を拠点として訓練を行なっている真っ最中だった。つまりまだ乗組員達もこの船に慣れ切っているわけではなく、訓練中に無理やり中止してこちらへ派遣させた艦隊だ。他に手すきの船をすぐに用意することが出来なかった。


 もちろん訓練中といっても新兵を訓練しているわけではなく、新型艦だからそれに慣れるために乗組員を訓練しているだけだ。だから最低限の基本はわかっている乗組員が大半だろう。そして新型艦とはいってもこれまでの船種そのものが変更になるような大きな違いはない。


 やってきた新型艦による艦隊も全てガレオン船であり、マストの位置や形が変更になったり、これまでの戦訓などから細かな改良が施されているだけだ。ただそういった改良だけでも速度や機動性はかなり改善されている。また各地に向かった探検隊などの経験も踏まえて、より使いやすく、より実戦的な物へと改良が施されたというところだ。


「お~!お嬢……、フロト様!何やら急ぎとか?」


「…………シュバルツ、気をつけろよ」


 シュバルツは優秀な男だけどどうにも口が軽い。責任者にすればその責任から少しは重みや渋みも出るかと思ったけど、カーン家の海軍のトップである海軍大将にしてもまだこの軽さだ。これだけはどうにもならないのかもしれない。


「新型艦はどうだ?」


「ええ、こいつは凄いですよ。速度も旋回能力も桁違いです。それとあの新型砲ですね。あの威力はちょっと相手が可哀想に思うほどですよ」


「ふむ……」


 まぁ言うほど変わってはいないだろうけど、いつも船に乗っている者からすれば違いがはっきりわかるくらいには改良されているのかもしれない。そしてこの新型艦の搭載砲は全てライット・システムの新型砲だ。


 カーン家は現在旧型砲と新型砲を両方使用している。新型砲の製造が間に合わず全てを一度に切り替えるだけの数が揃っていない。当然古いガレオン船にはそのまま旧型のカーン砲が搭載されたままだ。製造出来た分だけ順次乗せ換えているけど、まだまだ全ての船に行き渡るほどはない。


 これから新しく作る新造艦は全て新型砲が搭載される。古い船の分はもしかしたら乗せ換える暇もない可能性もあるだろう。陸の砲兵部隊にも回していかなければならないからどれだけ作っても余るということがない。それにたぶんライット・システムの新型砲もそのうち旧式になるだろうしな……。


 現在俺の手元にある船は最新鋭の新型艦五隻と旧来の主力ガレオン船二隻、そしてコルチズターで接収したホーラント王国海軍の船が一隻……。とてもじゃないけどフラシア王国なんて大国と戦える戦力じゃない。


 ブリッシュ島やその近海はブリッシュ・エール王国が防衛する。沿岸部には警備隊や沿岸砲が設置されており常時警戒に当たることになっているし、沿岸警備レベルの小型快速の船は十分にある。俺の下にあるこの七隻プラス一隻の船はフラシア王国へと攻撃するための艦隊であり、防衛戦力は含めていない。


 ブリッシュ・エールに元々あった小型船はもとより、こちらの造船所でも作れる規模の船は騎士爵領から技術者を連れて来て教えながら作らせていた。ただガレオン船などの大型船を作るためには大型の造船所から作る必要があり、それはまだ間に合っていない。


 こちらで新造した小型船にも旧型砲は搭載されている。基本的には作りも搭載砲も騎士爵領の小型、中型船と同じものだ。それらで大量輸送したり外洋航海に出るのは少し厳しいかもしれないけど、ブリッシュ島の沿岸警備には十分すぎる戦力になってくれるだろう。


 陸上戦力は結構な数がいるけど砲兵部隊と鉄砲部隊はあまりいない。これらもカーン家の部隊の旧型装備のお古がまわってきているだけで最新鋭じゃないし、数も練度もまだ完璧ではない。


 ブリッシュ・エール王国もまだ一枚岩じゃないだろうし、俺に反感を持っている者や他国に情報や技術を流出させる者もいるかもしれないと思って、装備拡充や訓練を後回しにしてきたのが痛い所だ。カーン家の部隊がドライゼ銃とライット・システムの砲に刷新されているのに対して、ブリッシュ軍は精々パーカッション式の銃と旧型カーン砲くらいしか持っていない。


「海軍大将と艦隊司令長官が揃っているが……、どういう分担で行くのだ?」


「あ~、そうですねぇ……。俺は……」


「いや、待たれよシュバルツ大将。私は旧型ガレオン船二隻とホーラント海軍の指揮権をいただこう。この新鋭艦隊とブリッシュ・エール海軍はシュバルツ大将にお任せしたい」


 指揮系統を明確にしようと思って決めようと思ったけど、ラモールはすでに決めていたのか迷うことなくそう答えた。もしホーラント海軍を掌握出来るのなら、ホーラントの内情に詳しく顔見知りもいるであろうラモールに任せるのが適任だろう。それはわかる。でも旧型ガレオン船二隻とホーラント海軍だけでは戦力が低すぎる。


「それでは戦力に差がありすぎるだろう。せめて旧型二隻と新鋭艦五隻を変えてはどうだ?」


「そうですねぇ」


「いえ。この新鋭艦隊はシュバルツ大将がこれまで指揮して訓練されていたのでしょう。それならば私が指揮するよりも慣れておられるシュバルツ大将の方が適任です」


「ふむ……」


 確かにそれは一理ある。ホーラント海軍を任せるのはラモールしかいないし、この新鋭艦隊を指揮するのに適任なのはシュバルツだ。ただラモールの部隊があまりに貧相すぎる。ホーラント海軍がどの程度役に立つかはわからないけど、ゴスラント島での戦闘を考えると大した役に立つとは思えない。


「……よし。ならばラモールはブリッシュ・エールの沿岸警備隊に配備されているキャラベル船五隻も連れていけ」


「はっ!ご配慮痛み入ります!」


 沿岸警備隊のキャラベル船は騎士爵領からブリッシュ・エールの沿岸警備隊に払い下げられたものだ。沿岸警備隊の中核戦力になっていたけどラモールに任せる方が良い。沿岸警備は沿岸砲もあるし、最悪上陸されても陸上部隊がいる。それに小型快速の船なら多数いるから近海なら問題はない。比較的大きな船が必要な沖まで出なければ良いだけだ。


「ゴトー!大陸に遠征可能な部隊の準備はどうなっている?」


「はっ!上陸部隊五万五千、ただちにフラシア王国に遠征可能な準備が整ってございます!」


 …………は?


「五万五千……?」


「申し訳ありません!まだ五万五千しか準備出来ておりません!一月後にはさらに十万の準備が整います!」


 さらに十万……?


 ゴトーは何を言っているんだ?ブリッシュ・エール王国のどこにそんな大兵力がいるというのか。それにその数の兵を賄う兵糧はどうするつもりだ?輸送はまぁ何とかなるとしてもそんな馬鹿げた数を……。


「ブリッシュ・エール王家直属部隊で遠征可能なのはまだ三万のみ。残るは王家に忠誠を誓う貴族がただちに兵を準備すると申し出ております。それから我らがカーザー王様が立つと聞き多数の市民兵が参加を希望しております。また富裕層からの寄付や募金により予算と糧食は確保出来ております!」


「あ~……、いや……、そこまでしては国民生活も滞るだろう……。まずは五万五千の準備を万全にするように……。残りは予備兵力として備えておけ……」


「はっ!何とお優しいことでしょうか……。カーザー王様の国民へのお慈悲!全ての国民にあまねく響き渡るように伝えましょう!」


 この時代に十五万もの兵を動員したら国が傾いてしまうわ!ゴトーは何を考えているんだ。国家存亡の危機というのならともかく、他国の戦争に介入するだけでそんなに動員してしまっては国民の理解を得られないだろう。それに放漫財政になっては国が滅ぶ。


 金や兵の被害はどうにかなったとしても、それだけの労働力を戦場に駆り出すということは来年の収穫や製造関連にも影響を及ぼす。今すぐ直ちに影響がなくとも来年、再来年と重く圧し掛かってくることになるだろう。そういうことも考えて動員しないとあっという間に国が滅ぶぞ……。


「まぁ良い……。それでは陸海軍の準備は整っているな?」


「「「はっ!」」」


「よし……。ではイベリカ半島とイタリカ半島に使者を送れ。我々も出航するぞ!」


「「「はっ!」」」


 イベリカ半島とイタリカ半島……。ちょっと名前は似ているけど別のものだ。イベリカ半島はフラシア王国の南西にあり、メディテレニアンから西大洋への出入り口になっている半島であり、暗黒大陸、アフリカーン大陸から侵攻してきている異教徒との争いで戦乱の地になっている。


 イタリカ半島はフラシア王国南東国境にあり、プロイス王国から見れば南にあるオース公国のさらに南にある半島だ。メディテレニアンの中に突き出すように伸びる半島であり、かつては古代の大帝国の中心地として栄えたらしい。現在では分裂して小国が割拠しており、こちらも大きな勢力には発展していない。


 両方ともそんな状況ではあるけど、だからって何の役にも立たないとか、一切大きな勢力が存在しないということはない。イベリカ半島からフラシア王国に接する国境部分には、イベリカ半島北西部にあるカスティーラ王国と、イベリカ半島北東部にあるアラゴ王国というのが有力らしい。


 イタリカ半島の付け根の北西部、フラシア王国から見て南東の国境に接するイベリカ半島出身国家であるサヴォエ公国もイタリカ半島関連国家の中では有力らしい。何より三国ともフラシア王国の南西、南東部分と国境を接しており、歴史的な背景からも何度も戦争を繰り返している。


 もちろん戦争をしたこともあれば、征服したり、されたり、仲良くなったり、仲違いしたりと常に敵同士というわけじゃない。特にイベリカ半島の諸勢力の出自はフラシア王国の前身となった国の辺境領だった。そういう繋がりや同じ宗教を標榜し、異教徒と戦う観点から協力し合っている部分もある。


 確かに今までほとんど付き合いのなかったプロイス王国貴族である俺や、ブリッシュ・エール王国から使者がいきなり来ても相手にしてもらえないかもしれない。フラシア王国とはこれまで長年国境を接する者同士として接してきた歴史があるだろう。でもこの三カ国を味方につける。


 今回の俺の作戦では別に同盟を組むからといって全員に兵を出せと言うつもりはない。ただ周辺各国全てが敵に回ればさすがのフラシア王国も手を引かざるを得ないだろう。いつ背後から攻められるかもわからないのに、他の国と戦争をしている場合ではないはずだ。


 カスティーラ王国とアゴラ王国にはフラシア王国の南西国境を、サヴォエ公国にはフラシア王国の南東国境を脅かしてもらう。ただそこに敵がいるかもしれないというだけでフラシア王国は国境を無視し得なくなる。実際に侵攻しなくとも敵を引き付けてくれるだけでいい。


 ホーラント王国は……、まぁ……、ちょっと俺がごにょごにょさせてもらう。これは止むを得ない。俺からしようと思ったわけじゃなくて、向こうからちょっかいをかけてきたんだから自業自得だ。


 あとは……、出来ればフラシア王国の方からプロイス王国にちょっかいをかけてくれれば……。


 まぁ今からホーラント王国を攻撃しようとしているのに、わざわざ国境の向こう側にいるプロイス王国に攻撃して敵に回すなんてことはしないと思うけど、向こうから攻撃してくれればプロイス王国として正式に参戦する理由にもなるだろう。今はまだブリッシュ・エール王国としてしか動けない。


 実質カーン家とブリッシュ・エール王家は同じだからもうカーン家は参戦してるも同然なんだけど、世の中には建前というものは必要だ。うちが攻撃を受けたとあれば反撃するのは当然のことだし、プロイス王国に働きかけて参戦させることも出来るだろう。そうなればオース公国も動くかもしれない。


 カーマール同盟にも宣言だけでもいいから同盟に参加してもらって、対フラシア包囲網に参加してもらいたい。兵を出せとは言わないけど周辺各国が全て敵になったとフラシア王国に圧力をかけてくれるだけでいい。


 うん。我ながら悪くない。これなら国境での小競り合いをしている間に各国が宣言を出し、同盟に参加して、フラシア王国も引くしかなくなるだろう。最初はいきなり戦争に巻き込まれることになってどうしようかと思ったけど、何だか明るい未来が見えてきたな!




  ~~~~~~~




 後の世に『大カーン同盟』、そして『大カーン同盟戦争』と呼ばれることになる戦争の火蓋が切って落とされようとしていた。



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― 新着の感想 ―
[一言] 明るい未来(戦乱)
[一言] 最後w 世界史に残るほどに無茶苦茶大事になりそう…
[良い点] ゴトーの頭の中の作戦は、常に《ガンガン行こうぜ!!!》状態で固定されている様だww。 何か、神の軍勢に敗北の2文字は存在しない!とか思ってそうだわwww。 これだから狂信者は厄介だな~…。…
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