表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
460/545

第四百六十話「一体誰が?」


 ブリッシュ・エール王国からの手紙や報告は探検隊からのものだけじゃなかった。ほとんどは探検隊の報告や手紙が中心だったけど、一応他の物にも目を通していく。


「……ん?何だこれ?」


 ゴトーからの報告の中の一つに、ブリッシュ島に許可なく上陸してきた上に、歓待してやったら何を勘違いしたのか、上から目線で偉そうな要求をしてきた馬鹿がいたらしい。何でも『自分の国の属国にしてやる』みたいな要求をしてきたそうで、ゴトー達が相応に可愛がってやったとのことだ。


 …………いや!いやいやいや!これ何かヤバイことになってるんじゃないのか?


 一瞬そのままスルーしそうになったけど、よくよく考えたらこれ物凄い重要なことのような気がする。ゴトーも報告で一文に小さく書いてあるだけだけど、これって普通に国家間の重大案件なんじゃね?


 相手が何者でどういう経緯でそんなことになったのかまるで書いてない。ただそういう馬鹿がやってきたから一蹴してやったという事後報告があるだけだ。でもこれが例えばどこかの国の正式な大使とか使節だったら、下手すれば戦争になるかもしれないような重要なことだと思う。


 相手の素性も相手国も書かれていないし、可愛がってやったって何をしたんだって話だけど、そういうことは一切報告書に書かれていない。都合が悪いから黙っているとかじゃなくて、本当に些細などうでも良いことだと思っているからこの程度の報告で十分だと思っているんだろう。でもそんな簡単な話じゃないぞ……。


 これが逆だったらどう思う?うちの探検隊がどこかで国を発見して、そこに人を派遣する。相手と会って話しをしようと思ったら、相手が上から目線で偉そうに言う上に派遣した者がボコボコにされて戻ってきたら……、普通に戦争になるよな……。


 実際イーズランドやマニ帝国では俺達が逆の立場だったわけで、交流しようと少数の交渉人を送ったら、暴力を受けたり、殺されたりして大変な揉め事になってしまった。今回の件はこれの逆なんじゃないのか?


 まぁ報告書があまりに端的に書いてあるために詳細がわからない。もしかしたら相手が相当高圧的に無茶な要求をしてきたのかもしれない。それでも国家間の交渉で相手が舐めた態度だからボコッてやりました、で済む話じゃないだろう。これはやばいかもしれない。俺も急いでブリッシュ・エール王国に向かうべきか?


 直接出向いて、出来ることならその相手ともちゃんと会って話を聞いた方が良いだろう。まだその相手はブリッシュ島にいるのか?それもわからない。ゴトーはこれを大したことだとは思っていないのかもしれないけど、報告が雑すぎる。


 今母や弟妹の下を離れるのは少し心配だけど、これは俺が急いでブリッシュ・エール王国に向かった方が良いだろう。今すぐ直行で行くというつもりはないけど、近いうちに行く方がいい。


 でも……、ブリッシュ・エール王国に接近してきた相手ってどこの国だ?自分の国の属国にしてやる、というようなことを言っていたというのだからどこかの国の人間が国の代表としてやってきたんだろう。俺達の周りにそんな国ってあったかな?


 ブリッシュ・エールに一番近いのはフラシア王国だろう。ブリッシュ海峡の一番狭い場所から見れば泳いでも渡れないことはないくらいの距離しかない。一番の隣国となれば他にいないけど……、フラシア王国がこんな使節を送ってくるとは思えない。


 ほんの少し前に戦争をして講和したばかりだ。それも実質的にはフラシア王国の負けという形で決着がついている。もちろん大国であるフラシア王国からすれば遠征に出た部隊の一部が負けたという程度の損害だろう。国家の存亡を懸けて総力戦をするのならまだまだ戦えたに違いない。


 それに比べて当時のブリッシュ・エール王国はまだ統一間もない……、どころか統一すらされていない状況だったわけで、あれ以上戦ってもフラシア王国に上陸、占領なんて出来るだけの国力もなかった。まぁ今でもフラシア王国全土を制圧するなんて到底無理だろうけど……。


 ともかくフラシア王国にとっては実質的にしろ一度はブリッシュ・エールに負けたわけであり、その相手に属国にしてやるから跪けなんて使節を送ったりはしないだろう。


 他に人が渡ってくるとしたらスカンディナビスカ半島からだろうか?スカンディナビスカ半島にも国はある。基本的には対岸の半島にあるデル王国がカーマール同盟の盟主としてスカンディナビスカ半島の国々にも影響力を発揮している。でもそれがどの程度の繋がりなのか外部の俺にはよくわからない。


 実質的にデル王国が完全に支配していて他の国には外交権もないのか、それともプロイス王国内で言うところの王家と他の貴族達のような緩い繋がりや上下関係があるだけなのか。もしかしたら単に同盟関係にあるだけでもっと緩い繋がりしかないのかもしれない。俺にはカーマール同盟のシステムはよくわからない。


 ただこれまで発見してきた北方の島々にスカンディナビスカ半島から移住してきた者達が多数いることはわかっている。それにそういう島々に臣従するように言いに来たり、征服しに来た相手がいることもわかっている。それは恐らくデル王国やスカンディナビスカ半島などのカーマール同盟関係者ではないだろうか。


 実際ブリッシュ島でも北部の旧アルバランド王国辺りにはカーマール同盟や、スカンディナビスカ半島から渡ってきた者達もいたようだ。移住するだけじゃなくてアルバランド王国などの国を陰から支援もしていたらしい。自分寄りの国を作ろうとしていたのかもしれない。


 魔族の国、ヤマト皇国を通じてデル王国やカーマール同盟はカーン家に対してはそれなりの扱いをしている。海峡も自由に通れるようになったし戦争を吹っ掛けてくることもないだろう。だけどブリッシュ・エール王国がカーン家の国だと知らなければ、そちらにはちょっかいをかけてくる可能性はある……、か?


 ないとは言い切れないけど何かそれもしっくりこない。そもそもデル海峡を俺達が越えて行ったということは、俺達がブリッシュ島に影響している可能性も考えるはずだ。それならまずはカーン家に何か問い合わせてこないだろうか?


 カーン家がブリッシュ島を制圧しているとまでは思っていなくても、うちの船が頻繁にデル海峡を通っているのだから、何かしらの貿易や交流を持っていると考えるのが普通だ。そんなカーン家の船も巻き込みかねないのに、何も考えずにいきなり高圧的にやってくるだろうか?デル王国がそんな危険を冒すとは思えないけど……。


「それでは……、未知の勢力……、でしょうか……」


 この周辺に他に有力な勢力なんて思い浮かばない。となれば俺達と同じように遠くから遠征や探検にやってきている相手がいるということか?近場だとスカンディナビスカ半島を北に回ってもっと東からやってきた者達か、イベリカ半島方面からやってきた者達か……。


 北は寒くて海も氷で閉ざされるのかもしれない。でも今は暖かい季節だから今なら渡ってくることが出来るルートがあってもおかしくはないだろう。それかイベリカ半島側から北上してきた者達がやってきたのか。俺達だって海の全てを監視しているわけじゃない。イベリカ半島やメディテレニアンの方から船が出てきても全てを察知することは不可能だ。


 北や北西はこちらが探検隊を出して次々に新しい島を発見している。そちらから来た可能性は極めて低い。まだ未発見の島があり、そこに国があるという可能性もあるかもしれないけど……、それにしては今まで交流もなく存在も知られていないのは少し不自然だ。


「私一人で考えていても埒が明きませんね」


 ある程度可能性を考えて対応を検討しておく必要はあるけど、どちらにしろゴトーの報告が少なすぎてこちらでは判断出来ない。これはもう直接出向くしかないだろう。


「カタリーナ!少し予定を変更します」


「はい」


 カタリーナを呼び出した俺はこれからの予定を少し変更することにしたのだった。




  ~~~~~~~




 俺が皆を置いてブリッシュ・エール王国へ行くと言うと物凄く怒られた。でも今回は聞いてあげるわけにはいかない。特にエレオノーレもいるから危険かもしれない場所に連れていくわけにはいかなかった。エレオノーレの相手もあるから他のお嫁さん達にも遠慮してもらったけど、それ以来全員俺と口を聞いてくれない。


「はぁ……」


「随分落ち込んでおられますね」


「イザベラ……」


 お嫁さん達とエレオノーレは俺だけブリッシュ方面に行くと言ってから口もきいてくれない。カタリーナですら俺のお世話をしてくれなくなったくらいだ。そしてヘルムートはクリスタやラインゲン家の面々の世話がある。だから今の俺にはイザベラしかついていない。


 イザベラに不満があるわけじゃないけど何だかとても寂しい。自業自得なんだけどな……。


「イザベラは別邸で待っていてください」


「かしこまりました」


 イザベラをキーン別邸に残して研究所へ向かう。折角ここまで来たんだから通りがけに視察して行こうと思ったわけだ。ある程度急ぎではあるけど、研究所への視察も出来ないほど急いでいるわけでもない。


 アインスに熱烈に歓迎されたけどそれほど時間があるわけでもないので簡単に済ませる。今最優先で開発しているのは蒸気機関の小型化、実用化と、ライット・システムに頼らない後装式の新型砲の開発。そして金属薬莢と弾倉によりある程度素早く連続射撃出来る新型小銃の開発だ。


 アインスは本来ただの研究者というか科学者というか化学者というか……、そういう者だったはずなのに、ここの所は俺の指示で兵器ばかり作っているような気がする。まぁ蒸気機関は兵器じゃないし、それ以外の研究もしているんだけど、やっぱり兵器開発のインパクトが強いのか、そっちばかりのように感じてしまう。


「研究はどうですか?」


「正直に申し上げて行き詰っております……」


「そうですか……」


 実はそれはわかっていたことだ。俺が今作らせようとしている物はどれも同じ問題で躓いている。それは即ち基礎工業力……。


 金属薬莢を大量生産する設備がない。一つ一つ職人の手作りなら出来なくもないだろうけど、そんなことをしていては戦争で使い物にならない。しかも品質にもバラつきが出るだろうし、暴発や破裂、破断の可能性もある。


 後装式の大砲も同じだ。出来るだけ密封出来る構造で、底が抜けないだけの頑丈な作りでなければならない。今の工業力では底が抜けないなんて簡単に作れるものじゃない。その上密閉するというのも難しい。


 蒸気機関も何の働きも得られないミニチュアなら製作はとても簡単だ。俺が実験用に作ってアインスに見せた程度のおもちゃなら簡単に作れる。ただしそこから実用化にもっていくのは簡単な話じゃない。


 もし大きな仕事をさせようと思ったらそれだけパワーが必要だ。じゃあパワーを上げれば良いじゃないかと思うかもしれないけど、蒸気機関でパワーを上げようと思ったら正圧を上げるということになる。簡単に言えば機械にかかる圧力がそれだけ上昇するということだ。


 今の工業力で作れる機械にあまりに高圧をかけすぎたら、機械そのものが圧力に耐えられず爆発することになる。正圧を利用する蒸気機関は大きな力を得るためにはそれだけ丈夫に作らなければならない。


 じゃあガチガチに固めて丈夫に作れば良いじゃないかと思うかもしれないけどそんな簡単な話じゃない。爆発しないように丈夫に作るということはそれだけ重く巨大になる。小型、実用化とハイパワー化はトレードオフの関係だ。


 新技術や新素材、何らかの工夫によって小型化しつつハイパワー化は出来ることもある。でもそれはつまり基礎工業力を高めて圧力に耐えられる構造の機械を作ったり、そういう素材を開発しなければならないということだ。


 今開発中の物は全て技術力、工業力が必要なものばかり。問題点はわかっているけどそれを解決する技術や工業が発達していないのが問題であって、アインス達の閃きや研究があればすぐにどうにかなるという問題じゃない。


「私も何か気付いたことや助言出来ることがあれば言いますので、少しでも気になったことや問題点があればいつでも報告してください」


「はい……。ご期待に副えられず申し訳ありません」


 いつもはうるさいくらいにテンションが高いアインスがしょんぼりしている珍しい姿を見せている。何か言ってやりたい所だけど気の利いた言葉も思い浮かばず、普通に労って研究所を後にした。


 キーンに戻った俺は船に乗ってブリッシュ・エール王国へと向かう。一体今何がどうなっているのか。密偵も送り込んでいるんだけどあまりフラシア王国の情勢はわからないけど、どうやらフラシア王国がホーラント王国に侵攻を開始しているという情報も入っている。


 フラシアとホーラントの戦争に介入する根拠もないし、そもそもプロイス貴族の一人としては王国や王家に無断で関わるわけにもいかない。ホーラント王国は俺が狙っていたのに……、フラシア王国に持っていかれるのを指を咥えて見ているのも癪だけど……、どうしたものか……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 新作連載を開始しています。よければこちらも応援のほどよろしくお願い致します。

イケメン学園のモブに転生したと思ったら男装TS娘だった!

さらに最新作を連載開始しています。百合ラブコメディ作品です。こちらもよろしくお願い致します。

悪役令嬢にTS転生したけど俺だけ百合ゲーをする
― 新着の感想 ―
[一言] その馬鹿ども、多分ホーラントの連中ですよねぇ。 救援を頼みにいって相手を怒らせるとか、お馬鹿にも程がある。 この世界でも独ソに分割されてしまえ!
[気になる点] 他のお嫁さん達が、ワーカホリックなフローラ様に対して、無視で怒りをアピールするのも悪くないけど、専属メイドのカタリーナさんがやったら駄目でしょ…。御側付きなんだから、仕事に私情を挟んだ…
[一言] 何がどうしてそうなったのか……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ