第四百五十九話「双子の弟妹!」
「ああああぁぁぁぁ~~~~っ!ヴィルヘルミナ可愛いねぇ!マティアス可愛いねぇ!う~~ん!可愛い可愛い!可愛すぎます!」
可愛い可愛い妹と弟をツンツンする。まるでお饅頭みたいに丸くてプニプニの顔が柔らかい。
「ふっ、ふぎゃぁっ!ふぎゃぁっ!」
「うぅ……、おぎゃぁっ!おぎゃぁっ!」
「あああぁぁぁっ!どどどど、どうしたらっ!?」
俺がツンツンプニプニとその柔らかいほっぺたを触っていると二人とも泣き出してしまった。どうしたらいいのかわからず慌てる。
「はいはい。お母様ですよ~?」
「おぎゃぁっ!おぁ……」
これは何て魔法なんだろうか?一人が泣き始め、それにつられるようにもう一人も泣き始めたのに、母があやすとあっという間に二人とも泣き止んですぅすぅと寝息を立て始めた。まったくもって意味がわからない。何か眠りに落ちる魔法でも使ったんじゃないかとすら思える。
「ほらほら、フローラちゃんもそんなに慌てていないで、ちゃんと赤ちゃんのあやし方も覚えないとだめよぉ?」
「うぅ……、すみません……」
でも俺には出来そうにない。俺は怖い現実を知っている。現代日本でもよく問題になる子供の虐待死。でも実はあれは親が虐待するつもりもなく無知ゆえに死なせてしまっているケースも多々ある。母親は病院で子供の扱いについて指導され、色々とわかった上で子供の面倒を見ている。でも男親はそうじゃない。
泣いているからとあやすつもりで生後間もない子供を抱き上げて、高い高いをしたり、眠らせようと思って体を簡単に揺らしただけで肋骨を骨折させてしまったり、揺さぶられっ子症候群を起こしてしまうことがある。
結果として子供に障害が残ったり、死んでしまったら、周囲や警察は虐待して殺したと判断する。でもそんなつもりもなく、ただ普通にあやしているつもりでそういう結果を招いてしまうこともあるというわけだ。もちろん実際に虐待して死なせている方が多いのかもしれないけど、結果だけを見て即虐待して死なせたと判断するのは早計と言える。
子育てに慣れている人物やちゃんとそういう教育や指導を受けた者ならそこまで酷いことにはならないだろう。でも俺はまったく自信がない。赤ん坊に接する機会もほとんどなかったし、その扱いについても習ったこともない。しかも今生の俺は馬鹿力だ。ちょっと誤って力を入れすぎただけで赤ん坊の体なんて壊してしまうかもしれない。
前世で聞いた話ではまだ首の据わっていない赤ん坊を高い高いしただけで肋骨が骨折し、揺さぶられっ子症候群で亡くなったという話もあった。俺が赤ん坊を抱き上げようものなら肋骨も背骨もバキバキにしてしまうのではないかと思うと抱くことも出来ない。
ベビーベッドに眠っている子達をツンツンするくらいなら平気だと思うけど、抱き上げたり、おしめを取り替えたり、体を持ち上げるようなことは怖くて出来ない。
「ちょっとフローラちゃんは怖がりすぎじゃないかしら?お母様の方が力が強いのよ?それでもちゃんと今まで三人も育てたわ。ヴィルヘルミナとマティアスもちゃ~んと育てるわよ」
「それは……」
確かに今でも母の方が俺より力が強い。結構近づいてきたかなとは思うけどまだまだその差は歴然だ。でも母は赤ん坊に怪我をさせることなくちゃんと世話をしている。俺が恐れすぎだと言われればその通りなのかもしれないけど、実際怖いんだから仕方がない。
「フローラちゃんも自分の子供を育てる時のためにも、今から少しずつでも慣れておいた方が良いわ」
「はい……」
自分の子供……。育てることはあるんだろうか……。
俺は男と結婚するつもりはない。お嫁さん達とは結婚したいけど、というかもうしているも同然だけど、この中に男を迎え入れる気はさらさらない。もちろん子種だけもらって妊娠するとかそんなのもごめんだ。男に体を触らせるだけでも気持ち悪い。
そんな俺が将来子供を産み、育てることがあるんだろうか?どうやって子供が出来るというのか。何か女性同士で子供を作れる魔法でもあれば良いけど、そんな都合の良い魔法があるとも思えない。
「はぁ……。急に言われてもまだ無理かもしれないわね。それじゃ少しの間二人を見ていてね」
「はい」
二人をベッドに寝かせた母は少し部屋から出て行った。俺は二人を見ながら考える。まぁ俺の将来のことを考えても仕方がない。それよりもこの二人のことを考えてあげよう。
先日母が生んだばかりのこの双子は姉のヴィルヘルミナと弟のマティアスと名付けられた。国や地域によっては後から生まれた方を兄や姉とするという所もあったらしいけど、プロイス王国では単純に生まれた順番に上下が決まるようだ。
まだ生まれたばかりだから比べてもあまり意味はないのかもしれないけど、姉のヴィルヘルミナの方が少し大きい。見てわかるくらいだから赤ん坊にしては結構な差なのかもしれない。
まぁ小さい時に大きい子は早熟で途中で成長が鈍化して最終的にはあまり大きくならないと聞いたことがある。正しいかどうかは知らないけどそういうこともあるだろう。子供の時は小さかったのにある時から急に大きくなった、なんて話はよくある。
逆に子供の時は大柄だったのに、途中で成長が鈍化して最終的にはそれほど大きくならない子というのもよくあるパターンだ。
確か子供の時はあまり肥満にさせない方が良いと聞いた覚えがある。子供の時に肥えて太っていると早熟で、最初の頃は大きく育つけど……、というような話だった。赤ん坊はプニプニ丸々しているけど、あまり太らせないように気をつけた方が良いかもしれない。まぁ俺の子供じゃないんだから両親次第だけど……。
最近我が領では食料生産高が上がって飢えている者はほとんどいない。食生活もある程度は豊かになって、一部では肥満体型の者も増えてきているから、両親には少し注意するように言うだけ言っておこうか。
「あかちゃん!」
「エレオノーレ様」
俺がヴィルヘルミナとマティアスの様子を見ているとエレオノーレがやってきた。エレオノーレも二人が生まれてから頻繁に様子を見に来ている。無茶なことはしないけど声が大きいから折角寝付いた二人が起きて泣き出すことはよくある。
「フローラ、さわってもいい?」
「はい。そ~っとですよ」
「うん!」
ベビーベッドの横まで来たエレオノーレを抱き上げてあげる。柵の上からエレオノーレがつんとヴィルヘルミナの頬に触れた。
「あかちゃん!あかちゃん!」
ツンツンとしながらエレオノーレが上機嫌にヴィルヘルミナに触れる。子供だから加減も知らずに無茶をするかと思う所だけど、エレオノーレはそんな無茶なことはしない。ちゃんと周りの大人達がしているように気をつけて赤ん坊に触れている。ただし……。
「ふっ、ふぎゃぁっ!ふぎゃぁっ!」
「あ゛~っ!おぎゃぁっ!おぎゃぁっ!」
「ああっ!あかちゃん!ないちゃった!」
エレオノーレは声が大きいから驚いたのか、二人とも泣き始めてしまった。こうなったら俺とエレオノーレにはどうしようもない。エレオノーレなら抱き上げられる俺だけど、首も据わっていない赤ん坊を抱き上げる自信はない。エレオノーレも子供のあやし方なんてわかるはずもなく、二人で右往左往するだけだった。
「はぁ……。何をしておられるのですかフローラ様……。代わってください」
「カタリーナ……、お願いします……」
二人の泣き声を聞きつけたカタリーナが助けに来てくれた。俺達だけじゃどうして良いかわからない所だったから助かった。素直にカタリーナに任せた俺とエレオノーレは二人で少し離れた所からカタリーナが赤ん坊をあやしている姿を見詰めていたのだった。
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子供も無事に生まれたし、母も特に体調を崩すことなく健やかに暮らしている。全てが順調すぎて怖いくらいだ。こういう時こそ何か思わぬ落とし穴でもあるんじゃないかと思って逆に心配になってしまう。
「出産関係で溜まっていた仕事でもしますか……」
家で出来る簡単な書類仕事はしていたけど、母の出産が近いこともあって遠出することが出来なかった。あちこち視察したい場所とかがあるんだけどほとんど進んでいない。弟妹が生まれてからはそっちにかまけていたしな。いい加減ちゃんと仕事をしないと後で大変なことになってしまう。
まぁ……、どうしても俺が直接出向かなければならないような仕事と言えば、アインスとアンネリーゼの研究所くらいだろうか。他の仕事はただ俺が自分の目で確認しておきたいというものがほとんどで、どうしても俺が現地に行かなければならないというものは少ない。
そんなこんなで今後の予定を考えながら書類に目を通していると、ブリッシュ・エール王国からの手紙がまた届いていた。中身を確認してみると探検隊による続報だった。
まず順調に進んでいるのが北方探検隊だ。イーズランドでは武力衝突に発展してしまったようだけど、それも現在では鎮圧済みであり、住民達もこれ以上無益な戦闘は望まないということで話し合いが持たれている。
まぁぶっちゃけて言えば、今まで外から来る勢力を武力で追い返せていたから、今回も武力で追い返せるだろうと安易に考えて襲い掛かったら相手が悪かった、というところだろう。探検隊の方も攻撃されたからやむなく反撃し、結果的にはこちらの力を示すことになり住民達は大人しくなった。
俺達は何も無理やり武力で制圧しようとは思っていない。どうしても受け入れられないというのならその地から去ることも伝えてあったはずだ。それでもどうしても各地でこういう衝突は起こってしまう。
もちろん俺達にとって一番都合が良いのは俺達に従って領土に編入されてくれたら一番良い。俺がその地域のトップとなり自由に開発や建設が出来るようになるのなら、港や補給基地を作り今後のさらなる探検に貢献してくれることだろう。
それが無理でも交流を持ち、貿易を行なって港の建設や補給をしてくれるのならこちらとしては助かる。絶対発見した土地を征服してやろうなどという意図はなく、この世界を隈無く探検するための補給路が欲しいだけのことだ。
でも実際に各地に到着してみれば反発されたり、いきなり襲い掛かられたり、探検隊も命懸けであり、攻撃されたら反撃せざるを得ない。そうして一度戦闘状態になってしまえば容易に決着はつかず、いつまでもいがみ合うことになる。マニ帝国とのいざこざは正にこれだ。まだ何の解決もなくお互いににらみ合ったままとなっている。
それに比べてイーズランドは北方探検隊に従う道を選び和解することが出来た。そしてイーズランドからさらに西方に出た探検隊はまた大きな島を見つけたらしい。北方探検隊のエリク隊が発見したその島はグレーンランドと名付けられた。
グレーンランドはかなり氷に覆われた島のようでまだ全貌は明らかとなっていない。夏の間に少しでも島の周囲を確かめるそうだけど、原住民などがいるかどうかはまだ不明だ。出来れば今度こそ争いが起こって欲しくないところだけど……、それはどうなるかわからない。
南方探検隊もバラルソタヴェ諸島でマニ帝国とにらみ合ったままではあるけど、バラルソタヴェ諸島の防衛隊以外はさらに暗黒大陸の探検に進んでいる。
この暗黒大陸という呼び名も呼びにくいということでいい加減新しい呼び名をつけろと言われていた。それでも俺が無視しているととうとう南方探検隊が勝手に名前をつけたらしい。その名も『アフリカーン大陸』……。いや、もうね……。何てセンスなんだって小一時間ほど問い詰めたい。しかも向こうではもう定着しているとのことだった。
ともかくこのアフリカーン大陸の中でもマニ帝国がある西アフリカーンを越えて、さらに進んだ先でついに南端に到達したらしい。とても荒い海の南端を何とか越えることが出来たという報告が上がっている。
アフリカーン大陸の南端を越えてついに東に進み始めた。この先がどうなっているのか……。まぁある程度想像というか、オスマニー帝国やメディテレニアンの沿岸国の話からわかっている部分もあるから、恐らくこうなるであろう予想は出来ている。
将来的に……、ユークレイナの先、ブラック海とカスピン海の間にあるカウカススを越えて南へと出られたら、アフリカーン大陸を回ってきた船と合流出来るんじゃないだろうか?
俺達がいる大陸は古大陸、エウロペ大陸と呼ばれている。エウロペ大陸側から見ればカウカススを越えて南下すればオスマニー帝国の背後に出ることになる。そのまま南の海まで出れば恐らくアフリカーン大陸を回ってきた船と合流出来るだろう。
このオスマニー帝国の背後からは絹や香辛料が貿易品として運ばれてきている。ここを得られれば東方の名産品や物品をうちが押さえることが出来るだろう。別に貿易を独り占めして利益を上げようというわけじゃないけど、人の土地を通ってくる貿易品は不安定になりやすい。
製造方法、生産方法も含めてうちが手に入れれば自領での生産や栽培も可能になるかもしれない。そう思うと夢が膨らむ。
オスマニー帝国の背後に出てしまったらこっちに攻撃が向いてきそうではあるけど……、それはその時考える。どうせ俺達は出た先々で争いになっているんだ。それならもうそういうものだと割り切って、戦争になった場合の対処だけ考えておこう。
戦争にならないために……、なんてこちらがいくら知恵を絞っても意味はない。相手が襲い掛かってくるのなら戦うまでだ。だから味方が死傷しないように、襲われても大丈夫な方法だけ考えておけば良い。戦争にならないために、を一番に考えるのではなく、戦争になった場合にどう対処するか、を一番に考える。それがこの世界で生きていくために必要な知恵だ。
「夢が広がってきましたね」
中途半端な位置にあったプロイス王国が、東方への出入り口を得ようとしている。それに今まで暗黒とされていたアフリカーン大陸の全貌もわかりつつある。北方回りの探検隊は順調に島を発見している。これは……、もうすぐ新大陸も発見されるのではないだろうか。
魔族の国がじゃがいもやトマトを持ち帰っているんだから、どこかにその原産地があるはずだ。そして地球と似たような進化、発展をしているこの世界なら……、他にも俺が欲しい物があるに違いない。
あぁ、早く見つからないかな、新大陸!あれもこれも欲しい物が多すぎて待ち遠しい!




