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第四百五十六話「出産間近!」


 マウリッツとヘレーネの婚約パーティーの二日後、俺達は王都を出発してステッティンへと向かっていた。今回の一団にはお嫁さん達とクンの他にクリスタとその両親、ゲオルク兄、そしてエレオノーレが一緒だった。


 まず……、パーティーが終わってから俺は王様に呼び出されて王城へと登り、エレオノーレを預かって領地へ帰ることになった。エレオノーレを同行させることは前から決まっていたけど、さすがにパーティーでの俺とヘレーネやマウリッツとのことは王様の耳にも入っていたらしい。あまり派手に揉めるなと釘を刺されてしまった。


 そのままエレオノーレを預かってカーザース邸に向かい、クリスタとその両親、ゲオルク兄を拾って王都を出たというわけだ。


 普通なら兄は折角王都に来たんだから集まっている貴族達に顔を売らなければならない。こういう時は集まった貴族達は暫く滞在してお茶会だのパーティーだのを開いて交流する。主催側となって人を呼ぶもよし、色々な会やパーティーに顔を出すもよし。社交界で交流する良い機会となる。


 でも今回はそろそろ母の出産が近い。兄だって年の離れた弟妹の誕生に立ち会いたいだろう。それに俺がパーティー会場でマウリッツとヘレーネに喧嘩を売ったからな。仕返しに何をされるかわからないし、俺達もいなくなるから兄も脱出しておいた方が無難だ。カーザース家の跡継ぎであるゲオルク兄に何かあったら一大事だし。


 同じような理由でクリスタとその両親も連れていくことになった。クリスタの兄で跡を継いでいるエミッヒは残っているのか、領地にいるのか知らないけど、最早実権を持っていないカールとマリアンネには護衛も少ないし、動かせる人もお金も少ない。クリスタだってヘレーネ達に目をつけられてるだろうし、俺達が領地に帰っている間に何かされる可能性もある。


 そんなわけで前の騒動のこともあって皆で王都を脱出することになったというわけだ。そしてヘレーネやマウリッツ側の者達からすれば俺達は不利になって逃げ出したと思うことだろう。いや、もう俺達は不利どころか負けて逃げたと思っているかもしれない。


 カーザース家やそれに近しい者達が負けて王都から逃げ出したと思われるのはとても……、とても……、とても都合が良い!是非そんな勘違いをしてもらいたい。というより積極的にそういう噂を流している。うちの諜報部は優秀だからその程度のことはお茶の子さいさいだ。


 王家に味方し得る辺境伯の一角が中央の権力争いに敗れて自領へと逃げ帰る。実に素晴らしい。それを聞けば風見鶏や日和見をしている貴族達は挙ってアマーリエ達三派に接近するだろう。元々潜伏しているアマーリエ側の者達も堂々と姿を現す可能性が高い。


 もちろん全ての者が出てきたり立場を表明したりはしないだろう。全部の敵が集まったように見えてもまだまだ王様側に潜入している敵はいると思わなければならない。でも少しでも多く敵をはっきりさせて、向こうにつかせて、纏めて始末する。潜入してきている者はまた別で見つけ出して始末すればいいだけのことだ。


 今頃王都では社交界の会やパーティーでどちらにつくべきかお互い腹の探り合いでもしていることだろう。そこでカーザース家は負けて逃げたのだと広まるように手を打っている。兄にとってはとんだ風評被害だろうけどそんなものは些細な問題に過ぎない。


「ふねー!」


「エレオノーレ様、危ないですよ」


 馬車の窓に張り付いているエレオノーレがオデル川を航行している船を見て喜んでいた。もしかして今まで船を見たことがないのだろうか?


「エレオノーレ様は船をご覧になられるのは初めてですか?」


「ん~ん!みたことあるー!でもちっちゃいの!」


「ああ……、川船か何かでしょうか」


 俺はあちこち移動しまくっているけど、普通の貴族はあまり移動はしないものだ。王都との往復はあるだろうけど、それだって必要最小限しかしない。一度王都に出たら何年も滞在したままという貴族もいる。そのための王都の貴族街でもあるわけだしな。


 ましてや王族ともなれば下手な所に出歩くわけにもいかない。護衛も十分にして、計画をきちんと立てて、全ての問題をクリアしないことには自由に出歩けるわけが……、ない……、んだけど……、エレオノーレとマルガレーテは王都とかを割と出歩いてたな。


 まっ、まぁ……、それはともかく、馬車で少し出かけるくらいはあっても、大型船に乗って遠くまで行くなんてエレオノーレの年ではないんだろう。王様達ならうちにも来たことがあるしそういう経験もあるだろうけど、さすがにエレオノーレを遠くに旅させることはなかったはずだ。


 そうなると見たり乗ったりしたことがある船なんて舟遊び用の小船か、精々川を走る小型船くらいしか経験がないだろうということは想像に難くない。今オデル川に見えている船で大きいと思うということは、ステッティンに泊まっているうちの船は物凄く大きいということになるだろう。驚く様子が今から楽しみだ。




  ~~~~~~~




「すごーーーいっ!」


「お気に召していただけましたか?」


「フローラ!すごい!フローラ!」


 ステッティンに停泊しているうちの船を見てエレオノーレのテンションが凄いことになっていた。流石にそこまで喜ぶようなことなのか?と思わずにはいられない。でも初めてうちの船を見れば大人でも驚くしこういう反応も頷ける。


「本当に何度見ても凄く凄いです!」


「クンまで……」


 まだプロイス語とポルスキー語とポーロヴェッツ語?が混ざったしゃべりのクンもはしゃいでいた。その様子はエレオノーレと変わらない。


「うっ……。また酔うのは勘弁してもらいたいが……」


 カールは船を見て前の船酔いを思い出したのかちょっと口元を押さえていた。でも前も最初の頃は問題なさそうだったし、後で船酔いになったのは二日酔いと寝不足がたたったからだろう。ちゃんと体調を万全にしていたらそうそう船酔いもしないはずだ。それより心配なのは奥さんのマリアンネの方だろう。


「今回は寄り道もせずルーベークへ真っ直ぐですから、きちんと休まれて二日酔いなどの体調不良がなければ大丈夫だと思いますよ」


「ああ。そう願うよ」


 そんな話をしながらうちの船に乗り込む。カールにも説明した通り今回はどこにも寄らずステッティンからルーベークまで一直線だ。何故キーンではなくルーベークなのかと言えばこの船がルーベークで積み下ろしを行なうから……、も理由の一つなんだけど、じゃあ何故わざわざルーベークに寄る船を選んだのかと言えば……、俺達もルーベークで乗り換えるからだ。


 いつもの俺はキーンまで船で行く。ハルク海の最後の果て、デル海峡へと向かう最後の港はキーンとなっている。だからデル海峡を抜けてブリッシュ・エール方面へ行く船でもない限りはキーンが終着だ。俺はいつもキーンまで行って陸路に変えてあちこちを視察していく。


 アインスの研究所もキーンの近くだし、キーンには軍港もある。それにキーンからヘクセンナハトの研究所や窯元、フローレンなどを視察していくのは都合が良い。北から順番に見ていけば一回の通過で全て視察に寄っていけるからな。


 でも今回はルーベークで船を乗り換えて川を上る船でカーザーンへと直接向かう。この船はルーベークで積み下ろしを行なった後キーンへ向かうけど俺達はルーベークまででお別れだ。今回はキーンから視察しながら家に帰っている暇はない。母の出産も近いしたくさん人を連れているからまずはカーザーンへ連れて行こうというわけだ。


「ひろーい!これがうみー!」


「エレオノーレ様!危ないですよ!」


 知らない間に船縁まで移動していたエレオノーレを抱き上げる。うっかり海にでも落ちたら大変だ。あとエレオノーレは船酔いは大丈夫だろうか?もし船酔いになったら辛いことになるだろう。大人なら辛くても我慢するだろうけど流石にエレオノーレの年で我慢しろというのは難しい。でも対処法も薬もないからな。酔わないことを期待するしかない。


「それでは出港いたします」


「はい」


 挨拶に来た船長が指示を出し始めると錨が上げられて船が動き始めた。船員達が慌しく動き回る。


「うごいたー!すごーい!」


「エレオノーレ様、船酔いは大丈夫ですか?異常があればすぐにおっしゃってくださいね?」


「だいじょうぶー!」


 こちらの心配を他所に、エレオノーレは特に酔うこともなく元気に海を眺めていたのだった。




  ~~~~~~~




 皆体調も良かったお陰か、俺達の連れは誰も船酔いになることなくルーベークへと無事に到着し、川を上る小型船、いや、中型船?に乗り換えてカーザーンへと帰って来た。


「ようやく帰ってきましたね……」


 今回は元々二ヶ月しかない長期休暇の上に、ヘレーネ達のお陰で一週間ほど無駄な時間を使ってしまっている。王都へ戻るまでに余裕を持って戻るならあと一月半、長くてもそこに三日、四日足せるかどうかというところだろう


 母の出産が近いとは聞いているけど、こんな時代だし予定日がどれほどの精度があるのかわからない。地球ならイレギュラーがない限りは予定日前後になることも多いだろうけど、こちらじゃ経験則的に十月十日とかそういうふんわりした予測である可能性もある。どれだけあてになることやら……。


 俺が居る間に出産を終えてもらいたいし……、あっ!そうか……。試験じゃないんだし始業式に出なくともそれほど問題じゃないだろう。ただの政務のためなら始業式にきちんと出るけど、母の出産がかかっているのなら始業式くらいすっぽかしてもいいじゃないか。


 母の出産が間に合えば良いけど、もし休みの間に出産が終わらなければ学園に向かうのは先延ばしにしよう。医療が不十分なこの世界では万が一の時は俺の中途半端な回復魔法でも多少の足しにはなるだろう。


「ここが大カーン様の生まれた土地ですか」


「フローラのおうちー!」


 カーザーンの船着場に着いた俺達は待機していた馬車に乗ってカーザース邸へと向かった。我が領が初めてなのはクンとエレオノーレだけなので他の皆は驚きもない。


「ラインゲン様はヘルムートの家かロイス家の屋敷に滞在されるのでしょうか?」


「そうだな……。一先ずカーザース卿にご挨拶して……」


「ヘルムートさんのお屋敷で休ませてもらいましょうよ」


「う……、む……」


 カールが何か言いかけていたけどマリアンネが遮ってしまった。マリアンネはヘルムートの家が良いらしい。どこでも奥さんの方が権限が強いのか、カールは言葉を濁しただけで止まってしまった。


「まぁすぐに決められる必要もありませんので、まずは当家でゆっくりなさってください」


 今回避難してきたラインゲン家はいつ戻れるかわからない。俺達のように休暇が終わったから帰ろうと言って帰れる状況じゃないからな。もしかしたら長期間滞在しなければならないかもしれないし、ロイス家の世話になりっぱなしというわけにもいかないだろう。そうなると娘婿のヘルムートの家というのが一番現実的だ。


「フローラ様、到着いたしました」


「はい。それでは降りましょう」


 カタリーナに促されて馬車を降りる。すると……。


「おっ、お母様!?」


 大きすぎるくらいにぽっこりとお腹が膨らんでいる母が俺達を出迎えていた。


「おかえりなさいフローラちゃん。ゲオルクも大変だったわねぇ」


「なっ、何をされておられるのですか!?お体に障ります。早く中へ……」


 いくら日陰とはいえ身重の、もう臨月が近いと思えるような母がこんな場所に出ていたらあまり良くないんじゃないだろうか。


「あら?心配いらないわよ。少しくらいは動いた方がいいんだから。これでもお母様は今まで三人も育ててきたんだから大丈夫よ」


 う~~~ん……?そうなのか?前世も含めて今まで身近な人が出産したことがないからよくわからない。確かに経験で言えば母はそれなりに豊富だろうし、俺が下手に心配しすぎる必要はないのか?


「まぁ!マリア様!本当にもうすぐお子様がお産まれになるのですね!」


 マリアンネが母のお腹を見て驚いていた。そりゃそうだろう。まさかこんな歳で今更……。


「ねぇあなた……、うちももう一人くらい……」


「いや……、その……、なんだ……。人様の前でする話じゃないだろう?」


 うわぁ!うちの母に影響されたのかカールとマリアンネが何だか妙な雰囲気になってしまったぞ!?母はまだ体が丈夫だからこの歳でも……、とも思えるけど、マリアンネがいくつか知らないけど俺より年上の子供がいる年齢で出産は危険すぎると思う。


 夫婦の愛を確かめ合う行為は本人達が望むならすればいいと思うけど、うちの母に触発されて高齢出産するのはやめた方がいい。


「いつまでもお客人を外で立たせておいては失礼だろう。ようこそラインゲン卿」


「ああ、これはカーザース卿、また暫くお世話になります。それと私は息子に継がせているのでもうラインゲン卿ではありませんよ」


 いつまでも外で立ち話をしている俺達を見て父が屋敷の中へと誘った。皆挨拶を済ませてカーザース邸に入ったのは良いけど……、マリアンネさん……、本当に高齢出産は危険だから母の真似はしないでね?



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 新作連載を開始しています。よければこちらも応援のほどよろしくお願い致します。

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さらに最新作を連載開始しています。百合ラブコメディ作品です。こちらもよろしくお願い致します。

悪役令嬢にTS転生したけど俺だけ百合ゲーをする
― 新着の感想 ―
[一言] 母子共に無事出産が終わればいいけど…… 妹かそれとも弟かもしかして……双子?
[一言] フローラ様の目論見通りにアマーリエ陣営が嵌まったら、王国のゴミ掃除もとい粛清が楽に捗るんだけどね。 もうじき、フローラ様に弟or妹ができるのか~…。無事に終われば、フローラ様の英才教育が徐…
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