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第四百五十三話「皆の夜の生活は?」


「水路建設と水運業は順調か?」


「はっ、はいっ!しゅっ、しゅべて順調でしゅ!」


 シャルロッテンブルク宮殿の謁見の間で話を聞いているけど、担当のスタニスワフはガチガチに緊張して噛みまくっていた。まぁ滅多に会う相手じゃないし、今日は謁見の間でフロトの格好と仮面で会ってるから多少畏まられるのは仕方がない。


 スタニスワフはシャルロッテンブルクの隣を流れるハーヴェル川で水運業を営んでいた者だ。かつて俺達がハーヴェル川の視察に訪れた時に、舟遊びとして船に乗せて案内してくれた船乗りといえばわかるだろうか。


 色々と水運業で困っていたらしいスタニスワフはカンザ商会の支援を受ける代わりに、ハーヴェル川の水運関連で色々と手を貸してもらうことになった。元々ハーヴェル川の水運業者の間で顔役だったこともあり、今ではカンザ商会傘下のハーヴェル川水運組合(ギルド)の長を務めてもらっている。


 スタニスワフや水運組合の仕事は何も船で荷物を運ぶことだけじゃない。ハーヴェル川の水路工事にも色々と参加してもらっている。


 特に水路の重要な地点についてや、浅瀬のある場所や注意すべき場所の工事などで、ハーヴェル川に詳しい者達の意見は非常に役に立っている。またハーヴェル川はあちこちにたくさんの湖があり、その湖でも座礁しやすい場所や、湖底に何かあるのならそれらの撤去などにも協力してもらっている。


 将来的にこのハーヴェル川の水路工事が完了したならばハーヴェル川からディエルベ川へと通じる水運も担ってもらうことになる。今はまだ船も小さく、動力も人力か馬や牛に曳かせるだけで、遠くまで大量に物資は運べない。徐々に水路も整備が進んでいるけど完成までにはまだ何年も要するだろう。


 とりあえずうちとしては近場の湖に船着場を作り、それなりに大きな船も運用している。さすがにガレオン船ほど巨大なものは身動きが取れなくなってしまうからあれだけど……。この辺りで運用されてきた船に比べればうちの船は大きなものが多い。


 もちろん用途次第なわけで、大型船があればいいというものでもない。小型船が必要な場合もあるし、小型船の方が有利な場合もある。シャルロッテンブルクの港には様々な船が用意されており、多少の大型船でも湖との行き来なら出来なくはない。


 そういったハーヴェル川の水運に関する仕事を請け負う水運組合とその長であるスタニスワフなんだけど……、こんなにガチガチに緊張していて何だか頼りない。


 一通り報告を受けて指示を出した俺は次の者と面会する。いつまでもスタニスワフだけと話している暇はない。シャルロッテンブルクに進出してきている他の商会との面会やら、胡散臭い詐欺師まがいの奴まで様々な者が俺を訪ねて来る。


 どうやら世間では今このシャルロッテンブルクが相当話題になっているようだ。王都よりも立派で美しい町、なんて呼んでいる者もいるらしい。王都とではまったく規模が違いすぎるから過分な呼び名ではあるけど、自分達が作った町がそう評価されて悪い気はしない。


 まだまだあちこち建設中だし、これから人も増えて活気も増してくる。折角なんだから俺がいる間に出来ることは色々とやっておきたい。




  ~~~~~~~




 王都での用事といえばあとはヘレーネの婚約発表パーティーと学園の終業式くらいであり、あとは仕事をしていればいいだけのはずなんだけど……、ここの所俺はあまり仕事が進んでいなかった。その原因は……。


「フローラ!あそぼー?」


「エレオノーレ様……、今は駄目ですよ……」


 俺の執務室に勝手に入ってきてウルウルとおねだりしてくる幼女があまりに可愛すぎる。チョンチョンとスカートを引っ張って甘えてくるその姿についつい負けていつも遊んでしまっていた。


「フローラ、エレオノーレ様がこちらに来なかったかしら?」


「マルガレーテ……、いますよ……」


 遅れて俺の部屋にやってきたマルガレーテに、机の下に隠れてやり過ごそうとしているエレオノーレを差し出す。


「やーっ!フローラとあそぶのー!」


 机の下から抱き上げてマルガレーテに渡そうとすると暴れ出した。シャルロッテンブルク宮殿には今三人のお客さんが寝泊りしている。二人はもちろんこのエレオノーレとマルガレーテ。そしてもう一人は……。


「聞いてくださいフローラ!ヘルムート様ったらひどいんですよ!」


「クリスタ!フローラ様に言うことではないだろう!」


 続いてバタバタとやってきたのはバカップル……。おしどり夫婦……。ノロケばかり聞かせに来る男女だ。


「クリスタ……、ヘルムート……、もう少し静かにね」


「あっ、マルガレーテ様もおいででしたか……。これは御見苦しいところをお見せしてしまいました」


 室内にマルガレーテとエレオノーレがいることに気付いた二人が頭を下げる。この面子の中で一番立場が低いとすればクリスタだろう。マルガレーテは公爵令嬢であり、侯爵令嬢であるクリスタより立場が上になる。俺は辺境伯令嬢だけど、俺自身が侯爵に叙爵されているから俺は二人よりは立場が上になるだろう。


 もちろんだからって俺がマルガレーテに偉そうに言って、マルガレーテが実家に泣きつけばグライフ公爵家とカーン侯爵家ではあちらの方が立場が上ということになる。それに俺達はもう皆友達なわけで、ちょっとくらい気安いとかそれくらいでいちいち揉めたりはしない。


 しないけど……、皆ドカドカと俺の執務室に入り込みすぎじゃないですかね?これでも俺は仕事をしているわけだし、それなりの機密も扱ってるんですけどね?


「はぁ……」


 一度手を止めて仕事を片付ける。もう何だか仕事が出来る状態じゃなくなってしまった。王様の差し金か、俺がシャルロッテンブルク宮殿に引き下がってから少ししてマルガレーテがエレオノーレを連れてやってきた。そしてクリスタも俺を訪ねてきてそのまま居付くようになった。


 別にそれを悪いとは言わない。クリスタはヘルムートと実質的にはもう夫婦なんだから、夫婦で一緒に暮らすのはある意味当然だろう。折角俺達が王都に戻って来ているのに夫婦で顔も合わせられないのは可哀想すぎる。俺が逆の立場だったら相当主君を恨むだろう。


 というわけでクリスタにここに一緒に住むように言ったのは俺の方だ。クリスタはラインゲン邸に帰ると言っていたけど強引に引き止めたに近い。エレオノーレの方も俺との生活を慣らさせるためだということらしいので、将来のことも考えれば確かにこうして一緒に生活しておくのは悪くない。ただ問題はマルガレーテだ。


 マルガレーテはルートヴィヒのお嫁さんになるわけで、後宮で暮らしておけば良いのに、何故エレオノーレと一緒にこのシャルロッテンブルク宮殿で寝泊りしているのかわからない。一応エレオノーレの保護者という名目になっているけど、カーザース邸にエレオノーレが来た時は置いて帰ったこともあるのに……。


「マルガレーテ……。もしかしてルートヴィヒ王太子殿下とうまくいっていないのですか?」


「えっ!?なっ!?ちっ、ちがっ、違いますよ?全然そんなことないですよ?」


 俺の突っ込みにマルガレーテは物凄く動揺していた。本当に違うのかもしれないけど、こんな慌てようだったらもしかして本当にルートヴィヒとの仲がうまくいってないのかと疑ってしまいそうだ。


「あっ!」


 バチャッ……


 と……、黒いインクがひっくり返ってエレオノーレを汚した。マルガレーテが慌てた際にエレオノーレを放してしまい、机に置いていたインクをエレオノーレがひっくり返したからだ。


「あぁっ!エレオノーレ様!申し訳ありません!すぐにお召し替えを……」


 マルガレーテがひっくり返したわけじゃなくて、エレオノーレが自分でひっくり返したんだけど、マルガレーテの立場ではそうは言えないだろう。


「フローラ様、これはもう全員でお風呂に入りましょう」


「えっ!?何故そうなるのですか?」


 どこから現れたのか、ニュッと現れたカタリーナがそんなことを言い出した。そして……、一度そうなったら俺の力で結果を覆すことは出来ない……。




  ~~~~~~~




「あわあわ~~~っ!」


「エレオノーレ様!石鹸は滑るので危ないですよ!」


 結局カタリーナの提案通り皆でお風呂に入ることになってしまった。皆でって言ってももちろんヘルムートは入っていない。ヘルムートにこんな中で一緒にお風呂に入るなんていう良い目を見せてやるわけがないだろう。


「ですが……、本当に良いのでしょうか……。マルガレーテもクリスタも今や人妻も同然……。そのような方の裸を見てしまうなど……」


「もう何度も一緒に入っているではありませんか」


 俺の言葉にマルガレーテが不思議そうな顔をしている。それはそうなんだけど、でもやっぱりはいそうですかとはならない。マルガレーテやクリスタの裸を見てしまうなんて……、何だかとてもいけないことをしている気がしてしまう。


「フローラ……、知らない間にまた育ってませんか?これ」


「ひゃっ!」


 クリスタにツンとたわわに実ったメロンをつつかれて驚いて変な声を上げてしまった。一緒に入っているお嫁さん達がジロリとこちらを睨んでいる気がする。


「そういうクリスタも育っていませんか?やはり旦那様に愛していただいているからでしょうか?」


「ちょっ!マルガレーテ様っ!いっ、いけませんっ!あっ!」


 俺のメロンをつついていたクリスタは後ろからマルガレーテに鷲掴みにされて艶っぽい声を上げていた。もし俺の股の間に第三の足、ぞうさんが居たならばそれだけでパオーンしてしまっていただろう。今は同性である俺でもその艶姿を見て生唾を飲み込んでしまっている。


 クリスタったらいつの間にかこんなに色っぽくなってしまってまぁ……。やっぱりマルガレーテが言うように旦那に可愛がられているからか?俺の神聖なる宮殿でそんなことに精を出しているとは許せん!後で文句を言ってやる!


「そっ、そういうマルガレーテ様はどうなのですか?」


「…………」


「あっ……」


 何か……、重たい沈黙が訪れてしまった。クリスタは明確に否定しなかったし、違うと言うんじゃなくてマルガレーテはどうなんだと言った。だからクリスタは実際そういうことをしているんだろう。もう俺よりも先に大人の階段を上ってしまっているんだ。


 それはともかく……、マルガレーテの沈黙が怖いというか痛いというか……。もしかして本当にマルガレーテとルートヴィヒはうまくいっていないのだろうか?


 そりゃ本当にうまくいってる夫婦なら嫁さんだけ他人の家に何日も泊まるなんてするはずないわな……。まだ本当には結婚していないし夫婦でもないんだけど……、もうすでに夫婦仲が冷めてしまっているのだとすれば相当ヤバイということになる。


「まさか本当に……」


「あっ!いえ!違いますよ?これといって何か問題があるというわけではないのです!ただ……」


「「ただ?」」


 もし王太子とその花嫁候補がうまくいっていないのだとすれば国の一大事でもある。でもマルガレーテが言うにはそうじゃないらしい。でも何か問題はあるようだ。クリスタと二人で耳を近づけていると……。


「ルートヴィヒ様はとても私を大切にして下さっています」


「「……」」


 クリスタと顔を見合わせる。ノロケかよと思いかけたけどまだ続きがあった。


「ですが、その……、大切にするあまり……、口付けより先はまだ……」


「ええぇぇぇっ!」


「……」


 クリスタは相当驚いたらしい。ということはやっぱりクリスタはヘルムートともっと進んでいるということだろう。いや、二人はもう結婚の約束もしているし俺が口を出すことじゃないんだけど……。同級生の友達がもう大人になっていると聞かされるとこう……、何というか……。


「もうお二人のことが正式に決まってからかなり経ちますよね?それなのにまだ?」


「……はい」


 う~ん……。あまり聞きたくない話題だなぁ……。昔から知っているルートヴィヒの夜の生活についてや、同級生のお友達であるクリスタのそういう行為について聞かされると色々とショックだ。


「ルートヴィヒ殿下ってもしかして玉無しなんじゃ……」


「「ぇっ?」」


「あっ……」


 クリスタの発言に俺とマルガレーテは目が点になった。


「あははっ!えっと……、とっ、とにかく!いくら奥手だと言っても限度というものがあります!私達でどうにかしましょう!」


 えぇ……。何かクリスタが自分の失言を誤魔化すために適当なことを言い出したようにしか思えないけど……。まぁ俺には関係ないかと思いながらクリスタとマルガレーテの話を聞いていたのだった。



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 新作連載を開始しています。よければこちらも応援のほどよろしくお願い致します。

イケメン学園のモブに転生したと思ったら男装TS娘だった!

さらに最新作を連載開始しています。百合ラブコメディ作品です。こちらもよろしくお願い致します。

悪役令嬢にTS転生したけど俺だけ百合ゲーをする
― 新着の感想 ―
[一言] クリスタが地味に毒舌を(゜ω゜)
[一言] クリスタが、気のせいかマダム的?な風格を感じるぞ…。婚姻関係が順風満帆で、大人の階段を上り過ぎた為かな…。 ルートヴィヒが、マルガレーテとの関係を進展させずにヘタレてる原因は、たぶんフロー…
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