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第四百四十六話「あっちもこっちも武力衝突!」


 旧ポルスキー領側に入ってからクンの態度が明らかに変わった。それまでは無表情というか、見方によっては不機嫌とすら言える顔をずっとしていたのに、今では通る町が近づく度に窓ガラスに顔を貼り付けて外を眺めている。その顔はまるで遊園地を見て喜んでいる子供がその表情を必死に我慢しているかのようだった。


 ポーロヴェッツの人々はこちらの国々の人に比べて少し小柄だ。だから外見や身長だけで単純に年齢はわからない。顔立ちも異なるから見た目で何歳というのも分かり辛い。


 プロイス王国などが地球で言う所の西洋人、欧米人のようだとすれば、ポーロヴェッツはややモンゴル系のような顔が混ざっている。完全にモンゴル系ということもなく、アラブ人やスラブ人やモンゴロイドが混ざったような雰囲気がある。


 元日本人である俺には多少親しみがある顔立ちだけど、でもやっぱり東洋人というか日本人とも顔立ちが異なり、パッと見ただけで何歳くらいとか、彼らにとって美人なのか、不細工なのかもよくわからない。俺からするとクンは愛嬌のある顔立ちだとは思う。


 俺の予想ではクンは十代前半か、よくてせいぜい十代中頃かというところだろうか。俺達より少し年下かなという印象だ。プロイス王国ではあまりモテないかもしれないけど、元日本人である俺は別にクンの顔立ちに嫌悪感などはない。むしろやや懐かしい感じもするくらいだ。


 俺達とそう変わらない年齢、やや年下くらいだと思うからあまり子供扱いはしない方が良いんだろう。俺達だって十代にもなってくれば大人同然に扱われる。成人はしていなくとも、このような時代や世界では自立は早い。地球の感覚ではまだ子供だと思っている子でもこちらの世界ではもう立派な大人扱いを受けるものだ。


 だから恐らくクンもポーロヴェッツでは十分それなりの年齢なのだと思う。でなければユーリーがいくら自分の娘とはいえ、俺の帰国に同行させるとは思えない。あまり子供扱いしてはよくないというのはわかってるんだけど……、こういう姿を見ているとついつい子供だと思ってしまうんだよなぁ……。


「町を見るのは楽しいか?」


「はいっ!あっ……、いえ……」


 俺の言葉につい無意識に答えてしまい、慌てて顔を引っ込めて俯いた。やっぱり中身はまだ子供だけど、色々と我慢しているというところだろう。子供は子供らしく!なんて言える世界じゃなくて、この世界では人間は皆早く自立しなければならない。


 地球だってほんの百年前くらい、いや、もっと最近までそうだった。今の社会が満たされすぎて、安全すぎて、甘やかしすぎになってしまっただけだろう。体だけ大人になって頭は大人になれていない人間があまりに増えすぎた。厳しければ良いというものでもないけど、甘ければ良いというわけでもないという答えはもう明らかに出ている。


「何も遠慮することはないぞ。知らないということは恥ではない。知ろうとしないことや、知ってもそれを認めないことが恥なのだ。興味を持ち、それを知り、理解しようとすることは素晴らしい。クンがこの外の景色に興味があるのならば、それを隠すことの方が悪いことだ。知りたいと思えば何でも聞けば良い」


「はぃ……」


 お?ちょっとだけクンが赤くなって俯いた。とても可愛らしい仕草だ。最初に見た時はもっと硬い子かと思ったけどやっぱり無理をしていただけなんだろう。これくらいの子供が外に興味がないはずがない。新しい刺激を受けたらすぐに順応してしまうような年頃だ。


「フロト?何かクンとの雰囲気が怪しいんだけど?あんたまさかこんな幼い子を手篭めにしようとしてるんじゃないでしょうね?」


「なっ!?ミコト……、私がそんなことをするはずないでしょう?」


 折角俺がクンに良いことを言ったのに、言葉のわからないミコトが頬を膨らませてジロリと睨んできた。ポルスキー語が分かる者が聞いたら俺は別にクンに変なことは言っていないとわかるはずだ。それどころか俺はかなり良いことを言ったと思うぞ。それなのにこの扱いは何なのか。


「まぁ女殺しのフロト様ですから……」


「カタリーナまでっ!?」


 女殺しって何だよ!?俺は何もしてないよ!?俺は無実だ!これは言いがかりだ!陰謀だ!


「フロトは自分が女の子を落としてる自覚もなしに、極自然に、当たり前のように女の子を虜にしちゃうからね。僕もその秘訣を教わりたいくらいだよ」


「貴族たるものお家のためにあちこちと繋がりを持つことはわかります。ですがあまり子供を増やしすぎて後継者争いが起こればお家が潰れてしまうことが多々あります。節度は弁えてくださいね」


「クラウディアもアレクサンドラもひどぅいっ!?」


 二人とも言ってることが滅茶苦茶だ。俺がこんないたいけな少女に何かするとでも思っているんだろうか。しかも子供を作りすぎたらって、俺は女だし、お嫁さん達も皆女だし、跡継ぎが増えすぎて困るよりいなくて困るんじゃないのか?


 あっ……。そう言えば本当にそれはまずいな……。これだけ広大な領地や爵位や王位を持っている俺が、跡継ぎも作らず死んだら……、絶対各地が割れて大荒れになるよな……。後継者については何か考える必要がある。これだけ魔法がある世界なんだから女の子同士でも子供が出来る魔法でもあれば良いのにな……。


 ……いや、ないよね?……ないだろ?まさかそんな魔法があるはずが……。


「フロト、お妾さんを増やすのは良いけど、お妾さんの子供でもちゃんと認知してあげなくちゃ駄目だよ?でもあまり子供が増えすぎたらアレクサンドラが言うようになっちゃうし……、加減が難しいね」


「ルイーザまで!?」


 俺はお嫁さん達に一体何だと思われているというのか。俺は今までお嫁さん達以外に手を出したこともないし、これ以上お嫁さんを増やす予定もない。まぁエレオノーレは将来娶ることになりそうだけど、それも含めてもうこの六人より増やすつもりはない。エレオノーレだって俺の意思じゃないし……。


 しかも何度も言う通り、俺は女なんだから女の子を相手にして子供なんて出来るはずがない。むしろ出来るのならどれほどよかったことか。


「冗談よ、冗談」


「うぅ……」


 本当に冗談なのか?何か皆かなり本気っぽかったけど……。


 そしてミコトにポンポンと頭を撫でられて慰められている俺を、恐らく言葉がわからずに何があったのかわかっていないクンがポカンとした表情で見ていたのだった。




  ~~~~~~~




 旧ポルスキー王都、ワールスザワに到着した俺達は旧王城で休むことにした。旧王都だけあってポルスキー領内では恐らく一番栄えている町だ。ここも王城だっただけあって、まぁそれなりに悪くない。俺達にとっては建物の豪華さや広さよりも、設備の方が重要なんだけど……。


 いくら見た目だけ取り繕った豪華な建物でも、俺達からすればそれほど大したものでもないし、何より水洗便所もお風呂も上下水もないのではとても辛い。こんなことなら各地にあるカンザ商会の施設の方がまだ設備は整っている。


「これが……、大カーンの住まう地ですか……」


 クンは完全にポカンとした顔で王城を見上げていた。確かに今まで旅してきた中ではワールスザワは一番の都会だろう。王城も一番立派な建物かもしれない。でも俺はワールスザワに来たのはこれでまだ二回目だ。


「ここは私が征服した旧ポルスキー王国の王都と王城だ。私自身はまだここに訪れたのは二回目だ」


「これほどの町を……、征服……」


 クンの表情は面白いなぁ。本当に漫画とかアニメの『ポカーン』という擬音がつきそうな表情をずっと浮かべている。最初はもっとクール系の子かと思ってたけどそんなことはなかったようだ。


 やっぱり父親に言われたとはいえ、こんな小さな女の子が一人でわけのわからない者達に連れられて遠くへ行くのは不安だったんだろう。だから表情が硬かったけど、徐々に年相応の好奇心の方が勝つようになってきたと言う所だろうか。


「町の見学でもさせてやりたい所だが今回は時間がない。我が領へ戻るまでは我慢してもらおう。代わりに我が領はじっくり案内させるのでそちらを見てもらいたい」


「はい。ありがとうございます」


 お?素直に頭を下げた。表情も心なしか柔らかくなってきた気がするし、少しは気を許してくれるようになったと思って良いのだろうか?




  ~~~~~~~




 この辺りの街道もしっかり繋がっている所まで来ると仕事の書類なども多く届くようになってきた。さすがにモンスターが跋扈する回廊を通る補給部隊に、大して急ぎでもない書類を運べとは言えない。それに場合によっては紛失する恐れもある。急ぎのものや俺の判断を要するものは送ってきてもらっていたけどそれは最低限のものだけだ。


 旧ポルスキーに入ってからは今まで溜まっていた書類が山のように送られてくるようになった。しかも仕事を分散させていた皆がクイップチャック方面に出たままだから俺が処理しなければならない。何か今までで一番仕事が溜まってる気がする。


 そりゃ一ヶ月も二ヶ月も仕事から離れて、しかも主要な面子が皆出払ってるんだからなぁ……。仕事が山積みになっても当然だよね!


 うひゃーーーっ!仕事が山積みだぁぁぁぁーーーーっ!終わらねぇーーーっ!減らねぇーーーっ!あああぁぁーーー!テンション上がるぅーーーっ!


「何をしておられるのですかフロト様……」


「…………」


「……」


 俺が書類を片付けているとカタリーナに変なものを見る目で見られていた。仕事をしているだけなのに何故そんな目で見られなければならないのか。それなら世の中の役人は全て不審者なのだろうか?


「フロト様がご自覚なされていないだけです。先ほどのフロト様を見たならば誰もが不審者だと判断します」


 そして勝手に俺の心と会話をしないで欲しい。俺は口に出していないのに何故的確に俺の心の中の言葉に答えてくるというのか。


「フロト様は大変分かりやすいお方ですので……」


「それってどういう意味ですかっ!?」


 何?俺が分かりやすいってどういう意味?単純って意味?アホの子って意味?


「ケーニグスベルクより届いた書類です」


 あっ、逃げた……。カタリーナは俺の言葉……、まぁ口では言ってないんだけど、には答えずに持ってきていた書類を机の上に置いた。また仕事が増えたと思いつつ、上に置かれている物は重要なものだろうと思って見てみれば……。


「手紙?」


 ただの決裁の書類とかばかりかと思ったら一番上に手紙が置かれていた。送り元はブリッシュ・エール王国。そして一番上に置かれているということは重要なものということだろう。封を切ってその中身を確認する。


「えっ!?戦争っ!?」


 ブリッシュ・エールを任せているゴトーと、北方、南方探検隊からの報告書と手紙……。その内容に目を通して驚く。どうやら北でも南でも争いがあったらしい。


 まず北方探検隊の方は、予定通り暖かくなってきたからファロエ諸島のさらに北東にあるイーズランドに向かったらしい。島はすぐに見つかり、言葉も通じやすいことから何とか接触には成功。だけどイーズランドはカーン家に服従することを良しとせず……、実力で北方探検隊を排除しようと襲い掛かってきた……。


 止むを得ず交戦した北方探検隊はあっという間にイーズランドの襲撃者達を撃退……。でもこれで終わらずにイーズランドの反抗はイーズランド全土に燃え広がりあっという間に現地住民達との対立に発展。この手紙を出している報告の時点ではその対応として武力侵攻を開始した所で終わっている。


「――はぁ~~~~っ!」


 盛大に溜息を吐く。だからあれほど現地民との接触には細心の注意を払えと言っておいたのに……。この手紙や報告を読む限りではどちらがどう悪いとも判断出来ない。もしかしたら最初から武力侵攻してやろうと思って探検隊側が脅したのか、住民側が問答無用だったのか……。


 何にしろイーズランドでは戦火が広がってしまった。援軍要請はきていないようだから優勢に進めてるんだろうけど、それにしても現地勢力と戦争を開始するとは……。こいつらどんだけ血の気が盛んなんだよ……。


 そして……、南方探検隊……、こっちも地元勢力と武力衝突に発展したらしい……。バラルソタヴェ諸島には漁師のような者達が定期的に上陸してそうな痕跡があるという報告は前にあった。そこでバラルソタヴェ諸島の東側の暗黒大陸を調べた所、川があり、緑があり、現地勢力がいるようだという所までは聞いている。


 南方探検隊も現地勢力と接触する時は慎重にと注意しておいたはずだけど……、案の定現地勢力と接触して揉めて武力衝突に発展したようだ。


 バラルソタヴェ諸島の東側の大陸にはマニ帝国という現地勢力の帝国があるらしい。暗黒大陸西側にあるこのマニ帝国はこの西部地域ではかなり有力な帝国のようだ。


 現地人と接触を試みた南方探検隊だけど、こちらを見た現地人は問答無用で南方探検隊に襲い掛かってきたらしい。ただ交渉しようと近づいただけの隊員が数名殺され、止むを得ず交戦。その場では兵器の差もある探検隊が圧勝したようだけど、現地民が撃退されたことで現地民の探検隊への感情がかなり悪化してしまったらしい。


 もしこの報告に嘘がないのなら、自分達から襲い掛かってきておいて、撃退されたり被害が出たからって逆恨みしているようにしか思えない。もちろんこの報告が絶対正しいとは限らない。探検隊が自分達に都合の悪い情報を隠して報告して来ている可能性もある。でもこれを聞いた限りではまともに交渉出来る相手とは思えない。


 現在南方探検隊はバラルソタヴェ諸島に下がり、下手にマニ帝国を刺激しないようにしているそうだけど、向こうに被害が出たということでマニ帝国は探検隊にかなり強く抗議というか……、まぁ早い話が降伏しないと皆殺しにしてやる!くらいのことを言って来ているらしい。


 一応一部メディテレニアン沿岸の者達とも交流があるようで、メディテレニアン周辺で使われている言葉を介してやり取りしているそうだけど、どちらも言葉が完全ではないので中々うまくいっていないらしい。俺達もポーロヴェッツとの交流に失敗したしやっぱり言葉というのは重要だ。


 探検隊の方もいきなり襲い掛かってきて、隊員に死者まで出されていることに相当怒りと不満が溜まっているそうで、マニ帝国を滅ぼしてやれという探検隊員もいるらしい。戦争に勝てるかどうかはともかく、こうあっちもこっちも争いだらけというのは非常にまずい……。


 探検に出て現地勢力と接触したらこうなることはある程度予想はしていたけど……、それにしてもまさかここまで相手が話も聞いてくれないとは……。俺が直接行ったからって何か変わるものでもないだろうけど、出来ることなら俺が今すぐ現地に行って話をしたい気分だ……。



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― 新着の感想 ―
[良い点] クンが快適生活に堕ちるのも遠くなさそう [一言] これで隊員が捕虜にでもなろうものなら大戦争(短期決戦)に発展しそう
[良い点] フローラ様 「うひゃー!仕事が山積みだぁー!ーーテンション上がるぅー!!」 もう完全にワーカホリックだわww。依存レベルだよ、これwww。 [一言] そりゃ、せっかく何事もなく穏やかに暮…
[一言]  >もしこの報告に嘘がないのなら、自分達から襲い掛かってきておいて、撃退されたり被害が出たからって逆恨みしているようにしか思えない。 国境線を当事国の許可なしに越えましたから攻撃されるのは…
2020/08/21 21:41 通りすがりの人
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