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第四百三十七話「クイップチャック草原侵攻作戦!」


 ユーリーの案内で村を出て東へと向かう。ほとんどブラック海沿岸に進んでいるけど、川を越えるためには少々北東方向へ入らなければならないようだ。


 ユーリーが言うには次の部族は好戦的であまり話を聞いてくれない相手らしい。話し合いでどうにか決着をつけたい。俺達だって別に戦争をしたくて来たわけじゃなくて、出来ることなら手を携えて協力していきたい。ただそう言われて自分達の土地に余所者が入ってきた時に、黙って受け入れてくれる先住民はそうそういないだろう。


 ほとんどの歴史では先住民と後からの入植者の間で争いが起こり、土地の奪い合いが行なわれている。戦争の原因なんて古今東西ほとんどそれだろう。遊牧民である彼らが国家や領地という概念を持たないとしても、いや、だからこそ縄張りという意識はより強いかもしれない。


 ともかくユーリーがうまく交渉してくれたら余計な争いは回避出来る……。そう思っていたけど……。


「どうやら使者が殺されて送り返されてきたようですぞ」


「…………」


 少し騒がしいユーリー達の言葉は俺にはわからない。それをジャンジカがこっそり耳打ちしてくれた。どうやら交渉に送った使者が殺されて送り返されたらしい。


 ユーリーからも同様の報告が訛ったポルスキー語でされたから嘘はついていないようだ。彼らにとっては交渉が失敗したら使者はよく殺されるものだと言っていた。でも……、腹立たしい。交渉のための使者を殺して送り返してくるなど、現代地球人としてだけじゃなく、この時代のフローラとしても許し難いことだ。


 それが彼らの風習だというのなら俺がとやかく言うのはお門違いだろう。それでも自分が関わったことでそういう結果となったのなら、俺だって当事者の一人なわけで、それが彼らの風習だからと笑ってなんていられない。湧き上がる怒りを抑えてこれからの動きを話し合う。


「ユーリー達の話からすると敵はすぐにこちらに向かってくるだろう。どうやら相手のグザの部族とやらは丁度この先に展開しているらしい。恐らく敵は攻撃部隊だけをこちらに差し向け、女子供など部族は東にあるという川の方へ逃がすだろう。敵を降伏させるために女子供も捕える必要がある」


「ならば私が東へ向かいましょう」


 ジャンジカがすぐに手を上げた。ジャンジカなら多少は向こうの言葉もわかるようだし、個人の武勇も申し分ない。まぁ予想通りだとすれば逃がす女子供の方には最低限の護衛くらいしかいないだろう。機動力を重視して少数精鋭を送る方が良い。


「わかった。ならばジャンジカはただちに部隊を連れて東へ向かえ。わかっていると思うがなるべく殺すな。出来るだけ遺恨を残さないように捕まえろ」


「はっ!」


 俺がそう言うと全てを理解したらしいジャンジカが出て行った。敵が向かってくる前に攻撃部隊を迂回して先回りする必要がある。グザの部族の大まかな人数は聞いているから捕えるのに必要な人員もわかるだろう。向こうは任せるとしてこちらはこちらで対応しなければならない。


「我々はここで敵を迎え撃つ。砲兵と鉄砲隊の準備を急がせろ。馬防柵は必要ない。どうせ突撃してこないからな。竜騎兵は後方で待機。味方の射撃が終わったら逃げる敵を追撃してもらう。時間との勝負だ。各自急ぎ取りかかれ」


「「「ははっ!」」」


 皆が準備に取り掛かる。本当は俺もあれこれ動きたい所だけど、ユーリーという他部族の協力者もいる所で総大将である俺が動いていたら右往左往していると思われかねない。ここは皆を信じてどっしりと構えておこう。


 そう思っているとあっという間に準備が完了してしまった……。敵は一向に姿を現さない。本当に仕掛けてくるのだろうか?これで敵がこちらを攻撃してこず、すでに逃げ出していましたとかだったら笑えないな。まぁその場合は別働隊のジャンジカ達の方から連絡があるだろう。


 そんなことを思って待っていると随分してからようやく敵が接近してきたという知らせが入った。機動力が売りと言っていた割には思ったよりも到着が遅い。馬の機動力が低いというわけじゃないけど、行動が遅いのは機動力や即応力的にどうなんだと思わなくもない。


 俺達が待ち構えているとユーリーが何か進言してきていたけど、大丈夫だから見ていろと言っておいた。少なくとも砲兵と鉄砲隊が待ち構えているここに敵が接近してくることはない。


 十分引き付けた上で敵の射程外から先制攻撃を浴びせる。ライフリングされたことでドライゼ銃の命中精度と射程は劇的に伸びている。敵の弓がほとんど届かない距離から一方的に撃てるのは圧倒的アドバンテージだ。そしてライットシステムによって椎の実型の砲弾が使えるようになった大砲の効果はさらに劇的だった。


 椎の実弾を使用して回転を加えることで信管が使えるようになった。そのお陰で榴弾や榴散弾が使える。人や馬のような軟目標を攻撃するには面で制圧出来るこれらの弾が圧倒的に高い威力を発揮する。


 目の前で見ていても新兵器の性能は申し分ない。問題点があるとすればライットシステムは前装式の上に回しながら弾込めをしなければならない。その分装填速度が遅く連射が利かない。それでも十分な威力だけど、やっぱり現代兵器を知っている俺からすると物足りない。どうにか強度と構造を工夫して後装式を開発しなければ……。


 ある程度敵を蹴散らしたら逃げ出し始めた。追撃に砲兵、鉄砲隊の後ろで待機させていた竜騎兵を突撃させる。竜騎兵が出撃してから暫くして遠くの方で銃声が鳴り響いていた。どうやら順調に成果を挙げているらしい。あとは敵を捕まえてくるだけだ。


 勝敗の決した戦場を眺めながら俺はどうしてこのグザの部族と戦うことになったんだっけ、と首を捻っていたのだった。




  ~~~~~~~




 ジャンジカも無事に戻り、予想通りに敵が逃がそうとしていた女子供を捕まえてきた。これで敵は降伏するしかないだろう。人質を取って降伏させるなんて何か俺が悪役みたいだけど、ただ交流を持とうと使者を送っただけなのに、いきなり使者を殺して攻撃してくるような相手だし仕方がない。


 ユーリーが何か彼らの言葉でグザという向こうの族長と話している。ジャンジカに確認させているけど特に問題があるような会話はしていないようだ。こちらが言葉がわからないと思って、向こう同士の会話で変なことを言っている可能性もあるからな。


 どうやらグザの部族は俺達に降伏することを決めたようだ。ジャンジカも頷いていたから間違いない。とりあえずこんな場所に居ても仕方がないから、グザの部族が家を建てていた場所まで移動する。


 暫く東へ進むと大きな川に出た。この川はボフ川と言うらしい。この川を越えるために少々上流に行ってから川を渡る。下流はブラック海へと流れ出ている所の川幅がかなりある。上流の細い所には彼らが渡るための場所があったからそこから渡った。


「この川はどこまで続いている?」


「北西方向にポルスキー方面です」


 ユーリーのちょっと拙いポルスキー語に苦労しながら何とか地図を整理していく。グザの部族の者も集めてこの辺りの地理を聞いて纏めた。


 このボフ川から直接ウマニには続いていないようだけど、他の川なども利用すればかなり良い場所まで行けそうだ。何より旧ポルスキー王国方面に向けて伸びている。ここに町を築いて、水運を利用すれば物資や兵員の移動が楽になるかもしれない。


 最初はユーリー達の村に行くためにわざわざウマニから南下したけど、ここから東進するだけならボフ川を利用しない手はない。それにこのボフ川は一種の湾として利用出来る。ブラック海の内湾としてここに造船の町を作れば相当有利だろう。


 ブラック海の敵からはすぐに攻撃されず守りやすく、それでいて安全な奥地に造船基地を作れる。そしてポルスキー方面に繋がるボフ川を利用すれば輸送が便利になる。これは是非ここで造船の町を作りたい。


「グザの部族は負けて下ったのなら、ここに我々の町を築くことに異論はないか?」


「はい」


 ユーリーに確認したら問題ないと答えた。ユーリーとグザの間のやり取りはわからない。これは俺もポーロヴェッツの言葉を覚えた方が良いな。これから時間があればポーロヴェッツの言葉を学んでいこう。


「ならばここに造船の町を作る。名は……、ムイコライウだな」


 何か彼らが話している言葉にそんなような言葉があった気がする。適当に耳で聞こえた言葉を言ってるだけだからあってるかどうか、どういう意味なのかはわからない。ただ彼らの言葉っぽい名前にしてあげた方が受け入れられやすいかなと思っただけのことだ。


「さて……、今後の方針だな」


 グザの部族などからも聞いた地理から今後の方針を考える。俺達はゆっくり行軍しているから今回はそれほど時間がない。まぁ俺が帰った後も皆には引き続きクイップチャック草原攻略を続けてもらうけど、俺がいる間に進む予定くらいは立てておこう。


 まずこのボフ川と、ムイコライウを建設する予定の場所から南東や東に進むとドニプロ川という川が流れているらしい。そちらもかなりの大河で重要な川のようだ。


 ドニプロ川はボフ川の河口と近い位置にブラック海へと流れ出る河口があるらしい。その流れはブラック海から見れば北東方向に上って行くそうだ。でも途中でくの字に折れ曲がって北西方向に向きを変える。そこから進んでいくと途中で北方向に曲がりキーイフはこのドニプロ川沿いにあるという。


 ウマニから東に進んでいるはずの別働隊にはこのドニプロ川沿いまで進んでもらおうか。そしてこのムイコライウにいる俺達は南東に進んでドニプロ川を渡る。ドニプロ川を渡るとさらに南にクリメア半島というものがあるらしい。そのクリメア半島は色々な所が奪い合う要衝のようだ。


 バルカンス半島に存在している古代帝国や、オスマニー帝国、もしかしたらブルガルー帝国も隙あらば狙っているかもしれない。立地的に考えたら確かに結構重要な位置にある半島だ。


 当然それは俺達にとっても同じであり、しかも地続きは俺達の方だ。半島の付け根はこちらにあるんだから俺達は是非このクリメア半島を押さえておかなければならない。ムイコライウで造船を行い、クリメア半島に軍港を建設する。これなら造船所を攻撃されるリスクを抑えつつブラック海を睨めるだろう。


 そしてそれとは別にブラック海をさらに東へ進んでいく必要がある。クイップチャック草原はまだまだ東に広がっていて、俺達がやってきたのはまだブラック海の半分という所だろう。


 クリメア半島によってブラック海と分けられているアゾブ海というものがある。クリメア半島の北東側にある内海だな。今回は北側はドニプロ川のくの字に曲がっている場所まで進軍する部隊と、クリメア半島を制圧する部隊、そしてクリメア半島へ入らずさらに東へ進んでアゾブ海北岸を進む部隊に分けよう。


 クイップチャック草原全てを制圧するにはまだ時間がかかる。俺は今回これくらいまで進んだら一度王都へ帰ろうと思う。そういう話を幹部達としていく。


 上層部も皆それがわかっていたから特に大きな問題もない。俺は途中で帰るけど、皆はそのまま侵攻を続ける予定になっていた。あとユーリーやグザが承諾してくれたので、結局オデッソスとムイコライウの建設も始めることになった。特にムイコライウが出来れば船でボフ川の輸送が出来るようになる。これはかなり優先事項だ。


「他に何かあるか?」


「特に何か情報があるわけではありませんが……、我々の動きがルーシャ諸国に伝われば北方から圧力をかけてくるかもしれません」


「ふむ……」


 確かにルーシャ諸国からすれば国境を接する南方の動きというのは気になるところだろう。自分達にとって都合が悪い展開になりそうなら当然介入してくる。一応ルーシャ諸国にも使いを出して交渉しているはずだけど、それがうまく纏まるとも限らない。もし北から圧迫されたら東方へ侵攻している場合じゃなくなる。


「キーイフから陸路で南下すればウマニの付近だったか……。それとドニプロ川沿いだったな……」


 こちらから攻めるのなら川を利用する手もあるだろう。でもまずはこちらの輸送や補給の要衝となっているウマニに攻撃されないことが肝心だ。ウマニの北方に防衛部隊を配置しておいた方が良いか……。


 となればやっぱり今回は北部部隊はドニプロ川で一時停止せざるを得ないな。それ以上進むには部隊が足りない。ユーリーやグザのようにすぐに俺達に従って、協力的になってくれるのなら良いけど、もし敵が逃げるのを追いながら長距離の追撃戦となれば後方の安全が確保出来ない。


「北部部隊はドニプロ川までを確保し、場合によってはドニプロ川を遡ってキーイフを攻撃出来る準備をしておけ。ウマニの北方にも防衛部隊を展開し、我が軍の補給路だけは絶対に死守するように」


「「「はっ!」」」


 大体の方針は決まった。後は俺が帰るまでの日数で行動が間に合うかどうか。それと他の部族がこちらに友好的に話を聞いてくれるかどうか次第だな。



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― 新着の感想 ―
[一言] フローラならそのうちかなり正確な地図も作らせそう
[一言] ジャンジカさん、相変わらず有能だ…。 改めてフローラ様と母マリアがおかしかっただけなんだという事が分かるわ…。
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