表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
429/545

第四百二十九話「おいしい所を取られた!」


 町開きは恐らく大成功のうちに終わった……、と思う。最初のうちはカーン侯爵家を舐めているような態度の貴族も多かったけど、王様とディートリヒの狙い通り、今回の町開きをまるで国事のように大々的に厳かに行なったのがよかったんだろう。


 港に来て宴を始めたら俺に話しかけて近づこうとしてくる貴族も多かった。俺は常に王様とディートリヒの傍にいたから、貴族達もそう簡単に王様の近くに来て話しかけることは出来なかったようだけど、それでも中には多少強引にでも話しかけてくる者もいた。


 貴族達の反応は概ね探るという感じだった。探る内容や意味は違ってもほとんどの貴族達は俺を探ろうとしていたんだろう。敵として情報を探ろうとしていたのか、味方に引き入れたり、仲間に入れてもらおうと探ろうとしていたり、あるいは自分にとって金や利益になるかどうか探ったり……。


 そりゃ彼らも遊びで貴族をしているわけじゃなくて、生活どころか家族や家人や配下達の命まで懸けた争いをしている。ポッと出の侯爵に対して色々と思う所もあるだろう。敵が大きくなる前に潰した方が良いのか、味方に引き入れた方が良いのか、いっそ自分が入れてもらうのか……。その判断一つで大勢の命を巻き込んでしまう。


 それはこちらも同じことであり、味方に引き入れる人物なのか、入れない方が良いのか、敵対者として潰す方が良いのか、少し会って話すだけで相手を見極めていかなければならない。


 今日の町開きのお陰で今まであまり関わったことがない貴族達とも話すことが出来た。何人か有能そうだなと思う貴族もいたけど、大半はその他大勢、有象無象というところだ。そして有能な者ほどすでにどこかの派閥に入っていたり、いっそ自分が派閥の長をしていたり……。新参の侯爵では中々取り合ってもらえないような大物も多い。


 とりあえず貴族達は王都に帰らなければならないし、適当に暗くなる前に宴はお開きとなった。町の入り口前の広場に馬車を停めさせて歩かせたけど、帰りはあそこからこの港まで馬車を呼び寄せている。何だか疲れた顔の貴族達がゾロゾロと自分達の馬車に乗って帰るのを見送ってからが俺の本番だ。


「全て帰ったか?」


「はい。貴族の招待客は全て帰りました」


 招待状と交換で引出物を渡して帰らせているから数も間違いないだろう。帰りの道には兵士達も大量に配置されているから、帰るフリをして道を逸れて残っているということもない。そんなことになったらすぐに連絡が来るはずだ。


「よし……。それでは私は川下の方へ行ってくる。こちらは任せるぞ」


「はっ!お任せください」


 責任者達にこの場の後始末は任せて俺は庶民達が集まっている方の宴会場へと向かった。向こうは夜通し宴が開かれるのでまだ人が残っているはずだ。俺が顔を出したら皆驚くんじゃないだろうか。どんな反応をするのか少し楽しみだ。




  ~~~~~~~




 あるぇ?何かおかしいぞ?なぁにこれぇ~?


「どうか!どうかお許しください!」


「いや……、あの……」


 川下の庶民達用の宴が開かれている場所に来てみれば……、到着早々に俺にぶつかってきた子供が俺の外套に料理をぶちまけて汚してしまった。そしてその母親らしき人は泣きながら土下座をして、子供も泣きながら母親の後ろに隠れている。


 周囲の人達はどうなるのかとハラハラしながらこちらの様子を窺っているようだ。彼らのほとんどはこれからこのシャルロッテンブルクで暮らす住民達であり、あまり厳しい処分を下せば町開き早々に住民達から反発を受けることになるかもしれない。


 かといって甘い顔をしてお咎めなしだと甘い領主だと思われて舐められて、犯罪とかをしても大丈夫そうだと考える馬鹿が出てくる可能性もある。


 厳しくするのも地獄、甘くするのも禍根を残す可能性があり前にも後ろにもいけなくなった気分だ。こういう時にどうすれば良いのか誰かに聞きたいが、生憎誰もいない……。


 法に則って厳粛に執行するのならば恐らく弁償という所だろう。でも俺の外套はこの親子に弁償出来るようなものじゃない。今日は貴族達に舐められないようにそれなりにお高い物を着用してきた。これを弁償しろと言えばこの家族は今後大変な人生を歩まなければならなくなるだろう。


「何をしておられるのだカーン殿……」


「ミカロユス、良い所に来た」


 騒ぎを聞きつけたのかミカロユスが来た。こういう場合どうすれば良いのかこっそり耳打ちで聞いてみる。


「(なるほど……。それならばここは私にお任せいただこう)」


「(任せる……)」


 俺にはもうどうすれば良いのかわからない。ミカロユスが自信満々にそう言うのだから任せることにする。一体どんな方法で解決するつもりなのか俺自身も興味があるしな。


「貴様らの処分は我が主、フロト・フォン・カーン侯爵様より私が預かった。これより沙汰を言い渡す」


「おゆ、お許しください」


 おお……、ミカロユスはどうするつもりなんだ。俺までドキドキしてしまう。これでいきなり死刑とか言い出したら大変なことになるけど……。


「小僧!貴様は将来何になりたい?何をするつもりだ?」


「……え?えっと……、父ちゃんと同じ職人になってこんなすげー町を作りたい!」


 ほう……。まぁここに呼んだのは店を持つ予定の者や、住む予定の者と、そして町を建設してくれた職人達も呼んでいる。どうやらこの子供は職人の子供だったようだ。父親の仕事を見て自分も父親のような凄い仕事をしたいと思ってくれたんだろう。職人を目指す子供が増えるのは良いことだ。


「よかろう……。ならば言い渡す!貴様ら親子はこの町に住み、この町のためにその腕を揮え!小僧!貴様もこの町に住み、妻を娶り、子供をなし、その子供もこの町に住め!そして税を納め、腕の良い職人となり、我が主フロト・フォン・カーン侯爵様のためにこの町を発展させるのだ!よいな?」


「「「「「…………」」」」」


 一瞬何を言っているのかわからず全員が固まる。しかし、次第にミカロユスの言葉の意味が理解されて……。


「あっ、ありがとうございます!ありがとうございます!」


「うん!俺もすげー職人になって父ちゃんと一緒にすげー町を作るよ!」


 うんうん。親子はミカロユスに感謝し、周囲で見ていた庶民達も大岡裁きを見ていたかのように拍手しミカロユスに尊敬の眼差しを向ける。ミカロユスは実質的にこの親子に罰を与えることなく、名目上は罰を与えたことにし、さらにこの町のためにもなるように収めた。その手腕は確かに賞賛されるべきものなのだろう。


 でも……、あれ……?これって……、俺は物凄く嫌な立場じゃね?


 子供に料理をぶちまけられて被害を受けたのは俺なのに、何か俺が庶民をいじめているような感じで見られて、しかもそれを見事解決したミカロユスは住民達からの評判が上がったのに、俺は何か嫌な領主で終わってしまっただけなのでは?


 ……あれ?何だこれ?やっぱり俺はこっちの宴には顔を出さない方がよかったのか?


 まぁそうは思ったけど、その後俺が宴に参加していても、最初は恐々遠巻きに見ていた住民達も、次第に緊張が解けてきたのか、結局この日は夜通し宴が催されたのだった。




  ~~~~~~~




 さて……、学園が始まってからそれなりに日数が経っているのにまだ俺は王都やシャルロッテンブルクにいる。いつもなら始業式が終わったらさっさと移動を開始するところだけど、今回はさすがにシャルロッテンブルクも町開きされた直後だし、何かと用事が立て込んでいてすぐに出られる状況になかった。


 それらもかなり落ち着いてきたからそろそろカーン侯国に行かなければなと思っていた頃、またしてもブリッシュ・エール王国から仕事の書類とは別の手紙が届いていた。その中身は恐らく北方、南方探検隊のことについてのものだろう。確認しなくとも向こうから届く手紙と言えばその辺りしか思い浮かばない。


 封を切って中身を確認してみれば案の定探検隊のことだった。まず北方探検隊は冬の厳しい季節に緯度の高い場所へ行くのは無謀すぎる。だから今はまずファロエ諸島の開拓や港の整備を優先させていたけど、どうやらこれから温かくなってくる時期だから、そろそろ探検再開の準備を進めているという内容だった。


 そしてもう一つ、南方探検隊はさらに新しい諸島を発見したらしい。イベリカ半島西側にあるアソーレス諸島に送った応援や物資だけじゃなくて、さらに探検を進めた結果、イベリカ半島から暗黒大陸沿いにさらに南下して新しい諸島を見つけたという。こちらも今の所人の姿は確認されず、無人の諸島をマディーラ諸島と名付けたらしい。


 イベリカ半島の南側にある暗黒大陸の海沿いはほとんど岩と砂ばかりらしい。船で沿岸部を見ているだけだから内陸部までは詳しくわからないらしいけど、沿岸部が砂漠なのに内陸部がいきなり緑豊かということはないだろう。


 イベリカ半島と暗黒大陸の海峡を抜けてメディテレニアンに入っていっても、暗黒大陸側はほとんど砂漠だという情報は伝わっている。それが西の端の沿岸部まで続いているということだろう。それにその辺りは異教徒やオスマニー帝国の領域になっている可能性が高い。余計な所に上陸して争いになるのは避けたい所だ。


 マディーラ諸島は今の所無人なようなので、そのままカーン家の所領であることを確認して実効支配を進めておく。その辺りにも人や物資を送って港や町の建設をする必要があるだろう。場合によっては砦も必要かもしれない。暗黒大陸側がほとんど砂漠だというから、砂漠を渡ってきてまで無人島に来る相手もそういないだろうけど、もしかしたら他勢力との衝突も有り得るからな。


 南方探検隊はさらに暗黒大陸沿いに南下しつつ、沖の方も確認して島などがないか引き続き調べるらしい。暗黒大陸もいつまでも全て砂漠ということもないだろう。そのうち水辺があれば緑もあるはずだ。そういう所には人が定住している可能性も高いけど、補給基地として水や食料を確保出来る場所は欲しい。


 まぁアソーレス諸島やマディーラ諸島にこちらで中継基地を作って、補給物資を備蓄しておけば良いのだから、無理に大陸側の先住民がいる所を奪おうとして争う必要はあまりない。先住民の有無や、どこかの勢力の支配地でないかどうかを慎重に調査していってもらいたい。そういう旨の指示だけ返信しておく。細かいことは現場の人間が判断した方が良いだろう。


 北方はもう少し暖かくなれば、確実に存在することはわかっているイーズランドに向かうことになる。南方も順調に足を伸ばしているようでなによりだ。このままいけば暗黒大陸を一周するのもそう遠くないかもしれない。それに北方探検隊が新大陸を発見してくれるのではないかと期待している。


 プロイス王国貴族とは何というか、少しは顔が利くようになったというか、多少は俺の存在も認められるようになったと思う。ブリッシュ・エール王国の統治も順調だし、カーン侯国は……、どうなんだろう……。


 もし今後紛争が起こるとしたら、探検隊かカーン侯国絡みのものになるんじゃないだろうか。


 今回の町開きの式典のためにまだ練度も不十分な軍楽隊や竜騎兵をお披露目した。まだまだ戦闘に使えるような練度じゃないけど、とりあえず今回の式典のために派手な演出をしようと行進させてみたけど……、はっきり言ってまだまだ甘すぎる。もしかしたら貴族達にあの程度の練度なのかと甘く見られたかもしれない。


 皆は軍楽隊や竜騎兵を出した方が良いと言っていたけど……、やっぱりやめておいた方がよかったんじゃないかなぁ……。今更言っても仕方ないんだけど、まだ早かった気はする。当然あの程度の練度なんだから戦場になんて到底出せない。ルーシャ諸国があるブラック海近辺のステップ気候で活躍出来るようにこれからもっと特訓が必要だ。


 それから恐らくまた第三次ポルスキー王国分割が行なわれるだろう。今度はオース公国も絡んでくるかもしれない。モスコーフ公国は今のうちに取れるだけ領土を取ろうと動いてくるだろう。これはミカロユスも予測しているし俺もそうなると思っている。


 今一番きな臭いとしたらやっぱりカーン侯国周辺だろう。人口こそ多いけどまだまだ盤石とは言い難い体制だし、やっぱりそろそろカーン侯国に出向かなければならないだろうな。


「カンベエ、準備が出来次第カーン侯国へ向かいます」


「はっ!それではそれまでにまずはこの仕事を片付けてくだされ」


「げっ……」


 式典だなんだとあったためか、まだ結構仕事が残っているというか、溜まっていたらしい。最近は皆の役職も決まり仕事も割り振るようになってきたけど……、それでもまだまだ俺の仕事も多いなぁ……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 新作連載を開始しています。よければこちらも応援のほどよろしくお願い致します。

イケメン学園のモブに転生したと思ったら男装TS娘だった!

さらに最新作を連載開始しています。百合ラブコメディ作品です。こちらもよろしくお願い致します。

悪役令嬢にTS転生したけど俺だけ百合ゲーをする
― 新着の感想 ―
[一言] アレでもまだ練度が低いと申すか(゜ω゜)
[一言] ミカロユスは、問題の解決を上手くやったんじゃないかな…。本来なら、ミカロユスのやった事をフローラ様がやれば良かったんだけどね。そうすれば、フローラ様が絶賛されてたと思うし。 でも、その場の雰…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ