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第四百二十四話「バレバレ!」


 今日は登城する予定の日だ。始業式までもうそんなに時間もないし、陞爵の式典やら町開きの式典やらと色々と立て込んでいる。王様達との打ち合わせも早くしなければならない。それはいいんだけど……。


「何だか最近皆さん忙しいようですね」


「そうでしょうか」


 馬車に揺られて王城に向かいながらカタリーナに声をかける。カタリーナはそんなことはないというような返事だ。だけど実際王都に来てからお嫁さん達は俺と別行動することが多くなった。もちろん今日の登城のように、同行したくても出来ない用事の時もある。でも大丈夫な時でもバラバラになることが多くなった。


 夜は一緒に寝てるし、お風呂だって一緒に入る。朝晩の訓練も今まで通り一緒にしている。でも何ていうか……、日中とかは別行動が多い。少し前までならずっと一緒で、駄目だって言ってもついてくるって言ってたのに……、最近は一緒でも大丈夫だよって言ってもあまり誰もついてきてくれなくなってしまった。


 俺が皆にも役職を与えて、仕事を振ってやらせているから忙しくなったのは間違いないだろう。だけどそれは皆も望んで俺の仕事を引き受けたいって言ってくれたから任せたことだ。そのはずだけど何だか最近皆忙しそうで、ちょっとだけ距離というか疎外感というか、俺だけ皆の輪から外されているような気がしてしまう。


 まぁさすがに浮気とか、他に好きな人が出来たとか、そういうことはないと思うんだけど……。女心っていうのはよくわからないしなぁ……。


「フローラ様、到着いたしました」


「あぁ、はい……」


 考え事をしている間に王城に到着していたらしい。馬車から降りて、いつも通りにちゃんと手順を踏んで受付を済ませて王城に入る。これまたいつも通りに途中でディートリヒが待っていて、案内と交代して二人で王様が待つ私室に入るところまで同じだ。まったくもってワンパターンすぎる。


「よく来たなフローラ」


「ご無沙汰しておりますヴィルヘルム国王陛下」


 簡単に挨拶を済ませて席を勧められて座る。今回はまず話す議題は決まっている。


「とりあえず一番日が近い陞爵の式典について話そうか」


 ディートリヒがそう言ったので同意する。断る理由もないし、今更陞爵したくないと言っても意味はない。どんどん面倒な立場にされている気がするけど、どうせ今更逃げ出すことも出来ないだろう。


 式典については王様達が段取りしてくれるから俺は簡単な打ち合わせを聞くだけだ。することも今までとそう変わらないし特別難しいことはない。陞爵の式典の話が終わると次はシャルロッテンブルクの町開きの話になる。陞爵の式典の通知はもう前に出しているけど、町開きに関してはまだだそうだ。


「それでは町開きの招待はカーン家から行なった方がよろしいのでしょうか?」


「いや、それでは不参加を決め込む家も多くなるだろう。余が直々に呼んでやる。それならば陞爵の式典に出ておきながらこちらは出ないとも言えまい」


 王様が勝手に招待してくれるというのならこちらに否やはない。ただ招待客のリストや人数を教えてもらわないと準備が出来ないから、その打ち合わせだけは頼んでおこう。っていうかまだ町開きの方の招待をしていなかったんだな……。何だかんだと俺がブリッシュ関連にかまけている間にこちらが疎かになっていた。


 ただ一つ疑問なのは何故シャルロッテンブルクの町開きをそんなに大々的にしたいのかということだ。シャルロッテンブルクはカーン家の領地であって、わざわざ王家がシャルロッテンブルクの町開きに多くの貴族を呼ぼうとする意味がいまいちわからない。


 一応将来的にフロト・フォン・カーンがエレオノーレを娶る予定だから、そのフロト・フォン・カーンが開いた町をこの機会に他の貴族達に見せておこう、というのはわかる。でもそれを見せたからって大した効果があるとは思えないけど……。


「当家で考えている町開きはこのような手順ですが……」


「あ~……、うん……」


「くっくっくっ!これだから其方は面白いのだ。他の貴族共の間抜けな顔が今から思い浮かぶわ」


 何かディートリヒも王様も変な反応をしている。もしかしてうちで考えた町開きは何かおかしかったのか?ヘルムートやイザベラも太鼓判だったから大丈夫だと思ったけど……。ミカロユスもこれくらいした方がいいって言ってたのになぁ……。王様達も俺達が何か変なことをしようとしていたら止めてくれたらいいのに……。


 何かおかしい所はあるかとか不足な所はあるかと聞いたのに特にないと答えられた。王様達だってカーン家が失敗したら面目が潰れるわけで、大丈夫だと言うんだから多分大丈夫なんだとは思うけど……、あんな態度をされたら不安になってしまう。


 陞爵と町開きの話も決まり、これからのプロイス王国の方針なども話し合われる。これは俺のような木っ端貴族が聞いていい話じゃないと思うんだけどなぁ……。出来れば聞きたくないなぁ……。


「え~……、それではやはりポルスキー王国を分断した後はさらに南東、ルーシャ諸国方面に足を伸ばし、ブラック海を目指すということでしょうか?」


「さすがフローラ姫は話が早いね。もちろん第二回ポルスキー王国分割で分断するように線を引いたのはそれも含まれているよ」


 もちろん一番の目的はオース公国とモスコーフ公国の分断だろうけど、こうもはっきりルーシャ諸国方面への話を認めるということは……、その尖兵は俺達カーン家ということだろうな……。


 おいおい王様よぉ。いいのかい?俺がそんなにあちこちに勢力を拡げて力をつけちゃってさぁ。国内での発言力も上がるし、国力も高まってしまう。あまり俺が拡大しすぎたらプロイス王家を超えちゃうよ?まぁ……、ぶっちゃけブリッシュ・エール王国を得てしまった時点でプロイス王家を超えてる気はするけど……。


 もちろんカーン家とプロイス王国が戦争になれば今はまだ勝てないだろう。だけどカーン家の所領や経済力と、プロイス王家の所領や経済力ではすでに立場が逆転していると思う。俺がプロイス王国を裏切り、周辺国と手を結んで攻め込めばさすがのプロイス王国も瓦解するだろう。


 何故そこまで俺を信じているのかわからないけど……、もう少し慎重にした方が良いんじゃないだろうか?


「ヴィルヘルム国王陛下は……、何故そこまでカーン家を信じられるのでしょうか?」


 余計なことを言ってしまった。でも聞かずにはいられない。あまりに純粋な信頼ならば王家との付き合いも考え直すべきだ。海千山千の貴族達と対峙するのに、ただ相手を無邪気に信じるというほど愚かならいずれプロイス王家も沈むだろう。それに巻き込まれてカーン家まで沈むわけにはいかない。


「「…………」」


 だけど王様とディートリヒはお互いに顔を見合わせて……、やがて……。


「ぷっ!くっくっくっ!」


「あははっ!」


 二人は笑い出した。何が面白いのかさっぱりわからない。笑ってる場合じゃないと思うんだけど?


「いやいや……、フローラ姫は面白いことを言うね」


「最早プロイス王国の命運は其方の一存で全て決まるであろうに」


 はにゃ?二人の言っていることがまったくわからない。むしろますますわからなくなった。何を言ってるんだ?


「王家は最早カーン家と共に歩むことを決めておる。其方が何か重大な決断を下せば、それについていくか、国がなくなるか、どちらかしかない」


「そもそももうカーン家だけでプロイス王国を滅ぼせちゃうんだから逆らいたくても言うことを聞くしかないよね」


「何を言って……」


 カーン家がプロイス王国を滅ぼせる?それは無理だろう。うちは陸軍の数が圧倒的に足りない。敵はいくらでも倒せてもプロイス王国全土を占領することは不可能だ。精々がブリッシュ・エール王国に逃げて海上封鎖で嫌がらせするくらいのものだろう。


「今の兵数のまま全土を占領するのは無理だ、とか考えていないかな?でも緒戦で圧倒的勝利を重ねれば諸侯は簡単に靡くよ。そうなれば何もカーン家だけで全土を隅々まで占領する必要はない。だから何度か大会戦を行なって、それらに悉く勝利すればあとは雪崩を打ったように情勢が変わる。わかるかい?」


「それは……」


 違うとは言えない。適当に投降や降伏を認めて、領主達の所領安堵や減封で許してやると言えばこちらにつく貴族もたくさん出るだろう。戦後の統治体制がどうとか、既存勢力が残るのが嫌だとか、そういうことさえ言わなければ、大きな敵だけ倒して、うちに従う領主達を残してやれば……、確かに国家転覆も出来るかもしれない。


「だからそもそも余には選択肢などないのだ。其方が心変わりしてプロイス王国と王家を見限らぬように手を尽くすしかない」


 そこまでか?俺にはそんな感覚はない。確かにブリッシュ島の方も入れれば相当な人口を抱えるカーン家は結構な勢力だろう。でもまさかそこまで……。


「そしてな……、それほどの力を持つカーン家が絶対に裏切らぬという確信も持っておる。何しろ余の可愛い可愛い娘が嫁ぐのだからな!よもやエレオノーレを貰っておいて余を裏切りはすまいよ?何よりエレオノーレを悲しませるようなことを其方がするとは思えん」


「あ~……、それは~……」


 まぁ……、そうですね……。確かに俺はわざわざ自分からプロイス王国を割ってやろうとは思っていないし、エレオノーレのことは大好きだ。俺がプロイス王国と戦争を始めればエレオノーレは悲しむだろう。そんなことでエレオノーレを泣かせたくはない。


 でもそこまで見抜かれてるってことは俺が女の子好きの同性愛者だってバレてるってことだよな。お嫁さん達を五人も連れてるんだから今更と言えば今更なんだけど、ただの仲の良いお友達という関係じゃなくて、愛し合う夫婦だってバレてるのか……。


 それってどれくらいバレてるんだろう?ちょっと親しかったり付き合いのある人は皆わかってるのか?それとも王様達とかだけ?まさか学園の同級生達にまでバレてるとは思えないけど……。うちの家の関係者達とかは?


 あ~!考えたら気になる!俺達がそういう関係だとバレバレだったのか?屋敷で一緒に生活している家人達はわかってるだろうけど、最近任命した組織の幹部達も皆知ってるのかな?


「ルートヴィヒとルトガーは断ってエレオノーレを受け入れるのだ。其方も業が深いな」


「あはは……」


 王様達にはそっちからもバレバレか。普通のご令嬢だったらまずルートヴィヒと結婚するだろうしな。そうか~……。バレバレだったかぁ~……。


 コンコンッ


 と、その時扉がノックされた。珍しいこともあるものだ。俺達の会議中に人が来ることはない。エレオノーレが突撃してくることはたまにあるけど、それ以外でこの三人がいる時にここに人が来たことなんてないのに……。


「入れ」


「しつれいします」


 王様が許可すると扉を開けて入ってきたのは……。


「あっ!フローラ!えっと……、ごきげんよう」


「はぅっ!」


 ひょこっと入って来たエレオノーレがスカートの裾を摘んでカーテシーで頭を下げた。あのエレオノーレが……、扉をノックもせず、俺を見ると飛び掛ってきていたエレオノーレが……、ノックして入室してカーテシーで挨拶している!しかも滅茶苦茶可愛い!


「どっ、どうされたのですか?エレオノーレ様?」


「ふふん!どうだ?余の娘は!すごいであろうが!たった二ヶ月でこの進歩だぞ!」


 確かに凄いけど何でそれで王様が踏ん反り返っているのか?頑張って凄いのはエレオノーレであって王様ではない。王様が偉そうに踏ん反り返る理由はないだろう。


「んっとね……、フローラのためにがんばったの!」


 キュッと両手を胸の前で拳を握り締めてそんなことを言う。可愛すぎる!


「あぁ~~~っ!エレオノーレ様!可愛すぎます!食べちゃいたい!」


 とうとう我慢の限界に達した俺はエレオノーレに飛びつき抱き締めた。これじゃいつもの逆だ。でもこんな可愛い姿を見せられて反応しないわけがない。もう!可愛すぎる!


「フローラ!はしたないの!」


「あぅ……、ごめんなさい……」


 エレオノーレに飛びついて抱き締めたら怒られてしまった。でもそう言いながらもエレオノーレもギュッと俺を抱き締め返してくれている。あぁ~~っ!なんて可愛い生き物なんだ!クンクンペロペロしたい!


「まぁこの姿を見ればフローラがプロイス王国やプロイス王家を裏切るわけがないと思えるわな」


「そうですね……。王女殿下の魅力のお陰でプロイス王国は救われました」


 王様やディートリヒが何か言っているけど、エレオノーレの可愛さに夢中な俺の耳には入っていなかった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 幼女に救われる王国・・・王様と宰相の不甲斐なさに呆れるべきか、フローラの残念さに呆れるべきか。 フローラちゃん、写真機は開発しないのですか?愛妻達の姿や成長するエレオノーレちゃんを写してお…
[良い点] 可愛いは正義!
[良い点] エレオノーレ様は最強だという事が証明された様だっ!!! [一言] 救世主エレオノーレ爆誕っ!!!
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