第四百十五話「探検隊遠征!」
研究所で色々と完成した物を確認して、重大な決断を下した翌日、俺達はキーンから大艦隊を率いて出港していた。まぁ大艦隊と言ってもブリッシュ島を征服しに行った時よりも少ない。俺達にとってはもう慣れた程度の艦隊だけど、この時代で考えれば普通に一国の海軍の全力出撃と変わらないだろう。
「ねぇフロト、今回はどうしてこんなに船が多いのかしら?」
ブリッシュ・エール王国の王らしく男装して仮面とマント姿の俺にミコトが問いかけてくる。確かにうちにとっては全力というほどの艦隊ではないけど、それでも普通に考えたら十分に多い艦隊だ。今回ブリッシュ・エール王国に向かっているうちの船は総数で十三隻にものぼる。そのうちの一隻に乗っているけど、うちの艦隊が整然と海を渡る姿は壮観だ。
「三隻は普通の貿易船や補給物資を輸送しているだけです。残りの十隻は……、この後役割がありますので」
別に隠すことじゃないけど今言いふらすことでもない。そのうちわかるからと言葉を濁してミコトの質問をかわす。
もううちの船なんてしょっちゅう通るから見慣れたものなのか、デル海峡を通ってもあまり驚かれているような雰囲気はない。さすがに十三隻もとなると多少は目立っているようだけど、何だかデル王国の人々も『またか』というような感じだ。
無事にデル海峡を通過してヘルマン海に出る。ヘルマン海は沿岸部を通らずに、ホーラント王国やフラシア王国に見つからないよう沖を通って、ブリッシュ島のコルチズターに到着した。艦隊はコルチズターで停泊して俺達だけキャラベル船に乗り換えサメス川をのぼってロウディンへと到る。
「お待ちしておりましたカーザー王様」
「ゴトー、出迎えご苦労」
魔法で声を変えてゴトー達の出迎えを受ける。色々報告を受けたり、人に会ったり、何かとしなければならないことは多いけどどうせ一日で終わる量じゃない。今日は今日出来る分だけを済ませてロウディンの王城で休む。ここも設備が悪い……。早く新市街を作らなければ……。
一応仮設のトイレやお風呂はあるけど……、やっぱり向こうでの暮らしに慣れていると不便で不潔に感じてしまう。最初の頃はもっと酷かったんだからこれでも十分マシなはずなんだけど……、人間一度贅沢を覚えて便利になると駄目だな。
「こっちは不便すぎるわよ!何でまだちゃんと出来てないのに来たの?」
「ですからそう言うのでしたらミコトは向こうに残って良いと言ったではありませんか……」
ミコト様もこの不便な生活に相当ご立腹らしい。その気持ちはわかるけど、だからこっちに来たら不便だから嫌ならカーン騎士爵領で待っていてもいいって言ったのに……。
「一ヶ月もフロトと別れたままでいられるわけないでしょ!」
いや、『わけないでしょ!』って言われても……。こっちだって急ピッチで工事を進めているけど、そんな半年やそこらで出来るわけがない。仮設とはいえトイレとお風呂が出来ているだけでも感謝しなきゃならないくらいだ。
「ですが一ヶ月ほどでは出来ることは限られておりますわよね?それでも強行してブリッシュ島まで来たのは何か目的があってのことではありませんか?」
あ~……、そうか。アレクサンドラもまだ把握してなかったのか。副丞相と言っても全ての部門の全ての用件を把握しているわけじゃないだろうしな。それに書類上は把握していてもイマイチ理解していない可能性もある。探検家組合は別組織のようなものだし、こればかりは仕方がないか。
「確かに一ヶ月で出来ることなど知れています。わざわざ一ヶ月滞在するためにやってくるのは非効率である部分もありますが、今回はどうしてもこちらに来る必要があったのですよ。また後日にわかりますので楽しみにしておいてください」
「へぇ、何だろうね?」
「う~ん……」
俺の言葉にクラウディアとルイーザも色々と考えているようだけど結局わからなかったらしい。男の子ならワクワクするようなことだろうけど、女の子ならあまり興味ないかもしれない。あまり期待させておいてガッカリされても何なので、一応あまり期待しすぎないようには言っておいたけど……、すでにちょっとハードルを上げすぎたかもしれない。
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翌日からブリッシュ・エール王国での様々な仕事を片付けていった。特に俺は今まであまり顔を出していなかったから、家臣達も俺が王だと思っていないかもしれない。ちゃんと俺がこの国の王だと示しておかないと、いざという時に裏切られたり、足を引っ張られたりしたら大変だ。
忠誠を得るというのは中々難しいことだろうけど、最低でも俺が王であるときちんと認めてもらわないと、ブリッシュ・エール王国そのものの根幹が揺らぎかねない。
そんなわけでキーンを出てから一週間くらいはバタバタとブリッシュ・エールでの仕事をこなしていたけど、ついに準備が整いある計画が動き出した。今日はロウディンの王城に探検家組合の上役を集めての会議だ。
「シュテファンよ、首尾はどうだ?」
他にも大勢の人がいるからこの場ではあくまで声を変えてカーザー王として振る舞う。元々俺はカーザー王なんて名乗るつもりはなかったけど、結局国を纏めるために都合が良いということで、ここではフロト・フォン・カーザー王ということになっている。もう色んな名前がごっちゃになっていて意味がわからない。自分でも時々間違えそうになる。
「はいっ!準備は全て完了しております!」
シュテファンもこの場では探検家組合長としてきちんと振る舞っていた。少し前まではただの港の労働者を束ねる悪ガキみたいな感じだったのに、今では探検家組合長がちゃんと板に付いている。
「うむ……。ではこれより正式に探検隊遠征を命ずる」
「「「ははぁっ!」」」
探検家組合の幹部達が揃って頭を下げた。今回俺達が十三隻もの艦隊でやってきたのは探検隊遠征のためだ。
ブリッシュ島の北、旧アルバランド王国から北東の沖に出るとすぐにアルカイ諸島という島々がある。そのアルカイ諸島を越えてさらに北東に進むとシィルトランド諸島だ。
前回俺達がブリッシュ・エールを統一した後も、まだ一部のこういった島々は統一されていなかった。俺達がプロイス王国に戻っている間も、ブリッシュ島周辺の統一されていない島々を残った者で征服していた。今ではアルカイ諸島もシィルトランド諸島も統一済みだ。
そして今回このシィルトランド諸島から北西にあるらしい諸島を目指すことになっている。何やら島があることはすでに確認されているようだけど、具体的にどんな島で誰か住んでいるのかはわからない。昔にエールランドの修道士が発見したとされる島だ。
どの位置に島があって、どの程度の住民がいて、誰かが支配しているのかどうかもまったくわからない。その言い伝えというか伝承では修道士がそこに教会を建てたことになっているようだけど、少なくとも現在ブリッシュ島との交流はないらしい。
北方へ向かう探検隊の目的はその島、もしくは島々を探しに行くことだ。北方探検隊のためにガレオン船五隻の艦隊を派遣することになっている。そしてさらに別艦隊も送る予定がある。それがフラシア王国の南西にある半島、イベリカ半島を越えていく艦隊だ。
イベリカ半島はメディテレニアンという内海、地中海の出入り口にある半島だ。メディテレニアンの出入り口は北はイベリカ半島、南は暗黒大陸と呼ばれる大陸に挟まれている。メディテレニアン貿易も馬鹿には出来ない重要な地点ではあるけど、すでに沿岸国が覇を争っている。そんな所へ今更割って入るのは労力の無駄だ。
プロイス王国がメディテレニアンに接しているというのならともかく、現時点では我が国は沿岸国ということもない。むしろイベリカ半島やフラシア王国が沿岸国だし、割って入ったら揉め事しか起こらないだろう。
まぁオース公国は現在バルカンス半島を侵攻中であり、バルカンス半島はメディテレニアンにある半島の一つだ。このままいけばやがてメディテレニアンの沿岸国と貿易で争うことになるだろう。
プロイス王国も無関係ではなく、オース公国に引っ張られてメディテレニアンに出る可能性はある。そしてそれだけじゃなくて、プロイス王国が将来的に狙っているであろうルーシャ諸国の方からブラック海に出ると、ブラック海の出口はメディテレニアンにしかない。
メディテレニアンという内海、地中海のさらに奥にある内海がブラック海なわけで、もし万が一、俺の予想通りにブラック海まで領土を広げたら、プロイス王国もメディテレニアンの覇権争いに加わらなければならない。
まぁそれはまだ先のことだろうから後でいい。いつか争わなければならないとしても今はそれよりも先にすべきことがある。それがもう一つの南方探検隊というわけだ。
こちらも正確なことは何もわからないけど、イベリカ半島の西側や南西方面に島、あるいは諸島がある……、かもしれない。これも不正確な伝承や言い伝えレベルのもので、はっきりどの位置にどのような島があるというのはわからない。
昔メディテレニアン沿岸などを支配していた古代国家などがあちこちを探検して、何やら島を見つけたらしいという程度の情報でしかない。それがどの方角にどの程度の距離を移動して見つけたものなのかさっぱりわからない。
仮に島があったとしてもそこに原住民がいるかもしれないし、どこかの国が支配しているかもしれない。探検隊はただ島を見つければ終わりというわけではなく、色々と交渉したり、様々なことを行なわなければならない。
また俺の目的はそれらの島の発見だけじゃなくて、暗黒大陸と呼ばれている南の大陸も調べたい。まずは沿岸沿いにでも南下して、地形の把握や現地の状況、統治者の有無などを確認したい。もちろん誰も支配者がいないのなら手に入れたいし、最終的な目的地は暗黒大陸じゃなくて、それを越えた先にある。
現在はメディテレニアンから東へ陸路を通って東の国々と交易が行なわれている。でもうちはそういう地域に出る経路がない。だからこそプロイス王国はルーシャ諸国方面、東に出ようとしているんだろう。俺はそれを陸路で行かずに海路で目指せるルートを開拓しようとしているというわけだ。
それにルーシャ方面に出て、ブラック海を回って南まで出れば、暗黒大陸を回った海路と合流出来るかもしれない。東方への貿易の他にも、陸路や海路の重要拠点を今のうちに確保しておくのは重要なことだ。
人々にとっては肥沃な大地こそ重要であり、過酷な砂漠や無人島は大して価値がないと思われているだろう。人が定住することも難しいような場所など放置されているはずだ。でもそこは俺にとっては宝の山だ。
将来的な地下資源、海上、陸上交通の要衝、将来的な貿易の中継点。使い道も発展性もいくらでもある。教会の影響力が強いメディテレニアンを避けて、プロイス王国、ブリッシュ・エール王国が躍進するためには絶対に他国に先んじてうちが出て行かなければならない。
「北方探検隊及び南方探検隊の成果を期待する」
「はい!お任せください!必ずやご期待に副えてご覧にいれます!」
シュテファン達が下がり、俺達も下がる。ブリッシュ・エール王国として命令したわけじゃないんだけど、あれだけ見てたらブリッシュ・エール王国の者達は勘違いしたかもしれないな。探検家組合はカーン家の直属の組織であって、命令したのもフロト・フォン・カーン個人なんだけど……。
あとでブリッシュ王国の権利ガーとか、我々の税金デーとか、勘違いで偉そうに言ってくる馬鹿が出なければいいけど、それなのに何故わざわざロウディンの王城でこんなことをしたのか。カンベエとゴトーが言うにはこれでブリッシュ・エール王、つまり俺、カーザー王の権威を見せ付けることになるらしい。
こんな程度のことで権威を見せ付けたことになるか?と思わなくもないけど……。
まぁ周りがそう言うのならとわざわざロウディンの王城で仰々しく見せびらかしたというわけだ。
「わざわざたくさん船を連れてきたのはあれが目的だったのね」
「そういうことです」
私室に下がってからミコトが声をかけてきた。ずっと何故こんなに船を連れてきたのかと聞いていたからようやく答えがわかったというものだろう。
「別に秘密にしなくてもよかったのに……」
「まぁ……、隠していたわけでもないのですけどね……」
何か皆の反応はイマイチだな。やっぱり男の子なら冒険とか探検とか聞いたら胸が躍るだろうけど、女の子はあまりそういうことに興味がないのかもしれない。
「ところでそんなことして何の意味があるのよ?」
「そうですね……。例えば……、私が想像している通りに進めば天降りを利用しなくとも船でヤマト皇国へ行くことが出来るようになります」
「それに何の意味があるの?渦に飲まれてひゃーの方が早いでしょ?」
ミコトにはわからないか……。まぁ仕方がない。
「天降りで運べる物には限りがあります。いくらでも大量に運べるのなら良いですが、人の移動には有利でも物の移動には向きません。それに比べて大型船で輸送出来るようになれば大量に大きな物まで運べます」
「ふ~ん……」
あっ、これはわかってないな……。ここまで言っても伝わらないんじゃ、あとはもう実際に貿易が行なわれるようになって、その有用性を目の当たりにしてもらうしかない。
まだどうなるかわからないけど……、探検隊がうまく成果を挙げて、無事に戻ってきますように……。




