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第三百九十二話「パンク寸前!」


 溜まった書類を片付けつつ数日が経過した。ようやく少し手が空いてきたから考え事をする。


 まずドライゼ銃、短銃の性能は申し分なかった。あれが量産出来れば相当な戦力アップになるだろう。極端に言えば、ドライゼ銃を配備して少し射撃訓練をさせた農民兵がいれば、そこらの精鋭騎士団を一方的に全滅させられるくらいの性能だろう。これは脅威以外の何物でもない。


 また短銃は護身用としてかなり有用だということがわかった。肉体的にあまり強くないクラウディア以外のお嫁さん達に、護身用に作って持っておいてもらうのが良いかもしれない。もちろん手入れや管理は重要だし、まだまだ暴発の危険もある。銃の手入れや整備や管理を覚えてもらわなければおいそれとは渡せない。


 それでも非力な女性でもある程度近距離、あるいは中距離であの威力で攻撃出来るのは物凄いアドバンテージだ。ミコトやルイーザは離れてさえいれば魔法攻撃もあるだろうけど、あまりに接近されすぎたら短銃で対処するという選択肢もあった方が良いかもしれない。


 アレクサンドラは剣も魔法も駄目だから護身用の短銃は必須だし、カタリーナの実力はよくわからないんだけど、カタリーナも短銃の射撃は楽しそうにしていたから持たせたら喜ぶだろう。クラウディアは短銃じゃなくて小銃の方が好みだろうな。なら短銃四丁と小銃一丁をうちのお嫁さん達用に用意してもらおうか。


 ただ出来れば弾倉をどうにか実用化出来ないかとは思う。今のやり方は一発ずつ弾を込める。これじゃ一発撃ったら次を撃つまでに時間がかかる。複数に絡まれたり、外した時にどうしようもない。でも弾倉は難しいんだよな……。今のうちでは色々と技術的ハードルが高い。


 まぁそれはさておき、一先ずドライゼ銃に問題はなかった。銃そのものにはな……。問題があるとすればあれを量産する工業力と、安定した品質を確保出来る基礎工学だ。一丁一丁職人技で作っていては数が揃えられない。ガス漏れを抑えて、暴発もなく、不良品が出来ないように、ある程度品質を落としても量産出来れば……。


 工場や炭鉱は徐々に増やしているけど、そういった開発は中々すぐには進まない。あと出来れば蒸気機関も完成させたい所だ。蒸気機関を利用出来れば工業化も一気に進むだろう。


 あっ。そうだった。あと竜騎兵用にドライゼ銃を詰めたカービンも用意してもらわないと……。


 単純に銃身を詰めるだけだと命中率とか射程距離とか貫通力に問題が出る可能性がある。馬上で取り回しがしやすく、揺れる馬上でもある程度正確に相手を狙えて、鎧を貫通して敵兵を殺傷出来る威力が必要だ。


 前装式に比べてボルトアクション後装式だから装弾の手間は減る。馬上で火薬を詰めて弾を押し込むことに比べれば雲泥の差だろう。


「は~……。やるべきことが次から次へと……、終わりがありませんね……」


 書類を片付けているとノックされたので答える。


「どうぞ」


「失礼します。グスタフ殿がおいでです」


 グスタフ……、よくある名前だからグスタフだけではすぐに誰かわからなかった。でもヘルムートがわざわざ中へ通したんだから誰か知り合いだろう……。いや……、一人心当たりがあるけどまさかその人物がこんな所にいるはずがない。


「応接室で対応しましょう」


「かしこまりました」


 ヘルムートが通して待たせているんだからそれなりの人物だろう。俺の執務室はまだ色々と機密の書類が転がっている。下手な者は入れられないから応接室で対応することにして向かった。


「お忙しいところ急な来訪で申し訳ありません」


「ああ、いいえ。良いのですよグスタフ。それよりもどうして貴方がここへ?」


 応接室で待っていると通されてきたのはグスタフ・クヌートソン・ホンデだった。俺がもしかしてと心当たりがあった人物がまさか本当にこんな所に来ているとは……。


 グスタフはゴスラント島の元領主だ。今は俺が領主になっているから実際の統治を任せている代官にあたるだろう。ゴスラント島はハルク海のど真ん中にあるハルク海で一番大きな島で立地は最高だ。ハルク海貿易をするには最高の中継地点となる。


 ただ島で最大にして唯一とも言える都市ヴィスベイは、ハルク海側じゃなくてカーマール同盟の半島との間にある海峡側にある。だからハルク海貿易の中継地点としては無駄に島を回らなければならないだけ損だ。


 それに加えて最近の船、まぁ俺達のキャラック船とかガレオン船だけど……、は航続距離も長く積載量も多い。わざわざ島を回ってまでヴィスベイに寄る理由はない。


「はい……。実は今ヴィスベイ、いえ、ゴスラント島全体が困ったことになっておりまして……」


「島全体が困ったこと?」


 本当に困ったという顔をしてグスタフが視線を泳がせる。そんなに言い難いことなのか?


「実は最近徐々に寄港する船も減っていまして……、島の産業も打撃を受けており……」


「あ~……」


 まぁそうだろうな。俺も報告書で知っている。前述通り船の航続距離も積載量も増している今、わざわざゴスラント島の裏側まで回ってヴィスベイに寄る理由はあまりない。ヴィスベイ自身と交易をしているのなら寄るしかないけど、カンザ同盟内での交易ならば今更ゴスラント島に寄る必要はなくなってしまった。


 船足も速いし積載量も多いんだから、わざわざ遠回りして寄り道するよりも最短で目的地へ向かった方が得だと皆判断しているんだろう。そうなると今まで貿易船が立ち寄ってくれていたヴィスベイの産業は衰退してしまう。


 色々と貿易品の取扱量とか、産業の売り上げとか、下がってるなぁとは思っていた。思っていたけど……、何の指示も改善もせず放置したままだった……。


 農業と畜産はあるんだから最悪貿易が必要最小限になったとしても領民が飢えて死ぬということはない。そもそも元々そんなに貿易品があったわけではなく、ただ補給や宿泊に寄ってくれる船の消費があったから、その客を相手にする産業が潤っていただけのことだ。それらがなくなっても……、まぁ……、生きてはいける……。


「どうかお願いします!フロト様!どうか!どうかゴスラント島をお助けください!」


「う~~~~ん……」


 俺だって産業が下がっているのはわかっていた。でも何故何も手を打たなかったかというと……、良い方法が思いつかなかったからだ。


 とりあえず莫大な予算と労力をかけて良いのなら一つ手っ取り早い方法がある。それはヴィスベイとは逆側、ハルク海側に中継用の港を建設することだ。


 今はわざわざ島の裏側まで回ってヴィスベイに寄る利点が失われてしまった。その結果寄港してくれる貿易船が減って困っている。だったらもっと便利が良くて、船が多く寄ってくれる港を作ればいい。


 ハルク海側に港が出来れば寄っていこうかと思う船も増えるだろう。特にカーン騎士団国の北東の果て、ウィンダウからステッティンやキーン方面を目指すなら、こちらの大陸沿いに南下してくるよりゴスラント島に寄る方が都合が良い。


 もちろんウィンダウよりさらにハルク海の東の果てから来る船も同じだ。モスコーフ公国の船や、もしかしたらカーマール同盟の船もゴスラント島のハルク海側に良い中継用の港が出来れば寄っていくかもしれない。


 ただこれは絶対に港の利用者を見込めるという話じゃない。もしかしたら莫大な予算をかけて港を作ったはいいけど、結局ほとんど誰も利用してくれない、なんてことにもなりかねない。そうなると予算や労力をかけた港も無駄になるわけで……。


「何か名産でも特産でも、ゴスラント島に何かあれば良いのです!どうか!どうか!」


「…………あれ?名産はもうあるでしょう?」


「え?」


「……え?」


 グスタフとお互いに首を傾げあう。ゴスラント島にはとんでもなくすごい名産品があるじゃないか。それを少し量産して出荷すればそれを求めて船が集まるはずだ。ついでに港の近くで倉庫業でもすればハルク海の中継地としてさらに重要性が増すだろう。


 まぁそれは一時的なもので、これからどんどん船の船足は速くなるし、積載量は増えるし、途中で寄港するよりも直通の方がますます便利になるだろうけどな……。


「名産とは一体何でしょうか?」


 もう一度グスタフが聞いてくる。本当にわからないのか?


「ゴスラントシープがあるでしょう?」


 ゴスラント島には頭が黒い羊がいる。それをゴスラントシープといい、とても人気の、謂わばブランドのようなものになっているはずだ。


「それは島で羊は飼っていますが……、ただの羊ですよ?どこにでもいますし……、それに島の羊は少ししかいません」


「あ~~~……」


 これはあれか……。地元民達にとってはただの羊じゃん、みたいになってるってことか。まぁ地元の名産なんて案外地元民にはそんなものかもしれない。日本だってそういうものは多いと思う。


「ゴスラントシープは各国各地で大人気です。あまり量産しすぎては付加価値が下がってしまう恐れもありますが、ある程度は生産量を増やして輸出の目玉にしましょう。それと並行してハルク海側に港町を建設します」


「いや……、あの……、新たな町を拓くような予算も人手もありませんが……」


 ふむ……。どうやら新しく町を拓くほどの負担をかけるのは申し訳ないと思っているようだな。


「ゴスラントシープの繁殖や畜産への支援、また港町の建設はカーン家の持ち出しで行ないます。ただこれは問題の先延ばしなので、他にも色々と考えないと今後はどんどん取り残されていくことになりますよ」


「はぁ……」


 何かわかったんだかわからないんだかの顔をしてグスタフが頷く。代官がもっとしっかりしてくれないと困るよ君ぃ。


「それと、恐らくですがハルク海側に作っても港町はそれほど流行らないでしょう。暫くの間だけ利用されるだけで恒久的なものではありません。そこで新しい港町とヴィスベイの港を当家の軍港として利用しましょう。それなら他の貿易船が去っても一定の利用価値は確保出来ます」


「おおっ!なるほど!」


 本当にわかってんのかね……。まぁいいけど……。


 折角新しい港を作るのなら最大限利用しなければ投資分が回収出来ない。確かに貿易の中継地としての役割は今後どんどん低下していくだろう。でも立地の良さは変わらない。ゴスラント島にうちの軍艦が停泊していればハルク海全体を睨める好位置だ。


 それと島の表と裏であるヴィスベイと新しい港に船を分けておけば、どちらかの軍港が誰かから奇襲を受けても艦隊の全喪失は避けられる。カーマール同盟の半島とも近いから向こうへの圧力にもなるだろう。


「一先ずそんなところで良いですか?」


「はい!十分すぎます!」


 うむ。グスタフ君も満足したようだ。それじゃ早速準備を……。


「あぁっ!」


「えっ!?なっ、何か?」


 俺が急に声を出したからグスタフがビクッとして飛び上がっていた。でも俺はそれどころじゃない……。


「いえ……、何でもありません。そのように手配しておくのでグスタフもそのつもりで……」


「はっ、はい……」


 まだ何か変な顔をしているグスタフを放って応接室を出る。多分グスタフは俺が急に声を上げたから何事かと思って驚いたんだろう。でも俺としてはそんな場合じゃない。


 何故ならば……、また……、俺の仕事が増えてしまったからだ!


 新しい港町の建設なんてそんな簡単な話じゃない。いや、カーン家の力を結集して総力を挙げてやるのなら簡単だよ?キーン軍港みたいなそんな大規模なものにするつもりもないし。予算も労働力も資源も十分にある。


 でも……、それを考え、人を割り当て、実行し、監督し、検査するのは俺だ。俺の体は一つしかない。今ですら仕事が一杯一杯の俺がさらに港町建設を担当するなんて正気じゃない。これ以上は無理だ。仕事が捌けない。


 それに確かにカーン家全体で見れば予算も資源も労力も潤沢にある。でもベテランの職人が足りない。今カーン家の支配地はどこもかしこも建設ラッシュだ。道路も建物もベテランの職人がいなければ十分な品質の物は出来ない。素人の労働力がいくらあっても無駄だ。


 今余っているとしたら……、港の整備関係の職人くらいか……。海底を浚ったり、護岸工事をしたり、防波堤や消波堤の建設工事が出来る職人なら余っているだろう。キーンやキーン軍港を建設した職人達の手が空いているはずだ。


 とりあえず……、港の整備から始めようか。町の建設はボチボチ始めていこう。一気にあれもこれもとは出来ない。まずは出来ることから……。


 誰か……、神様……、もう一人俺をください……。もうこれ以上は……、俺一人じゃ無理です……。



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 新作連載を開始しています。よければこちらも応援のほどよろしくお願い致します。

イケメン学園のモブに転生したと思ったら男装TS娘だった!

さらに最新作を連載開始しています。百合ラブコメディ作品です。こちらもよろしくお願い致します。

悪役令嬢にTS転生したけど俺だけ百合ゲーをする
― 新着の感想 ―
[気になる点] フローラが分裂したらしたでトラブル起こりそう [一言] 物語的には存在しないけど、カタリーナにUZIとかMAC10持たせて乱射させたら似合いそう。 メイド服に短機関銃ってよくね?
[一言] >そこらの精鋭騎士団を一方的に全滅させられるくらいの性能だろう。これは脅威以外の何物でもない  某大ハーンに派遣部隊を一方的に殲滅されてフローラが焦ることはもうなさそうですね。
2020/06/29 00:59 通りすがりの人
[一言] 誰か…、誰かおらぬのか…。他に仕事を任せられる有能な人材が……。何とか有能な人材に仕事を割り振っていかないと、このままではマジでフローラ様が過労死しちゃうよ~。
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