第三百九十話「どうやっても勝てない!」
さて!それでは本日のメインイベントに取り掛かろう。この魔法で着火させるというのはあくまで俺の趣味の範囲を出ていない。実用性も未知数だし、そもそも俺達みたいに魔法で着火出来る人材自体がほとんどいない。
俺の趣味や、魔法と科学の融合などという夢とロマンのための実験であって、実際にこれが武器開発になるかどうかも不明だ。
それに比べて今から試すのは実際にカーン家の次期主力火器になる可能性が高いものだ。毎度お馴染み地球の知識を丸パクリしたその次期主力はズバリ『ドライゼ銃』という。
映画でもドラマでも漫画でも何でもいいけど古い時代のものを扱ったもので、よくライフル銃で銃身の後ろの方の横にあるレバーみたいなやつをガチャガチャ操作して、弾を込めて、構えて撃つのを見たことがあるだろう。あれこそがボルトアクション式といい、ドライゼ銃は現代に通じるボルトアクション式の機能を開発した画期的な小銃だった。
まずフリントロック式にしろ、パーカッションロック式にしろ、叩いて火を起こす場所が何故構えた時の右側についているのか。それは構えて狙う時に邪魔になるから……。技術的に真ん中の後ろに安全につける方法がなかったから……。色々あるだろう。でも理由なんざどうでもいい。問題はそれによって起こる不具合だ。
いくら銃を構えて狙って、真っ直ぐに弾が飛ぶとしても、撃鉄が右側を思いっきりぶっ叩いたら絶対に構えた銃が左へ逸れてしまう。それも見越して構えろとはいうけど絶対に命中精度で影響が出るのは馬鹿でもわかるだろう。
それでも初期のマスケット銃のように命中精度なんて最初からなくて、とにかく数撃ちゃ当たる形式だったなら細かいブレなんて関係なかった。
でもライフリングされて命中精度が向上すればするほどそのブレによる命中精度の低下は影響が大きくなってくる。片側を思いっきりぶっ叩く構造は命中率低下に影響してしまう。だから現代の銃は全て撃鉄が真ん中にある。真ん中から真ん中を叩けばブレを最小限に出来るからだ。
ドライゼ銃は後装式で、所謂ガチャガチャと横のレバーを操作して弾を込める場所を開けて、弾を込めて蓋を閉める。またこのガチャガチャとやっている時に中のバネが動いて撃針がコック状態になる。銃の中のど真ん中に撃針があるから、トリガー時のブレがそれまでの右側についていた時に比べて格段に下がるというわけだ。
発想自体はそう難しくない。紙製薬莢を薬室に装填して、撃針で雷管を叩き着火させる。ただこれだけ。問題は今までの単純な前装式よりも構造が複雑になること。またガス漏れが起こることだ。
いくら蓋をきちんと閉めているといってもこの世界の、いや、地球でも当時の技術力では完全に密閉することは出来なかった。構造が複雑で穴の空いている場所が多ければ多いほど隙間が出来てガスが漏れ、弾の威力が下がる。
実際ドライゼ銃は他のライバル銃達よりも射程が短い問題があった。ドライゼ銃を改良したシャスポー銃はガス漏れ防止用のゴムリングを使って密閉性を上げている。ただ残念ながらこちらではまだゴムは未発見だし、工業的にも精密な物は作れない。また強度の問題もある。
密閉性が低く射程が犠牲になっているとはいっても、それはドライゼ銃やシャスポー銃の時代の話であって、今のこの世界の状況ならこの新型銃でも十分すぎる性能だ。むしろ有効射程は伸びてるしな。
他の問題点としてはたくさん撃つとススなどがついて銃身が詰まったり、蓋がきちんと閉じなくなったりすること。それから撃針がへたったり折れたりすること。一定数を撃ったら撃針を交換したり、銃身を掃除したりしないと連続使用に耐えられない。
まぁ地球のドライゼ銃がそういう問題があったというだけだ。しかもススの方は兵士が携行している弾丸数よりも多く撃たないとそれほど問題にはならなかったようなので、当時のプロイセンではそれほど問題にならなかった。つまりススの心配をする前に弾切れというわけだ。
また撃針は予備が装備品にあり、一定弾数を撃ったら自分で交換しなければならない。これも戦闘中なら大変だけど、事前にきちんと準備や手入れをしていればそれほど問題でもないだろう。まぁ……、兵士達が全員きちんと整備やお手入れをしてくれる者だったらの話だけど……。
「それでは試射してみましょうか」
「またうるさいんでしょ?」
そう言いながらミコトは耳を塞いで俺から離れていった。まぁそりゃうるさいだろうけど……、そんなに離れるほどか?いいけどさ……。
ボルトハンドルを操作して紙製薬莢を込めて閉じる。狙いをつけて……。
バァーーーーンッ!
という音が森に木霊する。そして弾は見事、的に命中していた。とても狙いやすい。これまで他のマスケット銃を試射してきたけどこれほど狙い通りに飛んでくれるものはなかった。ライフリングや撃鉄の位置の変更によってこれほど命中精度に差が出るものか。
「ちゃんと当たってるね!」
何故かルイーザが自分のことのように喜んでくれている。さっき魔法着火式の銃を反動で飛ばしてしまっていたミコトとルイーザにはこれは任せられない。アレクサンドラも同じだろう。なら試射を任せられそうなのはクラウディアくらいかな。カタリーナはどうかわからない。本当にカタリーナって結構謎だよな。
「クラウディアも撃ってみてもらえますか?これは魔法は必要ありませんので。他の方が使ってみた感想なども知りたいのです」
「う~ん……、それじゃ仕方ないね」
ふふふっ!そうは言いながらも顔は満更でもないという表情をしているぞ。きっとクラウディアも撃ってみたかったに違いない。弾込めや射撃の手順やコツを説明してからクラウディアに任せてみる。危ないことをしそうだったらすぐに止めるから後は出来るだけ本人に任せて余計なことは言わない。
「いくよ……」
クラウディアの言葉で皆が耳を塞ぐ。そして……。
パァーンッ!
と音がして的が割れた。木の板の的だから当たれば割れてもおかしくない。クラウディアはあまり銃は撃ったことがないはずなのに一発で当たった。やっぱり命中精度は劇的に向上していると言える。それに弾込めも簡単に覚えてすぐに連射出来る。前装式に比べたら射撃速度も圧倒的だ。
「これは凄い!僕でも当たったよ!」
「クラウディア可愛い」
クルッと振り返ったクラウディアがとても可愛い笑顔を浮かべていた。本当に可愛い。普段のキリッとした騎士様はどこへいったのかと思うような、年相応の少女の笑顔だった。
「あっ……、いや……、これは……」
ますます赤くなってしどろもどろになってるのが本当に可愛い。王子様タイプのクラウディアもやっぱり女の子なんだね。
「私!私もやってみたい!」
「あ~……、ミコトはちょっと……」
さっき魔法着火式で銃ごと放り投げちゃってたからね……。もちろん向こうの方が威力が強い分、反動も強いんだけど、あれを見た後ではミコトにこういう反動の大きい小銃を任せようとは思えない。
「何よ!いいじゃない!」
とうとうミコトはプリプリと怒り出してしまった。というわけでここからはドライゼ銃じゃなくて本日のメインイベント第二弾に入りたいと思う。
「まぁまぁ、そう怒らないでください。この銃は反動が強いので駄目ですが、次の銃はミコトでも扱えると思いますから……」
「えっ!?本当?どれ?早く!早く!」
俺がそう言うとミコトがせっついてきた。少し落ち着かせながら次の銃を取り出した。
「え?何それ?」
俺が取り出した銃を見てミコトのテンションが明らかに下がった。何故だ……。俺が取り出したのは拳銃、あるいは短銃やピストルと呼ばれるものだ。
坂本龍馬が持っていたリボルバーの……、なんていう先進的なものじゃない。どちらかと言えば……、そうだな。海賊映画なんかで海賊達が持ってるような短い火縄銃みたいな、あんな感じのやつだ。
現代のイメージで拳銃というと思い浮かべるような小型軽量のものじゃない。単純に火縄銃を短く切っただけじゃないか?って思ってしまうような、そういう感じのものだ。でももちろん銃なんだから威力は十分。近距離で護身用に使うには十分すぎる殺傷能力を持っている。
これもフリントロック式やパーカッションロック式じゃなくて、極端に言えばドライゼ銃の銃身を詰めただけとも言える。紙製薬莢をボルトアクション後装式で込めるタイプだ。ただ銃身も弾も小型化しているから反動も小さい。これならミコトやルイーザでも扱えるんじゃないだろうか。
「まずは私が試してみますね」
そう言って弾を込めて、的を狙って、撃つ。ちゃんと的に当たった弾が木の板を破壊する。
「凄い……」
こんな小さな拳銃でもちゃんと銃としての威力があることを見たルイーザが驚いてくれた。
「これならルイーザやアレクサンドラでも使えると思いますよ。暴発もないようですし試射してみますか?」
「うん!」
「そうですわね……。これなら護身用に使えそうですわね……。ならば私も……」
ルイーザとアレクサンドラは乗ってきた。チラリとミコトの方を見てみれば……。
「私も!私もやる!」
「はい。それでは皆さん順番に練習してみましょうね」
こうしてミコト達には拳銃、いや、短銃としておこうか。短銃の使い方を教えた。両手でちゃんと構えたら皆でも反動に負けないくらいには耐えられるようだ。皆が一通り試した後、カタリーナもやりたそうにしていたからカタリーナにも教えた。クラウディアは一人でドライゼ銃の練習を続けていた。どうやら気に入ったらしい。
「それではベースキャンプに戻りましょうか」
「「「「「はーい!」」」」」
散々試射や射撃訓練を行なった俺達はジャンジカ達がいるベースキャンプへと戻った。何やら良い匂いが漂っている。何か焼いてるようだ。
「おかえりなさいませフローラ様」
「はい。それで……、何やら良い匂いがしていますが」
チラリと石を積んだ竈の方を見てみれば網や串で何かを焼いていた。お腹が空いているのもあるけど何とも食欲をそそられる。
「いやっ……。水竜が食べられるかどうかわからなかったので……、その……、一先ず焼いてみてはどうかと……」
何か言い訳がましく視線を泳がせながらジャンジカがそんなことを言う。何か様子がおかしいな?
「それは良いことではありませんか。それなのにその態度は何ですか?何かやましいことでも?」
「あっ……、いや……、その……」
俺に追及されるとますますしどろもどろになって視線が逃げる。どうやら何かやましいことがあるらしい。一体何だというのか。
「ムサシ?ジャンジカは何を隠しているのですか?」
「はっ。残っていた者達はこの焼いた匂いに抗えず、フローラ様をお待ちすることなく盗み食いを働いたのです」
「あ~~~…………」
そういうことか。確かにとてもおいしそうな匂いがしている。その誘惑に負けて、俺に無断で食べたことを後ろ暗く思っているのか。まぁ確かに食えるかどうかもわからないと言っておきながら、匂いがうまそうだからと全員がつまみ食いとは本当なら笑えない。これが軍だったならば大問題だろう。
けどまぁ今日くらいはいいか。毒見をさせたと思えば目くじらを立てて責めるほどのことでもない。ジャンジカ達も平気そうだし、遅効性の毒とか体に溜まるタイプの毒でもない限りはすぐにどうにかなるということはないんだろう。
「そうですか。それは毒見ご苦労様でした。どうやら平気そうなので私達も食べても大丈夫ですか?」
「はい!それはもう美味で!あっ……」
「「「「「あははっ!」」」」」
ドッと笑いが起こる。まぁ今日はお嫁さん達とピクニック、じゃなくてキャンプか。キャンプに来たんだから細かいことは言いっこなしにしよう。皆で楽しくキャンプファイヤーでもすればいい。
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そして夜、皆が寝静まった頃……、俺はのそりと体を起こす。俺はこの時を待っていた。ここにはうるさい奴も監視の目もない。連れて来た護衛は信用出来る者ばかりだ。ジャンジカが信用出来るのかって?腕前と馬鹿さは信用出来るよ。あいつは裏の謀なんて出来る性格じゃない。それだけは信用出来る。
俺が何をしにこんな所までやってきたのか。新型銃の試射だけならもっと近くで済んだ話だ。わざわざこんな遠くまでやってきた理由……、それは……。
「ぬっふっふっ!」
お嫁さん達が眠っている所へソロリソロリと近づく。そう!俺の狙いは夜這いだ!この大自然の中、城や屋敷ならキシムサウンドを鳴らせば家人達にまでバレてしまう。でもここならその心配はない!ここでなら俺がお嫁さん達を攻め、めくるめく官能の世界に引き摺り込んでも邪魔は……。
「……あれ?」
お嫁さん達が眠っている場所に近づいたというのに……、いない?一体どこへ……。
「――ッ!?んっ!んんっ!」
後ろから口を押さえられる。体中にたくさんの手がのびてきて……。
「しっ!静かにして……」
「んんんっ?」
ミコト?と言いたかったけどくぐもった声が出るだけだった。どうやらミコトに口を押さえられたようだ。焦って損した。それじゃ夜這いの続きを……、って、だから……、この状況はまさか……。
「ふふっ。フロト~……、夜這いにきたわよ!」
「こういう時を狙っていたんだよ」
「迂闊ですわねフローラ」
「えっと……、ごめんね。狙われてたのはフロトの方なんだ……」
「それではフローラ様、今日こそは最後まで……」
「んんん~~~~っ!?」
結局一対五じゃ勝ち目なんてなく……、翌日の朝俺はぐったりしていたのだった。何故かは聞かないで欲しい……。




