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第三百八十一話「結局いつも通り!」


 キーンへ戻る船に揺られながら考え事をする。今頃シュテファンはあちこちに声をかけて大忙しなことだろう。俺はシュテファンに重大な命令を課している。その命令は冒険家を集めることだ。


 冒険家というのは所謂ゲームやラノベの冒険者とは違う。冒険家という言葉がややこしいなら探検家でもいい。つまり外洋に出たり、南の大陸沿いに南下していき、まだ俺達が到達していない新天地へと向かい調査してくる者達のことだ。


 俺が何故あんな苦労をしてまで急いでブリッシュ・エール両島まで行ったのか。それはハルク海、ヘルマン海を越えて西の大洋に出るためだ。そしてさらには大洋から南のまだ確認されていない大陸を確かめたり、もしかしたらあるかもしれない新大陸を目指す。


 まぁただ俺が新大陸や新天地へ向かいたいからっていう理由で征服されたブリッシュ・エールの人達が、もしそのことを知ったら怒るかもしれないけど……。一応それだけじゃなくて、長く続く戦乱状態だったからそれを憂いて戦乱に終止符を打つためにうんぬんかんぬん、と言い訳しておこう……。


 ともかく俺はようやく念願の西の大洋へ出るルートを確保した。まだハルク海からデル海峡を通らなければならないという問題はある。いずれフラシア王国に旧プロイス領を返還させて自由にヘルマン海に出れるようになろうとは思っている。ただそれは別問題であって、今でも西の大洋に出るルートは確保出来た。


 シュテファンは元々冒険家というか探検家というか、そういう志向が強かった。だからシュテファンには海軍とは別に外洋調査に向かう探険家集団を作り上げるように命令した。これは俺が無理やりそうさせたわけじゃなくて、シュテファン自身が最初からそういうことをしたいという希望を持っていたから選んだ人選だ。


 もちろん陸・海軍を集めて訓練は行なっている。でも探検隊に必要なのはそういったただの正規軍じゃない。探検隊には探検隊に向いた人材というものもあるだろう。命知らずでなければ出来ない。それに様々な知識も必要になる。


 俺が教えられる限りのことは教えてきたけど、俺だって実際に探検に出たことがあるわけじゃない。いざその時になってみなければわからない注意点もあるだろうし、予想外のことも起こるだろう。本物の探検家じゃない俺が全ての注意事項を事前に気付いて教えるのは不可能だ。


 それでも命懸けで探検隊に加わって調査に出られる者達を集めてもらっている。そして恐らく……、シュテファン自身も行くつもりだろう。特別親しい間柄でも、ずっと一緒にいたわけでもないけど……、それでも俺の近くにあれだけ仕えていた者が、そんな危険な冒険に出ようとしているのは複雑な思いでもある。


 でも俺が調査を命令しているわけだし、本人も望んで探検に出たいと言っているのなら……、この寂しい気持ちや不安な気持ちを口に出すべきではないんだろう。願わくば無事に戻ってきてもらいたい。それだけだ。


 まぁそもそも今すぐ出発するわけじゃない。今は騎士団国とブリッシュ・エール王国から人を集めている段階だ。しかも人が集まったからすぐ出るわけでもない。ガレオン船の操船や、外洋航海術の訓練も必要だから、早くても来年以降かな。


 南へ下るルートは邪魔な半島があるために調査の難航が予想される。その点、俺は北ルートに期待したい。もしこの世界が地球と良く似ているのなら『アレ』があるはずだ……。


 現代日本人なら何故俺が北なんて見当はずれの方向への移動を考えているかわからない人も多いだろう。メルカトル図法に慣れている日本人なら、イギリスやスペインからアメリカ大陸を目指すなら真っ直ぐ西や南西方向に向かうと考えてしまいがちだ。


 でも実際には海流や途中にある島の都合上、大西洋を横断するなら西アフリカから中米、カリブ海に向けて進む南ルートか、イギリスからフェロー諸島、アイスランド、グリーンランド、そしてカナダへと到る北ルートが主要な航路となる。


 絶対にアメリカ大陸があるとわかっていて、エンジンを載せて航海日数も確実なら真っ直ぐ大西洋を横断するルートでもいいだろう。現代ならばそういう航路もたくさん使われている。


 でも本当にその先に何かあるかもわからないのに、何日かかるかもわからない状態で無補給で島もない所を渡れというのは無茶な話だ。それも動力が故障しない限り一定の速度で進める船と違って、帆船は凪が続けば船足も遅くなる。外洋は海も荒れるし簡単なことじゃない。


 フラシアの南西にある半島を越えて、南の大陸沿いに調査していくルートと、北の諸島群を進んでいくルートの両方を同時に調査したい。北側に今回まだ未統一だった諸島があることは確認している。そちらへ進んで行けば……。


「フローラ様、キーンが見えてまいりました」


「カタリーナ……。わかりました」


 波に揺られながらも、船の上でも出来る仕事をしながら考え事をしているとカタリーナに声をかけられた。どうやらそろそろキーンに到着するらしい。


 今回は日程が本当にギリギリだ。いつもならもっと余裕を持って行動するんだけど……、ブリッシュ・エールの統一やら後始末やら何やらでギリギリまで時間を使ったからな……。あまりゆっくりしている時間はないけど……、こちらでも予定通りに動かなければ……。




  ~~~~~~~




 キーンに到着した俺達はガレオン船から降りた。俺達が乗ってきた船はブリッシュ島とカーン騎士爵領を往復する定期便だ。ガレオン船がキャラック船を護衛する形で定期的に往復して物流を担っている。俺のために出された船じゃないから俺の思い通りに動くということはない。


 もし俺専用の船だったならばキーンに寄らずに直接プロイス王都ベルンまで行くとか、キーンに寄っても用だけ済ませてすぐにベルンに向かうという方法も取れた。でも今うちの船はギリギリで回している状態だ。俺のためだけに貴重な船を一隻好き勝手に使うわけにはいかない。


 今日俺達はキーンで一泊して、俺は少し用を済ませてから明日キーンの港から別の船でベルンに向かう。キーンから東へ、ステッティンやダンジヒ、ケーニグスベルクへ向かっていく貿易船も出ている。


 キーンは現在東のハルク海貿易の終点であり、西のブリッシュ島方面へ出て行く玄関口でもある。カンザ同盟で貿易したり物資を集めてきたものが、キーンを通してブリッシュ島へ運ばれているというわけだ。


 だから俺達を乗せてきた船はまた積み込みをしたり、他のキャラック船と船団の構成を入れ替えてブリッシュ島へと向かう。俺達が東へ行きたければカンザ同盟内の貿易船に乗り換えてベルンへ向かえということだ。


「それじゃ早速お風呂に入りましょ!」


 本当にミコトはそればっかりだな……。胸も小さいしもしかして性欲的にはミコトは男性的なんじゃないだろうか?ホルモンとか体的に実は……、とかいう線も有り得るかもしれない。そう疑ってしまうほどにミコトの性欲は正直で男性的だ。


「申し訳ありませんが私はこれから向かう所があります。皆さんは別邸で休んでいてください」


「えぇっ!どういうことよ!そんなの聞いてないわよ!」


 いや、言いましたけどね?俺の予定はある程度伝えている。キーンに戻ったら研究所へ行くと言っておいたはずだ。ミコトが聞いてなかったか忘れてるだけじゃないだろうか。他の皆は別に驚いた様子もないし。


「そんな大した用ではないのですぐに戻りますよ」


 本当は色々視察したり成果を確認したりしたいことがたくさんある。でも今日一日で全てを回ることは出来ない。明日には出発だし出来ることは限られている。中の機密は見せられないから別邸で待っていれば?って言ったのに結局お嫁さん達全員で研究所へと向かうことになった。


 お嫁さん達には控え室で待っていてもらい簡単にアインスと打ち合わせや成果の確認を行なう。こちらは進捗状況の確認程度なのでそれほど時間はかからない。アインスは俺と色々話したいようだけど、今回は時間がないからと最低限の話だけで打ち切った。少し残念そうにしていたけど、俺に対して無理も言えないと思ったのか諦めたようだ。


 それよりも今回俺がここに来たのはアンネリーゼが俺の望むものを生産出来るようになったからだ。本来ここはアンネリーゼの研究所とは違うけど、今回は俺がアンネリーゼの研究所まで行っている時間が惜しいからこちらに出向いてもらっている。アインスの方も見れるから一石二鳥というわけだ。


「フローラ様、こんにちわ~」


「こんにちはアンネリーゼさん。例の物が出来たそうですね」


「はぃ~。こちらです~」


 俺はアンネリーゼから二種類の粉末状の物質を受け取った。一つは重曹、そしてもう一つはクエン酸だ。重曹は工業的にも色々と使っているから前からある程度はあった。ただそれが食用に耐え得る品質であるのかは別問題だ。それを食用として使えるようにしてもらったものがこれだろう。


 そして今回苦労したのがもう一つのクエン酸の方……。俺のなんちゃって知識じゃわからないことが多い中で何とかアンネリーゼと知恵を出し合って、試行錯誤して、ようやく生産にこぎつけた。


 この二つがあれば『アレ』が作れる。現代人ならほとんどの人が大好きであろうアレだ。


「分量の割合もまだ試行錯誤ですし、ぶっつけ本番で献上するわけにもいきませんから、少し練習も兼ねてアレを作ってみましょうか」


「今まで試してみた割合や出来たものの仕上がりはこんな感じです~」


 アンネリーゼからメモを受け取る。ある程度目安が出来ているのはありがたい。今日はお嫁さん達も来ていることだし、ちょっと仕上がりの検証に付き合ってもらうとするか。




  ~~~~~~~




 別邸に帰ってきてようやく皆でお風呂だ。久しぶりに大きなお風呂に入れる。俺はそれが楽しみだったんだけど何か皆は様子がおかしい。理由はわかってるけどね。


「うぅ……、ケプッ」


 ミコトがお腹を押さえながら小さくケプッと空気を吐き出した。極力抑えようとしているんだろうけど、初めてのことで刺激が強すぎたからうまくコントロール出来ていないんだろう。本来ならマナーが悪いということになるけど今回ばかりは仕方がない。


「あんなに味見するからですよ」


「だって!うっ……」


 いつものように声を出そうとしてまた口元を押さえて顔を背ける。我慢出来ないから小さく出しているんだろう、○ップを……。あまり言ってあげると可哀想だからなるべく言わないでおいてあげよう。


「でもアレ凄かったね!私あんなの初めてだったよ!」


「確かにあそこまで刺激が強いのは初めてだったね」


 クラウディアは近衛師団でビールとかも飲んだことがあるのかもしれない。未成年……、ってことはないけどお酒はあまり嗜まない者が多いお嫁さん達ではアレは刺激が強すぎたんだろう。


 まぁミコトが飲みすぎてゲプゲプいってる以外は特に問題はない。それにミコトが大人しいのならチャンスだ。


「さぁ!それでは今夜は私が皆さんを洗ってあげますよ!覚悟してください!」


「きゃぁ!」


 ミコトが大人しい隙にルイーザの体を洗う。にょほほっ!これはこれは!中々!ルイーザも俺達の中では中々立派なものをお持ちの方だからな!この手触り!ボリューム!素晴らしい!


「どうしたのですかルイーザ?いつもはルイーザの方が私にこうしているではないですか」


「そっ、それは……」


 顔を真っ赤にして恥ずかしそうに伏し目がちに口篭る。ルイーザは皆と一緒になって俺を攻めてくるけど、本来一人なら大人しい性格だ。いや、性格はそんなに大人しいわけでもないけど貴族と平民という身分差のために遠慮しているというべきか。昔はもっと遠慮がなかったから結構ミコトに似たような性格だったもんな。


「ルイーザ……、いつまで遠慮しているつもりですか?貴女の本来の性格はこんなものではないはずでしょう?昔一緒に農場で仕事をしていた頃はもっと活発だったではありませんか」


「それは子供の頃だったからだよぉ……」


 まぁそうか……。子供の頃はやんちゃで男勝りな女の子も、大人になればお淑やかな女性になることもある。もちろん子供の頃と変わらずやんちゃなまま大人になる女性もいるだろうけど……。


「ルイーザばっかりずるいんじゃないかい?僕も混ぜてもらうよ」


「ちょっ!?クラウディア!?」


 ルイーザを洗ってあげている俺を後ろからクラウディアが洗ってくる。


「ちょっちょっ!そこっ!くすぐった……、あははっ!」


 こちょこちょと敏感な場所をくすぐられて笑いが漏れてしまう。


「ほらほら!僕の『てくにっく』はどうだい?」


「あ~っ!ちょっと!皆で何を先に楽しそうにしてるのよ!私も混ぜなさい!」


「はしたないですわよミコトさん。ですが私も混ぜてもらいましょうか」


「それではフローラ様、失礼いたします」


「えぇっ!これでは結局いつも通りでは……、あ~~れ~~っ!」


 今日は俺が攻めるはずだったのに……、この後どうなったかは言うまでもない。



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― 新着の感想 ―
[一言] 重曹(炭酸水素ナトリウム)とクエン酸だからベーキングパウダーですね( ˘ω˘ ) つまりホットケーキでも作るのかな? 重曹だけならカルメ焼きも作れるね
[良い点] いくらフローラ様がタチに回りたくても、お嫁さん達の勢いでネコになってしまう~。 [一言] フローラ様の思惑が壮大になってきたね…。
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