第三百七十七話「隣の島も貰おう!」
「はい!皆さん注目!静かに!」
「「「「「…………」」」」」
俺が前に立ってそう言うと一瞬で静かになって全員の視線が集まった。というかそもそも最初から騒がしくなんてなかったけど……。何というか……、前世の学校のようなノリでそう言ったら皆真剣な顔をして俺に注目して静かにしている。
もうちょっとこうさぁ……、軽いノリでいこうよ?皆真面目なのは良いけどさ……。そこは笑うとかさ。わざと騒がしくするとかさ……。色々あるじゃん?
まぁ無理か……。前世のノリについてこれる者がいるはずもない。そして俺は絶対的権力者の地位にいるんだから、その配下の者が皆こうして真剣に、真面目になるのも当然だ。何かもうちょっと軽い感じにしてくれる方がいいんだけど……。
「え~……、それでは会議を始めたいと思います」
仕方がないのでさっさと会議を始める。いつまでも静かな中をただ注目されているだけというのも耐えられない。
今日は重要な議題があって会議を開くことにした。重要な議題といってもこう……、一言でうまく言えることじゃないんだけど……。何て言えばいいのかな……。皆真面目すぎるというか、融通が利かないというか、気を利かせすぎるというか……。
ぶっちゃけ俺はアルバランドとウィルズはこれから攻略していくものだと思っていた。それなのに俺がロウディンで缶詰めになっている間に征服し終わってました、というのは少々納得いかないというか、腑に落ちないというか。
確かに俺が皆に権限を与えた。そして交渉する際の条件も俺が決めて提示し、交渉が失敗すれば武力侵攻しかないね、という話はした。でもまさか俺が知らない間に勝手に使者を出して、交渉して、失敗したから即武力侵攻します、となるとは思ってもみなかったわけだ。
だけど結果としてはそうなってしまった。俺がそろそろ動かないとやばいなと思ってたら、もう両方とも征服した後でした、というのがどうにも納得出来ないというか何というか……。
そもそもアルバランド、ウィルズを両方同時に攻略していたことがびっくりだ。俺はどちらか片方ずつ片付けなければと思っていたのに、皆はあっさり両方に同時侵攻して同時攻略してしまった……。あまりに理不尽すぎる……。これじゃあれこれ考えすぎている俺が馬鹿みたいだ。
「カーザー王様!本日の会議の議題は何でしょうか?」
「あ~……、そうですね……。まずは皆さん『ほうれんそう』をもっとしっかりしましょう……」
俺と皆との食い違いは、常識の違いによるものだとすればそれはどうしようもない。どうしても俺は前世の常識に捉われてしまう。だからこちらでは当たり前だろうと思う対応をおかしいと思ったり、考えもしなかったり、色々と食い違いが出てしまう。それはもう仕方がない。そういうものだと割り切ろう。
問題なのはお互いがその食い違いに気付かないまま物事を進めて、俺が考えていたことと、皆が実際に行なったことに大きな隔たりがあることだ。
例えば……、町や運河の建設ではこのようなことは起こらない。何故ならば共通認識の設計図を用いて、お互いに納得するように会議を行い、実際にそれを施工しつつ、問題があればその時々で話し合うからだ。
これは建設関係に限らず、他にも各種研究所などでも同じことが起こっている。何かの失敗があったり、行き詰ったことがあれば報告し、相談し、俺が解決策を提示するからだ。この話し合いや情報や認識の共有が大事だと思う。
でもこれが事、軍政や内政になるとどうにもかみ合わない。皆は俺に報告して俺の手を煩わせる必要はないと思うのか、それぞれの裁量で解決したり行動したりしてしまう。その結果、俺が当初に想定していたことを超えた事態になる。今回のアルバランド、ウィルズの侵攻がまさにそれだ。
結果的にうまくいったからよかったじゃないか、では済まされない。俺の知らない所でいつの間にかうちに関わる戦争が行なわれていた、というのは大問題だ。俺の認識が甘かったと言えばその通り。言い訳のしようもない。
だけど……、いや、だからこそ、同じことが繰り返されないようにもっとしっかりした連絡体制を確立しておかなければならない。
「『ほうれんそう』ですか?」
「そうです。前から何度も言っていますが新しく入った者は知らない者もいるでしょう。報告・連絡・相談で報連相です。それぞれが勝手に判断して独自に動くのではなく、きちんと報告や連絡をしようということです」
うちは常に拡大し続けている。古参の者達にとって当たり前のことでも、新参にとっては知らないことやわからないこともたくさんある。
いちいち上司に判断を仰いでいられない時というのはどうしてもある。戦場で、敵が思わぬ動きをして作戦と違う状況になった時にいちいち上司に、『こういう時はどうすればいいですか?』なんて聞いていたら対応が間に合わない。
それで敵に逃げられるくらいならまだ良いけど、もしそんな判断の遅れで自軍に致命的なダメージがあったら最悪だ。だからそういうケースでは現場指揮官の裁量で独自に行動する必要はある。何でも上司と相談し、指示を仰がなければならないというわけじゃない。
でも時間も余裕もあるのに現場担当者が勝手に『これでいいだろう』なんて決めることは許されない。他との整合性も必要なことを、その場限りで決めて連絡もしなければ最終的に大変なことになってしまうだろう。
だからその場で即断即決しなければならない場合と、十分に相談出来て、しなければならない場合で、しっかりした基準なりがなければならない。でもそんなことを四角四面にきっちり決めることも無理だ。ケースバイケース、時と場合によりけり、言い方はいくらでもあるけど、作業や状況が千差万別な以上は、画一的な答えは存在しない。
そもそも例外を設ければ、本来なら例外に当たらない場合でも全て例外として押し通してしまう場合もあり得る。実際にどれくらいそんな例があったかはともかく、イメージで言えば何でも『統帥権干犯だ!』と言って自分達の無理を押し通す軍部、というようなことにもなりかねない。
それらが事実であったかどうかはともかく、そうやって何でも例外事項や、他者に干渉されないこととして押し通すというのはあり得る。
「正直これは難しい話です。何でもかんでも決まりや基準でガチガチにしてしまっては柔軟な運用が出来ません。ですが各人が好き勝手に判断していては越権行為や、他の者との連携や整合性が取れないという事態にもなります。私もうまくそれを法として決めることは出来ません。ただ皆さんにはそれを考えていただきたいのです」
自分でも明確な基準は示せないと言っておきながら、人にはそんな曖昧なルールをうまく守れと言う。言っていることは滅茶苦茶で人任せだけど、他にどうにも言いようがない。
「カーザー王様に与えられるだけではなく……、我々も我々で考え行動しなければならないということですね」
「ゴトー!出歩いて大丈夫なのですか?」
俺達が会議をしている場に、顔中火傷の跡でボロボロの男が入って来た。それはもちろんハロルド・ゴドーだけど、ハロルド・ゴドーはあの時に死んだ。俺達はそういうことにしている。だからここにいるのは最早ハロルド・ゴドーではなく、ゴトーという別の人間だ。
「はい。元々カーザー王様の奇跡により回復しておりましたので」
それは嘘だな。俺の回復魔法はまだ不完全だ。それにあの時は俺のほぼ全魔力を注いでも完治には程遠かった。何より問題なのが、俺の回復魔法は体が本来持つ回復力を促進させるようなもの、ということだ。
つまりどう頑張っても体が自己回復出来ないような傷は治せないし、強制的に回復を促進させる分だけ怪我の場所以外の体まで問題を起こしてしまう。単純に怪我が治って終わりというものではなく、自己治癒力を高めるために体力も消耗するし、それだけ体を酷使することになる。
ハロルド……、いや、ゴトーも一命は取り留めたけど、あの後すぐに意識を失い、火傷の後遺症に悩まされながら寝込んでいた。ようやくある程度は回復したようだけど完治には程遠い。
「そうだな……。ゴトー殿の言う通りだ」
「うむ!我々はカーザー王様に頼りすぎている!」
「我らが頼りないからカーザー王様にご苦労をおかけしているのだ。我らがもっとしっかりせねば!」
うんうん。何か俺の思ってたのと違うけど、何か皆もやる気になってるようだし良い事……、なんだよな?ゴトーのお陰で何か綺麗にまとまったはずだ。
ということでまだまだ会議は続き、ほうれんそうについてはもちろん、今後の方針などについても話し合われた。
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さて……、俺がブリッシュ島関連で滞在出来るのもあと一週間ほどというところだろうか。今回の仕上げとして俺はブリッシュ島の隣にあるエールランド島を攻略しようと思う。
エールランド島はウィルズの西側にある島で、ブリッシュ島とエールランド島の間をエーリッシュ海峡という。エールランド島に渡るにはウィルズやアルバランドからの方が都合が良い。ブリッシュ島を統一したお陰でその辺りから海峡を渡れるようになったので今回のうちに侵攻する運びとなった。
まだブリッシュ島北側には色々な諸島があるんだけど、さすがに今回で端から端まで全てを俺が治めるというのは無理がある。今回の総仕上げとしてエールランド島を統一してプロイス王国に帰りたいと思う。
そのエールランドだけど、ここの攻略は今までのようにはいかない。現地のインフラが整っていないからとか、ブリッシュ島を回った先にあるから輸送や補給路が伸びて大変だからとか、そういう問題だけじゃなく……、とても致命的な問題が存在する。
アルバランドやウィルズをあんなに早く征服出来たのには理由がある。それは相手の勢力がある程度まとまっていたからだ。アルバランド地方にはアルバランド王国以外の国もあった。でもアルバランド地方の大半はアルバランド王国が支配していた。
だからアルバランド王国が降伏すればその支配地も全て自動的にうちに降伏することになっていたというわけだ。ウィルズ地方も同じでありグウェネッド王国という大勢力がいたお陰で、グウェネッド王国が降伏した際には勢力範囲全てを一気に占領することが出来ていた。でもエールランドにはそんな大勢力が存在しない。
一見それだけ聞くと敵が弱小勢力なら攻略が簡単じゃないかと思うかもしれない。でもそうじゃない。アルバランド王国一国を征服すれば終わった戦争が、エールランドでは何十、何百という小勢力を全て従えていかなければならないというわけだ。下手をすれば町一個、村一個の勢力だっているかもしれない。
敵を倒すのは簡単でも、いちいち降伏勧告や服従するよう促し、断られれば戦闘を行い、倒し終わった後には戦後交渉をしなければならない。そして一個一個の支配地にいちいちうちの支配を浸透させなければならない。
その労力が一体どれほどになるのか想像もしたくない。どう考えても面倒だ。それならいっそ大勢力と決戦でもして一気に叩き潰した方が手間がなくていい。
だからエールランド島を征服するのは非常に手間と時間がかかるものと思われる。もしかしたら俺の滞在中に統一は終わらないかもしれない。島の広さもかなりのものだからな……。
沿岸部はいつも通りガレオン艦隊に攻撃してもらい、内陸部にはブリッシュ島から渡った旧ウェセック軍に占領していってもらわなければならない。敵が小勢力だから砲兵や鉄砲隊は大規模には必要ないだろう。特に足の遅い砲兵部隊はあまり動かしたくない。
ある程度備えはしておくけど、砲兵は後方に留めて、前進部隊は旧ウェセック軍の歩兵、騎兵とカーン軍の鉄砲隊に任せることになる。インフラ、特に街道があまりよくないから物資の集積も難しい。こういうところを虱潰しにしていくのが一番大変だろう。
今回は俺も活躍するつもりだ。身軽な部隊で不整地を踏破していかなければならない。それなら俺の魔法も大いに使い所があるだろう。
「さぁ!いきましょう!」
「あの……、本気で皆さんついてこられるおつもりですか?」
「当然ですわ!」
「護衛は僕にお任せさ」
「がっ、頑張ります……」
俺は馬でサクサク村や町を焼き払いながらさっさと侵攻しようと思ってたんだけど……、お嫁さん達がついてくると言って離れない……。これは……、今回も予定外のことになりそうだな……。
いつも読んでいただきありがとうございます。
親戚に不幸があり数日間執筆、更新が出来そうにないので二、三日更新をあけさせてもらおうと思います。更新再開予定は日曜のつもりですが最悪の場合月曜から再開になるかもしれません。
これから出なければならないので感想返しは後日まとめてさせていただきます。
いつもなら投稿前に最後に読み返して、誤字脱字、表現のおかしい部分や内容のおかしい部分を最終手直ししていますが、今日は急いで投稿だけで手一杯なのでおかしな点があるかもしれません。こちらも後日気がつけば手直しするかもしれません。




