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第三百五十四話「覇道の始まり!」


 う~ん……。何でこんなことになってるんだろう……。


 俺の前には縛られているギヨームとエンゲルベルトと呼ばれている敵軍の参謀が跪かされている。本来ここに座るべきハロルドは玉座の下に跪いて完全に俺に丸投げだ。


 もちろん何故こんなことになっているか俺もわかっている。戦闘の前にすでにハロルド軍とは話し合いが持たれていて、戦後交渉は俺が主体となって行なうということは確認済みだ。


 普通に考えたらウェセック王であるハロルドがこちらの代表であるべきだろう。俺はそう言った。でもハロルドはそれを認めず、俺が主体になるべきだと主張した。うちの配下は皆それが当然みたいな顔をして引き受けた。


 俺とハロルドの配下達はハロルドが主体になるべきと言い、ハロルドと俺の配下達は俺が主体になるべきと言うというわけのわからない状況だ。そして最終的にハロルドが自分の配下の者達に言う事を聞かせたので、こうしてめでたく俺が玉座に座って主体となることになった。


 ハロルドの配下達も納得はしてないんだろうけど、自分達が仕える主がそう言うのだから従うしかなかったんだろう。それに実際今回の戦闘ではほとんどうちしか戦っていない。敵将を捕えたのもうちの者だ。だからこの状況で異を唱えることは不可能になってしまった。もう俺がギヨームと話して決着させるしかない。


「まずは自ら名乗りなさい」


 仕方がないので俺はこの場を進める。いつまでも跪かせているだけじゃ話が進まない。さっさと終戦について話し合いたい。


「小娘が何を偉そうに!私はギヨーム・ノルン、ウェセック王、そしてノルン公爵だ!」


 ちょっとギヨームの表情というか視線というかがおかしいな。こいつはもう狂ってしまっているのかもしれない。聞いてもいないことまでべらべらしゃべりだしたり、喚き出したり、少なくとも今は正常な状態じゃないだろう。元に戻るのかは知らないけど、今この場で話し合える相手とは思えない。


「私はノルン公国軍参謀長、エンゲルベルト・フォン・マルクです」


「――ほう。貴方が……、マルク伯ですか」


「私を御存知なので?」


「貴方……、というよりはマルク伯領のことはよく存じておりますよ」


 マルク伯領はかつてプロイス王国からフラシア王国に割譲された地域の一つだ。ホーラント王国に流れる大河の流域に位置するマルク伯領はとても重要な拠点でもある。海に面する地域と違い、完全な内陸であり、カーン家・カーザース家の領地から見れば南西くらいになるだろうか。


 今の当主が誰なのか。エンゲルベルトがマルク伯家の中でどういう立ち位置の人物なのかは知らない。ただマルク伯領はかつてフラシア王国に奪われた地であり、俺が取り返すつもりの場所であるということだけは確かだ。


 その俺の目的を果たすためにはこのエンゲルベルトを味方に引き入れておくのはとても役に立つ。エンゲルベルト自身が役に立たない者だったとしても、マルク伯家に縁のある者というだけでも十分な利用価値がある。


「私はカーザー……」


「こちらにおわすは伝承の英雄王!カーザー王である!頭が高い!」


 俺が名乗ろうとしたらハロルドが立ち上がってそんなことを言った。だから俺はカーザー王じゃないと何度言えば……。


「カッ、カーザー王!?へへぇ~!」


「「「「「…………」」」」」


 何故かギヨームだけ一人ひれ伏して頭を下げていた。もうこのおっさんは駄目かもわからんね……。まぁどの道助かる道はないんだけど……。


 残念ながらギヨームの処刑は決まっている。俺も特に反対はしてないけど強硬に主張したのはハロルドやその配下の者達だ。ハロルド一派が言うには、ギヨームやその血縁を生かしておいては今後また何かある度に継承権を主張してくる可能性がある。だから今のうちに禍根を絶つべしということのようだ。


 別にそれは何も珍しいことじゃない。実際ギヨームもハロルドやその血縁者達を殺そうとしていたし、殺された者も数多いらしい。今回の内戦だって先王が子供も成さず逝去し、外戚だった者達が次々に継承権を主張したことが原因で起こった。


 こんなことはこの世界じゃ日常茶飯事で、きちんと継承について道をつけて跡を継がせないと、どこかから湧いてきた自称親戚達が乗っ取りを仕掛けてくるなんてザラにある。


 ウェセックの先王が無能だったと言えばそれまでだけど、一応ちゃんと跡継ぎは指名していたのに、自分より先に跡継ぎが亡くなったのが問題だったんだろう。先王は所謂修道士にあたるもので、形式上の結婚はしていたけど、子作りは禁止でそれを守った。だから実子がいなかったのも問題だろう。そういう点が無能だと言ってるわけだけど……。


 ともかく先王が直系の実子を残さなかったために今回の騒動になったとも言える。ハロルドもギヨームも先王の親戚筋で、直系がいない以上は確かにそういう所から跡継ぎを連れてくるしかないわけだ。


 ハロルドはウェセック王国内で認められた後継者だったけど、そこに横槍を入れてきたのがフラシア王国ということになる。ギヨームが親戚だということをたてにウェセック王国の継承問題に口を出し、割り込み、兵を送って乗っ取ろうとした。その乗っ取りを完了させるためにはハロルドの血縁は全て始末しなければならない。


 向こうがこちらを一族皆殺しにしようとしているのに、こちらが同じことをしようとしたら非難されるというのはおかしな話だ。こういう継承問題に発展した以上は、今後の問題を起こさせないためにも禍根を断つ必要がある。


 ただフラシア育ちのはずのギヨームが、何故ブリッシュ島の伝承のカーザー王にこんなに平伏するのかわからないけど……。


「ハロルド王……、違うでしょう……?私はフローラ・シャルロッテ・フォン・カーザースです」


「カーザースっ!?」


 俺の名乗りを聞いてエンゲルベルトは顔を上げた。その顔はかなり驚きに満ちているようだ。でも次第にその表情も落ち着いてきていた。


「なるほど……。東からやってきた援軍……。そういうことでしたか……」


 一人何か納得したらしいエンゲルベルトはそう言って頷いていた。元プロイス王国貴族のマルク伯家ならカーザース辺境伯家のことは知っていて当然だろう。それに現在もフラシア王国にとってはプロイス・フラシア国境を守るカーザース家の名を知らないはずがない。


 いつまでもこんな話をしていても仕方がない。とにかくこいつらの処分を言い渡そう。ハロルド一派が決めた処分を俺が宣言しなければならないという嫌な役回りだけど……。何か俺だけ損してるよな。決めたのは俺じゃないのに恨まれるのは俺だし……。


「ギヨーム・ノルン公爵、貴方はウェセック王国に対して侵略を行ないました。その罪は重く許し難い。今後一切貴方と貴方の子孫にウェセック王の継承権はないことを認め、宣言すれば、貴方の処刑のみで許しましょう。もしそれが出来ないのであれば……、貴方の一族郎党、親類縁者、全ての者の命を絶ち一切の禍根を断ちます」


「我が首一つでこの争いが終わるのならこの首……、差し出すわけがないだろうが!何故この私が処刑されねばならんのだ!ふざけるな!私はノルン公爵だ!ウェセック王だ!私こそが王だぁぁぁぁぁ~~~っ!」


 駄目だこりゃ……。完全に錯乱している。時間を置けば落ち着くのならいいけど、これはもう完全に精神が壊れているかもしれない。どうせ今すぐ処刑するわけじゃないから牢屋にぶち込んで暫く様子見だな……。


 まぁギヨームの処刑はハロルド達が言い出したことだ。ハロルド達が面倒を見るだろう。それに南部を取り返し、凱旋してウェセック王都でギヨームは処刑される。それまでの面倒は全てハロルド達に任せる。


「エンゲルベルト・フォン・マルク伯爵、貴方には残ったフラシア軍をまとめていただきます」


「…………え?私の処刑は……?」


 自分も処刑を言い渡されると思っていたのか、ポカンとした表情のエンゲルベルトがこちらを見上げている。でも生憎と俺はエンゲルベルトを殺すつもりはない。マルク伯領奪還のためにはエンゲルベルトの身柄をこちらで確保して、正当性を主張するのに利用させてもらうつもりだ。


「このままフラシア軍の残党が跋扈すればさらに余計な血が流れます。まず貴方がすべき事は首を差し出すことではなく、これ以上余計な血が流れないようにフラシア軍残党を纏め上げ、終戦に合意させることではありませんか?」


「――ッ!?はっ、ははぁっ!」


 俺の言葉を受けて、エンゲルベルトは涙を流しながら頭を下げた。自分が処刑されずに助かったから……、ではないだろうな。エンゲルベルトはそれなりに使えるかもしれない。もしエンゲルベルトが有能ならうちに欲しい所だ。




  ~~~~~~~




 ギヨームとエンゲルベルトの処分も決まって、一度下がって緊張を解く。短期的なこの後の予定は……、まずうちの陣地に戻って会議だ。今回の戦闘についての総括や反省点について話し合い検討しなければならない。


 今回の戦闘ではうちも色々と新しい試みも行なった。その結果や効果を確認して、改善すべきところは改善していかなければならない。それからこの戦闘の後始末に、ハロルド達との話し合いもしなければならない。それらが纏まれば、この城や陣地を引き払って南部の奪還と凱旋だろうか。


 長期的な予定としては、南部などの残ったウェセック王国の奪還と、ブリッシュ島北部、西部の勢力の征伐。それが終われば西のエールランド島にも遠征しなければならない。


 いつかそのうちハロルドを王から追い落として俺が王にならなければ……。


 それはわかってるけど正直気が重い。今でもハロルドは俺に王位を譲ると言ってるんだから素直にそれを受ければ良いだけだろう。でも家臣や国民達はそう簡単に受け入れるだろうか?俺が簒奪者として非難されることになるのは避けたい。実際王位を奪おうとしてる簒奪者ではあるけど……。


 別に俺が欲しいのはウェセック王ではなく、ブリッシュ島に新しい統一国家を建てようとしているだけだ。だからウェセック王でなくても良いじゃないか……。それならハロルドから王位を奪う必要もない。まぁウェセック王国が滅びることも意味するから、結果的にはどちらにしろハロルドは王ではなくなるけど……。


 どうせ最初から自分達で独自勢力を建てるつもりだった。それならハロルドからウェセック王位を譲り受ける形じゃなくて、俺が新たに国を建国したことにすればいい。


 まぁそれも他の地域のウェセック王国貴族や国民達が納得するかどうかという話ではある。武力討伐によって国が倒れて新しい国に支配されたのなら、嫌でもその現実を受け入れるだろう。でも現国家も残っているし国王も生きているのに、俺が今日から新しい国を建ててここはその支配地だからと言われて納得するだろうか……。


 何か良い方法はないかな……。それとも案外人なんて今日から新しい国と新しい王に変わりました、とか言っても受け入れてくれるものなんだろうか。


 このままウェセック王国やハロルド達と行動を共にしていていいのか?揉め事の種になりそうな気もしなくはない。ハロルドを伴って凱旋したらハロルド王の名声が高まって、余計に俺達とウェセック王国の対立の原因にならないだろうか……。


 わからない……。人の心は簡単に割り切れるものじゃない。損得も勝ち目も関係なしに、損や負けがわかっていても敵対を選ぶことだって多々ある。出来るだけ穏便に纏めたいけど……。


「失礼します。フローラ様、迎えがきております。陣地へ戻りましょう」


「アルマン……、そうですね……。それでは戻りましょうか」


 俺一人でウジウジ悩んでいても解決しない。それに最初から独自勢力を作ってでもブリッシュ島を奪うつもりだったんだろう?だったら今更何を悩むことがある?


 犠牲や争いを最小限にしたいという気持ちは変わらない。でも目先の犠牲を気にしすぎて、より大きな災いを見逃して先送りにしていても良いことは何もない。


 俺がすべきことは犠牲を最小限にしつつ、それでも目先の犠牲を恐れずに先を見据えた行動をすることだ。そこで多少俺が非難されようとも、悪評がつこうとも、立ち止まることは許されない。


 少なくともハロルドは俺が国を乗っ取ったり、新しい国を建てると言えば逆らわずに従うだろう。というより戦って勝てる相手ではないと思ってくれているはずだ。ならばハロルドに他のウェセック貴族達を説得してもらうしかない。そしてそれでも従わない者は……、やるしかないだろう。


「あ!フローラ!お帰り!」


「ただいま戻りました。ミコトは大人しくしていましたか?」


「ちょっと!それどういう意味!?」


「言葉通りですが?」


「ちょっとフローラ!」


「「「「「あははっ!」」」」」


 陣地に戻ってお嫁さん達と笑い合う。俺の行く先が血塗られた道でも……、行くと決めたからには覚悟を決めて進もう。



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 新作連載を開始しています。よければこちらも応援のほどよろしくお願い致します。

イケメン学園のモブに転生したと思ったら男装TS娘だった!

さらに最新作を連載開始しています。百合ラブコメディ作品です。こちらもよろしくお願い致します。

悪役令嬢にTS転生したけど俺だけ百合ゲーをする
― 新着の感想 ―
[一言] 先代ウェセック王を無能って、それはブーメランですよ? フローラちゃん、正式な後継者どころか候補すらいないですよね。先に死なれたとはいえ後継者を決めていた先代ウェセック王の方がまだマシなので…
[一言] ブラッディロード( ˘ω˘ ) (道と王の二重の意味で)
[一言] ハロルド王はフローラ様に妄信してるけど、周囲がどう思うのか。この戦争を見てたら争う気も起きないけど、単に聞いただけの人では、戦力を把握出来ないからな~。戦後処理してから、上手く支配出来るのか…
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