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第三百三十九話「砲艦外交!」


 学園の終業式も終わり領地へと戻る……、と言いたい所だけど、帰る前にちょっと寄り道をしていかなければならない。まぁそれは帰り道の途中に寄り道をするというだけだ。そしてまだ俺達は出発していない。


「本当に今回はクリスタはカーン領へ来ないのですか?」


「ええ。折角誘ってくれたのにごめんなさいね。でもこちらでも用事があるから……」


 今回もクリスタはヘルムートについてくるものだと思っていた。でも騎士団国へもついて来なかったし、それどころか長期休暇に騎士爵領へも来ないらしい。クリスタにはクリスタなりの用事があることはわかるけど……、少し寂しい。


 でも本当に寂しいのは俺じゃなくて、新婚ホヤホヤのクリスタとヘルムートの方だろう。まだ結婚はしてないけど……。こいつらはもう新婚扱いでいいだろ……。


 何でもラインゲン侯爵領に帰るらしい。カールがずっと王都にいるようなイメージだから忘れがちだけど、ラインゲン家にも領地はあるし、そちらの経営もしなければならない。今回の長期休暇では両親も揃ってラインゲン領に帰るようだ。だから俺がとやかく言ってこちらに来させるというわけにはいかない。


「それでは……、また二ヶ月後に会いましょう」


「ええ……、それではまた」


 クリスタと別れて俺は王城に向かう。出発前に会うのはクリスタだけじゃない。むしろ今日会いたい相手はこれから会う相手だ。




  ~~~~~~~




 王城へとやってきた俺は当たり前のように後宮に通される。こんな警備でいいのか?と思わなくもないけど、ルートヴィヒの時の許婚候補と違って、今は正式にエレオノーレと婚約しているからな。第三王子の相手から第一王女の相手に変わったけど、立場としては上がったかもしれない。


 そんなこんなで後宮を歩いていると……。


「あっ!フローラーーーっ!」


 ボフッ!と俺の大きく膨らんだスカートに突進してくる天使が一人。飛び込んできたら危ないと言ったら、最近は飛び込まずにそのままスカートに突進してくるようになった。でもスカートも膨らませるために芯が入っているから、抱きついた時に針のように飛び出していて怪我をする可能性もあるかもしれない。


「エレオノーレ様、そのようにしては危ないといつも……」


「やー!」


 何がやーなのか……。久しぶりにその言葉を聞いた気がする。


「フローラ、あそぼ?」


「え~っと……、申し訳ありませんエレオノーレ様。今日は遊んでいる時間はないのです」


 俺達は今日王都を出るからな。今回は帰り道の途中で寄り道をしなければならない。だから日程もかなり余裕を持っている。相手のあることだからこちらが遅れるというわけにはいかないだろう。


 っていうのは日本人的発想なんだよな……。この世界どころか現代地球でも日本以外の国なら約束してたって、その時間に遅れてこられても当たり前みたいなもんだ。時間にきっちりしているのは日本だけだ。


「とりあえず国王陛下の下へ向かいましょうか」


「むーっ!」


 遊べないと言われてむくれているエレオノーレはそれでも俺に抱き上げられて大人しくしている。でもそれもいつまでもつだろう……。今日王都を離れるって言ったらまた泣くのかな……。


 そんな心配をしつつもあっという間に王様が寛いでいるリビングに到着してしまった。そうリビング、居間、家族の生活空間……。俺が会いに来たって伝えてたんだからさぁ……、普通さぁ……、もっとこう……、謁見の間とかで会うもんじゃない?今更だけど……。


「国王陛下……」


「うむ……、もう発つのか。また寂しくなるな」


「本当ですねぇ……。フローラ姫がいないと王都にいる意味もなくなりますよ」


 王様とディートリヒがしんみりそう言ってくれるのはうれしいけど……、お前らの目当てって俺が持って来るお菓子だよね?デザートだよね?それくらいは俺にでもわかるぞ?


「えっ!?やっ!やだ!フローラいっちゃやだーーーっ!ああぁぁあ~~~!」


 あ~あ……、こうなると思ったから何かうまく伝える方法はないかと思って考えていたのに、王様があっさり言うからエレオノーレにも気付かれてしまった。俺に抱っこされたまま泣き出したエレオノーレを慰める。


「エレオノーレ様、指切りをしましょう?」


「やだぁーーっ!いっちゃやーーーーっ!」


 ギュッと俺の胸に抱き付いて泣きまくる。ドレスが濡れて胸が冷たいけどそんなことを言うほど野暮じゃない。


「エレオノーレ様が約束を守ってくださったら私も約束を守ります。前もそうだったでしょう?」


「ひっくっ……、うっ……」


 ちょっとだけ顔を上げて俺を見てくる。だから俺も目を逸らさずにエレオノーレを見詰め返して頷く。


「今回もエレオノーレ様に贈り物があるのですよ」


「――!えほんーー!えにっきもー!」


「ええ。新しい絵本と絵日記です」


 どうやら前回贈って以来エレオノーレは絵本と絵日記が大好きになったらしい。絵本はわからなくはないけど、絵日記が好きになるっていうのはちょっと俺にはわからない。俺は小学校の時の日記の宿題とかもまともにやった記憶がないからな。


 でもエレオノーレは絵日記が気に入ったらしい。むしろ絵日記というよりお絵かきが気に入ったのかな?紙も貴重だったり品質が悪いこの時代だ。絵日記というかお絵かきが出来るノートというのはとてもお気に入りなのかもしれない。


「はい、エレオノーレ様。今度もこの絵日記が埋まるまできちんと描けたら私は帰ってきますよ」


 きっと前の絵日記の最後のページは俺との感動の再会が描かれていることだろう。そして今度の絵日記にも最後のページには俺との感動の再会が描かれる。


 ふっふっふっ。完璧だ。それをエレオノーレが大きくなった時に読み返して、その時ますます俺への気持ちを高める。これが将来のための布石だと誰がわかるだろうか。これこそがエレオノーレを今のうちから俺好みの女性に育て上げて、しかも俺を好きになってもらうための遠大なる計画なのだ!


 ちなみに絵本の内容はまた俺が考えた。絵や文字を入れたのは専門の職人だけど、ストーリーを考えたのは俺で、そこからさらに入れる文字や絵は職人と相談して作り上げた傑作だ。まぁ前世の記憶のパクリだけど……。そんなことは気にしてはいけない。


 絵日記もまた六十五ページある。二ヶ月の長期休暇で十分帰ってきてもページが残る計算だ。俺が遅れさえしなければ……。二年の後期の授業はもう始まっている頃になるだろう。


「フローラ!ぜったい、ぜったいかえってきてね?」


「はい。絶対絶対帰ってきます。約束です」


 また二人で指切りをする。子供にとって二ヶ月は長いだろうか。それともあっという間だろうか。


 今日報告に来たのも王様達にというよりは、エレオノーレにこれを届けに来ただけだ。王様達にはいちいち言わなくてもわかってるはずだからな。


「それでは国王陛下、魔族の国との国交締結、そしてデル王国との交渉はお任せください」


「うむっ!期待しておるぞ!」


 王様に頭を下げてこの場を辞する。エレオノーレも寂しそうではあったけど最後は泣いていなかった。強い子だ。


 俺達がこれから向かう寄り道先というのはデル王国だ。デル海峡を通航出来るようにデル王国と交渉してから騎士爵領に帰る。もちろん今回は王様にきちんと許可を貰っているから勝手に外交というわけじゃない。


 プロイス王国だってこれからはハルク海だけじゃなくて、ヘルマン海の方へ出て行く必要があることは理解している。そのためにデル王国と通航権について交渉しなければならないこともだ。


 俺はそのための根回しをしつつ王様達にも相談してきちんと許可を貰っておいた。というかそれが当たり前であって前の方がおかしかったわけではあるけど……。


 前回立ち寄った時は随分な扱いを受けたけど今回はそうはいかない。カンベエとミカロユスを使って魔族の国、ヤマト皇国に働きかけ、デル王国にデル海峡の通航を許可するように根回しを行なっている。その上で一度先遣を送って明後日会談を行なう予定だ。


 今日王都を出てステッティンに向かい一泊。明日ステッティンを出港してデル王国の王都コベンハブンで一泊。そして明後日はデル王国の代表と交渉を行うことになっている。予定が決まっていると言ったのも、日程に余裕を持たせていると言ったのもこの通りだ。


 王城を出た俺は一度カーザース邸に戻ってから皆と一緒に王都を出る。今回は馬車の旅だ。理由はただ単純に今オデル川を下るうちの船がないから。


 オデル川流域の輸送や商圏はうちの範囲じゃない。一部はうちの船も通るけど、元々ここで商売していた者達にある程度配慮している。水運などを全部うちの船でやってしまったらここらの水運業者や商会に大きなダメージを与えてしまうからな。


 カンザ商会の商品やカーン家、カーザース家関係のことならうちの船がすることもある。でもあまりうちの船が往来してたら良い顔はされない。うちだけが儲けすぎては経済が死んでしまうので、程よい関係の共存が必要だ。


 そんなわけで今日丁度乗れるうちの船がないので馬車で川沿いに下る。他所の船に乗るのは安全上や機密上、そして船足的に信用出来ないので、それなら馬車の方が良い。


 ステッティンで一泊した俺達は早速ガレオン船十隻の艦隊でコベンハブンへ向かう。結局カンベエとミカロユスが先遣使節や事前交渉で、デル王国がうちを舐めているから話が進まないというのでちょっとだけ脅してみようかという話になった。


 俺としてはあまり手荒な真似はしたくないけど、確かに事前交渉の経過報告を聞く限りでは少々向こうがこちらを侮っている。あまりに高圧的に威圧するのは好きじゃないけど、必要以上に力を隠して謙ることもない。相手がこちらを舐めてくるのなら相応に応える。それが俺の答えだ。


「それにしてもミコトもアレクサンドラも点数が上がっていましたね」


「あったり前でしょ!私達はフロトの伴侶なんだもの!下手な成績は取れないわ!」


「そうですわね。ですからフローラさんがお仕事をなさっている間に一生懸命勉強しましたのよ」


 テスト結果は概ねいつも通りだった。俺が一位。そしてミコトやアレクサンドラは成績が上がっていた。学園に通えない日が多かったから成績が落ちるかと思ったけど、どうやら学園に通えない間は自主的に勉強していたようだ。


「それよりむしろ私は何でフロトは勉強もしてないのにあんな成績が取れるのか疑問よ!」


 え?これって俺がカンニングとか、事前に問題や答えを教えられてるとか、本当の成績じゃなくて学園が嘘の点数をつけてると疑われてる?


「もうずっと昔に家庭教師に習った範囲ですし……、その後も予習復習はしていますよ?試験前には試験勉強もしていますし……」


 一応言い訳しておく。俺だって遊んでるわけじゃない。昔に習っただけなら忘れてるかもしれないから、学園に行けない間も自主勉強で予習復習はしていた。それに試験が近づいてきてからは試験勉強もしていたし、不正なんてしてませんよ、とアピールしておく。


「わかってるわよ。ただあれだけ仕事ばかりしていて一体いつ勉強していつ寝てるのかって話よ」


「皆さんと一緒に寝てるではありませんか。御存知でしょう?」


 皆と一緒に寝てるんだから俺が寝てる時間は把握しているはずだ。基本的に朝は俺の方が早いけどね。あ、夜も俺の方が遅いわ……。


「だからそれがわかってるから聞いてるんでしょ!あの馬鹿みたいに山積みになってる仕事をして、外に出ても仕事をして、朝晩は修行とか言って出て行くし、勉強なんてしてる暇ないじゃない」


「それは……」


「艦長!船が接近してきます!」


 船に揺られながらミコト達と話しているとそんな声が聞こえてきた。


「お嬢、来たみたいですぜ」


「そのようですね」


 シュバルツと一緒に前方を見詰める。ハルク海にいるガレオン船十隻を集めるというのはカーン家にとっても結構大変なことだ。全てを集めればもっといるけど、それらを全て集めてしまうと流通に致命的な問題が発生してしまう。


 そこで最低限デル王国を威圧出来る威容で、それでいてハルク海貿易や海運のうちの船が何とか回るギリギリ、それがガレオン船十隻による艦隊だった。


 当然デル王国はガレオン船十隻の艦隊が近づいてきたら慌てるだろう。前回親しくなった例の二人の言葉から、一隻ガレオン船が近づいてきただけでもコベンハブンは大パニックだったらしいしな。そこへ今回は十隻もやってくれば……、当然デル王国は大慌てになるというわけだ。


 今日到着して明日交渉するとは約束している。でも今日ガレオン船十隻の艦隊で来るとは伝えていない。


「さて……、第一段階はうまくいったようですが……、これからどうなるでしょうね……」


 果たして全て思惑通りにいくのか。それとも向こうの態度がますます硬直してしまうのか。それはまだ俺にはわからない。



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