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第三百七話「遠回り!」


 思ったよりもあっさり会談がまとまったお陰ですぐに帰れることになった。下手をすると一週間くらいはかかると覚悟していただけに少々拍子抜けといえばその通りだ。


 もっと魔族の国を観光したいという気持ちはあるけど、あまり向こうを留守にしすぎると仕事が溜まりすぎる。今日帰れば一泊二日だからまだそんなに仕事も溜まっていないだろう。


 昼食を皇様達と共にしてから午後には帰ることになった。天降りの座標というものや移動方法を教えてもらう手筈になっている。それが終われば今度からは俺一人でも天降りで自由に往来出来るようになる。無事に通れたから今でこそ笑い話だけど、ミコトと二人でやってきたのはかなり危険な行為だったみたいだからな……。


 そんなわけで準備も終えて向こうへ戻ることになったんだけど……。


「え~っと……、この方達は?」


 何故か天降りの間にはたくさんの人がいた。見送りとか監視とか護衛とかじゃない。一部には兵士もいるけど明らかに兵士じゃない人も混ざっている。


「もちろん実務者協議に赴く者達だ」


「あ~……」


 皇様……、もうさっそく協議を始めるつもりですか?俺はまたてっきりしばらく時間を置いて準備してから始まるんだと思ってましたよ……。まさか今日トップ会談をしてその日のうちに実務者協議を始めるつもりだとは思いもしませんでした……。


「我が娘フローラが戻る時に一緒に行った方がよかろう?後で行くとなれば色々と手間や問題も増えよう」


「それはまぁ……、そうですね」


 やっぱりこの皇様頭が切れるな。お互いの状況などもよくわかっている。


 もし連絡もなく突然我が領に魔族の使節がやってくることになったら大事になりかねない。それも大規模な使節だったら攻めて来たのかと現地部隊が対応しかねない。そうなると一大事だ。下手すりゃ戦争だな……。


 かといって一度使節がデル王国に出向いて、デル王国に仲介を頼んで当家に働きかけて連絡を寄越してからやってくるとなると物凄く手間と時間がかかる。これではスムーズでスマートな実務者協議というのは難しいだろう。それにデル王国にも介入される恐れがある。


 デル王国がどの程度魔族の国に従属していて、どういう関係なのか部外者である俺にははっきりとはわからない。ただ植民地や保護国のような扱いではなく、緩い纏まりのような関係っぽいし、デル王国を介した外交となると余計な介入を招く可能性は高い。


 だから俺が戻る時に一緒に第一陣を派遣してしまう。出迎えの準備は不十分になるだろうけど、その代わりに受け入れはスムーズに進むだろう。罷り間違っても使節が攻撃されるなんてことは起こらない……、はずだ。


 ここでカーン家と魔族の国との外交チャンネルを開いておいてしまえば、後は追加の派遣でも連絡でも自由自在となる。ここは多少拙速でもとにかくまずは両家の間での渡りをつけておくことが肝要。皇様はそう判断したということだろう。そしてそれは俺も同意だ。


 今回俺と一緒にカーン領に来てくれるなら非常にありがたい。俺もいつも自領にいるとは限らない。俺が居ない間に魔族から使節が来ることになったらまた余計な争いの種になる可能性もある。俺がいる間に確実にことを成すにはこれが一番だ。


「おや?もしかしてイスズさんも来られるのですか?」


「はい。第一陣としてご一緒します。すぐにこちらに戻ることになりますけどね。ミコト様がどのようなセイカツをされているのか気になりますし!」


 イスズ……、五十鈴かな?ミコトの配下?であるイスズもついてくるようだ。でもそれは第一陣として最初に同行するだけでまたすぐこちらに戻ってくるらしい。それはその方が良いだろう。


 イスズはミコトの数少ない魔族の国での影響力を行使出来る相手だ。イスズをカーン領やミコトの身の回りに連れてくるのは仲良しこよしという意味では良いのかもしれないけど、それは所詮本人達の自己満足でしかない。


 為政者の立場から考えるとミコトが連絡したり影響力を行使出来る相手なら、魔族の国に残ってもらって、今後も色々と果たしてもらいたい。何かミコトを介して魔族の国に働きかけたい時に、子飼いの者が誰もいなければミコトの仲介力がほとんどないことになってしまう。


 例え僅か、微々たるものであろうとも、一人でも二人でも連絡出来てミコトの意思を受け取ってくれる者がいるのはありがたい。そういう意味ではイスズには魔族の国に残ってもらいたいと思っていた。イスズもそれがわかっているから、第一陣としてはついてくるけど、またこちらに戻ってくるというわけだろう。


 ミコトもイスズも、本当なら二人一緒に居たいのかもしれないけど……、心苦しいけど二人にはお互いの場所でそれぞれの役目を果たしてもらいたい。


 そしてあえてスルーしているけど……、イスズが言ったセイカツって……、多分生活じゃなくて性活なんじゃないのか?そう思ったからあえてスルーしたけど……。何かニマニマしてるし絶対そうだろう……。


「あっ、貴方も派遣されるのですか?」


「え?あっ、はい。私のことを覚えていただけているのですか?」


「ええ。それはもちろん覚えていますよ」


 もう一人見知った顔がいたから声をかけておく。こちらは普通の兵士だ。そして俺達が町に出た時に案内してくれた人物でもある。あの時はお金を立て替えてくれたから後で宝石を渡しておいたけど、まさか彼も一緒に来ることになるとは……。


 元々城に勤めてるようだったし、ただの下級の兵士じゃなくてそれなりに地位の高い人だったのかな?まぁただの兵士の可能性もあるけど……。


「私はムサシと申します。今回は是非護衛にと志願させていただきました」


「そうだったのですか」


 ムサシ……。武蔵かな?本当にこの国は日本によく似ている。それにしてもわざわざ護衛に志願するとは……。外交官とか実務者としてではなく、使節の護衛につく兵士として志願したんだろう。


「フローラ様より賜ったこちらを皇様に献上しようと思ったのですが……、賜ったのは私だからとそのまま授けていただきました」


 そう言ってムサシは懐からあの時の宝石を取り出した。とても丁寧に包んである。そんな大層な宝石でもないんだけどな……。


「まぁ……、そうでしたか……。ですがそれではムサシさんが支払われた費用は……」


「ムサシとお呼びください。そちらも皇様が不足分を支給してくださいました。ですので私は何も負担しておりませんのでご安心ください」


 なるほど。ムサシは馬鹿正直に俺が言った通りにこの宝石を皇様に差し出し、代わりに不足分を支払ってもらおうとしたわけだ。でも皇様は不足分を支払ったけど宝石はムサシが受け取っておくようにと言い渡したと。


 っていうか、やっぱりいくらかは皇様に最初から支給されてたけど、俺達が使った金額には足りなかったんだな。それをムサシが自腹で払っていたと……。念のためにフォローしておいてよかった。もし何もフォローしていなければムサシに余計な負担をかけてしまうところだった。


 家族とかがいるのかは知らないけど、ムサシの収入をあてにして生活している家族とかがいれば一大事になるところだった。毎月いくら入るという収入をあてこんで生活しているのに、わがまま姫様やその伴侶を町に案内して、予定外に大金を使わさせられたとかいうことになったら大事だろう。


 他にも一部護衛の兵士や荷物持ち、外交官や貿易交渉の実務者達がズラリと並んでいた。ある程度紹介を受けてからようやく出発となった。


「それでは我が娘、フローラ、ミコトよ。しばしの別れだ」


「次にこちらに来る時はもっとゆっくりしたいものです。そしていずれお義父様も我が領にお招きしたく存じます」


 あまり堅苦しくなりすぎず、でもそれっぽく……。魔族の国の風習や礼儀作法がわからないから適当にそれらしくしておく。もしかしたらこちらではおかしな礼儀作法になっているかもしれないけど、こういうものは形式に捉われるのではなく相手を敬う心が大切だ。


「うむ。その時を楽しみにしておるぞ」


「はい」


「それじゃ行ってくるわね!またそのうち戻るわ!」


 ミコト……。それでいいのか?ミコトは本当に自由すぎる……。


 皆も呆れてるのか、感心してるのか微妙な態度でミコトを見送っていた。座標を刻むというのはもうしてもらったし、天降りの方法も習った。一度は通ってきたわけだし、覚悟を決めて渦に飛び込む。


 渦に飲まれてひゃー!という間にあっという間に到着したのは来た時に見た神社の中だった。後から次々に人が出てくる可能性があるから早くその場から離れる。少しの間をおいて使節団が出てくるから後ろがつっかえないように神社の外にまで出る。


「ほう……。これだけの人が出てくるとは……」


「向こうでうまくやったようだな」


「コマイヌ……」


 俺が神社の外にまで出ると狛犬達に話しかけられた。でも使節団とは特に会話はしないようだ。お互いに口を聞くこともない。狛犬達はあくまでこの神社の防衛のための者ということかな。


 ともかく神社の前で使節団が全員揃うまで待ち、全員が確認された所で出発することになった。もちろん俺はこれで全員なのかどうかはわからない。向こうが勝手に集合とか点呼をしているのをミコトと一緒に眺めていただけだ。


 俺とミコトだけならすぐにヘクセンナハトの山頂を越えて、カーンブルクまで一直線に戻るところだったんだけど……、さすがにこの人数で武官だけじゃなくて文官も大勢いるのに、強行軍でカーンブルクまで走れというのは無理があるだろう。


「止むを得ないので今日は一度フローレンに寄って一晩明かしますか」


「そうね。まぁ別に全員走らせても良いと思うけどね」


 う~ん……。流石に外交官とか使節団を迎えるのに走れというのはどうなんだ……。それなりに人数がいるから全員を馬車に、というのはさすがに難しいけど……。


 馬車輸送だって事前に人数を聞いて用意していれば可能だっただろうけど、今日いきなりこの人数の分の馬車を用意しろというのも酷な話だろう。出来なくはないかもしれないけどあちこち大混乱になる可能性は高い。


 フローレンに行ってからカーンブルクに行くと総移動距離で言えば遠回りにはなる。だけど午後からこちらに戻ってきたのに、今からカーンブルクを目指すくらいならより近いフローレンで一泊してもらうことにするか……。


「今から領都に行くには時間が遅いので少し遠回りになりますが、ここから一番近い町で一泊していただきます」


「わかりました。それではそのように皆に伝えます」


 使節団の一人にそう伝えるとすぐにその話が伝わっていく。全員揃って雪の積もるヘクセンナハトを越えて、カーン領側に山を下る。さすがに皆魔族だけあって体も丈夫なようだ。普通ならこんな雪山を軽装で踏破するなんて難しいかもしれない。でも脱落者を出すこともなく平然と山を越えた。


 そういえばこうして歩いていてふと思ったけど……、当家の部隊は雪の中や山を歩くことに慣れていないと思う。自領が森の中だから森を歩くことには慣れているだろう。軍事訓練も森の中が中心のはずだ。でも……、今後東のモスコーフ公国とぶつかる可能性を考えたらそれだけでは不十分ではないだろうか。


 実際どの程度寒いのかはわからないけど、だいたい地球に当てはめて考えればモスコーフ公国は相当寒い国だと予想される。ならばモスコーフ公国の『空間を時間に変える』遅滞戦術と冬将軍に巻き込まれたら相当な被害が出るんじゃないだろうか。


 ポルスキー王国は深い森と平坦な平野部が多いと聞いたけど、今後モスコーフ公国に対抗するにはその備えが必要だろう。今度雪中行軍の軍事訓練でもさせてみるか。……まさか雪山で遭難して全滅したりしないよな?しないよな?


 まぁそれは追々考えよう。あまり無茶な訓練をさせて遭難でもしたら大変だ。とはいえ備えておく必要はある。スキー部隊とか山岳部隊とかも必要かもしれない。


「見えてきましたよ。あれが今日皆さんに泊まっていただくフローレンです」


「ほう……。あれが……」


 まぁ使節団のちょっとがっかりしたというか、小馬鹿にしたというか、舐めた態度なのはわからなくはない。フローレンはまだ小さな町だ。大きな村、小さな町、どちらに含まれるかはわからないけどそれほど大きくないのは間違いない。


 魔族の国の王都……、皇都?はかなりの大きさだった。昔の日本も莫大な人口を抱えた大都市だった。江戸など世界でも類を見ない大都市だったからな。そんな所から来た者からすればフローレンは田舎の小さな村に見えるだろう。


 まぁ無理に見栄を張る必要もない。実際にフローレンはプロイス王国の中でも小さな町だ。規模が小さいからと馬鹿にされても反論のしようもないだろう。


 それよりもフローレンにはうちの虎の子のガレオン艦隊が隠されている。いくら今後友好国になる可能性が高いとはいえ魔族の使節団には悟られないように秘匿しておく方がいいだろう。


 そんなことを考えながら日が落ちる前に何とかフローレンへと辿り着いたのだった。



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さらに最新作を連載開始しています。百合ラブコメディ作品です。こちらもよろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] そうかミコトのセイカツが気になるのか( ˘ω˘ ) [一言] 小さくてもフローラが開発に携わったところはハイテクだから……(゜ω゜)
[一言] やはりみんながフローラの嫁より、フローラがみんなの嫁の方がしっくりきますね。 エイプリルフールネタは魔族とは女の子同士でも子供が出来るのよ!でミコトが襲いかかってくるとか(もう遅い)出来なく…
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