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第三百五話「そういう趣味が?」


 何か途中から割り込んできて魔法を放ってきた奴、タケルと呼ばれるそいつが周りから追及されている。何でこんなことになったんだっけ……。何か途中からハイになってわけがわからなくなってしまっていた。


 確かスバルとかいうミコトの兄に絡まれて……、戦ってたら気持ちよくなってきて、そしたら恐らく次男?のタケルにも絡まれて、それなのに今追及されているのは何故かそのタケルであると……。


 よくわからない状況だな。何でこんなことになったんだっけ……。


「のらりくらりと言い訳するな!タケル!」


「ちっ、父上……、お聞きください……」


「黙れ!スバルの目的はわかっている。しかしタケル、貴様の行動の目的がわからぬと申しておる!正直に答えよ」


 何か王様とタケルが言い合っている。一方の当事者であるはずの俺はおいてけぼりだ。そもそも客人というか異国の者である俺の目の前でこんなことをしていていいのか?内情とかも知られちゃうんじゃないのか?


 まぁ何の話をしているのか俺にはさっぱりわからない。ただこの状況でヘラヘラしているわけにもいかないだろう。それに建物や庭を壊したのは俺でもある。事情はよくわからないけどとりあえず神妙な顔つきでウンウンと頷いておく。


 かなり長い間あーだこーだと言い合っていたけど、埒が明かないということになったのか一時解散となった。ミコトと二人で客間に通される。


「あれ?ミコトは自室があるのではないのですか?」


「フロトが私の部屋で寝るなら一緒に行くけど、フロトがこっちで寝るなら私もこっちで寝るわよ」


 当然でしょ?という顔でそんなことを言われたけど、それで当然なんだろうか?わからない……。この国の風習とか?


「ところで……、さっきの争いは何だったのでしょうか?」


 ミコトと二人っきりになれたのでさっきのことを聞いておく。俺は何かわからないままにウンウン神妙な表情で頷いてたけど、はっきりいってこの国のことなんてさっぱりわからない。


「はぁ……。そんなことだろうと思ってたわ。どこから話したらいいのかしらね?とりあえずスバルが長男でタケルが次男よ。それで……」


 ポツポツとミコトが話してくれた内容を整理していく。


 まずこの国のトップは王じゃなくて皇というらしい。だから王子や王女じゃなくて皇子や皇女というようだ。そして皇位継承は長子相続とか長男相続という決まりはない。つまり今この国は皇位継承で揉めている真っ最中というわけだ。


 この国では女系は認められない。だからミコトが皇位に就くことは出来るけど、ミコトの夫が男系の皇族でない限りミコトの子供が皇位を継ぐことは認められない。ただ男系の女子ならば女皇になることは出来るので後継者争いがますますややこしいことになるようだ。


 皇位継承もスムーズに、簡単に決まる時もあれば、揉めに揉めて中々決まらない場合もある。今回は決まらないパターンだ。


 この国の皇位継承は実力主義のようなので当初ミコトは後継者としての『め』はほとんどなかった。落ち零れとして継承に絡まない女子ということで、かなり放置、放任されていたようで、昔に俺と森で会っていたのはそんな頃だという。


 やがて俺と遊んでいるうちにメキメキと魔法の才能を開花させていったミコトは、皇位継承でも資格ありと認められるほどになったようだけど、俺に会いたいということで継承なんて放り出してプロイス王国に留学してきたということらしい。その後のことは俺も知っている通りとなる。


 ミコト自身としては皇位を継いでも男系皇族の夫をもらうつもりはない。どうせ自分一代で終わりなら無理に皇位継承に絡む理由もなく、誰でもいいからさっさと決まって自分を解放して欲しいと思っているようだ。


 問題なのはいくらミコトが継承に興味がないとか継ぐつもりがないと言っても、皇位継承権を放棄したり、継承争いに参加しないというわけにはいかないということらしい。


 ミコトの件はそれでいいとしても、他の兄弟達は笑っていられない。それまで皇位争いに参加する資格もないと思っていたミコトが、突然資格ありとして加わってきたんだ。うかうかしていたら自分の順位を抜かれかねず、無視するというわけにもいかない。


 そんな中でも皇位継承の本命と目されているのが長男のスバルであり、それを良しとせず徹底抗戦の構えなのが次男のタケルだという。


 スバルは実力で他の者が選ばれたならば潔く身を引くと言っているらしいけど、残念ながら今の所スバルを超える候補者はいないようだ。当然タケルはそれに納得せずたびたびいがみ合い争いを起こしているらしい。


 今回はそのタケルが、何故か俺とスバルが遊んでいる所に割り込んできた。ミコトにはそれが解せないという。


「タケルお兄様ならフロトとスバルお兄様の争いの隙を突いて、スバルお兄様を暗殺するくらいはしようとするはずよ。それなのにスバルお兄様の邪魔をするどころかフロトを攻撃しようとするなんてどういうつもりかわからないわ」


「ふ~む……?」


 どうやら先ほどの王様、じゃないのか皇様?とタケルのやり取りはそういうことらしい。俺はさっぱりわからなかったけど、この国の誰が見ても今ミコトが言ったことと同じことを思うということのようだ。


 俺と遊んでるのにかこつけてスバルを誤って殺してしまったかに見せかけるならまだしも、まさかスバルを助けるかのように俺に向かって本気で魔法を使ってくるなんておかしいと……。


 確かにその話を聞けば何だかおかしいということは俺にもわかる。ただそれは一方的な意見や決めつけであって、スバルのこともタケルのことも知らない俺には判断出来ない。もしかしたらタケルは純粋にスバルの心配をして手助けを……、は、まぁないんだろうけど……。


 どちらにしろ何故俺にあんなに絡んできたのかはこちらには身に覚えのない話だ。皇様達が話を聞きだすかもしれないし、当分の間は向こうの調査待ちという所だろうか。まぁわかった所で俺に教えてくれるかどうかもわからないけど……。


 俺としては別にそんなことには興味はないわけで……。俺にとって重要なのは貴重な日本……、じゃなくて魔族の国の物が手に入ればそれでいい。何も力ずくで奪おうとかいう話じゃなくて、交易で手に入ればなという話だ。あくまで目指すのは対等の関係だということは忘れてはいけない。


「どうせわからないのなら気にしても無駄ですね。今日はもう休みましょうか」


「はぁ……。ほんと、フロトってお気楽よね」


 おい……。ミコトには言われたくないぞ……。どう考えてもミコトの方がお気楽というか考えなしというか……。絶対俺の方があれこれ考えてるよ。


「まぁいいわ。じゃ、おやすみ」


「あの……、ミコト……?」


 何故かミコトは二組並べられている布団の……、俺の布団に入って眠り始めた。仕方がないので空いた布団に移動する。


「って、ミコトまでついてきたら意味ないではないですか!?」


 俺が移動したら寝たはずのミコトがついてきていた。寝たって言いながら寝てないのはわかってるけどね。そんな布団に入って一瞬で眠れるなんて、ネコ型ロボットを押入れに飼っているガンマンくらいしかいない。


「フロトこそどうして一緒に寝てくれないのよ!」


「いや~……」


 どうしてって言われても……。


「いつもは皆で一緒に寝てるじゃない!」


「それはそうですが……」


 でもいつもは皆で一緒だよね?二人っきりじゃないよね?さすがに若い男女が二人っきりで同じ布団に入って眠るのは色々とまずいと思うんだ。って、あっ!俺も今は女だったわ。女同士ならいいのか?


「ミコトと二人っきりだと他の皆より抜け駆けしたようになりませんか?ここは皆のためにも自重した方がよくありませんか?」


「何言ってるのよ!二人だからいいんでしょ!今夜こそフロトを襲ってやるんだから!」


 あ~……、はい……。そう言われて『はいそうですか』と言う馬鹿はいないよね?それに俺がミコトを襲うんじゃなくてミコトが俺を襲うのか?


 まぁ最近の世の中は草食系男子と肉食系女子と言われるからこれも世の流れ……、なんだろうか?


「襲うと言われて、はいそうですか、とは言えませんが……」


「わかったわ!じゃあ襲わないから!だから一緒に寝ましょう!」


 うん。嘘ですね。絶対襲いますね。顔に書いてあります。それくらいは俺にだってわかる。でもこのままじゃ埒が明かないな。かといって今更ミコトを自室に押し込むというのも無理だろう。


「はぁ……。わかりました」


「ほんと!やったわ!これでフロトは私のものよ!」


 何か物騒なことを言ってるけど……、そうは問屋が卸さないよ。




  ~~~~~~~




「ふわぁ~~ぁ」


 欠伸をしながら体を伸ばす。今日も良い朝だ。


「ちょっとフロト!どういうことよ!解いてよ!」


「昨晩言いましたよね。襲ってきたら縛り上げるって。それなのに『わかったわ』って言いながら襲ってきたのは誰でしたか?」


 俺は昨晩眠る前にミコトに『襲ってきたら縛り上げるぞ』と言っておいた。それなのにミコトは『わかったわ』と言いながら襲い掛かってきた。だから俺は宣言通りにミコトを縛り上げた。


 まぁ縛り上げたといってもそんなにがっちり縛ったわけじゃない。ちょっと手足を縛って蓑虫のように這うしか出来ないようにしただけだ。全身を縛り上げたら血が止まったりとか、色々と問題になりかねないからね。


「解いてよ~!」


「はいはい……」


 朝になったから解いてあげる。一晩中縛られたままでちょっとは懲りただろう。体の具合が悪くなっても困るし解いてあげよう。


「ミコト様、フローラ様、朝の……、あっ」


「あっ……」


 そして……、俺がミコトを縛った縄を解いていると襖が開けられてこの国の女中さんと目が合った。女中さんは縛られたミコトを見て、俺を見て、またミコトを見て、俺と目が合うと真っ赤になった。


「もっ、申し訳ありません!私は何も見ておりません。何も見ておりません~~~っ!」


「あ~ぁ……」


 俺はペチリと額を叩く。絶対何か勘違いされたぞあれは……。俺とミコトがそういうプレイをしているとでも思われたんじゃないだろうか?


 でも普通その前にまずこの国の皇女が縛られてたら誘拐とかそういうことを心配しないかい?いくらミコトが長らくこの国にいなかったとはいっても一応皇女様なんだろう?皇女様の身を心配しない女中ってのはどうなんだ?


「あとで口止めしておかなければなりませんね……」


「もう遅いわよ。私とフロトはこういう趣味だって今頃城中で噂になってるわ」


 う~ん……。どうせもうほとんど来るつもりがないからどうでもいいと言えばどうでもいいけど……。別に俺はミコトに何も手を出していないというのに、そんな誤解が広がって俺がそういう趣味だと思われるのも癪だな……。


「大体フロトは奥手な癖に何でこういうことだけは積極的なのよ!普通伴侶を縛って一晩放置とかする?」


「元はと言えばミコトのせいではないですか……」


 女中さん達に変な噂を流されるのも困るけど……。俺の家や領地なら俺が何かと手を打つけど、ここではどうすればいいかわからない。俺の領地や家でもないし、しきたりとかルールが違う可能性も高い。ミコトに頼んでもうまくやってくれるとも思えないし……。困ったものだ。




  ~~~~~~~




 ミコトの縄を解いて朝食に向かったけど特に何も変化はなかった。出会う人達も普通だし、朝食の席を共にしている皇様やスバルも何も変化がない。もしかしたら本当にあの女中さんは黙ってくれているのかもしれない。まぁそもそもが勘違いであって俺とミコトはそういうプレイをしていたわけじゃないんだけど……。


 あの女中さんが言葉通りに『何も見ていない』ことにしてくれていて、自分の胸の中だけにしまってくれているのなら打つ手もある。今この瞬間にも裏で噂が広まっている可能性もあるけど、とりあえず後であの女中さんを捜してみるか。


「後で今後について話し合いたいがよろしいかな?フローラ殿」


「え?ああ、はい。わかりました。お願いします」


 何故かフローラ『殿』呼ばわりになってるな。話し合いというのは恐らく交易とか今後の関係についてだろう。こちらとしては魔族の国と争う理由はない。むしろ日本によく似たこの国に俺は一方的に親近感を持っている。出来れば仲良くしたいものだ。


 朝食を終えて食休みとなりミコトと二人で皇様の前を辞する。向こうはこれから政務なり何なり仕事があるだろう。話し合いというのもお昼前くらいの時間の予定だ。朝食の時間はかなり早いから随分時間が空いている。これからどうしようかとミコトと歩いていると……。


「あっ、貴方、確か昨日町を案内してくれた兵士の方ですね」


「え!?あっ、はい……」


 和風な城の中を歩いていると昨日町を案内してくれた兵士が見つかった。昨日は色々とお金を出してもらったからお礼しようと思っていた所だ。皇様からお金が支給されていたのかどうかはわからないけど、途中から明らかに泣きながらお金を出していたからもしかしたら自腹で払ってくれていたのかもしれない。


「昨日はありがとうございました。お金まで立て替えていただいて申し訳ありません。私はこの国の通貨は持ち合わせていないので、これで埋め合わせになるかどうかはわかりませんが……」


 俺は懐の巾着から宝石を取り出して兵士に渡す。これがこの国でどのくらいの価値があるかわからない。プロイス王国の通貨は使えないから金や宝石といったどこでも使えそうなものは持ってきている。


「あっ、あれは仕事です。このようなものをお受け取りするわけには……」


「それではこれを持って皇様にご報告なさって、貴方が払われた分を皇様からお受け取りください」


「そっ、それは……」


 兵士の視線が泳いだ。いくらかはお金を受け取っていたのかもしれないけど、俺達が使った金額には足りなかったんだろう。この兵士がいくらかでも自腹を切ったのは間違いないようだ。ならばこの宝石を皇様に差し出して、代わりに足りなかった代金を払ってもらえばいい。何もこの兵士が自腹を切る必要はないだろう。


「ありがとうございます!」


「いえ、それはこちらの台詞です。案内ありがとうございました」


 これで心残りは一つ消えた。皇様と話し合う前にもう一つの懸念である女中を捜そうかと再びミコトとプラプラと城内を歩き始めたのだった。



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