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第二百八十九話「後始末!」


 父やゲオルクにぃから話を聞いて何とも複雑な気持ちになる。フリードリヒがあれほど歪んでしまったのは俺が原因のようだ。


 俺は子供にしては最初から勉強が出来た。それはそうだ。前世の記憶があった俺はこの世界ではまだ幼児でも知識的には現代地球の高度な教育を受けた状態だった。肉体的にはまだ子供でも精神的には大人だった。子供なら耐えられないことでも耐えられた。


 もしそんな者が自分の身近にいたらどう思うだろうか?普通の子供がそんな相手を見て何とも思わずにいられるだろうか?


 俺は自分が特別優れているとは思わない。前世の記憶と意識があるお陰で少しばかり他の子供より早熟だったという程度の話だろう。


 勉強や知識という意味ではこの世界よりも発達している現代地球の知識があった。前世での経験があった。幼いうちから早めに行動することで有利になることを理解していた。ただそれだけのことだ。もし父が今の記憶と経験を持ったままもう一度赤ん坊からやり直せたら、俺なんかとは比べ物にならないとんでもない神童にでもなるだろう。


 だから俺が優れていたわけじゃない。前世の記憶と経験を持っているというチートがあれば誰でも俺と同じようになれただろう。


 でもそれを間近で見せられた子供はどう感じるか。自分が子供の頃でも同じ学校に勉強が出来る子や運動が得意な子がいて、当時は自覚していなかったとしても、今から考えればある程度のコンプレックスに感じたりしていなかっただろうか?


 同レベルの子供同士においてもそういうことは有り得る。ましてやそれが大人と子供ほどの差もあればどうだ。しかも自分の意識からすれば大人と子供だと思っていても、相手から見たら自分より七つも年下の妹が相手だ。


 フリードリヒも元は優秀だったらしい。そして最初から跡継ぎとして期待されていた。そんな重圧の中で、子供心に七つも年下の妹の方が自分より勉強が出来る、運動が出来る、何においても敵わない、なんて思ってしまったら……、それは歪んでしまうんじゃないだろうか……。


 実際にはフリードリヒがきちんと勉強や訓練をしていれば俺なんかより才能があったかもしれない。ただ子供の時に、前世の分だけリードしている俺に対してそう思ってしまったんだろう。


 今更ながらに思えば俺は兄二人とは随分距離を置かれていた。勉強も訓練も一緒にされることはなかったし、顔を合わせるのもたまにだけだった。


 父はわかっていたんだろう。もし幼少時の俺が兄達と一緒に行動していれば兄達の自尊心や自信を傷つけてしまうということを……。


 結局の所フリードリヒを狂わせてしまったのは何も考えていなかった俺が原因だったというわけだ。


 もちろんだからって俺が悪いと謝るつもりはない。相手が勝手に俺にコンプレックスを感じて歪んだだけだ。その対象にされている俺にフリードリヒが行なったことの責任があるなんて言われても当然反論する。


 ただ……、もう少し俺が考えて……、配慮していれば……、違う未来もあったんだろうか?そう思わずにはいられなかった。




  ~~~~~~~




「フロトのせいじゃないでしょ!」


「そうだよ!そんなの勝手な言い分だよ!うちだって兄弟はたくさんいるけど、兄弟が優秀だったって喜び、褒めはするけど妬んだりはしないよ!」


 夜、自室で皆に俺が聞いたことを話してみた。すると返ってきた反応はそんな反応だった。


「僕も酷く幼稚で自分勝手な話だと思うよ」


 皆俺を庇ってくれる。でもただそれで満足していてはいけない。後悔はしないけど次に活かす必要はある。今後のことも考えれば今回の話も色々と教訓が見えてくる。


「ですけれど……、確かに出来すぎる者が妬まれるというのはあると思いますわ。これからの学園生活や貴族社会で生きていく上でも無視出来ないお話ですわ」


「そうですね……」


 アレクサンドラの言葉に頷く。例えばこれからまた休みが明けて二年生になったら、学園の生徒達との付き合いにおいても同じようなことが起こらないとは言い切れない。


 フリードリヒと違って幼少期ではないから相手だってある程度は精神的に成長している。それに学園で成績に差がついたりするのは当然のことだ。それでもやっぱり成績優秀者を妬んだりする気持ちというのは、多かれ少なかれあると思う。


 それに貴族社会では持ちすぎる者は妬まれ、持たざる者は蔑まれる。あまりに持たないフリをしすぎるのも良くないけど、持っていると見せびらかしすぎるのも良くない。


 公爵家のような最上位の立場や、派閥の長というような者ならば、見栄やはったりでも何でも持つ者であることを見せびらかせなければならないだろう。そしてそれは大変なお金や労力がかかる。だからこそバイエン公爵家もあのようなことをしてでもお金を集めていたんだ。


 それは周囲に侮られないために無理をしてでもそう振る舞わなければならないから……。つけこまれないために、周囲の人をつなぎとめるために、相手に自分の力を大きく見せるために……。


 貴族社会では持たざる者のフリをしている方が圧倒的に不利になる。だからほとんどの場合は身の丈に合わないほどに持つ者であることをアピールしているだろう。それについていけない者は持たざる者として蔑まれる。


 でも俺はどうだ?騎士爵領、男爵領、騎士団国を領有し、それに国外ではゴスラント島や飛び地の自由都市を支配している。カンザ同盟の盟主としてハルク海貿易に利権を有し支配している。カンザ商会はクルーク商会と並ぶほどに成長し、あがってくる利益は小国を上回るほど莫大なものだ。それら全てをたった一人で支配している。


 もしこんなことをおおっぴらにアピールすれば俺は周囲の貴族から総攻撃を受けるだろう。


 もちろん中にはお零れに与りたいと擦り寄ってくる者もいるだろう。敵対者達だって表立って武力によって攻めてくるわけじゃない。でもそんなことが大々的に公表されたら俺は貴族社会でまともに生きていけないと思う。


 良くも悪くも目立ちすぎるというのは相応に反発を招くものだ。


「舐められ侮られない程度に実力を示しつつ、あまりに持ちすぎていることを悟らせない程度に抑えておく……。非常に難しいですね」


「そう?私はいっそフロトが全部ぶっちゃけちゃった方が早いと思うけどね。もういっそフロトがこの国を支配しちゃいなさいよ」


「ミコト!?冗談でも言っていいことと悪いことがありますよ!?」


 冗談はやめて欲しい。これ以上仕事が増えたら本当に死んでしまう。それに冗談でもそんなことを言っていると誰かに聞かれたらそれだけで国家反逆罪とかで一族郎党皆殺しくらいされそうだ。


「まぁ見せる力とか家のことはまた考えるとしても、あの罪人達はどうするんだい?」


「そうですね……。それはまたカーザース卿と少しお話しなければならないと思います」


 取り巻き達は遠慮することなく罪を償わせれば良いけど、フリードリヒは少々扱いに困る。今後また父と話し合いをしなければならないだろう。




  ~~~~~~~




 父もいつまでもここに居るわけにはいかない。今は母に向こうを任せているようだけどそうゆっくりもしていられないだろう。というわけでゲオルクにぃも含めて話し合った結果をまとめておく。


 まずすぐに決着がついた取り巻き達について。フリードリヒの取り巻きとして暴れていた奴らの罪は無銭飲食、器物損壊、カーン領の領民への暴行。無銭飲食、器物損壊に関しては全員同罪ということでフリードリヒも含めて全員で被害額を均等に弁償させることになった。


 もちろん親にも見捨てられたような者やならず者の集まりなので金なんて持ってるわけがない。家に払ってもらうように請求しても支払えないと突っぱねられることは目に見えている。というわけで彼らは揃って強制労働に従事させられることになった。


 カーザース領に引き取られることになっているけど、カーザース領における重労働に強制的に従事させられて、給料は全て差し押さえられ返済にあてられる。彼らの衣食住の分は給料から差し引かれているから返済はそれ以外の残り全額ということになる。


 それでも彼らが返済し終わるまでには長い時間がかかる。何故ならば彼らの借金が莫大だからだ。


 町で商店の商品を奪ったとか、当家で好き勝手に消費した飲食物の代金は知れているといえば知れている。一口だけ齧って捨てたりしていた分も全て請求して、びた一文まけてやるつもりはないけどその金額は大したものじゃない。その返済だけなら真面目に働けば十分返せる。彼らの借金が莫大な理由は器物損壊が原因だ。


 うちのヘクセン白磁や手入れをしていた貴重な植物を植えていた庭などを破壊したこと。また建物を壊したり汚したりしていた。それらは普通の農民が一生働いたって返せない金額だ。


 ただ幸運なことに彼らは複数人でそれを行なっていたために弁償額が均等に分けられることになった。そのお陰で何十年か真面目に、給料はそれなりに良いけど死ぬほど重労働の仕事をすれば完済出来るだろう。カーザース家が責任を持って彼らを管理し仕事をさせることになっているから逃げ出すことも出来はしない。


 それに誰かが逃げたり死んだりしたら残りの借金が他の者に均等に増やされることになる。例えば自分が百万の借金をしていて自分が全額返せば終わりというわけではなく、全員で一千万の借金をしていて、全員でそれを返し終わるまで終わらない、という感じだ。


 我が領民に暴行を加えた罪で全員に鞭打ちを科したあとでカーザース家に送られて強制労働させられることになる。


 フリードリヒだけは人数で割った分のうちの一人分だけをカーザース家が支払うことで損害賠償に関しては終了となっている。高位貴族の跡取りであったフリードリヒは領民への暴行も数日間の禁錮だけで終わりだ。身分の詐称については罪もあやふやなために問われないことになった。


 ただしうちが科したそれらの罰の他にフリードリヒはカーザース家から廃嫡という罰を受けている。実質的に失ったものとしてはフリードリヒが一番重いだろう。何もなければカーザース家を継いでいたことを考えれば失ったものはあまりに大きすぎる。


 まぁここまではカーン子爵家とカーザース辺境伯家としての話。ここからはフローラ・シャルロッテ・フォン・カーザースとして、カーザース家の一員としての話だ。


 カーン家としては賠償してもらって、禁錮なり鞭打ちなりの罰を与えて身柄を引き渡して終わりだ。取り巻き達はそれでいいけど、じゃあフリードリヒはどうなるのか。父が立て替えた賠償金をどうするのか。廃嫡された後の身柄はどうするのか。


 賠償金の回収はフリードリヒの持ち物を全て処分して取り戻すらしい。フリードリヒの持ち物を全部売っ払ったからって足りるのかどうかは知らない。足りなければ父が負担するだけだ。普通ならこれから働かせてそこから返させると考える所だけど、フリードリヒにその機会は訪れない。


 フリードリヒはこれから療養という名目で家から出されて実質的に島流しにされる。これから一生監視の下で不自由な生活を送らなければならない。島流しだからと流された先で自由に過ごせるわけじゃない。ずっと生活を監視されて、自分の意思では自由に何も出来ない生活をしなければならない。


 カタリーナは『いっそ禍根を断つために病死してもらった方が良い』なんて言ってたけど、さすがに父はそこまで出来ないのだろう。俺はフリードリヒとの思い出なんてほとんどない。兄と言われてもほとんど実感がないのが正直な所だ。


 だからフリードリヒが処刑されると言われても『そうなのか』という程度の気持ちしか湧かないと思う。でも父にとっては期待していた跡取りだ。こんなことになってしまったとはいっても『じゃあ始末しましょう』なんて簡単に言えないだろう。


「それでは私はマリアの所へ戻る。こちらは任せたぞ」


「はい……。父上もお気をつけて」


 キーンの港で父を見送る。フリードリヒやその取り巻き達のことが決着したのだからいつまでもこちらにいるほど暇ではない。


「ゲオルク、お前はこれから次期当主としての勉強がある。しっかり励みなさい」


「はい!父上!」


 ゲオルクにぃも父の見送りにキーンへとやってきている。これからはゲオルクにぃがカーザース家の次期当主として勉強していなかければならない。今までのようにのほほんとは暮らせないだろう。


 船に乗り込んだ父が見えなくなるまで港で見送る。ただの里帰りだったはずがとんだことになってしまったものだ。


「さぁ……、これからは私も大変だな」


「そうですね。これまでのようにのんびりとはしていられませんよ」


 ゲオルクにぃの言葉に俺が応える。


「私はまだ何も知らないからね。困ったことがあったらご教授願いますよ、先輩」


「いつでも頼ってください。ビシバシ鍛えてあげましょう」


「ぷっ」


「くすっ」


「「あははっ!」」


 ゲオルクにぃと二人で笑い合う。これからは家族とは腹を割って話そう。もう二度とこんなことが起こらないように……。まだ家族の誰も今回のことは吹っ切れていないだろうけど……、それでも、俺とゲオルクにぃは笑い合っていたのだった。



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 新作連載を開始しています。よければこちらも応援のほどよろしくお願い致します。

イケメン学園のモブに転生したと思ったら男装TS娘だった!

さらに最新作を連載開始しています。百合ラブコメディ作品です。こちらもよろしくお願い致します。

悪役令嬢にTS転生したけど俺だけ百合ゲーをする
― 新着の感想 ―
[一言] 枚数にもよるけどヘクセン磁器だけでもヤバい金額になってそうだよね。
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