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第二百六十五話「里帰り?」


「はぁ……」


 馬車に揺られながら溜息を吐く。今日は疲れた……。


 王城で緊急会議があってからすでに一週間以上が経ち、来週には学園の終業式がある。もうすぐ俺は二年生になるわけだ。でもそんなことに思いを馳せている暇もない。


 今日は面倒な式典があった。俺の子爵への陞爵と『カーン騎士団国』の正式な建国宣言だ。今日の式典は前の緊急会議と違って本当に正式な式典と発表だからもうすでに決まってしまったということだ。これで俺は今日からカーン子爵となる。


 前回の緊急会議の後、間もなくディートリヒと母が王都ベルンに帰って来た。父は返還された領土の管理があるために現地に残っている。戦争尽くめだった母は休暇のためにディートリヒの護衛として一緒に戻ってきたらしい。むしろ母からすればまだまだ戦い足りなかったようだけど……、一応連戦に次ぐ連戦だったからな。


 ディートリヒが戻ってきたのはもちろん正式に講和会議が結ばれて各国が条約に批准したからだ。それによってプロイス王国に返還される領土も全て正式に確定し、そしてそれがカーン騎士団国の範囲の決定ともなった。


 ディートリヒが正式に条約を結んできたために再度会議が開かれ、今度は臨時でも緊急でもなく正式に会議で俺の陞爵とカーン騎士団国建国が決定された。一部の貴族は不穏な雰囲気を纏って納得していないという態度だったけど、ほとんどの貴族は止むを得ないと黙認する形をとっていた。


 事前に緊急会議を開いていたお陰もあって国内ではすぐに意見が纏まり、晴れて今日俺は子爵となりカーン騎士団国の支配者となったというわけだ。


 ここでちょっとややこしいのがカーン騎士団国やその長についてだろうか。大雑把に言えばプロイス王国内の領地は全てプロイス王国の領土だ。そして当然そこの領主はプロイス王に仕える臣下ということになる。


 でも侯爵や公爵が支配する領地は侯国や公国と呼ばれ、侯爵や公爵を国家元首とする独立した小国とも言える体制を敷いている。つまりクレーフ公爵、グライフ公爵、ナッサム公爵、バイエン公爵などは、プロイス王国内で見ればヴィルヘルム国王の家臣だけど、領地に帰れば公国の支配者となる。


 ただ普通ならば国の支配者なら『王』や『皇帝』かと思うところだけど勝手に王は名乗れない。何しろプロイス王国内にあるんだ。それなのに勝手に王を名乗ればプロイス王国への反逆罪で死刑にされても文句は言えない。


 だから便宜的には公王とか呼べるものかもしれないな。もちろん公王なんて言葉はない。一種の造語、あるいはそれをわかりやすく表す便宜上のものだ。


 じゃあ今回出て来たモスコーフ公国やオース公国の支配者は王ではなく公爵なのかと言えば、限りなくそれに近い。実際に何らかの権威によって裏付けられた王ではなく公が支配している国だ。そしてカーン騎士団国は王や公が支配する国ではなく『カーン騎士団』が支配する国、ということになる。


 もちろんカーン騎士団は俺の配下の騎士団であって、その長は俺だ。だから俺の配下のカーン騎士団が支配する国は最終的には俺が支配する国と同義になる。ただしそれでもあくまでカーン騎士団国の支配者は俺個人じゃなくてカーン騎士団という形だ。


 今回のこの措置は止むを得ないが危険でもある。王は王であり王位を奪えば簒奪だ。だけどカーン騎士団の長は色々な理由で変わり得る。俺がカーン騎士団長をやめて他の者をその地位にたてるかもしれない。現場指揮として切り離すためかもしれないし、俺が高齢になって現場に立てなくなるからかもしれない。


 もしそうなった時にカーン騎士団国ならば騎士団長が交代した時に最高権力者も交代してしまうことになりかねない。もちろん普通ならば交代する場合に後任には自分の言うことを聞く者を選ぶだろう。だけど絶対に言うことを聞くとは限らないし、そうだとしてもカーン騎士団国の支配者の交代という形は変わらない。


 プロイス王国ならば騎士団長や将軍を交代させたからといってプロイス王の地位も権限も何一つ変わらない。でもカーン騎士団国では騎士団長を交代すれば国王が交代したことに匹敵するほどの地位や権限の交代が起こりかねない。


 じゃあ何故そんな面倒な支配体制にしたのか。それが俺の地位の問題だ。侯国や公国ならば侯爵や公爵が交代しない限り支配者の交代は起こらない。それは王と同じだ。でも俺は子爵でしかなく子国なんてものは存在しない。


 恐らく王様は将来的に俺が辺境伯、侯爵、公爵のいずれかにのぼることになると思っているんだろう。というよりそういう方向に持って行くつもりだろうな。それまでの繋ぎとしてカーン騎士団国として先に成立させ、将来俺が陞爵すれば辺境伯領にするか、侯国か公国にするつもりなんだろう。


 確かに予定通りいけばそれでいいんだろうけど、途中で俺が死んだり失脚したり、王様やディートリヒと敵対することになったら非常に面倒なことになりかねない。今はカーン騎士団国の支配者は俺だけどそれは王や公よりも交代しやすいものだから気をつける必要がある。


 っていうかやっぱり面倒事が増えただけじゃないか!西や北西の国境を守るのがカーザース辺境伯だとしたら東や北東の国境を守るカーン辺境伯として東西を俺と父に守らせようって腹じゃないのか?しかも俺は西へ出たいんだっつってんだろ!いや、言ってはいないけどね?


「フローラ様、先ほどから踊りを披露していただいて恐縮ですが間もなく到着します」


「あっ、はい……」


 どうやら俺は踊っていたらしい。そういえば頭を抱えたり、手で顔を覆ったり、色々としていた気がする。カタリーナの注意を聞いて姿勢を正した俺はカーザース邸に着くのを待っていたのだった。




  ~~~~~~~




 学園の終業式も終わりついに長期休暇に突入することになった。後期は卒業式もあるから男子も実技試験はギリギリまでじゃなくて少し早めに終わって卒業式をしたようだ。一年生である俺達は役員以外は卒業式に出ないから関係ない。卒業生と現二年生、それと一年生の役員のみが卒業式に参加する。


 まぁそもそも一年生が参加しなければならなかったとしても俺は卒業式なんて出ている暇はなかったけどな……。別にサボるとかそういうことじゃなくてそもそもそんな暇がなかった。何度も王城に出かけ、会議を繰り返し、時に他の貴族と折衝し……、そして式典だの行事だのと引っ張りだこだ。学園に構ってる暇なんてなかった。


 成績はまた六百点満点でデカデカと掲げられていたけど何かもうそれどころじゃなかったから、今回はあまり気にならなかった。他の皆は少々成績が落ちていた。やっぱり授業に出られなかったのは多少響いたようだ。それでも少し下がった誤差の範囲内だったのはさすがなんだろうか。


 ともかく学園関連は無事終わり、来期から俺達は晴れて二年生になる。ようやく長期休暇に入ったからこれから領地へ戻るところだ。もちろん領地ってカーン騎士団国じゃないぞ……。カーン騎士爵領だ。ややこしい……。


 現状領地も整理されていないから俺の持つ領地はカーザース領から分割されたカーン騎士爵領、王都のすぐ近くに賜ったカーン男爵領、そして北東のカーン騎士団国ということになる。全ての統治者は俺だけどそれぞれ位としては別々の領地だから面倒なことこの上ない。


 俺達は当初の予定通り長期休暇を利用してまたカーン騎士爵領に帰るつもりだ。ヘルムートとクリスタを領地に連れて帰らなければならないし、今回はロイス子爵ハインリヒ三世夫妻を送り届ける必要がある。クリスタの両親、カールとマリアンネもヘルムートの生活を確かめるためにカーン騎士爵領へ招くことになっている。


 そりゃ可愛い娘を嫁がせる親とすれば娘の嫁ぎ先を確認しておきたいというのは当然だろう。それもクリスタは侯爵家の娘だ。子爵家の三男でしかないヘルムートに嫁がせるのは不安で一杯だろう。せめて二人の結婚がきちんと認められるように俺としても精一杯後押しをしなければな。


 今回の里帰りは俺と母と俺のお嫁さん達、あとはヘルムートやロイス子爵家の面々とクリスタをはじめとしたラインゲン家の面々ということになる。


 ちなみにロイス子爵は今回王都に来ていた不運から最初からポルスキー王国への遠征に駆り出されていた。まぁカーザース家臣団の一員なんだから止むを得ない。カーザース辺境伯が戦争をするとなれば一番に駆けつけるのがカーザース家臣団の仕事だ。何事もなく無事に帰ってこれたんだからよかった。


 カーン騎士団国に残っている者達も交代で領地に帰ったりしているみたいだけど今回父は統治のために残っている。俺の領地というか国になったのに父に任せているのかと思うかもしれないけどそれは止むを得ないだろう。


 俺だって遊びに帰るわけじゃなくて、カーン騎士団国支配のためにカーン騎士爵領をしっかりしておかなければならない。今はカーン騎士爵領から大量の物資を運んでいる。カーン騎士団国の支配体制が確立されるまではカーン騎士爵領からの持ち出しばかりになるわけで、足元の領地をしっかり管理出来ていなければ騎士団国も早々に崩壊してしまうことになるだろう。


 カーン男爵領、シャルロッテンブルクの建設現場も何度か見に行ったけど、騎士爵領からの応援や職人が到着したことでうまく回っていた。予定は全て決めて伝えているから後は任せていてもある程度は現場でやってくれるだろう。俺がずっと付きっ切りである必要はない。


 今回カーン騎士爵領に帰るにあたっていつもの馬車じゃなくて船で帰れることになった。いつもなら馬車で陸路を一週間くらいかけてぶっ飛ばして行く所だけど、今回はステッティンの港に停泊しているうちの船に乗ってキーンまで帰る予定だ。


 ステッティンはグライフ公爵家の領内にある自由都市で、今までは貿易は出来てもうちの好き勝手に利用することは出来なかった。だけど今はポルスキー王国との戦争でうちの船の往来は王国によって領海内を自由にして良いことになっている。戦争は終わったけどまだ戦後の後始末もあるからな。


 そんなわけで現在はハルク海をうちの船が自由に航行しているからステッティンに停泊中の船に乗せて帰ってもらおうというわけだ。


 王都からステッティンに向かってステッティンで一泊、船に乗ってキーンへ向かう……、んだけどちょっと寄り道することになる。本当ならステッティンからキーンまで一日で行けるんだけど、今回はキーンへ真っ直ぐ向かわずハルク海の北西の対岸にある都市、デル王国の主要都市であるコベンハブンに寄って行くことになっている。


 はっきり言うとデル王国とうちは相性最悪だ。カンザ同盟とカーマール同盟は一触即発の状態でありいわばお互い目の敵にしている。そんなカーマール同盟の主要港であるコベンハブンにカンザ同盟の船が入港するなんて、下手したらその場で争いになりかねない。


 でも今回ミコトのためにコベンハブンに一度寄ることになった。ミコトがこちらの船の安全を保障すると言っているから大丈夫だろう……、たぶん?


 まぁ最悪争いになっても母もいるし……。客人であるラインゲン家を乗せてるから争いは避けたいけどそれはこちらだけで決められることじゃない。


 そんなわけでステッティンで一泊、コベンハブンで一泊してキーンへと帰ることになる。到着は出発から三日目だ。馬車で陸路を走ることに比べたら寄り道してもまだ早い。乗る船はもちろん母のお気に入りのサンタマリア号であり艦長はシュバルツだ。提督を敵の勢力圏のど真ん中に連れて行っていいのかと思わなくもないけど……。


 この船だって別に俺達の都合のために徴発したわけじゃなくて、もともとキーンとカーン騎士団国を往来して輸送任務や護衛任務についている船に乗せてもらうだけだ。ただちょっとコベンハブンへ寄るという予想外のことがあるだけで……。


 正直カーマール同盟の港に入るのは不安でしかないけど、少しだけ楽しみでもある。一種の外国への旅行のようなものだ。自由に観光は出来ないだろうけど外国に行って、その国のものを食べたり、港や建物を見学するだけでもきっと色々と勉強になると思う。


 まぁ括れて狭くなっているハルク海の対岸みたいな場所にある国だから、プロイス王国とそう大きく違うとは思えないけど……。同じ海で漁をしているわけだから魚も同じようなものだろうし……。


 それは現地へ行ってのお楽しみだとしてようやくステッティンの港が見えてきた。俺達は今回の戦争でこのステッティンも何度か訪れたけどクリスタは初めてだという。ラインゲン侯爵夫妻も初めてかもしれないし、今日はこのままステッティンで一泊だからクリスタ達を連れて観光するのも良いかもしれない。俺達だって戦争で通っただけで観光はしてないからな。


 グライフ公爵領に囲まれたステッティンからマルガレーテのことを連想で思い浮かべた。そういえばマルガレーテはどうしているだろうか。今回はバタバタしていて会う暇もなかった。ルートヴィヒとの仲が少しは進展しているといいんだけどな……。



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