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第二百五十八話「試験の後に?」


 何とか試験までには王都に帰ってこれた!だけどこんな状態で試験を受けて大丈夫か?試験勉強をしていないとかいうレベルの話じゃなくて、そもそも最後の一ヶ月は授業すら受けていないぞ。これで試験を受けるとか正気の沙汰じゃないと思う。


「こんな状態で試験を受けろだなんてあんまりです……」


「いいじゃない別に。全教科零点でもいいんだから気楽にいけばいいでしょ?」


 ミコトはお気楽だな……。今俺達はミコトもアレクサンドラも揃って俺の馬車に乗って学園に向かっている。昨日戻った所なのに今日から学園の試験だ。日程は前期とほぼ同じなので割愛する。男子の実技については調べている暇もなかったし俺には関係ないからわからない。


 前期の時は俺は近衛師団の護衛として男子の実技に関わっていたけど今回は護衛とかは言われていないからな。今から言われるという可能性もほぼないだろう。護衛だって事前の準備や打ち合わせがあるわけで、今日言って、じゃあ明日から来て、というような話にはならない。


 そんな連携も事前の打ち合わせも出来ていない者が下手に入るくらいならいない方がまだマシだ。仕事でも遊びでも一人勝手なことをして周囲と歩調を合わせない者がいたら余計に迷惑になるという経験は誰にでもあるだろう。ましてや護衛任務なんて周囲と連携しなければならない重要な仕事なら打ち合わせも出来ていない者を急に入れたりしない。その方が任務に支障が出る。


 そもそも近衛師団自体が遠征に出ているんだから今回の男子の試験は相当な変更が加えられているんじゃないだろうか。少なくとも前期と同じということはないだろう。だいたい野営訓練は前期にしているのにまた同じ内容ということもないはずだ。


 まぁ男子の試験は俺には関係ないからいい。それより問題は俺の方だ。


「ミコトは随分落ち着いていますね」


「だって私達ポルスキー王国に行ってる間も暇が多かったから勉強してたもの」


 えっ!?何それ!ずるい!俺は勉強なんてしてる暇もなく戦場を駆けずり回っていたってのに……。


「ミコトさんはそれほど勉強していなかったと思いますが……」


「ちょっとアレクサンドラ!どういう意味よ!」


「どういう意味も何も言葉通りですよ」


 おお!アレクサンドラも言うようになったな。立場の違いからミコトにはそれなりに遠慮していたと思っていたけどいつの間にか随分打ち解けてきたようだ。冗談か本気か判断はつかないけどあれだけ言えるというのは相当親しく、遠慮がなくなっている証拠だろう。決して仲が悪いとかではなく友達同士のじゃれあいだ。


「アレクサンドラも勉強していたのですね……。では私だけ……」


「家庭教師役の方は色々とおられましたからね。一応後期の範囲は全て授業を受けたようなものです」


 やっぱりずるい……。別に前期みたいに全教科満点とまでは言わないまでもせめてカーザース家の名前を汚さない程度には出来ていなければまずい。これまでの感じからして俺が家庭教師達に昔習っていたことがほとんどだから授業に出ていなくても一度は習ったものばかりのはずだけど……。果たしてどれくらい出来ることやら……。




  ~~~~~~~




 あっという間に俺とミコトは全日程を終えた。あとは実技の日程が後だからアレクサンドラの実技が残っているだけだ。実技はわからないけどペーパーテストの方は……、自己採点だと恐らくほぼ満点だと思う。問題用紙に答えを書き込んで持って帰るということが出来ないから確認は出来ない。あくまで俺の記憶と自信を頼りにした自己採点だ。


 それでもほぼ出来ていると思う。俺自身は恐らく満点じゃないかと思える程度の出来だ。実技は採点する先生にしかどの程度の点数をつけているかはわからないから判断しようがない。多分カーザース家の名を汚すような成績は取っていないと思う。


「フローラはいるか」


「父上?」


 あとはアレクサンドラの実技試験待ちとなっていた俺達の所へ父がやってきた。まぁここは王都にあるカーザース邸なんだから父の家なんだけど……。ともかくこんな場所にいるはずのない人物の登場に驚く。父はまだポルスキー王国で忙しいはずだけどどうしたんだろう。


「これから王城へ向かう。すぐに男爵の正装に着替えなさい」


「え……?あっ、はい……」


 一瞬何を言われたのか意味がわからなかったけど急いで準備に取り掛かる。何かあったんだろうか?戦場にいるはずの父が連絡もなくいきなり慌てて戻ってきたかと思うとその日のうちに俺を伴って王城に出向く……。どう考えても面倒事の匂いしかしない。


 でも面倒だからとか言ってられないので言われた通りに着替える。父はもう準備出来ているようだから俺待ちだ。あまり待たせるわけにはいかないから急がなければならない。


「お待たせいたしました父上。供の者は?」


「必要ない。私が連れている者だけで向かう」


 父に聞くとそう答えたので後ろに控えるカタリーナの方に振り返る。


「わかりました。カタリーナ、家のことは頼みますね」


「かしこまりました。いってらっしゃいませ」


 カタリーナは俺についてくる気満々だったんだろうけど父にそう言われたら逆らえない。見た目の表情的には不満を一切表に出さずにそう言って頭を下げた。でも俺にはわかる。絶対今のカタリーナは不満だらけでちょっと怒って拗ねている。最近俺は女性の感情の機微も察せられるようになってきた。


 ふっふっふっ……。この調子でいけば恋愛マスターで女垂らしになれる日も近いだろう。女性の心を読み取って鷲掴みに出来る日はもうすぐだ。


 これから面倒事に巻き込まれることが予想されるのでそうして俺は現実逃避しながら馬車に揺られていたのだった。




  ~~~~~~~




 王城に着くとすぐに受付に向かう。父が受付を済ませるとすぐさま奥へと通された。離れていたから全部聞こえたわけじゃないけど聞いている限りじゃ約束を取り付けてきたわけじゃないはずだ。それなのに到着してすぐに通されるというのは相当なことだと思う。


 まぁ……、俺が王城に来てもほぼ毎回すぐに通されるからあまり説得力がないというか、そんな大したことじゃないんじゃね?みたいに思えるかもしれないけどとんでもない。普通に一国の王や宰相を相手にアポイントメントもなしに訪ねてその場ですぐ会えるなんてことが異常だ。


 恐らく俺がすぐ通されるのは俺のお土産とかのためじゃないかと思う。いや、知らないけど他に理由が思い浮かばない。


 俺は登城する際には大体何か手土産を持ってきている。最近はありきたりというか同じような物ばかりになってきているけどそれでも王族や宰相も毎回俺のお土産に飛びついている。喜んでくれるのは持って来た方としても甲斐があるけど王族や宰相がそれでいいのかと思わなくもないけど……。


 それはともかく王様達がすぐに俺の所へ来るというかすぐに会えるのはお土産目当てかなと思う。だけど普通なら面会の約束を取り付けて、何週間も、下手したら何ヶ月も待ってようやく会えるような相手だ。王城に訪ねていったらその日にすぐ会えるなんてお気軽な相手じゃない。


 それなのに今日父が少し受付に何か告げると伝令は慌てて走り、俺達は即座に奥へと通された。これはもうどう考えても面倒事の匂いしかしない。出来れば帰りたい……。俺は関係なくないですかね?いらなくないですかね?父と王様やディートリヒで話したらよくないですかね?


 学校に行きたくない子供のような気分で嫌々ながらも重い足を引き摺って王城の奥へと案内された。謁見の間などの公務の部屋じゃない。後宮、つまり私室に通されている。俺は何度も通されて王様やディートリヒと会っていた部屋だけど父と一緒に来たことはない。


 父も後宮に通されることくらいはあるだろう。俺と一緒に後宮に入ったこともある。でもそれは謂わば応接室だ。後宮の中でもあくまで客人を迎えるための場所とでも言えばいいだろうか。家に招く程度の親しさはあるけど私室には通さず応接室で対応する程度、と言えば何となくわかるかな。


 でも今回は俺がよく通される部屋、謂わば居間、リビングに通された。これは相当なことじゃないだろうか。ポルスキー王国に遠征して戦争していた父が急に戻ってきて王様の私室に通される……。お腹が痛くなってきた。帰りたい……。


「来たか」


「陛下っ!?」


 俺達が部屋に着くと王様はもう待っていた。ディートリヒもいる。二人が先に来て待っているなど相当なことだろう。挨拶もそこそこに座れと促されてすぐに本題に入る。普通の高位貴族なら冗長な挨拶でもするんだろうけど父はそういうことを嫌うし、王様やディートリヒといった実務を優先する相手だからこの辺りは省略されてスムーズに進む。


 普通は王様や宰相への挨拶がいい加減とか許されないことだろうけどこの面子は全員そんなことよりも実務を取るタイプだからな。公式の場ではきちんとしているけどこういう時には実務優先だ。


「さて……、早速本題に入りたい。先の知らせは本当か?」


「はい。使者も連れてきております」


 早速本題を切り出した王様に父が答える。だけど俺には何のことだかさっぱりわからない。本題とか知らせとか言ってるけど何も知らされていない俺には何のことやらさっぱりだ。


「う~ん……。まさか一ヶ月少々でねぇ……。これはさすがにこちらも予想外だったよ。またしてもフローラ姫の手腕かな?」


「はい。間違いなくカーン卿の作戦と指揮の結果です」


 え?え?何の話だ?皆がジロジロと俺の方を見てくるけど俺だけまったく話についていけない。せめて何のことか教えて欲しい。どうして父はここに来るまでの馬車の中ででも説明してくれなかったのか。俺だけ話についていけないのに俺のことを何か言われていると物凄く不安になる。


「はぁ……。小国とはいえまさか一ヶ月ほどで一国を降伏させるなんてね……」


 …………ん?


「我々の下へ送られてきた使者も王都まで連れてきております。後ほど正式に会談を……」


 ……んん?


「それで降伏に際して向こうの条件は……」


「こちらとしては……」


「国内の対応として……」


 三人が何やら話しているけど俺は頭の整理が追いつかずついていけない。さっきこの人達は何て言った?降伏?どこが?父が使者を連れて戻ったというのだからポルスキー王国だろう。……降伏?もう?たったあれだけで?


 確かにハルク海沿岸とそこからある程度の内陸部までは占領した。いや、プロイス王国の立場から言えば奪還したというべきか。それは今はどっちでもいいけど、確かに沿岸部を攻略して敵の陸海軍の一部は破った。でもそれで降伏するほどか?それともあれか?簡単な手打ちにしてもう終わりにしましょう的なやつか?


 そうか……。そうだよな……。たぶん適当に賠償金でも払って手打ちってことだろう。占領地は返して、賠償金を受け取って、沿岸部の孤立している自由都市に今後手を出さないとかいう約束をさせて終わり。そんな感じだろう。


 普通に考えてこのまま戦闘が継続になればカーン家・カーザース家連合軍の方が厳しい。ポルスキー王国が本気で兵を動員してくればたかが一地方領主でしかないカーン家とカーザース家の連合軍など兵力差で圧倒されてしまうだろう。


 だからここらが潮時ということだろうな。こちらも無理に欲はかかず、相手も負けを認めて少々の賠償金で済ませる。そうか。それなら納得だ。折角たくさんの町を解放して演説して回ったのに残念だけど占領地はポルスキー王国に返還して賠償金を貰って終わりだろう。


「ではフローラ姫に……」


「……として、あとは……」


「……ということで」


「なるほど……。それならば……」


 ………………

 …………

 ……


「…………ということだ。良いなフローラ?」


「え?あっ、はい?」


 何が?王様に急に話を振られて問い返す。


「そうか……。其方が納得してくれるのならば良い。後は任せるぞ」


「へっ?」


 だから何が?俺は了承したんじゃなくて問い返しただけだけど?何の話?ねぇ?ちょっと待って……。これは何か悪いパターンに入ってないか?そんな気がする。今のうちに止めなければまた取り返しがつかないことになるんじゃないだろうか。


「それでは後日正式に使者の引見と国内貴族を集めて正式決定いたしましょう。それでは今日はもう戻ろうかカーン卿」


 ちょっ、ちょっと待って!?何かこのままじゃやばい気がする!でも今更聞いてませんでしたって言えない雰囲気!?どうすんのこれ!?



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― 新着の感想 ―
[一言]  まあ、1ヶ月であんだけ侵攻されて領地奪われて兵もなくして(捕虜or殺害)ってされたらねぇ……しかも理由が試験に間に合わせるためっていう……試験はしかも余裕だし()  本当フローラちゃんは肝…
[一言] 厄介事と認識できてたのならちゃんと聞きなさい(笑)
[気になる点] フローラって、結構毎回重要な話し合いの席で考え事してて肝心なこと聞き逃しますよね… これが正式な婚約発表の話とかだったらどうするんだw [一言] ポルスキー王国が1ヶ月で降伏に追い込ま…
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