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第二百五十話「新たな勅書!」


 シュテファンから封書を受け取って封を切る。中身を取り出し目を通した俺は我知らず深く息を吐いていた。


「どうしたんですか?何が書いてあったんです?」


「う~ん……、とりあえずカーザース卿やシュバルツを呼んできてください」


「あっ……、はい!」


 俺の指示の意味がわかったのかシュテファンは敬礼してからすぐに出て行った。敬礼は出来るのにノックは出来ないのか……。まぁシュテファンは馬鹿じゃない。本人がやる気がないからしてないだけだろう。


 ていうか女性の部屋に入るのにノックもしないとかどういうつもりだ。もし万が一にも何らかの理由で服を脱いでいたりしらたどうするつもりだというのか。


 普通に考えたらここは執務室であって俺が着替えるなんてことはまず滅多にないだろう。でも絶対にないと言い切れるか?もしかしたら飲み物や軽食を零して拭いたり着替えたりしているかもしれない。男性同士なら別に見られてもどうってことはないだろう。でも女性の裸だぞ?


 まぁ……、この世界、というか地球でも昔は女性の裸の価値が低いんだよなぁ……。とある国の女王様が他国の外交使節の前で胸元の大きく開いたドレスを着ていて胸がポロリしていたけど気にも留めなかったとかそういう時代だ。


 下着を穿かずにウロウロしていて庭先で糞尿を垂れ流したりするわけで、しかも着替えだ何だと家人達に手伝わせるから人に肌を晒すことにも慣れている。現代でも日本人は外国人のあけっぴろげな露出に戸惑うけどさらにもっと奔放だったような時代だ。


 ただ俺は現代日本人の感性を持つわけで、さらに元男性が女性になっていることも加えて考えると男に肌を見られることに非常に抵抗がある。そういう事故を避けるためにノックして欲しいと言っているのに中々伝わらない。


「フローラ様、アルベルト様をお連れいたしました」


「あぁ、どうぞ、お入りくださいカーザース卿」


 シュテファンはあちこちに色んな人を呼びに行ったんだろう。父を案内してきたのはカタリーナだった。カタリーナはちゃんとノックして外で用件を言ってくれる。


 今は父と娘ではなくカーザース辺境伯とカーン男爵なので相応に振舞う。いくら親娘とはいえ、いや、だからこそ公私混同はよくない。今はあくまで王命で協力して出征している連合相手だ。


「うむ。失礼する」


 言葉少なに入ってきて席に座った父を見ながら考える。そういえばこの父にも一杯食わされた。何のことかと言えばジャンジカ将軍のことだ。父と母は俺が対人戦闘の経験が足りないことからもし敵にジャンジカ将軍がいたらうまく戦わせて経験を積ませようと話し合っていたようだ。


 お陰でまるで母並の化け物が敵にいるのかと思って随分俺の肝が冷えた。もし母並の化け物が敵にいるのなら船も危ないと思ったけど、どうやらジャンジカ将軍より父の方が強いらしい。船に父が残っていれば十分対処可能だったようで随分危険な相手のように危機感を煽られたけどそんなに心配なかったようだ。


 俺がそんなことを考えている間にも続々と首脳陣が集まってきていた。だいたい主要なメンバーが集まったので王様からもらった面倒なお手紙のお披露目といこうと思う。


「今回集まっていただいたのはヴィルヘルム国王陛下より勅書が届いたためです。まずはその内容をお伝えいたします」


 皆には手紙を読んで聞かせるけどそれは貴族らしい冗長な言い回しが多々含まれているので要約すると……


『ポルスキー王国から仕掛けてきた戦争だしケーニグスベルク戦で敵を殲滅して相手は弱ってるから今まで奪われた土地や都市も全部解放してきてね』


 ……まぁ、つまりはそういうことだ。


 歴史的経緯から言うとこの辺りのハルク海沿岸は元々プロイス王国の開拓地だった。東方植民地として何百年か昔から徐々に開拓と植民が行なわれてハルク海沿岸を東へ東へ進んでいたようだ。


 ポルスキー王国はその東の内陸部に後年興った国であり元々は沿岸部に領地を持っていない完全な内陸国だった。だけどプロイス王国がフラシア王国や魔族の国と対峙し、時に争っている間に幾度となく背後の東を攻めて多くの都市や町を奪っていった。


 現在では国境線も曖昧でプロイス王国の残っている領域は点在する自由都市などに限られておりその周囲はほとんどポルスキー王国に押さえられてしまっている。そして今回ポルスキー王国は残っている自由都市を奪おうと行動に出て来たわけだ。


 だけど俺達がケーニグスベルク攻防戦でポルスキー王国の侵略軍を撃退どころか壊滅させてしまった。これはプロイス王国からすれば千載一遇のチャンスだ。


 プロイス王国は今まで奪われた領土や都市を諦めたわけでも条約によって譲ったわけでもない。ただ西の各国と対峙するために東に手が回らず放置されていただけだ。だけど今回俺達が敵の主力部隊を壊滅させたことでポルスキー王国に決定的な隙が出来た。


 敵が持ち直す前にこの機会に奪われた領土を取り返すというのが今回のプロイス王国の決定というわけで、俺達に下された命令というわけだ。たった陸上部隊千数百名、ガレオン船・キャラック船何隻かで一国を相手にして奪われた土地を取り返してこいという。


 しかもご丁寧に王国の正規軍の応援が来るのは早くとも数ヶ月は先になるという情報つきだ。こんな命令を下してくるんだからそれはさぞ手厚い支援でもあるのかと思いきや、戦費の保証も物資の支援もないとか馬鹿にしているとしか思えない。


 土地は取り返してこい。戦いはお前達で勝手にやれ。そう言われているわけだ……。


 ポルスキー王国の奴らを尋問してわかっている。プロイス王国にポルスキー王国との内通者がいるからだ。だからこんな馬鹿げた命令を下してきているんだろう。今回出征する前からプロイス王国内部に内通者がいることはわかっていた。それがポルスキー王国側からの情報で補完されただけのことで驚きはない。


 だけど王様も王様だろう。何故それがわかっていながら……、それどころか報告とは別に私信に捕虜から得た情報の一部まで添えて送ったのに……、こんな決断をして命令してきていることが不可解だ。一体王様とディートリヒは何を考えているのか。


 どう考えても碌な事考えていないだろうな……。俺はうまく二人に利用されているということだろう。家臣なんだから王様や宰相に利用されて命令に従うのは止むを得ないけど……、こんな無茶な要求をされる方の身にもなって欲しい。


 何ならいっそ今から取って返して王都ベルンを……、なんて俺が思わないとも限らないぞ。あまり無茶なことばかりさせられてストレスをかけられたらあり得ないとも言い切れないからな。


「ということです。今回首脳陣に集まっていただいたのは今後の作戦について話し合おうと思ってのことですが、何かご意見のある方はおられますか?」


 一通り勅書を読んでから意見を聞いてみる。だけど議論は俺の思わぬ方向に進んでいった。


「かつてプロイス王国から奪われた地を取り返すのならばウィンダウくらいまでは侵攻するか?」


「ウィンダウに向かうにはまずはメメブルクから落とす必要がありますね」


「奪われた東方植民地を全て取り戻すというのならリーガーは取り返さなければ……」


「リーガーは湾の中だ。リーガー湾の制海権を得て安全に航行出来るようにするためにはオーセル島を落とさなければならなくなるぞ」


 皆盛んに議論を交わし始めたけどちょっと待って欲しい。何で皆そんなに前向きなんだ?確かに命令された以上は従う必要がある。だけど無理に侵攻せずに適当にこの近隣だけ維持していればいいんじゃないのか?


 まず……、この世界の地図がどこまで正確かわからないし俺は直接行ったことはないけど、大まかな配置で言うとケーニグスベルクからメメブルクという自由都市まで行くとハルク海は陸にぶつかり北上しか出来なくなる。東西に広がっていたハルク海が南北に変わる形だ。その陸地に沿って北上していくと半島の先にウィンダウという自由都市がある。


 ざっと位置関係で言えばゴスラント島から南下するとダンジヒ辺り、東へ進むとウィンダウという感じだ。ハルク海の交易の中継地点としてゴスラント島がいかに重要な位置にあるかがわかるだろう。そのダンジヒからウィンダウまで進む間に海岸線が東西から南北に徐々に変化していくわけで、途中にあるのがケーニグスベルクとメメブルクというわけだ。


 さらにウィンダウのある半島から南東方向にリーガー湾というのが広がっていて。その湾の奥にあるのがリーガーという自由都市だ。ただその湾はオーセル島という島で湾の出入り口を塞がれている。船の安全や制海権を得ようと思ったらウィンダウがある半島側とオーセル島の両方を押さえてしまわなければならない。


「オーセル島もプロイス王国の東方植民地だ。オーセル島も取り戻せば良い」


「いや……、今オーセル島はカーマール同盟とモスコーフ公国の間でややこしい場所になっている。今オーセル島に手を出せば両勢力を同時に相手にすることになるぞ」


「そもそも現時点でポルスキー王国と争っている。これ以上敵を増やすのは得策ではないだろう」


 待って……。その前に何で皆さんそんなに好戦的なんですか?もうちょっと落ち着きましょうよ。俺達はたかが陸軍千数百人と、大型船とはいってもガレオン船・キャラック船何隻かしか戦力がありませんよ?


 もちろん輸送や補給を担う船は他にもある。コグ船やキャラベル船だってあるしカンザ同盟の他の都市からも応援の船が来ている。だけど大砲を装備していてそれなりに戦力になりそうなのはやっぱりガレオン船とキャラック船だけだ。その全てを集めたって一度に使えるのは精々十隻が限度だろう。それ以上を一気に使っても補給が間に合わない。


「レーヴァルまでは取り返すべきだ」


「だからレーヴァルも今はカーマール同盟とモスコーフ公国が争っている場所だ。そんな所に首を突っ込んだら双方から攻撃されかねない」


 レーヴァルというのはウィンダウのある半島と逆側の半島でその両側の半島に挟まれているのがリーガー湾であり、そのリーガー湾の出口を塞ぐようにあるのがオーセル島だ。この辺りは現在カーマール同盟とモスコーフ公国が争っているそうで、今言われている通りこんな所に手を出せば両方から攻撃を仕掛けられかねない。


 って、だからそうじゃない。こんな手持ちの兵力だけでそんなに手を拡げても仮に一度攻略出来たとしてもそんなに広くいくつもの都市を維持出来ない。戦ってもこちらが無駄に消耗してしまうだけだ。


「ちょっと待ってください。そんなに沿岸部に点々と自由都市だけ確保していっても今のケーニグスベルクやダンジヒの二の舞になるだけです」


「そうだな……」


 おお!父が同意してくれた。これなら……。


「ならばやはりある程度は厚みをもつためにも内陸部まで侵攻する必要がある」


 おおい!何でそうなる!?ますます侵攻する範囲を広げたら維持も出来ないだろ!?


「となると……、補給や兵員を考えるとアレンステインやオステロデ辺りまでというところでしょうか」


 あっ、そこはちゃんと考えてんのね……。もうてっきり皆のことだからポルスキー王国全土を落とすとか言い出すのかと思ってたよ。というか制海権確保と海上輸送で賄うっていうことはちゃんと考えてるんだな。一応さすがは歴戦の猛将達と言うべきなのか?


 アレンステインというのはケーニグスベルクから南に進んだ内陸部にある都市で自由都市というわけじゃない。だけど元はプロイス王国の東方植民地として開拓された都市だ。そのアレンステインの西にオステロデという都市があり、こちらもまたプロイス王国の東方植民地だった。


 首脳陣が示した範囲だと沿岸部から補給が届く内陸部までをずーっとハルク海沿いに全て奪い返そうということのようだ。さすがにレーヴァルまでとかいう無茶は引っ込めたようだけど代わりにある程度内陸部までずっと沿岸沿いを取り返す案で決まってしまった。そう、決まってしまった。


 ウィンダウがある半島部分まである程度内陸部まで沿岸沿いにずーっと全て取り返すという……。


 そりゃ勅書でそう命令されたんだから何もしないというわけにはいかないだろう。こちらが持っている兵力で可能な範囲に絞られたかもしれない。確かに夢物語じゃなくて歴戦の指揮官達が実現可能なように考えている。


 でもちょっと無茶が過ぎませんかね?いくら補給や兵員輸送が可能だとしてもたかが千数百人で制圧出来る広さじゃないと思うけど……。


「私は一ヶ月で帰りますからね」


「「「「「――ッ!?」」」」」


 俺の言葉に何故か会議室はザワザワとざわめていた。何にざわついているのかわからない。俺としては君らの無茶な戦争計画の方がよほどざわつくことだと思うんだけど……。



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さらに最新作を連載開始しています。百合ラブコメディ作品です。こちらもよろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[一言] お約束のすれ違い…w でもフローラさんのことなので、またぶっ飛んだ結果出しそう ポルスキー王国の全面降伏&属国化とか
[良い点] 士気が高いのは良いことですよね( ゜д゜) [一言] フローラ「私は(学業があるので) 一ヶ月で帰りますからね」 みんな「私は(さっさと奪還して) 一ヶ月で帰りますからね」 とかそんなパ…
[一言] フローラ「一ヶ月で(切り上げて)帰りますからね!」 他「(一ヶ月ですべて終わらせるだと!?)」
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