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第二百四十三話「作戦会議!」


 まずはざっと状況を整理しようと思う。敵勢力はプロイス王国の東に位置する国、ポルスキー王国の兵約三千人。ポルスキー王国兵達は遠巻きにケーニグスベルクを包囲しているだけで今の所直接の戦闘には至っていない。だけど陸路も海路も封鎖されていたケーニグスベルクの食料や物資は減り続けておりそう長くはもたない。


 俺達が海上封鎖を突破してきたから海上輸送は復活出来るかもしれない。敵の海上戦力がどの程度かはわからないけどシュテファン達が見た敵の船の数はそれほど多くないらしい。ここに来るまでに俺達が八隻沈めてきたことを考えると敵の海上戦力は相当削られていると思われる。


 ただケーニグスベルクの船や船乗りも随分やられたようで、地上戦は行なわれず包囲されているだけだけど海戦は行なわれたようだ。まぁ海戦といっても突然ポルスキー王国の海軍に漁船や貿易船が襲われただけでほとんど一方的な攻撃だったようだけど……。


 ポルスキー王国海軍に襲われた時に一部はダンジヒへの伝令に出たという。その時の情報がカーン家商船団にまで伝わって俺に流れてくることになったというわけだ。


 その後湖から海へと出る河口は完全に押さえられてしまい伝令も出せず、打って出るにも船の多くを沈められケーニグスベルク側には海戦を仕掛けるだけの船は残っていないらしい。無事だった船の一部は以前俺が訪れたジマブーデという町に避難しているそうだけどそれも小型の漁船が中心で海戦には使えない。


 まぁポルスキー王国はもともと海に面していなかったために海軍が弱い伝統的な陸軍国だという。ポルスキー王国の状況から考えてそれほど海軍戦力が残っているとは思えない。シュテファンが見たという敵船の数と合わせて考えても出張ってきていた敵はほぼ沈めただろう。応援が来るとしても暫くは時間が稼げるはずだ。


 対するこちらはまだ砲弾を一発も消費していないから武器弾薬満載のガレオン船が二隻。陸上部隊としてカーン家・カーザース家連合軍が百名ほど。もちろんガレオン船には水夫や水兵が数百人乗っているけどそれを降ろすわけにはいかない。


 ガレオン船をがら空きには出来ないし彼らは基本的にガレオン船の操船やカーン砲の操作、乗り込まれたり乗り込んだ場合の白兵戦要員だ。陸上に降ろして戦わせるための兵ではなく、そんなことで兵員を損なうわけにはいかない。


 ケーニグスベルクの兵力が警備兵五十人、自警団百五十人、志願兵という名のただの一般市民百人の陸上部隊三百人。そしてシュテファンの海軍とやらが二百人。


 海軍の人数が随分多いように感じられるけど海軍とは名ばかりで彼らは漁師とか漁業関係者、貿易船の乗組員とか港の人夫がほとんどだ。


 この時代貿易船と軍艦に違いはなく船=海上戦力ではあるわけだけどそれはあくまで荒事に慣れている貿易船などの話だ。近場で漁をしているだけの漁船や漁師はさすがに戦力としてカウント出来ない。今は非常時で町が滅べば自分達も滅ぶから漁師達も海軍として編成されているだけだな。


 それは志願兵扱いの一般市民も同じであり、このまま指を咥えて見ていたら町が滅ぼされるか支配されるだけだから嫌々ながらも志願兵として集められているだけだ。


 そして致命的なのが海軍と言いながらもうほとんどまともな船もなく結局はただの陸上戦力としてしか使い道がない。彼らが港を見張っていたように海軍と言いながら海に出るのではなく港から上陸してくる敵に対して警戒しているだけだ。


 ケーニグスベルクの海軍も陸上戦力だと考えて俺達の軍も全てかき集めても六百人にしか満たない。しかもそのうちまともに戦闘訓練を受けていそうなのは精々半分の三百人という所だ。残り三百人はほとんどただの素人同然だろう。


 敵三千人を相手にほとんど素人同然の者も加えて六百人……。五倍の兵力差……。虎の子のガレオン船を使おうにもこの町は河口の先にあり、ガレオン船を狭い川に入らせるのは危険が大きすぎる。河口の手前ギリギリまで近づいて砲撃すれば町の西側に迫ってきた敵には艦砲射撃が出来るかもしれない。


 でも町の裏側になる東側から攻撃されたら川に入らなければ射線が取れない。敵だって馬鹿じゃないだろうから最初は艦砲射撃を受けたとしても途中で町の影側に移動するだろう。そうなると決定打とはなり得ない。


「これは思ったよりも厳しいかもしれませんね」


「どうしてぇ?あの船をこことここに置いて……、あの火を噴く筒で攻撃してからお母様とフローラちゃんが突撃すれば簡単よ」


「お母様……」


 前の作戦会議や打ち合わせでまともなことを言っていたから母も前線指揮官としては優秀かと思ったけどまた無茶を言い出した。


 母はガレオン船を川に入らせて町の東西に一隻ずつ配置、北のポルスキー王国軍に向かって艦砲射撃を行なってから俺と母でケーニグスベルクから打って出るというものだった。無茶が過ぎる。


 まずガレオン船を川に入らせるだけでも危険が大きい。船というのは川や海峡のような狭い場所で陸から攻撃されるのが一番苦手だ。どんな最新鋭艦であろうともいともあっさりと撃沈されかねない。だからこそ海峡を押さえるというのは非常に重要なんだ。


 そして仮にガレオン船が川に入っても大丈夫だったとして、川から北に向かって艦砲射撃を行なってもどれほど効果があるかわからない。敵が町のすぐ近くまで来ているのならともかく、それほど射程の長くないカーン砲では敵が離れていればそもそも砲弾が届かない可能性もある。確実に艦砲射撃を浴びせようと思ったらどうにかして敵を前進させる必要があるだろう。


 最後に……、いくら全弾薬が切れるまで艦砲射撃を行なったとしても三千人もの敵兵に有効打を与えられるとは限らない。榴弾が開発出来ていない現状ではカーン砲は硬い対象にはある程度有効だけど散らばった歩兵相手にはどこまで効果があるか未知数だ。


 それなのに艦砲射撃の援護をあてにして全軍でも六百人しかいないこちらの軍が打って出るなど自殺行為に等しい。いくら何でも無茶が過ぎる。


「せめてもう少し作戦をですね……」


「う~ん……。あっ!じゃあフローラちゃんの考えは?お母様が採点してあげる」


 俺の作戦か……。理想は奪取した制海権を維持して海上輸送によって補給しつつ籠城して持久戦かな。カーン家商船団にも応援を運んでくるように指示しているから待っていればこちらの戦力は増強される。ここにいるガレオン船二隻だけじゃケーニグスベルクの食料や必需品全てを輸送出来ないけど、制海権さえ確保出来ていればダンジヒの貿易船にも応援を頼める。


 カーン家商船団のみならず時間を稼げばプロイス王国からの応援も到着するだろう。そうなればポルスキー王国も撤退せざるを得なくなる。俺達の役目はプロイス王国の態勢が整うまでケーニグスベルクを落とされないように維持することだ。


 でも……、それだと物凄く時間がかかる可能性が高い。父も態勢を整えて反撃するまでに半年はかかると言っていた。俺はこれから半年もこんな場所にいるわけにはいかない。何しろもう一ヶ月ちょっとで試験が始まるからな。ならさっさとケリをつけるなら多少のリスクは止むを得ないか……。


「私でしたら……、まず敵後方に私が火魔法を放ち敵をこちら側に追い立てます。火に巻かれて嫌でも敵が前進してきた所でガレオン艦隊を川に突入させお母様が示された通りの位置に配置し艦砲射撃による支援攻撃を行ないます。後方を火に追い立てられ前方からガレオン艦隊の艦砲射撃に晒された敵に向かって私が再びケーニグスベルクの城壁上から魔法を放ち追い討ちをかけます。これでも降伏しないのならば最後に全軍突撃で決戦です」


 これが俺の考え得るこちらの被害を最小限にしつつ最短で敵を倒す方法だ。先にガレオン船を川に入れたら船が襲われる可能性がある。だから先に俺が魔法で敵後方を燃やす。火に追い立てられた敵軍は取る物も取り敢えず前に逃げるしかない。


 そのタイミングでガレオン船を川に突入させてすぐに配置につくと同時に艦砲射撃を開始する。これならガレオン船の負うリスクを最小限に出来るだろう。そしてガレオン船の艦砲射撃と共に俺が魔法で敵勢力を削る。後ろは火に追われ、前からはガレオン船と俺の魔法による攻撃を受ける。


 これで戦意を喪失して降伏してくれればいいけどもしまだ戦うつもりならあとはケーニグスベルクの城壁を盾にしつつ決戦だ。火に追われている敵は必死になるだろうけどその分統率も乱れているに違いない。城壁に取り付いてくるまでに艦砲射撃と俺の魔法でどれだけ減らせるかわからないけど、火に追われて混乱している敵が相手なら六百人でもそれなりに戦えるだろう。


「お母様ドン引きだわぁ……。フローラちゃんいつからそんな鬼になっちゃったの?そんなに敵を皆殺しにしたいの?」


「え?」


 俺の作戦を聞いた母は本当にドン引きしているというジェスチャーをしていた。何でだ?俺は少しでも確実に、こちらの被害を少なくして敵を素早く降伏させるためのプランを考えただけだ。


「まぁいいわ。フローラちゃんがそうしたいというのならそうしましょ。より徹底的に敵を叩き潰そうというのならお母様もう何もいわないわぁ……」


 何でそんな悲しそうな顔をしてるんだ?まったく意味がわからない。俺は母の無茶な作戦を少しでも実現可能なように手を加えただけだ。それのどこがおかしいというのか。


「それではまずは父上とシュバルツに連絡を……」


「待て!」


 俺が会議を締めようとしたらシュテファンから声が上がった。今まで特に誰も何も言っていなかったけどもしかしたら何か意見があるのかもしれない。


「どうかされましたか?」


「『どうかされましたか?』じゃないだろう!それはこの町の運命を決める作戦なんだろう?何故二人だけで勝手に決めているんだ」


「ん~?別に私とお母様の二人だけで決めようと思ったわけではありませんが……、誰も何も言われないので意見はないのかと思っていましたが違ったのですか?」


 ここにはケーニグスベルクの行政機関の長や代官、シュテファンの他にもケーニグスベルクの警備隊や自警団の指揮官達も顔を揃えている。そんな中で話し合っていたわけで何かあれば誰でも意見を言えばよかっただけだ。でも誰も何も言わないから不満はないのかと思ったけど……。


「あんたらに向かって意見出来るわけないだろ!でも俺は言わせてもらう!何かわけのわからない話をしていたけどたった数百人で敵に攻勢を仕掛けるなんて無茶だ!このまま海を確保してダンジヒから補給物資を運んでプロイス王国の本隊が来るまで耐えるのが常識だろ!」


 あ~……、まぁね……。それは俺も思うよ。だけどそんなことをしていたら何ヶ月ここにいなければならないかわからなくなってしまう。俺は一ヶ月以内に決着をつけて王都に戻るつもりだ。母の作戦は無茶が過ぎると思うけど俺のプランならこちらの被害を最小限に抑えて早期決着の可能性もある。


「じゃああなた達は抜けていいわよぉ。どうせ出番なんてないしここで見てなさいな。フローラちゃんの血も涙もない皆殺し作戦だったら陸上部隊なんて一人も必要ないわ」


 血も涙もない皆殺し作戦ときましたか……。えらい言われようだ。これでもまだ危険が高い作戦なのに……。本当ならもっと安全かつ確実な作戦にしたい。ただこちらの手持ち兵力や時間を考えたら他に取れる手段が限られている。止むを得ず妥協して立てた作戦だというのに……。


「そうかよ!じゃあ俺達は参加しない!あんたらが勝手に負けて死んでも俺達のせいじゃないからな!精々中途半端に敵を刺激してこっちにまでとばっちりが来ないようにしてくれよ!」


「それならば止むを得ませんね……」


 本当は少しでも作戦の成功率を上げるために一人でも多くの兵が欲しい。でも協力出来ないと言っている者を無理に引っ張り出しても良い結果には繋がらない。かといってこのまま攻勢に出ずに放っておくという選択肢もないだろう。


 どうやらダンジヒ方面で敵の艦隊四隻を燃やした効果があったようで、ケーニグスベルクを包囲しているポルスキー王国軍の一部が向かったという情報が入っている。どうせやるのなら敵が減っているうちに攻撃を仕掛けられる今しかない。


「それではガレオン艦隊に連絡を」


「え?おい!本当に俺達抜きでやるつもりか?」


「ええ。敵が向こうの餌に釣られている間に攻勢に出ます」


 時間をかけても良いことはない。持久戦にするつもりならこのまま待ちだけど早期に攻めるつもりならガレオン艦隊の存在がバレて対応される前に決着をつけるべきだ。そう判断した俺と母はすぐにガレオン艦隊に連絡を出し攻勢の準備に取り掛かったのだった。



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 新作連載を開始しています。よければこちらも応援のほどよろしくお願い致します。

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さらに最新作を連載開始しています。百合ラブコメディ作品です。こちらもよろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 血塗れさんの考え的には突出した個人で殺しまくることによって敵の戦意を挫くさくかな? フローラの方はより味方が損害を被ることなく敵に降伏を促す作戦か? たしかに、一個人最強程度なら時代的…
2023/10/29 13:24 退会済み
管理
[一言]  デストロイヤーフローラここに爆誕(待て  この作戦本当この母娘いれば最悪兵士の出番がないというのがまた……。  ところでマリア様?あなた数話前で自分と同等の存在がいるかもしれないって言った…
[一言] 突撃か焼け死ぬかを迫るフローラさん
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