表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
238/545

第二百三十八話「ケーニグスベルク救援!」


 報告を受けた俺達はすぐさまついてきていた馬車に乗り換えて王都に戻ることにした。スタニスワフは船を置いていくわけにもいかないから一人で船で戻るように言ってある。


 それからこれからハーヴェル川の運河化について地元の知識と経験のある協力者が必要になるためその気があれば雇い入れることは伝えておいた。本人にその気がないのに無理に雇う気はないけどその気があるならこちらとしては歓迎だ。


 結局午前中だけだったけど彼のハーヴェル川の知識と経験は本物だった。運河を掘るにしろ川底をさらうにしろスタニスワフの協力と助言があればかなり楽で的確になるだろう。フーゴにもスタニスワフが働きたいと言えば雇うように通達しておく必要がある。


 そんなこんなで夕方までには帰って来た俺達は一先ずカーザース邸で報告を受けた。


「これが現在ステッティンに停泊中のカーン家商船団より届いた書状です」


「はい……」


 受け取った書状に目を通す。ちなみにステッティンというのは王都ベルンの東を流れるオデル川の河口に位置する港町だ。ベルンに魚や貿易品を持ってくるための重要な港でありステッティンが封鎖されたらベルンの死活問題となる。


 ステッティンは元々自由都市でありながら現在は少々ややこしい立ち位置になっている。というのもステッティンの周囲は全てグライフ家の領地であり、ステッティンの統治権というか……、もグライフ家が握っている。実質的にグライフ家の領地になっていると言っても過言ではない。


 ステッティン以外にも自治権を失ったり自由都市を返上している都市もあちこちにある。カンザ同盟加盟にステッティンも一応申請してきていたが自治権がないということで交渉は纏まっていない。


 もしステッティンがグライフ家からの独立と自治権回復を狙ってカンザ同盟に加盟し利用しようとしているのだとすれば黙って受け入れるわけにはいかない。


 逆にグライフ家がステッティンの自由都市という名目を利用してカンザ同盟に入り込もうとしているのだとすればそれもまた見過ごせない。


 というわけでステッティンは初期の同盟には名前を連ねておらず現在も名目上は交渉中ということになっている。それがもっと東のダンジヒやケーニグスベルクはカンザ同盟に加盟しているのにそれより俺の領地に近いステッティンが加盟していない理由だ。


 ただカンザ同盟には加盟していなくとも貿易は行なっているし通航や停泊は出来る。カンザ同盟は都市一つで国家規模相手に防衛出来ないために出来た互助組織だ。貿易組織じゃないから未加盟だから貿易しないさせないということはない。もちろんカンザ同盟内の優遇というものはある。でも未加盟だから貿易しませんということは一切ない。


 そして今回たまたまダンジヒまで貿易に来ていたカーン家商船団の船が、ケーニグスベルクからの救援要請を聞きつけステッティンまで戻ってきたというわけだ。ステッティンから王都に滞在している俺に報告しようと思ったというわけだな。


 前置きが長くなったけど肝心の内容はと言えば…………。


 ケーニグスベルクは突如町にやって来たポルスキー王国の軍勢に包囲されているらしい。陸上は完全に封鎖されて孤立。海上から辛うじて伝令を出したケーニグスベルクはすぐ隣の同盟仲間であるダンジヒに救援を要請。しかしダンジヒから救援に向かおうにも陸上は完全にポルスキー王国に封鎖されているので近づくのも困難らしい。


 何故突然ポルスキー王国が軍を進めてきたかは不明だという。何か揉める原因があったのか、ただ単に虎視眈々とケーニグスベルクを奪う機会を窺っていて今回たまたまこのタイミングで攻めて来ただけか。


 原因や理由がわからない以上はもしかしたらケーニグスベルクの方からポルスキー王国に何かした可能性もないとは言い切れない。とにかくまずはケーニグスベルクが落ちる前に現地入りして状況を確認するしかないだろう。


 幸いにもというかポルスキー王国はそれほど強力な水軍・海軍を持たない。ケーニグスベルクも陸上は完全封鎖されているらしいけど海上封鎖は完全ではなく一応船の往来は可能なようだ。


 初期の時点で力攻めされていたらあっという間に陥落していた可能性もあるけど、少なくともこの書状が書かれた時点ではまだ包囲されているだけで本格侵攻は始まっていないらしい。


 ステッティンに停泊中のカーン家商船団はガレオン船が二隻のみ。ダンジヒには一隻しかおらず、これでも近隣にいてすぐに呼べる船を集めて二隻ということだ。


 ポルスキー王国は海軍がそれほど強くないらしいから海上戦力はこれでも足りるかもしれない。だけど地上戦力が圧倒的に足りない。ガレオン船二隻で海上封鎖は解けるとしてもケーニグスベルクを救うのは無理だ。


 それに仮にも敵は一国の海軍であっていくらカーン砲を装備しているガレオン船でも補給もなく二隻のみではいずれ被害を受ける可能性もある。二隻のみで向かうのは危険か?


 普通に考えたら……、戦力の逐次投入は愚策だ。相手の勢力もわからないのに準備もせず今いる戦力だけかき集めて乗り込んでもこちらが余計な被害を受ける可能性が高い。普通なら……、例え今一時ケーニグスベルクが落とされようともきちんと戦力を整え相手を追い払えるだけの準備をすべき……。


 …………それでいいのか?互助組織だといって同盟を結んでおきながら、自分が急げば届くかもしれない所にいながら見捨てるのか?


 今ガレオン船二隻と王都のカーザース邸にいる者だけで向かうのは愚策だ。それはわかっている。わかっているけど……。


「パパッと行ってチャッチャと倒しちゃいましょうよ」


「これはカンザ同盟だけの問題じゃないからね。近衛師団も出せないか王国に問い合わせてみたらどうかな?」


「ミコト……、クラウディア……」


 そんな簡単なことじゃない……。でもそう言われて……。


「私も!魔法頑張るよ!」


「私は何も出来ませんけれど……、フローラさんの応援は出来ますわよ」


「ルイーザ……、アレクサンドラ……」


 皆まで一緒に戦うと言ってくれている……。なら……。


「通常ではありえない選択をする将のことを愚将と呼ぶのではありません。選択を間違え『負けた将軍』が愚将と呼ばれるのです。フローラ様……、勝てば良いのです!勝てば愚かと呼ばれる選択も奇策として人々に持て囃され賞賛されます。歴史は勝った者が作るのです!」


「カタリーナ……」


 カタリーナの言っていることはちょっと危ないと思うぞ……。勝てば良いのは確かにその通りかもしれないけどその『勝つための準備』や『勝つ確率を高める』というのは必要だ。ただ奇抜な策を弄すれば良いというものじゃない。でも……。


「皆さん……、ありがとうございます……。やりましょう!一ヶ月で帰ってきますよ!何しろ試験がありますからね!」


 もう学園の後期試験まで一ヶ月半もない。全教科満点というのはともかくある程度は成績をキープしておかなければならない。他人の戦争に巻き込まれて学生の本分である学業が疎かになっていたら本末転倒だ。それにもうすぐカーン騎士爵領から職人達がやってくる。シャルロッテンブルクの建設も長く空けていられないからな。


「…………こんな時間ですが私は王城に向かいます。その間に担当官は……」


 全員に指示を出しつつ王城に向かう準備をする。クラウディアが教えてくれた通りだ。何も自由都市でカンザ同盟だからといってプロイス王国を頼っちゃいけないということはない。自由都市はプロイス王国の領地でありそこをポルスキー王国が攻めて来るということはプロイス王国への侵略と同義だ。


 カンザ同盟ではカンザ同盟で対処するけどプロイス王国にも対処してもらおう。幸いこちらには船がある。陸路を移動するよりもステッティンに出てから海上輸送した方が移動も速いだろう。




  ~~~~~~~




 いつもと違って今日は王城に着くとすぐに王様とディートリヒに会わせろと言っておいた。普段はただアポを取りにきているだけで、アポはいつ取れるかと聞くとそのまま通される。でも今日は違う。こちらから今すぐ王様とディートリヒを呼んで来いと言った。後で怒られるかもしれないけど緊急事態だから我慢してもらおう。


 最近はハーヴェル川の運河化のために外朝で他の家臣や担当官、大臣達を交えて会議を開いていたけど今日は久しぶりに内廷に通された。前までに何度も来ている部屋で待っていると今日は先にディートリヒがやってきた。


「こんな時間に突然やってきてすぐに会わせて欲しいと言われていると聞いてね。何かあったのかい?」


 たまたま仕事で残っていてもうそろそろ帰ろうと思っていたらしいディートリヒが先に捉まったらしい。挨拶もそこそこに俺は用件を切り出した。


「ケーニグスベルクがポルスキー王国の軍勢に包囲されています。海上封鎖はされていないようですが陸路は完全に封鎖されており、いつ攻め落とされるかもわからない状況です」


「それは真か?」


「国王陛下」


 ディートリヒに用件を告げていると後ろから王様が現れた。二人も立ったままだし挨拶もまともにしていないけど問われたら答えるしかない。


「はい。現時点でどうなっているかはわかりませんが、昨日偶然ダンジヒにいた当家の貿易船がケーニグスベルクからダンジヒに届いた救援要請を共に受け取ったとのことです」


「う~む…………」


 王様もディートリヒも難しい顔をしている。『じゃあすぐに軍を編成してケーニグスベルク救援に向かおう!』とは言ってくれないようだ。


「何か……、問題でも?」


「あぁ……、いや……。うむ……。そうだな。其方には話しておこう。実は先日親衛隊と近衛師団の大多数が遠征に出たばかりなのだ」


「…………は?」


 親衛隊はお坊ちゃま師団と呼ばれるただの貴族のボンボンがステータスのために所属しているだけの部隊だからいい。でも近衛師団まで一緒に大多数が遠征に出ているってどういうことだ?それははっきりいって王族の守りを失くす行為だ。そんな時に誰かが反乱でも起こしたらあっという間に王族が捕らえられるぞ……。


「何故そのような……」


「ヘッセム地域で大規模なモンスターの活動が確認されたから救援が欲しいということだった……」


 ヘッセム地域……。王都から南西方面にある場所だ。まさにケーニグスベルクやポルスキー王国とは正反対。今から呼びに行っても戻ってくるまでにどれほどかかるかわからない。


「残る兵力では王都と王城を守るので手一杯……。とてもじゃないけど今すぐケーニグスベルクに兵を出すだけの余裕はないね」


 ディートリヒも首を振っている。この場にいる全員が理解しているだろう。あまりにタイミングが良すぎることを……。


 何故親衛隊までヘッセム地域に向かわせたのか。近衛師団や親衛隊は本来王族を守るための兵力だ。いくら親衛隊がハリボテのお坊ちゃん師団だったとしても、いや、そうだからこそ何故モンスターが出ているという地域に実戦に出すというのか。


 いくつか考えられることがある。まずは単純に王都の兵力を減らすこと。例えお坊ちゃん師団であっても一人でもいれば何かの足しにはなる。見せ掛けだけでも大勢の軍に囲まれることは恐怖だ。内情がお坊ちゃん師団であったとしてもポルスキー王国の兵を追い払う威圧には使える。


 それから王様やディートリヒを説得するという意味もあったかもしれない。近衛師団だけ全て派遣しろと言われても考えるかもしれない。でも親衛隊と近衛師団を半々でと言われたら王都の守りに近衛師団が半分残るから良いかと考えてしまうだろう。


 そして……、このあまりにタイミングがよすぎる王都の軍が逆方向へ遠征に出ることとポルスキー王国のケーニグスベルクへの攻撃だ。これは……、まず間違いなく内通者がいるだろう。でなければこんな周到な用意が出来るはずがない。


 恐らく上層部のどこかにポルスキー王国と通じている者がいる。そいつがヘッセム地域への派兵を後押しし、王都の兵力が減った所でタイミングを合わせてポルスキー王国がケーニグスベルクを攻撃する。


 だけどそれだけじゃない。これは推測とも言えない俺の想像、いや、ただの妄想かもしれないけど内通者の肉親や関係者が親衛隊に入っているんじゃないのか?


 もし近衛師団だけヘッセムに遠征させていて王都に親衛隊しかいない状態で王様達がケーニグスベルク救援を強行したら?親衛隊に所属している自分の関係者がケーニグスベルクに派遣されてしまうかもしれない。だから本当はモンスターなんて出ていないでっち上げのヘッセムに親衛隊にいる自分の関係者を遠征させた。


 それなら万が一にも自分の関係者はケーニグスベルクに派遣されてポルスキー王国との戦争に巻き込まれる心配はない。


「これは……、参ったね……。さすがにお手上げだよ」


 この国の最高の頭脳とも噂されるディートリヒをもってしても解決策はないとばかりに肩を落として首を振っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 新作連載を開始しています。よければこちらも応援のほどよろしくお願い致します。

イケメン学園のモブに転生したと思ったら男装TS娘だった!

さらに最新作を連載開始しています。百合ラブコメディ作品です。こちらもよろしくお願い致します。

悪役令嬢にTS転生したけど俺だけ百合ゲーをする
― 新着の感想 ―
[一言]  救援に向かおうにも王都の守備隊がタイミングよく遠征……内通者……誰だろうなー???  まあ、実際には国同士の問題とかいろいろ起きるだろうから中々できないけど……ぶっちゃけ戦力だけ見ればフ…
[一言] なぁに、母様と海からの大砲?がおまけで片付けたら一時間もかからないやよね? 他は邪魔物になりそうだし
[一言] フローラが一暴れしたらあっと言う間に終わりそうw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ