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第二百三十話「忙しい!」


 アッハァーッ!いっそがしぃ~~~っ!


 何だこれ?終わらない!仕事が終わらない!いや、終わらないどころかどんどん積み上がっていく!やってもやっても減らないどころか増えていく!


「フローラ様、新しい書類が届きました」


「うっはっ!」


 俺の目の前にさらに山積みの書類が運ばれてくる。何だこれは?終わらない!減らない!先が見えない!ついでに机の前も書類の山で扉も見えない!


 何でこんなことになったのか……。一週間ほど前に王城に呼び出されたかと思うといきなり式典に参加させられた。まぁ参加させられたというか俺のための式典であったわけで、何の打ち合わせもリハーサルもなくいきなり騎士爵から男爵に陞爵させられた。


 その数日後にさらに王城に呼び出された。その後からか……。俺がこんなに忙しくなったのは……。




  ~~~~~~~




 いきなり式典に参加させられて俺が男爵に陞爵してから数日、王様に呼び出された俺は仕方なく王城へとやってきた。こちらからも色々と言いたいことはある。だけどそれを表立って言うのは無理だろうな……。


 まぁ俺が国のために功績を挙げたというのならそれは良いだろう。貴族なんだから陞爵されることもある。俺の働きがそれに相当するものだったかどうかはともかく、王様やディートリヒだって何らかの思惑があって俺を陞爵させたんだろう。


 それは良い。それは良いけど普通あんな式典をするのに打ち合わせもリハーサルもなしにいきなり本番をやらせるか?どう考えてもおかしいだろう?


 あんな式典なんて俺もほとんどしたことがないわけで作法や手順を知らなかったらどうするつもりだったんだ!俺はたまたま基本的な作法や手順を習っていたからそれっぽく誤魔化したけど、それでも作法や手順が合っていたかどうかわからない。


 普通ならあんな式典があるなら事前に打ち合わせもするし俺に作法や手順の指導もするもんだろう!何でいきなりその日にぶっつけ本番なんだよ!お陰で俺は作法も知らない芋男爵ということを他の貴族達の前で披露してしまったかもしれないだろ!


 帰ってからカタリーナとヘルムートに確認したけど二人が知らせを止めていたわけでもなかったようだ。二人のもとに届いていた知らせは当日の日時や道具や衣装に関することばかりで式典の手順や作法については何も知らされていなかった。


 王様もディートリヒも俺に何か恨みでもあるんだろうか?陞爵の式典で他の貴族達の前で恥でもかかせてやろうと思っていたのかと疑ってしまう。


 まぁそれはもういい。過ぎたことを今更言っても仕方がない。それより今日は何故呼び出されたのかの方が重要だ。俺が王様やディートリヒに会いに来ることは割とあるけど向こうから呼び出されることはあまりない。そして呼び出された時というのは大抵碌な事がない時だ。


 少々警戒しながらも案内された通りに後宮を歩く。そう、今回も謁見の間とか執務室とか公室じゃなくて後宮の私室に通されている。


 この王様もさぁ……、たかが男爵を後宮にホイホイ通しちゃだめだろ?もうちょっと王様としての自覚を持って欲しい。


 そんなことを考えていることなどおくびにも出さずに通された私室で挨拶をして向かいに腰掛ける。王様の方から話題を振ってくるだろうと思って暫く待つ。ちなみに今回もディートリヒも一緒に座っていた。今回はディートリヒは運河法案はまだだと言ってきていない。


「さて……、それではそろそろ本題に入ろうか」


「はい」


 出されたお茶を飲んで他愛無い話をいくらかした後で王様がそう言ってきた。到着した時点でお茶もいらないからさっさと用件を言え、と思うかもしれないけどこれもまた貴族流の付き合いというものだ。


 現代の商談とかでもそうだろう。ぺーぺーの営業マンが商談をしに行っても出入り口付近で立ち話で用件を伝えられるだけかもしれない。でも大きな取引の締結時に相当な上役や社長同士が会って話をするのにそれはないだろう。


 応接室や会議室、あるいはどこかの料亭などの店で膝を突き合わせて、お茶を飲んだり料理を食べたり、ある程度落ち着いて、少し世間話や最近のことなどを話してから本題に入る。いきなり顔を合わせた瞬間にお茶も出さず本題に入るようなことは滅多にないはずだ。


 こちらも同じであり高位貴族になるほどそういうことにうるさい。下っ端役人や低位貴族ならば呼びつけられてその場で用件だけ言われて終わりというのもあるだろうけど……、って、あれ?俺って男爵だから低位貴族だよな?まぁいいけど……。


 ともかくようやく王様が本題に入ってくれるようなので耳を傾ける。


「どれから話すか……。まずは簡単に済む話からするか」


 おいおい……。それくらいのことは話をする前に考えて決めておけよ……。何のためのお茶の時間だったんだよ。その間にどう話をするかまとめておく時間じゃないのか?


「まず船の保有申請だが二年で五十隻の建造・保有を認める」


「あっ……、ありがとうございます」


 そう言えばそんなこともあったな。実はその五十隻に含まれる予定の船の一部は既に完成していてホーラント王国との海戦でも使われたんだがそれは黙っておけば良い。もう許可を貰ったんだから現時点で既に保有してても問題ないよね!


 三つの町、カーンブルク、キーン、フローレンでそれぞれ一年で十隻造れば二年で六十隻建造出来る。船を造ること自体は可能だ。問題は船乗り、水夫や水兵の確保と訓練だ。


 元ホーラント王国海軍の提督だったラモールとその配下の一部はうちの海軍に収まったから今は船より人手の方が余っている。シュバルツにも指示を出してラモール達をきちんと配下に収めて管理と監視をするように言ってある。双方の人員を混ぜて合同訓練も行なっているはずだ。


 ただ今後ガレオン船五十隻体制となったら今のままでは圧倒的に人員が足りない。水夫は一般からも募って乗せられるとしても水兵はそうはいかない。そもそも機密の塊であるうちの船に信用出来ない人間を乗せるわけにはいかない。水兵の確保と訓練が課題になる。


 まぁそれは追々考えていけば良い話であってまずは船が造れなければ話にならない。その船を造る許可が下りたのだから一先ず良しとしておこう。


 ちなみに普通専属の職業軍人というのは人口に対してどれくらいまでなら抱えることが出来るかという限度がある。平和な時代と国ならば精々人口の2~5%程度。近代の総力戦時には15~20%が動員されたがその後各国が荒廃し衰退したことを見れば、それがいかに国の経済や農業工業に深刻なダメージを与えるかがわかるだろう。


 うちは少々人口に比べて軍人の数が多い。うちがそれでも成り立っているのはカーザース領からの食料や労働力が入ってくるからだ。また貿易によって莫大な利益を上げているからこそ可能なのであって、普通の領地が同じような比率で職業軍人を抱えればあっという間に食糧不足と経済破綻に見舞われるだろう。


 また陸軍は確かに専属の職業軍人かもしれないけど海軍は少々違う。カーン商船団の名の通りうちの海軍は海軍でありながら平時はただの商船団だ。普段は貿易船であり水兵達も水夫と変わらない。貿易中も周辺海域の治安維持を行なっているけど貿易を行なって働いているわけで普通の兵士とは少々異なる。


 それに乗組員も全員が全員海軍所属の兵士というわけじゃなくて一般市民の水夫や料理人達も乗っているから、船の運航に必要な人員全てが軍人というわけでもない。信用出来ない者を不用意に船に乗せられないけど今乗っている者達は古くから付き合いのある信用出来る者達ばかりだ。


「次に……、テルトゥー台地のカーン男爵領シャルロッテンブルクを開発するように」


「はい……」


 俺は今カーザーン北の森であったカーン騎士爵領と王都近郊にあるテルトゥー台地という場所に与えられたカーン男爵領を持っている。カーン男爵領を勝手にシャルロッテンブルクなんて名前にされたのは不本意だけど、これも式典で大々的に公表されてしまったので今更変えることは出来ない。


 領地を与えられた領主はその領地を管理運営し発展させなければならない。ただ領地を与えられたからそこは自分のものだ!というだけではなく相応に義務も背負わなければならないというわけだ。


 現在テルトゥー台地は無人の荒野、森らしいけど無人だから……、なので今後五年間の税の免除が約束されている。しかしそれは五年間の特例であって六年目からは国に税を納めなければならない。誰も住んでいないのだから人頭税のようなものはかからないと思うかもしれないけど、持っている土地に対してだけでも地税がかかってくる。


 この五年の間に俺が何も開発を行なわなければ何の利用価値もない土地に対してただ税を支払わさせられるだけになる。カーン家の財政的にはこのままテルトゥー台地に何もしなくても地税くらいは払えるけどそれも今の収入があればという仮定にすぎない。


 商売なんていつ傾くかもわからないものであって確実に上がってくる税収と違って不安定で将来はわからない。それに払えるからといってただ無駄に垂れ流して良いものでもないだろう。人を住まわせて町を作るかどうかは別にして何らかの利用をしなければ与えられた意味がない。


 村を作って、畑を作って、住民達に納税させる。これは町作りの基本ではある。でも必ずしも領地を与えられて発展させるからといってその方向である必要はない。


 例えば俺は研究所や実験場が欲しかったわけで、テルトゥー台地にも一般人は住まわせず、カーン家の研究所や実験場を作って人を寄せ付けないというのも一つの手だ。それならば他からの収入で地税を払ってもテルトゥー台地を持っている価値がある……、かもしれない。


 その価値に見合うだけのものになるかどうかは研究所や実験場の利用価値次第だろう。そしてそれをきちんと価値のある物にするのが領主である俺の務めだ。


 まぁ町や村を作るか、カーン家の専用施設を作って一般人は入れないか、それは追々考えていけば良い。今すぐ決めなければならないことでもないからじっくり担当者と話し合って決めよう。


「それからね!運河関連法案が完成したよ!さぁ!じっくり見て!」


「はぁ……」


 王様の話は終わったらしい。次はディートリヒの番だとばかりに俺の目の前に書類の束が置かれた。そこそこ量があるからゆっくり読んでいたら時間がかかる。仕事の時の気持ちに切り替えて手早く処理していこう。


「…………その早さで全て内容が読めているのか?」


「え?ええ、もちろん全て読んで記憶していますよ?」


 俺がペラペラと書類を捲っていると王様が話しかけてきたので少し手を止めて答えた。仕事の時ならば手を止めずにそのまま読み進めるけど流石に王様相手にそれは失礼すぎる。どうやら話は終わったようなのでさらに書類を読み進めた。


「なるほど……。わかりました」


「もう読み終わったのかい?私や官僚達が寝る間も惜しんで一ヶ月もかけて作り上げたんだよ?」


「それはお疲れ様でした。非常に良く出来ていると思います」


 ディートリヒの言葉を適当に流して先に進める。それが担当者の仕事なんだから当然だろう。俺だって毎日書類と格闘している。


 この運河法案はこの時代にしては良く出来ている。基本的に河川や運河に関する権利は王国が握っていることが明確に示された画期的な法案だ。だから工事の主体は王国が担うということになった。ただ各地の領主達からの要望や緊急性のある対応が必要な場合にはある程度柔軟に対応出来るようにも考えられている。


 まぁそれは言い訳で実際には権利は国家が握ったまま俺が発案した運河の建設に関してどうにか理屈をつけたというのが本当の所だろう。それを応用してさらに今後の災害時などや災害対策に各領主達との連携を可能にしたといったところか。


 領主が治水や運河建設に関して王国に発議し、緊急性や必要性が認められた場合には発案者やその河川流域の領主達が分担金を負担してそれらの工事が行なわれる、ということになっている。


 具体的に言えばディエルベ・ヴェルゼル運河の建設に関しては俺が国に発議したということでカーン家と王国が相応の分担金を負担して建設する。労働力に関しても王国が一部を確保してくれるようだ。


 完全にカーン家だけで人手を集めようと思ったら身元のはっきりしない者まで集めなければ手が足りない所だった。それを王国がきちんとした労働者達を集めてくれるというのなら助かる。ただしそれもタダというわけじゃなくてうちの建設技術や建設方法を学ぶという利益がある。


 運河の通航権や運営権、収益などについては個別の案件毎に決めることとされているけど……。


「ディエルベ・ヴェルゼル運河に関しての通航、運営、収益などについては?」


「「…………」」


 俺の質問に王様とディートリヒは無言で見詰め合っていた。おっさん同士で見詰め合って楽しいか?


「それはもちろん……」


「カーン家に全て任せる。いや……、この運河そのものがカーン家のものだ」


「そっ、そうですか……」


 王様達の答えに俺の方が驚いた。建設費も人手も負担してくれるというのに完成したら全てうちのものだと言われたらさすがに気が引けるし貰いすぎのような気がしてしまう。何か企みでもあるのかと勘繰ってしまうくらいだ。


 とはいえ『いりません』とか『折半にしましょう』とも言えない。後が怖いかもしれないけどここは素直に受け取っておくことにしたのだった。




  ~~~~~~~




 それから数日……。俺は毎日毎日、それこそ寝る間もないほどに忙しい。


 船の建造はゴーサインを出せば良いだけだ。だけど水兵の確保や訓練、海軍の再編などの指示は俺が出さなければならない。カーン男爵領シャルロッテンブルクの開発についても担当者達を集めて連日話し合いが続けられている。


 運河建設もスタートさせるために具体的な計画を立てなければならない。うちだけで工事するならもうある程度出来ているけど王国が一枚噛むことになったから修正が必要だ。


 それらの仕事が増えて……、忙しい!山積みの仕事が減るどころかどんどん積み上がっていく!誰か助けてぇ~~っ!



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[気になる点] これだけ嫁がいて誰一人政務を手伝おうとはせず、それを不思議にも不安とも感じない一同(主人公含む)が一番不思議です。 発想が足りずに代行できる仕事も少ないでしょうが、秘書的な役割をこなし…
[一言]  仕事が増えるよ!やったねフローラちゃん!(待て  2年で3つの町でそれぞれ10隻って仮に本当に実行したらガレオン船を1ヶ月ちょっとで作るってことなんですが……まあ、今回は50隻でしかも一部…
[一言]  う~む、彼ら自身に稼がせて「海軍カネかかり過ぎ問題」を解決するとは、流石フローラちゃん!  そして今更懺悔しますが……下の兄の事は綺麗さっぱり抜け落ちておりましたw  そもそも百合作品で…
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