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第二百二十五話「毎回断るのは難しい!」


 とうとう長いようで短かった長期休暇も明けて今日から学園の後期が始まる。学園は前期、後期の二期制になっているからこれが終われば次は二年生になるというわけだ。留年とか成績とかはあまり関係ないし出席日数も決められていないから基本的に全員が強制的に二年生に上がることになる。


 今日は所謂始業式や提出物の回収とか事務連絡とかだけのようなので授業はない。講堂で長い始業式を聞いて、教室で宿題を提出して、簡単な連絡や注意事項を聞いて解散となった。


 ゾフィー達バイエン派閥の子女やバイエン派閥から追放されたエンマは来ていたけどヘレーネの姿はなかった。聞いた情報では別にまだ逮捕されたとかお家お取り潰しということも決まっていない。学園も退学になったわけじゃないからまだ籍は残っている。


 それでも普通に考えたらもう学園に来ているどころではないだろう。バイエン公爵家ほどの家だからいきなり潰すと反発や反動も激しいことになる。だから家は存続するだろうけど色々と大変なことになるのは間違いない。


 普通に考えたら派閥の者達も大変なはずだけどゾフィーは割と平気そうな顔をしていた。エンマは前までのきつそうな感じから一転してポヤポヤと幸せそうな顔をしていたから、この長期休暇でジーモンと色々とうまくいったんだろう。


 エンマはバイエン派閥からも追放されているし母親が逮捕されているし本来ならヘレーネ以上に大変なはずだけど……。家や派閥は大変でもエンマ個人としては今幸せなんだろう。多分家がお取り潰しになったとしても、派閥や家から追放されたとしてもエンマの面倒はジーモンがみるだろうから案外これでよかったのかもしれない。


 これまで犯罪を行なっていたバイエン派閥や、同級生達ですら率先していじめてきたエンマが幸せになることに反感を持つ者もいるだろう。それは今後エンマが償い、ジーモンが支えていってあげなければならないことだ。


 それよりも気になるのがゾフィーの余裕だ。今日学園に来ていたゾフィー達は随分自信満々だった。もっと小さくなっているものかと思ったけどむしろゾフィーは前以上に増長しているようにも見えた。あの自信と増長の理由が何なのかは俺にはわからない。


 バイエン派閥と争って以来派閥の主要な者達の所には俺の息のかかった者が張り付いて調査したり内偵しているはずだけど、特にアルンハルト家が勢いづくような何かがあったという報告はない。それだけにゾフィーのあの自信や偉そうな態度の理由がわからず不気味だ。


 もしかしてまた何か善からぬことを企んでいるのでは……、なんて考えてしまうよな。警戒しすぎて悪いことはない。一応バイエン派閥やアルンハルト家の監視を強めておくよう指示しておく。


 まぁ……、確かに警戒するに越したことはないんだけどリソースも無限じゃない。大して警戒すべきでもない相手に大量の諜報員や資源を振り向けていても無駄になる。他に警戒すべきものが何もないのなら良いかもしれないけど俺は敵も多いからな……。


 その辺りのバランスや配置は難しい所ではあるけど……、ゾフィーのあまりに余裕な態度が少し気になる。今までもある程度監視していたはずだけど少しだけゾフィーやアルンハルト家の警戒と監視を厳にしておく方が良いだろう。


 学園の方は提出物も終わり、注意事項も聞き、解散となっているから帰りの馬車を待っている。玄関口は混雑しているのでいつも通り教室で時間を潰す。そこへ現れたのはジーモンと……、ルートヴィヒとルトガーだった。


「やぁフローラ!一緒に帰ろう!」


「ルートヴィヒ王太子殿下……」


 何でこいつは俺の所へ来るのか……。流石に今日のことにはケチをつけようがない。生徒達の大半はすでに帰ったか玄関口で馬車を待っているから混雑する廊下を邪魔になるように歩いてきたわけでもない。学園生が放課後に学園のどこを歩いていても文句を言われる筋合いはないだろう。


 誘いにきたのだっていきなり誘えば相手の迷惑にもなるけど誘わないことには話が進まない。今日言って今からというのはさすがにマナー違反というか褒められたことではないけど、だからって何か罰則があるわけでもなければ致命的に何かに違反しているわけでもない。


 確かに貴族ならば何日後の何時にどこでどうする、という事前の約束を取り付けておくのがマナーではある。でも親しい者同士ならばその日にいきなり訪ねて行ったり、事前に約束していなくてもその場で急に誘ったりすることもある。それは現代日本での友達同士と同じであり絶対にあり得ないとかしてはいけないということもない。


 もちろん自分と相手の関係性とか常識とかいう問題はある。下っ端騎士爵が王様をいきなり訪ねたり誘ったりなんてあり得ないし、ほとんど顔を合わせたこともない人にいきなりそんな態度を取れば常識のない人だな、マナーのなってない人だなとは思われるだろう。


 でもこの場合はルートヴィヒの方が立場が上であり、俺ともある程度は顔見知りで、多少俺にマナーや常識がなってないと思われた所で平気ならばこうして誘いにも来れるというわけだ。


 それは一先ず置いておくとしてルトガーはルートヴィヒのお供だろうけどさらにもう一人いる方に視線を向けてみる。ジーモンがルートヴィヒ達と仲良くなっていたのは知っているけど何故こんな所にやってきたのか。


「あっ!えっと……、僕はカーザース様にお礼を言おうと思って……、ここへ来る途中で両殿下にそこで会ったんだ」


「そうですか……」


 俺の視線に気付いたらしいジーモンが少し慌てた感じでそう言ってきた。別にルートヴィヒ達とは示し合わせてきたわけじゃなくてたまたま会っただけのようだ。その件はわかったけど俺にお礼を言いたいっていうのが意味がわからない。


「カーザース様のお陰でエンマが無事にあの派閥から抜けられて……、ようやく自由になれたんです。ありがとうございました!」


「ありがとうございました」


 教室に残っていたエンマもやってきてジーモンの横に並ぶと一緒に頭を下げてきた。エンマも随分変わったものだ。最初の頃は……、まぁそれはもういいか。本人が変わって……、周りも本人も幸せになったのならそれでいい。過去のことを蒸し返しても意味のないことだ。


「私は何もしていませんよ。ロッペ様が手を尽くし、ヴァルテック様が自ら変わられた結果です。これから過去の清算で大変なこともあるとは思いますが二人がお互いに支え合っていけばきっと乗り越えられるはずです。二人のこれからを影ながら応援しております」


 俺がそう言うと二人は顔を見合わせて頷いていた。とても良い笑顔だ。十五・六歳に相応しい未来への希望に満ち溢れた眩しい笑顔だ。


「ありがとうございました!このご恩は一生忘れません!もし、もしカーザース様に何かあった時には必ず駆けつけます!例え大して役に立てなくともこの身を粉にしてカーザース様のために!」


「それは大袈裟ですよ……。でも、ありがとうございます」


 おいおい……、ルートヴィヒがいる前でそこまで言うか?それはさすがにやりすぎだと思うぞ。ルートヴィヒに『俺に忠誠が誓えねぇってのか!』とかいって一族郎党皆殺しにされても知らないぞ。


 それだけ言うとジーモンとエンマは仲睦まじそうに帰っていった。本当にただそれを言いに来ただけのようだ。まぁエンマが教室で待っていてジーモンが迎えに来ただけなんだろうけどな。そこに俺が居たからああやって挨拶しに来ただけだろう。


 それにしても……、あの二人……、長期休暇中にジーモンの実家で何かあったんじゃ?お互い領地も近いしヴァルテック家の飛び地の保養地がロッペ家の領地と隣接しているんだから……、もしかしてこの休みの間に二人は大人の階段を上ってしまったのでは!?


「素敵な二人だったね。さぁフローラ、僕達も帰ろう」


「あ~…………、はい……」


 色々断ろうかと考えたけど良い言い訳が思い浮かばなかった。あまり断りすぎるのも問題になりかねないしたまには仕方がないか……。ほんの数日前に会ったばかりだけどな。この前王城で会ったばかりだから良いじゃないかと思うんだけど……。


 いや……、待てよ?これは物は考えようじゃないか?


 確かに俺はルートヴィヒとマルガレーテをくっつけようと考えている。そのためにマルガレーテのあの自信のなさを変えようとあの手この手を尽くしているけど、マルガレーテだけじゃなくてルートヴィヒの方も変える必要があるよな?


 もっとこう……、ルートヴィヒの意識も変えて、マルガレーテとうまくいくようにこちらも誘導するべきだ。それならマルガレーテだけを変えるよりもより確実性が増すだろう。


 ならこれも好機と捉えるべきだ。何も嘆くばかりが能じゃないだろう?ルートヴィヒの好みのタイプを聞き出すとか、さりげなくマルガレーテを推しておくとか、二人が意識するように仕向けるとか、色々と出来ることはある。


「フローラ様……」


「カタリーナ、今日はルートヴィヒ王太子殿下にお誘いを受けたから少し王城に行ってきます。迎えは夕食に間に合うようにお願いね」


「かしこまりました」


 迎えに来てくれていたカタリーナに伝えておく。暗に夕食までには帰るとルートヴィヒ達にも聞こえるようにアピールしておいた。ここで今何も言わないということはルートヴィヒもそれを了承したということだろう。もし夕食も王城で食べていけというのなら今の会話を聞いて何か言うはずだからな。


 カタリーナに夕方に王城へ迎えに来てもらうように伝えた俺はルートヴィヒとルトガーにエスコートされて馬車に乗り込む。ここからそう遠くない王城へと向かったのだった。




  ~~~~~~~




 馬車の中で適当にルートヴィヒとルトガーの話の相手を務めているとあっという間に王城に辿り着いた。学園は貴族街の中にあって王城からもすぐ近い。歩いて移動したってそう時間はかからないだろう。ただ貴族は無駄に馬車に乗っているわけではなく短距離の移動でも馬車に乗らざるを得ない事情もある。


 例え短距離の移動であろうとも貴族が貴族の格好をして往来を歩いていれば周りの一般市民は道を譲ったり、頭を下げたり、跪いたりしなければならない。つまり貴族が貴族として不必要に往来を歩いていれば周辺は混乱し大迷惑をかけることになる。


 だから大した距離じゃなくても貴族は馬車で移動する必要がある。馬車ならば馬車の邪魔にならないように避ければ良いだけでいちいち立ち止まって端に寄って頭を下げるなんてことをする必要はない。もちろん馬車の邪魔をしたらまた大事にはなるけど……。


 中には勘違いして自分はお貴族様で偉いから馬車に乗って偉そうにしているのだ、と思っている貴族もいるだろうけど、普通に生活していたらいちいち馬車に乗るより歩いた方が手っ取り早いのに……、と思っている場面でも馬車に乗らざるを得ないことに辟易している貴族もいることだろう。


 まぁそれはともかくやってきた王城の受付で登城したことを記録してもらう。これはいつ誰が登城したかの記録だ。前の裁判ではこれも役に立った。


 バイエン公爵ほどの者が登城記録を知らなかったわけもない。そもそも自分で確認して記録しているんだから存在そのものを知らない可能性はあり得ない。知った上で公爵ほどの地位があればどうにでも出来ると思っていたんだろう。


 それにこちらがただのそこらの商会だと思っていたようだから城のシステムや情報開示を求めないと思っていたのもあるだろうな。結局そういう脇の甘い所を突かれて墓穴を掘ったわけだ。


 俺も受付でサインしてから王城へと入った。いくら王太子殿下に呼ばれて来たとしてもこういうことを蔑ろにしてはいけない。普段からきちんとしているからこそいざという時に自分の身を助けてくれるんだ。他の貴族達が墓穴を掘るのはそういう所できちんとしていないからだろう。


 そんなことを考えながらルートヴィヒ、ルトガーに連れられて歩いていると向こうからディートリヒが歩いてきているのが見えた。ついでだから挨拶しておくか。


「御機嫌ようディートリヒ殿下」


「フっ、フローラ姫!?まっ、まだ法案は出来ていないよ!いくら何でもこんな数日ではさすがに無理だ!」


 俺が挨拶をしたら明らかにうろたえたディートリヒがそんなことを言い出した。俺は別に何も言ってないんだが……。


「あの……、別に例の法案の進捗状況を聞きに来たわけではありませんよ?」


「……え?そうなのかい……?なぁ~んだ!そうかそうか!それならそうと言ってくれれば良いのに!それでは私はこれで失礼するよ!」


 俺がそう言うと突然上機嫌になったディートリヒがスキップしながら向こうへと去って行った。そもそもそう言ってくれればも何も俺はまだ何も言ってなかったんだが?


 父の奇行をポカンと見ているルトガーの肩にポンと手を置いて俺達は何も見なかったことにしたのだった。



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