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第二百十六話「裏側!」


 ある暗い密室に五人の人物が集まっていた…………。


「カタリーナの言った通りだったわね!」


「伊達にフローラさんと一番古い付き合いではないということですわね……」


 そう、五人とはフローラの嫁、夫?の五人である。


「当然です」


 ミコトとアレクサンドラに褒められてカタリーナは胸を逸らして威張っていた。


「フロトにいきなり誰か一人を選べとか女性同士で一緒になろうって言ったら決断出来ないだろうから徐々に慣らしてなし崩しにしようなんて最初はどうかと思ったけどね」


「うん……。何かちょっと騙したみたいで悪い気もしちゃうけど……」


 クラウディアの言葉にルイーザは少し申し訳なさそうな顔をしていた。しかしこの案に乗っかった時点でルイーザも同罪であり、こうなることを望んでいたからこそ皆と歩調を合わせたのだ。


「なし崩しだろうが、既成事実だろうが何だっていいのよ!」


「そもそもフローラさんが決断出来ないのがいけないのですわ」


 ミコトとアレクサンドラの言葉に残りの三人も頷くか沈黙で答える。それはつまりこの場の全員が思っていることだ。


 カタリーナはこの帰省中にフローラと五人の関係を進展させようと目論んでいた。それは前に話し合っていた通りである。しかしただフローラに迫った所でフローラが簡単にそれに応えてくれるとは思えない。そもそもそんな甲斐性があるのならこれだけ美少女達に囲まれて好意を寄せられていたらとっくに手を出しているはずだ。


 フローラにはそんな度胸はない。悪く言えばヘタレ、良く言えば……、優柔不断……、も良くは言っていないがとにかく奥手でそういう方面にはまったく免疫もなく度胸もない。


 戦いにおいてはクソ度胸があり、行政や軍政に関しては飛びぬけた発想力と決断力があるにも関わらず、いざ恋愛関係になると幼稚園児並になってしまう。いや、むしろ幼稚園児ならば素直に好きとか感情や愛情表現をする。その感情がどれほど本当の愛や恋かは別にしてももっと直接的にそれらを表現するだろう。


 フローラの場合は思春期で奥手な子のように決断も出来ずマゴマゴとしてしまう子のような反応だ。その上五人も囲うことに抵抗があるようで誰か一人を選ぼうにも選ぶことも出来ない。


 一言相談でもしてくれればこの五人は全員がフローラに一緒に囲われても良いと答えるというのにフローラは一人で抱え込んで悩んで決断しなかった。


 確かにこれまでの恋愛遍歴や同性愛ということを考えればフローラの葛藤や恋愛に対して臆病になる気持ちもわからなくはない。むしろその原因を作ってきたのも自分達だから強く言えない面はある。またそういう経緯があるために自分達五人それぞれに対して深い愛情を持っていることも責められない。


 しかしこの五人はそれを責めようなどとは思っていないのだ。少し皆で集まって話し合いさえすれば解決したことなのにフローラはそれも出来なかった。胸に想いを秘めてなるべくそういうことを表に出さないようにしようとしていた。


 だから一芝居打ったのだ。まぁ芝居ではなく本心というか本気で狙っていたとも言えるが……。


 五人で迫って誰か一人選べと言えばフローラは選べない。だから五人で迫って、軽い体同士の接触や、添い寝や、ちょっとずつ想いをお互いに言い合ったりして徐々にフローラを慣らしていく。やがてそういうことに慣れてきたフローラは五人を受け入れ始めている。これらは全てカタリーナの計画通りだった。


 本気で好きだの愛しているだのと言わせようとしたら向こうは簡単にそうは言えない。だからもっと軽い感じで、本気の告白じゃなくてただお互いに軽く接触しながら好きだと言い、好きだと言わせる。誰か一人を選べないのだから一人に向かって本気の告白など出来ない。だからこそそこまで真剣ではなくもっと軽い感じで何度も言わせて慣らさせている。


 ここまでくればもう後は簡単だ。今ではフローラに抱き付いても向こうも抱き締め返してくれる。前までなら照れてすぐに離れていたというのに今なら添い寝も出来る。五人の方からフローラへの想いを口にするとフローラも応えてくれる。好きだと伝えれば照れながらもフローラも愛していると応えてくれるのだ。


「このまま既成事実を積み重ねてフロトを逃げられないようにするのよ!」


「そうですわね。添い寝しながら少し体に触ったり、逆に触らせたりしても逃げなくなってきましたしね」


「まぁフロトは僕と同じで元々そっちの気があるからね。段々たがが外れてきてるんだよ」


「もう一押し……、ですね」


 五人は『ふっふっふっ』と悪い顔になって笑いあっていた。ただし一つだけ、途轍もなく重大な案件が残っている。それが解決しないことにはここから先には進めない。


「問題は誰がフローラ様の色々な初めてを奪うかということですね」


「「「「…………」」」」


 カタリーナが投げ込んだ爆弾に五人はお互いに視線を飛ばしあい牽制し合っていた。皆誰もが自分の初めてを捧げてフローラの初めてを奪いたい。ただ自分達は五人いてフローラの初めてはそれぞれ一回しかないのだ。


 誰がフローラの初めてを奪うか。その権利をかけて争っているからこそ五人はまだ本格的にはフローラに手を出していないという面もある。


「それこそフロトが選んでくれたら解決なのに……、あのヘタレじゃそんな決断なんて無理よね」


「それはまぁ……」


「今はまだ徐々にフロトを慣らしていくしかないさ」


「そのうちまた機会が訪れるんじゃないかな?あまり性急に進めると失敗しちゃうかもしれないし……」


「今はまだ慣らしている段階です。これからもっと調きょ……、いえ、経験を積んでいただかなければ……」


「ふふふふ」


「くすくすくす」


 五人のフローラ調きょ……、改造計画……、秘密会議はまだまだ続きそうだった。




  ~~~~~~~




 クリスタはヘルムートと一緒にカーザーンにあるロイス邸を訪れていた。これからについて色々と話をしなければならない。


「ただいま戻りました」


「ご無沙汰しておりますお義父様、お義母様」


 ヘルムートとクリスタがロイス邸に帰ってくると出迎えの使用人達の奥から父、ハインリヒ三世と母、クレメンティーネが出て来た。長男ハインリヒ四世だけ領地に帰らせて二人はカーザーンに残っている。


「うむ……。よく戻った」


「おかえりなさいヘルムート、クリスタ」


 ハインリヒ三世は侯爵家のご令嬢相手にまだ若干緊張しているがクレメンティーネはもうクリスタとかなり打ち解けていた。クレメンティーネは本気で将来ヘルムートやクリスタと一緒にカーンブルクの屋敷で住む気満々なのだ。


 ハインリヒ三世はあんな屋敷でなんて到底住めない。あんな屋敷に住んでいたら気持ちが落ち着かず常に緊張しっぱなしになってしまう。しかしクレメンティーネが『もうさっさと長男に家督を譲ってヘルムートの屋敷で住もう』と毎日のように言ってくる。


 クレメンティーネだけ一人で勝手に住めなどと言えるはずもない。ハインリヒ三世とクレメンティーネの結婚は政略結婚だった。しかしヘルムートやカタリーナが母親似で美形な通りクレメンティーネはとても美しい。お淑やかでこれまでハインリヒ三世を支えてくれた良き妻であり良き母であった。そんな良妻賢母なクレメンティーネをそんな風に扱うことは出来ない。


 というよりもうぶっちゃけて言えばハインリヒ三世の方がクレメンティーネに惚れていてメロメロなのだ。その妻と別居など出来るはずがない。未だに熱々の新婚のようなこの夫婦が別居などあり得ないのだ。


 そのクレメンティーネがヘルムートの屋敷で住むと言っているのだからハインリヒ三世に選択肢はなかった。妻が行くのなら自分も行くしかない。いつの時代もどこの家も結局はかかあ天下、女が男を動かしている。


「それで私の長期休暇明けのことなのですが……」


「まぁまぁ、こんな場所で話していないで奥でゆっくりお話しましょう?」


 今日訪れた用件を告げようとしたクリスタをクレメンティーネが奥へと誘う。まだ結婚どころか正式な婚約もしていないがもう家族同然の付き合いをしている二人は応接室ではなく居間へと通される。そこでお茶を飲んで一息ついてから話し始める。


「それで……、何の話だったかな」


 この中で一番年長かつ家長であるハインリヒ三世がそう切り出したことでようやく話が始まる。玄関先で用件を切り出したのは今日の訪問の理由を告げようとしただけでありあそこで話を始めようとしたわけではない。こうして居間で一度寛いでしまったので一番の長であるハインリヒ三世が話し始めて良いと言うまで待っていたのだ。


「はい。お義父様、お義母様にご足労を願うことになってしまいますが学園の長期休暇明けに、私とフロトが王都へ戻る際にお義父様とお義母様も王都へご同行願えないでしょうか?」


「ふ~む……」


 ハインリヒ三世は目を瞑って唸る。ヘルムートとクリスタの婚約に関してラインゲン家のご両親とも話をしなければならないことは間違いない。もちろん自分達が王都へ出向かなければならないことにもそれほど抵抗はない。何しろ相手は侯爵家だ。相手を呼びつけるなどもっての他であり自分達が出向くことに異論はない。


 しかし……、問題は……。


 ハインリヒ三世は侯爵家を訪ねて子爵家の三男でしかないヘルムートに娘さんをくださいというのは気が引けるのだ。相手が子爵家以下なら気にならない。伯爵家でも下位の方ならば何とか耐えられる。しかし相手が侯爵家となれば話は別だ。本来ならばそんな相手との婚姻などあり得ない。


 よほど重要な子爵家で派閥などによって関係を持って繋ぎ止めておくために婚姻関係を結ぶことならあるかもしれない。しかし現段階でお互いに何の関係もなくそれほど重要でもないロイス子爵家が侯爵家と婚姻を結ぶなど普通はあり得ない話だ。


 つまり簡単に言えばハインリヒ三世は王都に行って侯爵家の家を訪ねるのをビビッているのだ。それは決してヘタレだからではない。普通に考えたらほとんどの下位貴族はハインリヒ三世の気持ちがわかる。普通に考えたらあり得ないがあり得ているのだ。こんな状況になるなど誰も考えたことすらない。


「父上、ラインゲン侯爵家を訪ねるにあたってフロト様より賜った贈り物があります。こちらへ」


「うっ、うむ……?」


 ヘルムートの言葉にハインリヒ三世はまったく良い予感がしなかった。フロト・フォン・カーン騎士爵が常識知らずかつ常識外れであることはもう散々に身に染みた。ただの世間知らずなご令嬢ならまだよかったがなまじ飛び抜けた力と財力があるから性質が悪い。


 良い意味で自分達の斜め上どころか遥か上をいくフロト・フォン・カーン騎士爵が何かをするたびにハインリヒ三世は驚かされて寿命が縮まる思いだった。


 そんな二人が部屋を出て行きクリスタとクレメンティーネが話をしていると暫くして二人が戻ってきた。その姿を見てクリスタとクレメンティーネが声をあげる。


「まぁ~!素敵ねあなた!」


「……そっ、そうか……」


「ヘルムート様もお義父様もとても良くお似合いですよ」


「ああ、ありがとうクリスタ」


 ヘルムートとハインリヒ三世はフロトからの贈り物に着替えてきていた。それはそれはとても立派な正装だ。階級としては子爵家の正装になっている。しかし子爵家の正装だからといってみすぼらしいとか質素だということはない。


 貴族の正装には格好だけで階級がわかるように様々な決まりが存在する。しかしそれ以外の部分の装飾に関しては自由であり子爵家ならば子爵家であるという規定を満たしていればどのような衣装でも正装となる。


 例えば貧乏子爵家ならば最低限のその規定だけを満たしてあとは質素でみすぼらしい正装を身に纏うだろう。逆に裕福なら伯爵家並に豪華な正装を身に纏う子爵家も存在する。規定されている部分以外をどうするかによってその家の力を誇示することにもなるのだ。そして当然フロトから贈られる衣装が質素であるはずがない。


「こっ……、このようなものをいただいても良いものなのか?」


 ハインリヒ三世は着せられている衣装を汚してしまわないようにガチガチに緊張していた。その衣装の出来は伯爵家どころか侯爵家並に豪華に出来ている。確かによく見れば子爵家の意匠なのだがこれを遠目に見て子爵が歩いていると思う者はいないだろう。どう考えても侯爵以上のレベルだ。


「フロト様がラインゲン家を訪ねる際に私が恥をかかないようにとご用意してくださったのです。父上もお気にならさらずそれを着ていってください」


 ヘルムート伝いにハインリヒ三世の服の寸法を把握していたフロトは完璧にぴったり決まった正装をハインリヒ三世、ヘルムート親子に贈った。特に他意はなくただラインゲン家を訪ねるのにヘルムートには正装がなかったからお祝い代わりに用意しようと思っただけだ。そのついでと言うと言葉は悪いがお揃いでハインリヒ三世の分も用意したにすぎない。


 しかしこれはそんな簡単に人にあげて良いような出来のものではない。これ一着を作るのに一体どれほどかかっているのかハインリヒ三世は考えただけでめまいがしそうだった。そんなものをポンポン出す方も出す方であり受け取る方も受け取る方だ。


 クリスタは両親がそのレベルなのでそれをフロトが贈ってくれてもそれほど驚かない。ただのお祝いだと言われたら素直に受け取る。クレメンティーネはもう慣れたとばかりに素直に喜んでいた。クレメンティーネもクレメンティーネでフロトはそういう者なのだと理解したのだ。


 そして一番まともであったはずのヘルムートもフロトの傍に仕えている間に相当毒されてしまっていた。もしこれがフローラに仕える以前のヘルムートであったならばこんな高価なものは受け取れないと固辞したことだろう。しかし長年フロトの傍に控え、その感覚に慣れてしまったヘルムートは服の一着くらいただのお祝いだと言われたら受け取るくらいに毒されてしまっている。


 この場にはハインリヒ三世の気持ちを理解してくれる味方はなく、そしてこれを贈られてしまった以上はもう王都に出向いてラインゲン侯爵家を訪ねるしかない。フロトにそんな意図はなかったがこんなものを贈られてしまった時点でハインリヒ三世は逃げ道を塞がれてカタに嵌められていたのだった。



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 新作連載を開始しています。よければこちらも応援のほどよろしくお願い致します。

イケメン学園のモブに転生したと思ったら男装TS娘だった!

さらに最新作を連載開始しています。百合ラブコメディ作品です。こちらもよろしくお願い致します。

悪役令嬢にTS転生したけど俺だけ百合ゲーをする
― 新着の感想 ―
[気になる点] ヒロイン達もうちょっとフローラの休み期間中の行動範囲と殺人的予定、人殺しによるメンタルの不安定さとか考慮した方がいいんじゃないの?? 恋は盲目って言うけど、フローラの気持ちどころか立場…
2023/10/29 07:00 退会済み
管理
[一言] フローラもハインリヒ三世も胃に穴が空きそうw
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