第二百十五話「あっさり告白!」
「凄いじゃない!」
そしてその楽器にミコトが食いついた。ミコトは楽器や音楽がわかるのかな?
「ミコトには楽器の良し悪しがわかるのですか?」
「わかるわけないじゃない。私はずっとフロトと魔法の勉強ばっかりしてたのよ?」
あぁ……、ソウデスネ……。じゃあ何でそんなに凄いとか何かわかってるみたいに反応してたんですか?
「ただ詳しいことはわからなくても素晴らしいかどうかくらいはわかるわ!」
「なるほど……」
確かにレオポルトが吹いていたのは一応音楽になっていたと思う。この世界にも元々色々な楽器があるからそれらの曲を演奏しただけかもしれない。だけど確かにレオポルトは何らかの曲らしきものを演奏していたと思う。その音は間近すぎてうるさくは感じたけど不快ではなかった。ミコトの言うことも何となくわかる気がする。
「レオポルトは音楽家なのですよね?それならばこれらの新しい楽器による作曲もしてもらえませんか?」
「はい!是非私に作らせてください!この……、新しい楽器による新しい楽曲を!息子のアマデウスと共に必ずやカーン様にご満足いただける曲を作ってみせます!」
どうやらレオポルトの息子も作曲が出来るらしい。楽器作製にも協力してもらっているしレオポルトに任せてみるか。
「少し私が考えている曲を伝えたいのですが……」
「おお!そうですか!それではアマデウスを紹介しましょう!私よりアマデウスの方が素晴らしい才能を持っているのです」
前世にあったような曲をいくらか伝えたい。そう思ってレオポルトに伝えると息子を紹介すると言われたので会うことになった。レオポルトが言うのは単なる親馬鹿ではなく確かにアマデウスはレオポルトより才能やセンスがあるらしい。
会って簡単な自己紹介をしてから楽器を見せて俺がイメージしている、というか前世で知っている曲をいくらか鼻歌や口笛のようなもので伝えるとアマデウスはすぐに何かを思いついたように書き記していた。どうやら俺の鼻歌や口笛でインスピレーションが湧いてきたようですぐに作曲に取り掛かってくれたのだった。
~~~~~~~
「まさかフローラさんが楽器まで作っているとは知りませんでしたわ」
「ええ、まぁ……」
アレクサンドラにそういわれたので曖昧に濁しておく。屋敷に戻ってきてからもずっとあの楽器たちの話で持ちきりだった。皆は楽器の試作品を随分気に入ったらしい。やっぱり女の子は音楽とかが好きなのかな。
俺は軍楽隊を作って軍事利用やマーチングバンドに近いようなことをさせようと思って楽器を作らせていただけだ。別に芸術や音楽に興味があって、とかそんな高尚な理由じゃない。
とはいえ俺が作らせたのは何もマーチングバンドに使える物ばかりじゃない。金管楽器だけじゃなくて木管楽器や打楽器、弦楽器や鍵盤楽器などマーチングバンドでは使うのが難しかったり一般的には含まれていないものも開発させている。
もういっそのこと音楽や芸術を扱う集まり、そういう町でも作るか?
まぁそれも悪くないけどまだ先の話だな。今すぐに着工とはいかない。今のうちからそういうことに向けて準備しておくのは良いけど、まだ何の見込みもないのにいきなり町だけ作り始めましょうというのは無理がある。
それはさておき色々な楽器を作らせているし作曲してくれる者も見つけたんだからこれはこれで一応の目処がついたということでいいんじゃないだろうか。楽器のさらなる改良や新しい楽器の開発。それらを用いた新しい楽器向けの作曲は自由にして良いと許可を与えている。
おっと……、そうだった。折角楽器を作ったんだから軍楽隊の編成も急がさなければ意味がない。レオポルト・アマデウス親子が作曲している間にも新しい楽器を演奏出来るように軍楽隊に練習させておかなければならない。
楽器の増産と軍楽隊の創設、楽器の練習の開始……。今日の収穫についてはそれくらいでいいか。あと他所の軍には軍楽隊を導入するかどうかが問題だな……。
カーン騎士団には軍楽隊を創設する。これは決まりだ。問題なのは他の自由都市とかで創設する軍についてだ。うちで作る楽器もまぁ機密と言えば機密になる。製造販売も当分の間は独占しておきたい。音楽を広めることよりも利益を優先するのかと言われるかもしれないけど当然利益を優先する。
まぁそもそも楽曲もない新しい楽器がそんなに爆発的に売れるとは思えないけど加工を真似ようと他所の地域も似たようなことをやりだしたら技術差が詰められてしまうというのが一番の問題だ。楽器そのものが売れる売れないよりもそれを真似しようとしている間に周囲まで技術力が高まったらうちの優位が揺らいでしまう。
いくら俺がカンザ同盟の盟主で実質的に加盟自由都市が俺の領地も同然だとは言っても何でもかんでも技術移転して大丈夫かという心配がある。将来状況が変わったからとあっさり同盟を抜けると言われて技術やインフラだけ持ち逃げされたら大損害になってしまう。
やっぱり当分の間は各都市のことについてはカーン家、カンザ商会から持ち出しはせず各々の税収だけで独立予算でやってもらう方が良いだろう。予算だけじゃなくて軍にしろ装備にしろ全てそれぞれの都市に見合ったものにしておく。
もちろん上層部や司令官にはうちの子飼いを送り込んでおくけど最悪の場合に加盟都市が独立しても問題ないようには手を打っておく必要がある。
「イグナーツ、シュヴァルツ、今後の軍政についてですが……」
「「はっ!」」
傍に控えていた二人に今後について伝えておく。俺はもうすぐまた王都に行かなければならない。重要案件については俺に回させて俺が決めるけど、王都に行っている間につまらないことにまでいちいち俺の承認を得なければならないとなるとこちらで何も進められなくなってしまう。大雑把な方針や大筋だけ決めておいて後は担当者の裁量に任せられる所は任せる。
結局この日も戻ってからまた打ち合わせや会議や書類仕事やらと終わることなき仕事の山がやってきたのだった。
~~~~~~~
「…………ん」
何か胸が気持ち良い。こう……、やわやわと、さわさわと、触られているような……。
「って、何をしているのですか!?」
「あ、起きた」
『あ、起きた』じゃないだろう!一体何をしているというのか。
俺はカーンブルクの屋敷で眠っていた。すると何だか刺激を感じて夜中に目を覚ました。目を覚ましてみれば美少女達が俺を覗き込んだり同じベッドに入ったりしながら俺の体を触っている。こんな状況になっていて驚くなという方が無理だろう。
「な・に・を・しているのですか……?」
「え~っと……、ナニを?」
何かそのニュアンスはあまり良くない気がする。何とは言ってないけどナニをとはどういう意味なのか。
「フローラさん……、もうカーザーン、カーンブルクに滞在するのはあと一週間もないのですよ。それなのにフローラさんとの進展はなく……。もう夜這いをするしかないのですわ!」
「ナッ、ナンダッテー!」
って、何でそうなるんだ……。
「フロトが僕達に手を出してくれないんだからこっちから迫るしかないよね!」
「いや……、あの……」
ちょっと待って欲しい。これってもう……。
「皆さんは女性同士でそういうことをするのに抵抗はないのですか?」
「「「「「女性同士っていうかフロトとならしたいよ」」」」」
え~…………、同性愛の趣味はないけど俺とならしたいということでよろしいですか?
「五人も同時に愛しても良いと思いますか?」
「「「「「…………」」」」」
五人はお互いに顔を見合わせている。やっぱり自分一人を愛してもらいたいものだよな。五人も皆好きです、愛していますと言っても説得力がない。それじゃただの無節操だ。
「別にいいんじゃないの?プロイス王国だって一夫多妻でしょ?私の国も周辺国も皆そうだと思うけど?」
「フローラさんの場合は少々仕方ない部分もあるかもしれませんわね。私とフローラさんは運命の悪戯で引き裂かれたとはいえ、その後で他のお相手と出会ってしまってそちらに情を持たれたとしても私には口出しは出来ませんわ」
「私なんかはフロトを傷つけてあんな別れ方になっちゃったし……、私は捨てられて他の人の所に行っちゃっても仕方がないのに私も加えてくれるっていうなら妾さんでも何でもうれしいよ」
「僕としてはフロトと結ばれたら他にこんな可愛い女の子達までついてくるんだからウハウハだよね!」
皆の言い分はわかった。最後の……、クラウディアはどうかと思うけど……。それも俺は偉そうに言えない。俺だって他の女の子にも同時に手を出しているんだからクラウディアの言ってることもわかるというか、同じ穴の狢というか……。
「何も迷われることはありません。簡単なことなのですよフローラ様。私達は誰もがフローラ様のお傍にいたいのです。そのために他の四人と争って自分がフローラ様のお傍にいられない可能性があるくらいなら皆で一緒にフローラ様のお傍にいようと、ただそれだけのことなのです」
「ただ……、だから抜け駆けはなしにしようねって言ってるのにいっつも抜け駆けしてるのはカタリーナよね!いい加減カタリーナには何かお仕置きが必要だと思うんだけど!」
「今日はちゃんと皆さんと一緒に夜這いに来たではないですか」
「『今日は』だよね?今日だけだよね?いっつも僕達を出し抜いてるよね?」
…………。
「ぷっ!」
「フロト?」
思わず吹き出した俺を皆が不思議そうに見ている。だけどこれが笑わずにいられるか。
「私はずっと女性同士でありながら皆のことを好きだと伝えたら気持ち悪いと思われるのではないかと、異端審問にでもかけられるのではないかと思っていました。ですが……、そんな心配などするよりもまずはこの気持ちを伝えるべきだったのですね」
俺は怖かった。女同士なのに友達としてじゃなくて恋愛対象として好きだの愛しているだのと言ったら気持ち悪がられるんじゃないかと不安だった。
出会ったタイミングは別々で、皆それぞれの理由で行き違いになったり、別れたり、離れ離れになったり、事情があったにしても五人も同時に好きだの何だのと言うのは都合が良いことを言っていると思っていた。
だけどそんな心配は必要なかったんだ。皆がこうして俺を受け入れてくれている。そして皆もまた他の皆と一緒に俺の傍に居てくれることを選んでくれた。
「今日からは六人一緒に寝ましょう!まずは六人が寝ても十分な広さのベッドが必要ですね」
「そうね。この前は落っこちちゃったわよ」
「狭いからこそこうして密着出来るというものもありますけれど……」
ミコトは自分の頭を撫でるような仕草をしてアレクサンドラは俺にしなだれかかってくる。こんなに幸せなことがあっていいんだろうか。誰かを選ぶことも、誰かを選ばないこともせず、ただこうして愛しい女の子達に囲まれて……。
「では誓いの口付けを……」
「ちょっと!何でカタリーナが最初にしようとしてるのよ!」
「そうですわ!抜け駆け禁止ですわ」
「順番については協議の必要があるね」
「私もそれは黙って譲るわけにはいかないかな」
俺にキスしようとしたカタリーナが四人から一斉に批難を浴びている。だけどカタリーナにはそんな程度はぬかに釘、暖簾に腕押し、柳に風だ。
「ふふっ」
「あっ!何笑ってるのよ!」
「フロトに決めてもらったら?」
「それいいね」
「さぁフローラ様」
「誰と初めての口付けを交わすのか決めてくださいな」
「ええ!そんな大事なことすぐに決められません……」
俺にとってはファーストキスだ。多分皆もそうじゃないかと思う。というか違ったらいやだ。俺が皆のファーストキスを奪いたい。だけどこの五人から誰からするか選べと言われたら選べない。
もし一人を選んだら色々と揉める元になるかもしれない。それに誰が一番とかそういうのも決められない。皆が大事で皆を愛している。でもこうして悩んでいたらいつまで経っても皆とキス出来ない。それは困る。
何か良い方法はないだろうか……。全員で同時に口付けする?ちょっと無理だろう……。六人で同時に口付けするってお互いの頭が引っかかって無理だろ……。どんだけ口が長いんだ?それはもう別の生物だろう。
「え~っと……、何か良い解決策を思いつくまで延期ということで……」
「「「「「ヘタレのフロトならそんなことだろうと思った」」」」」
ひどい……。五人揃ってそんな風に言うことないじゃないか……。まぁ当たってるから何も言えないんだけどこれから俺はこの五人の嫁に尻に敷かれる予感しかしない。




