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第二百二話「勧誘!」


 ラモールに口を割らせてホーラント王国の関与をはっきりさせないことにはゴスラント島に対する処分も決められない。無理やり海賊達に居座られていただけである場合と、ホーラント王国がプロイス王国に対して戦争行為をしていたのを理解しながらホーラント王国に協力していたのでは大きく意味が違ってくる。


 勝手に海賊達が居座っていたのならばただの被害者だと言えるけど、全てを知った上で戦争行為の一方に加担していたとなればそれはプロイス王国への敵対行動だ。


 恐らくグスタフ・クヌートソン・ホンデは知らぬ存ぜぬで押し通して海賊に居座られていただけの被害者だと言い張れば大丈夫だと思っていたんだろう。あるいはラモールやホーラント王国にそうすればプロイス王国に何か言われても追及されることはないとか説明されていたのかもしれない。


 俺達はラモール達がホーラント王国の指示を受けてやってきた海軍だと知っている。ゴスラント島がそれを知った上でホーラント王国に協力していたであろうことも理解している。だけどそれを証明する方法はない。


 もちろんこんな時代なんだから証拠を出して裁判で明らかにするなんていう必要はないだろう。例え言いがかりであろうとも勝ったものが正義の世界だ。こいつらが認めようが認めなかろうが、それが嘘であろうが本当であろうが勝った俺達が好きに決めて裁くことが出来る。


 だけどここで俺達が強引に決めて裁きを下せば必ず禍根になるだろう。例えば戦争に加担したとして俺達がグスタフを処刑でもすればゴスラント島の島民達は俺達やプロイス王国に対して『領主に無実の罪を着せて処刑した』なんて言ってくる余地を与えてしまう。そういう禍根や嘘が通用しないようにしなければならない。


 そのためにはラモールの口を割るのが良いけど口を割りそうにない。説得しようにも説得する方法もないだろう。ここまで覚悟を決めている武人には脅しも不名誉も効果はない。もう自分は海賊として不名誉なまま処刑されても良いという覚悟が出来てしまっている。


 ホーラント王国に問い合わせても無駄だろう。こいつらが自分達で言った通り恐らくすでに軍人としての席は抹消されているはずだ。『過去に所属していましたが今は勝手に軍を辞めて出て行きました』と言われればそれまで。それ以上追及しようがないからこそこいつらも名目上とはいえ軍を辞めていることになっているはずだ。


 脅しも説得も無理。他の証拠もない。いや、仮に他の証拠があった所で認めはしないだろう。困ったものだ。完全にお手上げになってしまった。


「これほどの人物を捨て駒にするような国にどうしてそこまで忠誠を誓っているのでしょうね……」


「仮に国の中枢がどれほど腐っていようとも、一度国に捧げた忠誠に変わりはない。それが騎士たるものだ」


 俺の呟きが聞こえたのかラモールがそう言った。あくまで真っ直ぐ俺を見据えている。つくづくこれは厄介な相手だ。だけど……。


「貴方は随分勘違いをなさっておられるようですね」


「勘違い?私の何が勘違いだというのか!」


 ラモールは怒りを顕わにして立ち上がった。どうやら自分の忠誠心を馬鹿にされたと思って怒ったらしい。それこそが未だにホーラント王国に忠誠を誓っている証じゃないかと思うけどそれはまぁいい。


「国が腐っていようとも一度捧げた忠誠は変わらない?それは大間違いです。それは国のためになりません。もし本当に国を思っているのならば国の中枢に巣食う病巣を命を賭けてでも取り除くべきです。それこそが真の忠誠でしょう。病巣の中心から間違った命令をされてもただそれに従うだけなのは忠誠とは言いません。ただ何も考えていない愚か者と呼ぶのです」


「お前に何がわかる!私が何も考えずにただあの者らの言うことに従っているだけだとでも思っているのか!私がこうしなければ……」


 途中まで言いかけたラモールは『はっ』として口を閉じた。今のはもう自白したも同然だろう。つまり何らかの事情によりラモールも渋々ながらホーラント王国本国の意向に従わざるを得ないというのはわかった。だけどそんなことはどうでも良い。


「それが大間違いだと言っているのです。貴方の言う国とは何ですか?忠誠を捧げた相手は誰ですか?国というのは王ですか?土地ですか?その地にある統治機構ですか?貴方は誰に忠誠を捧げたのです?貴方に命令を下す軍の上官ですか?軍にその命令を下した大臣達ですか?よく考えなさい。貴方は一体誰のために何のためにこんなことをしているのですか?」


「くっ……」


 何か反論したいのに言えない。そんな顔をしてラモールは俺から視線を逸らした。ラモールが視線を逸らせたのはこれが初めてだ。だけど俺は収まらない。こんな勘違いした馬鹿は殴り飛ばしても足りないくらいだ。


「忠誠?はっ!国が寄生虫に乗っ取られ国民を苦しめていても『自分は国に忠誠を誓った身だから国に逆らうわけにはいかない』と言い訳して逃げるのが貴方の言われる忠誠ですか?ちゃんちゃらおかしいですね」


「きっ、貴様!言わせておけば!」


 おー、おー。ラモール君も怒ってるようですねぇ。でもそんな怒りがあるのなら向ける相手が違うだろう。


「貴方のそのちんけな自尊心は何を守るためにあるというのです?貴方が刃を向けるべき相手が誰なのかよ~く考えなさい」


「黙れ!ぬくぬくと安定した大国であるプロイス王国に守られて育った貴様などに何がわかる!」


 ラモールは完全に怒りに我を忘れている。さっきまでは知らぬ存ぜぬを通していた人物と同じとは思えないくらいに口が軽い。


「ええ、わかりませんね。私は私の理想を守るためならばホーラント王国であろうが、魔族の国であろうが、カーマール同盟であろうが、そして祖国プロイス王国自身であろうとも戦います!自分に言い訳して相手におもねるような方の考えることなどわかりません」


「黙れぇぇぇぇぇっ!」


 俺が叩き割ったテーブルを踏み越えてラモールが殴りかかってくる。その手首を掴むと脇の下に手を差し込み背負い投げる。完璧な形で決まった一本背負いにラモールは受身も取れず背中を強かに打ちつけて呼吸が止まっていた。


「がっ!げほっ!かはっ!」


 一本背負いだから先に足の方から落ちたとはいえ、俺がほとんど手を引いてやらなかったからモロに落ちたようだ。柔道の投げは投げた相手を投げた側が上に引っ張ってやる。それに加えて畳の上で受身を取るからそれほど大きなダメージを受けることはない。


 だけどここは畳じゃないし投げられた方は受身も取らなかった。そして俺が腕を引いてやらなかったからラモールは思いっきり床に叩きつけられた。その結果息も吸えないほどに呼吸が止まっている。まぁ死にはしないからそのうち呼吸も落ち着くだろう。ラモールが落ち着くまで暫く待つ。


「聞きなさい。私はいずれプロイス王国からフラシア王国に割譲された地を全て取り戻します。そして今回の件についてホーラント王国にも責任を取らせます。場合によっては攻め滅ぼすかもしれません」


「なっ!?」


 俺の言葉にラモールだけじゃなくて他の兵士達も驚愕の表情を浮かべていた。それはそうだろう。たかが一介の騎士爵が領土的には小国だとしてもホーラント王国を、一国を滅ぼすと言っているんだ。夢見がちな子供でも言わない夢想だと笑われても仕方がない。だけどこれは俺の偽らざる本心だ。


「その時にプロイス王国の者だけでホーラント王国を滅ぼせば戦後の統治においてプロイス王国の意向だけが優先されることになります。ですが私がホーラント王国を攻め滅ぼす時にとても大きな功績を残すホーラント出身者でもいれば多少は状況が変わるかもしれませんよ?」


「なっ!?なっ!?わっ、私に祖国を裏切り貴様の配下につけというのか!?」


 さすがに察しが良い。俺は今ラモールを配下にならないかと勧誘した。俺がさっき言ったことは紛れもなく俺の本心だ。フラシア王国に割譲された領土は取り戻す。そして領土が取り戻されたらホーラント王国とも地続きになる。地続きになればプロイス王国のホーラント王国への影響力も高まるだろう。


 だけど俺はただ国境周囲をプロイス王国にして影響力を高めるだけで終わりにするつもりはない。ホーラント王国の国民に恨みはないけど現首脳部には消えてもらう。人の庭を荒らしにきたんだ。相応の報いは受けてもらわなければな。


 その時にホーラント王国出身の配下が頑張って功績を挙げれば戦後の統治機構の上役に据えたり、領地を持たせたりすることもあるだろう。それに功績が大きければプロイス王国等の無茶な命令に異を唱えることも出来るかもしれない。


 ラモールの状況は俺にはわからない。何故上層部の言いなりになっているのか。誰かを人質に取られているからか?何か弱味でも握られているのか?何故こうまで素直に腐れ上層部に従っているのかは知らないけど俺につけば現上層部をぶっ飛ばすことは出来る。


 人質を取られているというのなら今、表立って逆らうというのは難しいかもしれない。でも例えば今回の件でラモールは死んだことにして別人として俺に仕えるとか色々と方法はあるだろう。こんな情報伝達が遅い世界だ。いくらでも誤魔化しようはある。


「貴方が何故このような命令に従っているのかは知りません。ですが貴方が本来このようなことを良しとしない誇り高い騎士であることはわかります。いずれ私はホーラント王国に今回の件の落とし前をつけさせます。その時に私についていれば貴方の願いも叶うかもしれませんよ?」


「それは…………」


 思ったよりも悩んでくれているようだな。ダメ元で勧誘してみただけだけどどうやらうまくいきそうか?


 俺はラモールをただ処刑するだけというのは惜しいと思う。ラモールは忠義に厚い。だけどそれはただホーラント王国に忠誠を尽くしているというだけじゃない。ラモールが頑なに自分が海賊だと言い張るのはゴスラント島のためでもある。


 自分達は海賊で勝手にゴスラント島に居座っていただけ。だからゴスラント島の者達は今回の件には関係ない。そう言い張っているわけだ。自分が兵士や騎士として、軍人としての名誉を失っても、海賊として罪人として処刑されてでもゴスラント島に迷惑をかけないようにしようとしている。


 これだけの男気がある者をただ処刑するというのはあまりに惜しい。ホーラント王国への忠誠は捨てられないかもしれないけど、そのホーラント王国を救うためならば手を貸してくれるんじゃないだろうか。


「エグモント殿、我々の負けですよ。このご令嬢の言う通りにしましょう」


「ホンデ殿まで何を……」


 どうやらゴスラント島の領主はもう折れて認めるつもりのようだな。


「フロト・フォン・カーン殿ならば我々も領民達も貴方がたもきちんと扱ってくれるでしょう。問答無用に殺されるなんてことはありませんよ」


「それは……。……わかった。全てを話そう」


 グスタフの説得もあってラモールはついに折れた。ラモールがどうして国の奴等に良いように使われているのかは結局教えてくれなかった。だけどラモール達がホーラント王国の指示を受けてやってきたホーラント王国の海軍でゴスラント島の領主がそれに協力していたということは両者ともに認めた。


 ゴスラント島も半ば強引にホーラント王国に協力させられていたらしい。もちろん責任逃れするためにホーラント王国のせいにしている可能性もないとは言えない。だけど恐らくそうだろうとも思う。


 ホーラント王国は国土面積的には小国だ。だけど国力や外交的にも小国かと言えばそうとも言い切れない。ホーラント王国は海洋国家であり海上貿易で大きな利益を上げている。そして周辺各国王家と婚姻関係を結んでいて非常にややこしい。


 例えばプロイス王国に攻められたらフラシア王国に援助を求め、フラシア王国に攻められたらプロイス王国に援助を求める。そのように各国に縁戚による影響力を持ち国際情勢を見極めて生き延びてきた国だ。


 それに比べてゴスラント島はハルク海で最大の島とはいってもどこにも属さない小さな島一つだ。そんな島がホーラント王国に逆らえるはずもない。今回用意されていた『海賊が勝手に居座って暴れているだけ』という言い訳をすれば良いからと言われて強引に迫られたら断れなかったというわけだ。


 大体の事情はわかった。両者も認めた。俺はこいつらを無理に処刑するつもりはないけどこのままお咎めなしというわけにもいかない。一度連れ帰ってカーン領で裁判にかけるなり、終戦や今後について話し合うなりしなければならない。


「それでは出航!」


 俺の合図で艦隊が動き出す。キャラベル船三隻だけをゴスラント島に残して、残った海賊船二隻に生き残った海賊達やグスタフ達ゴスラント島の責任者を乗せてキーンへ帰投することにした。



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― 新着の感想 ―
[一言] はっきり言うと、フローラとマリアさんがチャリ(オット=戦闘用馬車)で来たを地でやって暴れるだけで小国程度なら潰せるからねぇ 血塗れ(ブラッディ)マリア「チャリで来た!」
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