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第百八十九話「休息日!」


 昨日は楽しかった。女の子達とキャッキャウフフと水のかけっこするなんてまさに俺が思い描いていた通りの青春だ。


 さすがにクリスタをびしょびしょにするわけにはいかないからクリスタにはかけなかったけどクリスタもそれなりに楽しんでくれていたように思う。俺達とは少し離れた所で川に足をつけながらヘルムートと歩いたり、俺達の真似をして少しだけヘルムートに水をかけたり……。見ていてとても甘酸っぱいものを感じた。


 俺が男とお付き合いするのはお断りだけど人がしているのを見るのはそう悪いものでもない。いや、前世の俺なら『リア充爆発しろ!』とか呪ったことだろう。だけど昨日は俺もキャッキャウフフでリア充だったからクリスタとヘルムートのカップルも許せたんだろう。


 それはともかく濡れた俺達は暖かい季節になってきたとはいえ日が落ちれば涼しくなってくるから日暮れ前にはカーザース邸へと戻った。その後皆はお風呂に入って体を温めたようだけど俺は遊んでいる暇はなかった。


 あの後は戻ってきた調査員達の報告を聞いてプランや予算を練ってと大忙しだった。俺がわざわざ現地調査に立ち会う必要はないとは言ったけど報告を聞いたりアドバイスしたり最終決定したりはしなければならない。


 まだ正式なルートは決定していないけど大雑把に調査した限りで仮のルートは一応決まった。そのルートなら掘削も可能でルート確保も出来るだろうとのことだった。ただし深く考えるまでもなくすぐに思い浮かぶだけでも大きな問題が二つはある。


 まず一つ目は最初にも言っていた通り高低差だ。新しく掘った運河の方が高くてディエルベ川やヴェルゼル川の方が低いと運河の水が全て流れ出てただの掘った道路になってしまう。高い所に川や水源があって低い所へ繋げる運河なら比較的簡単だろうけど、もし今回掘る運河の方が海抜が高ければ水源を確保する等、何か考えなければならない。


 そして運河の方が海抜が高いなら深く掘れば良いじゃないかというほど単純でもない。例えばだけどディエルベ川とヴェルゼル川の繋げる部分で片方が高く、片方が低ければ水の流出、流入が起こってしまう。


 流出する方は川下の流量が減って、下手をすれば川が枯れる可能性もある。逆に流入する方は水位が上がって川沿いが水没する恐れもある。運河を繋げるのもただ間を掘って繋げれば良いというものじゃない。


 そして二つ目が橋だ。元々地続きだった場所に運河を掘るのだから陸が途切れてしまう。当然そこを渡る手段が必要になる。じゃあ橋を架ければ良いじゃないかっていうのはその通りだけどそう簡単じゃない。


 まず日本でもそうだけど大きな船が通る川や運河にかかっている橋というのはとても大変だ。船が通らなくてはならないために何らかの工夫をする必要がある。主な対策としては二つ。橋をとても高くするか、船が通る時に橋が避けられるようになっているかだ。


 現代の建築技術や交通の効率などから考えれば橋の高さを上げるという手段がとられることが多い。だけどこれをするには色々と問題がある。


 まず思い浮かぶのは建築技術の問題だろう。船が下を潜るための高い橋を作ろうと思ったらどれだけ大変か実際の所俺は知らない。橋なんて建てたことはないからな。だけどそれが簡単なことじゃないのは想像がつく。だけど問題なのは橋を作ることだけじゃない。出来た橋を渡る方にも問題がある。


 現代人ならあまりピンとこないかもしれないけど高い橋を渡ろうと思ったらそこを上らなければならないということだ。現代ならば車のアクセルを踏み込むだけでいいだろう。だけど大荷物を曳いた馬車がそんな急勾配を上れるか?またブレーキもないのに安全に下れるか?


 人間なら多少大変でも歩いて上れるだろう。だけど荷馬車などの流通を支えるもの達が渡れなければ意味がない。乗り合い馬車ならば上り坂で客が降りて馬車を押すなんてこともある。そんな時代に急勾配で高い橋を作ってもまともに利用出来ないというわけだ。


 しかもこの時代の船は高いマストを備えた帆船が主流だ。現代のように大型船でも背が低いものと違ってマストが上に長く伸びている。それを越えるような橋となればこの時代にとっては大変な高さの橋になってしまうだろう。


 ならばもう一つの対策とは何か。それは可動橋にすることだ。とはいえ可動橋もそう簡単な話じゃない。


 まず可動橋の中でも昇開橋は駄目だな。昇開橋とは橋が水平に上に上がるタイプのものだ。これはさっき言った通り高いマストを備える帆船が通ることを考えれば物凄く上まで持ち上げなければならないことになる。それじゃ無駄が多すぎるし持ち上げるのも大変だ。


 理想としては旋回橋が良いかもしれない。旋回橋とは名前の通り橋そのものが旋回、つまり回転して開く。これのメリットは橋の両側を真ん中から開けば船が通れる部分が広くとれることと、上に避ける必要がないから高さ制限はないということだ。


 だけど橋そのものを可動させるには十分な負荷に耐えられる強固な構造が必要になるだろう。そもそも現代のようにモーターがあるわけじゃない。どうやって橋そのものを可動させる動力を得るのかが問題だ。


 一番現実的なのは跳開橋だろうか。跳開橋とは跳ね橋とも呼ばれるもので、一番わかりやすいのはイメージなんかでよく出てくる城壁の前にある堀に架かっている鎖で引き上げられる橋だ。アニメや漫画でもよくこういう橋が出てくるだろう。


 これらは敵の侵入を防いだりするためにプロイス王国でも架けられている。技術的にもすでに存在するもので実現の可能性としては一番高い。その上、橋を跳ね上げるから高さの心配もない。問題があるとすれば跳ね上げる部分の長さや強度、跳ね上げるための構造だろうか。


 城壁の門にあるような跳ね橋は短くて規模が小さい。引っ張り上げるのに橋の逆には重りがつけられていて橋を上げやすくしてある。


 だけど運河を渡る大型船が通れるくらいに橋を開こうと思ったら跳ね上げる部分が長く、重くなる。それを引っ張り持ち上げるだけの構造と耐えられるだけの強度が必要だ。


 もちろん両開きにすれば全長に対して片側の跳ね上げる部分は半分で済むけどそれでも城壁の堀を越える跳ね橋とでは規模が違う。


 まぁまずは研究と試作だな……。運河を掘って開通するまでにもまだまだ時間がかかるだろう。それまでにいくつか橋の研究に予算をつけて実現可能な橋を作るしかない。最悪の場合は渡し舟のようなものになるかもしれないけどそれじゃ不便すぎる。


 これからますます船が大型化する可能性は極めて高い。それに流通量も増えるだろう。最終的には高い橋をかけることになるかもしれないけど今はまず実用化出来るものから考えていくしかない。


 そんなわけで俺はあの後も色々と打ち合わせしたり考えたりアドバイスしたりと大変だった。決して昨日だってキャッキャウフフで遊んでいたばかりじゃない。


 それはともかく今日は予備日だ。時間が一日空いている。予定が一杯だ!とか言いながら空いている日があるじゃないかと思うなかれ。これは重要な日だ。


 この世界のこの時代のこの国では移動が予定通りいくという方が難しい。馬車が壊れたり、馬が疲れたり、街道が崩れたり埋まったりと色々と大変なことが起こる。そして現代のように電車が事故で遅れたからと代替輸送でバスでその区間を移動出来ますなんてことはない。


 うちは家人達が優秀だから馬車の整備もきちんと行い、予算もケチらず壊れそうなら惜しむことなく部品交換や修理を行なっている。馬もあちこちに駅を作り乗り換えられるように整備している。街道も巡回する者がいて土砂崩れや倒木対策も行なっている。


 そうして日々誰かが働いてくれているから今まで予定が狂うことなく順調にいっていただけだ。それでも途中で万が一にも何かある可能性は十分にある。だからこうして予備日を設けて予定外のアクシデントがあった場合に備えているというわけだ。予定を全て埋め尽くして余裕が一切ないように詰めてしまうのは下策でしかない。


 だからこれまでの日程で何かアクシデントや遅れがあった場合に備えて今日は予備日として予定は詰まっていない。とはいえ昨日の視察は半分していないようなものだから今日はその遅れを取り戻すのに使おうか。


「今日私は昨日視察するはずだった農場と牧場の視察に行こうかと思いますが皆さんはどうしますか?」


「あっ!私は行きたい!農場の皆とも再会出来たしまだまだ話したいこともあるよ!」


 ルイーザは同行するようだ。農場や牧場は別に機密というほどの機密はない。まぁチーズの作り方とか生クリームやバターの作り方は本来機密だけどルイーザは王都の牧場で働いているわけで隠す意味はない。


「まだあの小屋はあるのかしら?あそこへ行くのならば私もご一緒したいですわ」


「あぁ……、それではあそこにも行きましょうか」


 どうやらアレクサンドラは二人の思い出の場所、カーンブルク開拓中に俺が利用していた掘っ立て小屋に行きたいらしい。あそこはまだ維持しているからそれなりに綺麗なはずだ。行くことそのものには問題はない。


 ただ俺だったら二人の思い出の場所を他の皆を連れて行くのはどうかと思うけどアレクサンドラは気にならないのだろうか。まぁどうせイザベラやヘルムートは一緒だったし、カスパルですら前までは来たことがあるわけで他人に隠したいとか秘密にしたいということでもないんだろう。


「じゃあ僕も行こうかな」


「しょうがないわね。私も付き合ってあげるわ」


 結局全員か……。そう思ったけどどうやらそうじゃなかったようだ。


「申し訳ありません。私と兄は今日はあけさせていただきます」


「そうですね……。わかりました。それでは共はイザベラと護衛だけにしましょう」


 全てを聞くまでもなく理由はわかった。カタリーナとヘルムートはロイス家へ、実家へと帰るのだろう。本来今日は予備日だったからカタリーナやヘルムートに無理に付いてこいとは言えない。それにすぐそこにちょっと出かけるだけだし大人数で行く必要もないだろう。


「ごめんなさいフロト。私も少し外させてもらうわ」


「クリスタ?」


 クリスタまでそんなことを言い出した。別に俺に同行する必要はないんだけど皆が行くというのに行かないということに驚いた。もしかしてどこか具合でも悪いんだろうか?


「体調が悪いのですか?ここまで旅と移動の連続でしたし疲れが出たのかしら?」


 少しだけクリスタの様子を見てみる。血色も良いし特に疲れているようにも見えない。だけど本人にしかわからない痛みや苦しみもあるだろうし無理は禁物だ。


「心配しないで。体は元気よ。少し用があるから私はそちらの用を済ませてくるわ」


「そうなのですか?それなら良いのですが……。無理はしないでくださいね?体調が悪いと思ったらすぐに言ってくださね?」


 本当に病気や疲れじゃないというのなら良いけどもし遠慮して言い出せないのならすぐに言って欲しいとだけ伝えておいた。あまりしつこく言うのも失礼なのである程度だけ言って後はクリスタ自身の判断に任せるしかない。


 まぁクリスタだってカーザーンに知り合いがいるかもしれないし何か用くらいあるだろう。護衛や案内だけしっかりつけておけば後は自由にしてもらえば良い。そもそもカーザース領、カーン領の観光に来てもらったんだから行きたい所があるというのなら本人の意思も尊重すべきだろう。


 いつもの面子からカタリーナとヘルムートとクリスタを抜いた面々は北の農場方面へと向かった。今日の視察は本当にただちょっと農場や牧場を見ていくだけだから気楽なものだ。昨日のように打ち合わせだの現地調査だのと大変な仕事じゃない。


 朝に向かったこともあり農場にはまだ子供達が働いていた。ルイーザが子供達と休憩時間に話しているのを見ながら皆は思い思いに過ごす。


 それから牧場へと向かって馬や牛や羊やと色々と増えている家畜達の様子を見ていく。牧場も見た俺達はお昼前に掘っ立て小屋へと向かった。


 回る順としてはおかしいと思うだろう。カーザース邸から一番近いのは牧場だ。そこから農場へと続いており掘っ立て小屋は森に少し入った先にある。それなのに何故農場から先に回ったのか。その理由はお昼ご飯だ。


 一旦戻って後で視察した牧場でチーズや牛乳をもらってきた。これを利用して掘っ立て小屋で料理をするためにこんな遠回りする順番となったわけだ。


 さすがに小さな掘っ立て小屋だからそんな本格料理は出来ない。今日作ったのはグラタンっぽい何かだ。たぶん本当のグラタンとは結構違うものだと思う。牛乳を使ってホワイトソースっぽいものを作ってチーズを乗せて焼いた感じだ。


「うまぁ!」


「熱いけどおいしいね!」


「ほふほふ」


「チーズが垂れてしまいますわ」


 皆熱々のグラタンっぽいものを頬張っていた。アレクサンドラはお上品に食べようとしてチーズが伸びて困っているようだ。


「午後からはどうしましょうか」


 昼食の準備で時間がかかったからすでにお昼はまわっている。これからどうしようかと皆で相談しながら残り半日色々と遊んだのだった。



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