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第百七十話「長期休暇!」


 今日から三日間学園に行けばあとは二ヶ月の長期休暇に突入だ。休み最終日の昨日は実家へ帰るための準備で色々と忙しかったから他には何も出来ていない。買出しに行ったり、荷物をまとめたり、ある程度は準備を済ませておかないと帰る直前で慌てることになる。


 俺はもう準備もかなり終わったしカタリーナやイザベラが手伝ってくれたからそんなに苦労することもなかった。そもそも二ヶ月実家に帰るだけでまた王都に戻ってこなければならないから全て引き上げるわけでもない。王都で買っていく物とかは用意したけどそれ以外にはあまり荷物もないから簡単な準備だけで済んだ。


 そんなわけで待ち遠しい我が家なわけだけど学園では憂鬱な成績発表等もあるからまだ浮かれるのは早い。三日目は終業式だけだから成績は今日か明日発表されるだろう。そんなことを考えながらいつも通り朝一番に席に着いているといつもより少し早い時間にミコトがやってきた。


「おはよ。フローラはもう成績は見たの?」


「おはようございますミコト様……。成績?」


 ミコトに挨拶してから言われたことの意味がわからず首を傾げた。


「もう外に成績が張り出してあるわよ」


「え?そうなのですか?」


 俺が来た時はそんなものはなかった。やっぱり朝早すぎるからまだそういった準備もされていないってことかな。かといって今より遅く来ると馬車の渋滞に巻き込まれて相当遅くなったり無駄な待ち時間が増えたりする。確かに今到着している時間は少々早すぎるかなとは思うけど遅くするのも考え物だ。


「そうよ。掲示板に張り出してるわよ。フローラがまだ見てないのなら一緒にいきましょ」


「はい」


 ミコトと連れ立って廊下に出る。もう俺とミコトが仲良しなのは完全にバレバレだな。まぁもうヘレーネとかうるさい奴がいなくなったり大人しくなったりしているからバレてもそんなに困らないけど……。


 ミコトとやってきた掲示板にはズラッと長く名前と点数が張り出されていた。うわぁ……、点数まで公表されるのか……。地球の時はこういうシステムの学校じゃなかったけどこっちでは成績が丸バレになってしまうようだ。


「えっと……、私は……、ぶっ!」


 俺も自分の成績を確認しようと思って吹き出しかけた。俺の名前は普通に公表されている名前とは別の所にデカデカと載せられてる。どうやら上位十名は特別に抜き出して公表されるようだ。それがまた目立つようにデカデカキラキラにされている。滅茶苦茶目立って最悪だ。


「あの……、小さい括弧で書かれている点数は?」


「ああ、あれは実技の点数ですって」


 へぇ……。俺の名前の下には『フローラ・シャルロッテ・フォン・カーザース 600(100)』と書かれている。つまり五教科筆記五百点満点プラス実技百点満点で括弧の中は実技の点数というわけか。


 …………俺は全教科百点ということだな。


 それはまぁいい。自己採点でもそれくらいはいっているだろうと思ってた。実技が何点なのかはわからなかったけどそれが百点なのもありがたい。問題は俺がデカデカと一位の場所に載っていることだ。周りからもヒソヒソと何か言われている。もしかしてカンニングでも疑われているんだろうか……。


 何しろ二位が540点台だ。ざっと各教科平均で九十点そこそこかなって所だな。ミコトもこのデカデカ表示されている十位以内のぎりぎり十位にランクインしている。その点数は522点……。十位でそれってことは600点満点というのは少々目立ちすぎる。


 俺が地球で学生だった頃はもっと点数も僅差が多かったように思う。五教科で490点台でも複数人は居たと思うしその後も団子状態で少しの点差に多くの人間がひしめいていたはずだ。それに比べてこの学園の成績は何というか結構最上位が少ないように思う。


 この感じからすると90点台でも取れば相当高得点という感じだろうか……。おかしいな……。そんなに難しい問題はなかったと思うけど……。


「ミコトも十位なんですね。ミコトならもう少し高いかと思いましたが……」


「悪かったわね。私はこの国の歴史なんて知らないのよ。学園で習ったのが初めてだし興味もないからあまり勉強してなかったわ」


 あぁ……、それはそうだろうな。自国の歴史ならば家庭教師にでも習っただろうけどミコトからすればプロイス王国の歴史なんて他国の歴史で学園に来て初めて習ったんだろう。しかも他国の歴史で興味もなければそれほど力も入れないと……。


 同じパターンで言えば政治もこの国の歴史に密接に関わっているし政治体制もこの国のものだ。ミコトにとってはプロイス王国の歴史と政治が苦手でもやむを得ないかもしれない。それでもこれだけの成績を修めて十位に入っているというのは十分好成績なんだろう。


 他の友達をざっと見てみる。アレクサンドラはミコトより点数が良い。534点で六位に入っている。チラリと見てみれば丁度アレクサンドラも成績を確認に来ていたようで自分の成績を満足そうにみていた。六位なら相当優秀ということだろう。


 他にジーモンが509点で十四位。惜しい。もうちょっとで十位以内も狙えそうだけど微妙な所だ。クリスタは487点で三十二位か。悪くはないんだろうけど特別良くもない。普通というところかな。だけどクリスタはあんなことがあったばかりだしそれにしては良い方と思うべきか?あんなことがなければもっと上だった可能性はある。


 何にしろやっぱり成績の点数や順位は結構バラつきが多い。十点くらい点差があっても順位が一つしか変わらない所もある。日本の俺が通ってた学校なら一点の違いで何位も順位が変動するような熾烈な競争だったと思ったけどこっちはそうでもないようだ。


 俺の名前がデカデカと目立つように装飾までされて貼り出されているのは恥ずかしいけど俺がやったわけでもないし、学園の方針だというのなら今更どうしようもない。次から目立たないように成績を落とすというのも余計恥ずかしい。一回だけのマグレだったと思われるのも癪だしこれからも十位以内はキープ出来るように頑張ろう。




  ~~~~~~~




 一日目は成績発表や答案用紙が返されたり配布物を配られたりちょっと注意を受けるだけで終わった。こんな調子なら明日は何をするんだろうかと思わなくもない。一日あれば全て済む用件だったんじゃないだろうか。まぁ試験も終わった後の日数合わせの出席だと思えばこんなものかもしれない。


 だから舐めていた。一日目がどうってことない日だったから二日目もちょっと学園に行って顔を出すだけだろうと……。


 明日は終業式を残すだけの学園二日目……、この日学園中で悲鳴があがった。その理由は……、そうっ!しゅ・く・だ・い・っ!学生の天敵長期休暇の宿題が出されたからだ。


 まぁ冷静に考えれば二ヶ月も休みがあるんだから毎日少しずつやればそれほど多い量じゃない。学園で授業を受けている方がよほど勉強量も多いだろう。だけどまとめて出された長期休暇の宿題というのはそれはもう膨大な量に感じる。こんなものが果たして休みの間に終わらせられるのかと疑いたくなるような量だ。


「何でこんな非効率なことするのかしらね?家で各自自習ってことにすれば良いんじゃないの?」


 ミコトがコソッと話しかけてきた。ミコトもこの量の宿題に辟易しているようだ。俺はミコトの気持ちもわかる。だけどこういう宿題を出す学校や学園の考えもわかってしまう。


「それはそうですがこうして宿題として強制的にやらせない限り本当に家で自習する方は少ないでしょう?」


 そう。学校や学園だって生徒達が本当に家できちんと自習するのならそれだけで良いと思っているだろう。だけど誰がそんなことを言われてきちんと自習するというのか?宿題や提出物という課題がなければほとんどの生徒はただ遊び呆けるだけだろう。


 もちろん世の中には言われなくてもきちんと予習復習に自習をする者もいる。特に良い学校への進学を目指している家庭の子供は学校に言われるまでもなく自分で勉強しているだろう。だけど大半の者はそうじゃない。だからこそ学校や学園がこうして提出物を集めるからやっておけと宿題を出すわけだ。


 悪夢のような量の宿題を出されたけど毎日少しずつやればそれほどの量じゃない。そう自分を納得させて二日目を終えたのだった。




  ~~~~~~~




 最終三日目は終業式だけだ。簡単な挨拶や休みの間の注意事項を受けて午前中ですぐに終わる。この手の行事は国や世界が変わってもそう変わらないらしい。日本で散々経験したようなこととそう違いはなかった。


 終業式を終えて帰ると明日から実家へ帰るための最終確認を行なう。荷造りは終わっている。持って帰る物はそうない。また休みが明けたらここへ戻ってくるのだから生活用品は置きっぱなしで良い。持って帰るのはお土産とかそんなものばっかりだ。


 実家に帰るのは両親を含めた俺の家族や家人達。カタリーナ、ヘルムート、イザベラはもちろんだけど今回はオリヴァーもついてくる。オリヴァー隊や輜重隊、料理長のダミアンは後から遅れてくるようだ。さらにオリヴァー隊は全員がカーン領に戻るわけじゃなくて居残り組もいる。それなのに隊長のオリヴァーだけさっさと離れて良いのかという気もするけど……、まぁいいだろう。


 他にガブリエラ・アレクサンドラ母娘やルイーザ、クラウディア、ミコトも同行することになっている。ルイーザは牧場の仕事の休みも確保してあったし、クラウディアの休暇の許可も先日王様に出してもらった。ミコトは実家から勝手に出てきているも同然だから特に問題も用事もないそうだ。


 かなりの大所帯になるけど事前にわかっていたから各所の駅馬は大幅に増やしてある。王都へ来た時と違って荷物が少ない代わりに人数が多いという感じだろうか。馬車の数も相応に増えるから事前に各駅に馬を多く運んであるはずだ。俺が実際に行ったわけじゃないけどそういう指示はしてある。


 そして実は今回クリスタも呼んである。バイエン派閥が投資詐欺事件で追及されている今、同じ派閥だったラインゲン家も大変なことになっている。それにクリスタは気丈に振る舞っているけどあんな暴行を受けて間もない。相当心に傷が残っているだろう。


 だから俺はちょっとばかりクリスタを説得してカーン領へ招待することにした。ラインゲン家の両親にもヘルムートを通して説得してもらっている。どういうやり取りがあったのかは知らないけどヘルムートは見事にクリスタの両親を説得してくれたようで長期休暇の間うちに来る許可をもらってきてくれた。


 今のクリスタをラインゲン家の屋敷で一人っきりにしておくのはあまり良くないと思う。両親もクリスタに構っている暇はないだろうしクリスタとの仲も微妙になっている可能性もある。何より好きな異性と一緒に居られる時間が増えるのはうれしいことだろう。クリスタがヘルムートに淡い恋心を抱いていることくらいは俺にでもわかる。


 その淡い恋心が真実の愛へと昇華するか、ただの幼い頃の初恋で終わるかはヘルムート次第とも言える。クリスタの気持ちを受け止めて正面から向き合えばいずれお互いにそういう気持ちになるだろう。それはクリスタとヘルムートの問題だから俺が口を出すつもりはない。俺に出来るのは二人のそういう時間をなるべく用意してあげて友達であるクリスタの後押しをすることくらいだ。


 ジーモンはエンマと一緒に実家の領地に帰るらしい。ジーモンやエンマの実家の領地も俺の領地からそんなに離れていないからかなり遠い部類だろう。エンマの実家は本来ジーモンの実家の領地から少し離れた場所だけど飛び地が隣接している。その飛び地が保養地でもあるそうだからエンマはそこに向かうようだ。


 エンマも気丈に振る舞ってはいるけど最近は随分大人しくなっている。これからジーモンがエンマを支えながら二人で保養地でイチャイチャしてくるんだろう。ジーモンは真っ赤になって否定していたけど年頃の童貞男子なんてきっと長期休暇で女の子と急接近して休みの間に童貞を捨ててやるぜ!とか思ってるに違いない。


 何でそんなことがわかるかって?俺だってそう思ってた時期があるからだよ。言わせんな……。


 皆色々あるんだな……。そういえば俺は前世から記憶が続いているからあまりそんな気はなかったけど、今生での今の俺達の年齢だったら本来青春真っ盛りの年頃なんだよな……。皆それぞれ青春を謳歌しているんだ。


 俺はどうだ?何か俺は青春真っ盛りっていうほど青春を謳歌していないような気がする。前世でも青春を無為に過ごして後悔していたのに今生でも同じことを繰り返すのか?俺はどうしたい?どうすれば良い?


 人のことばかりじゃなくて自分のことも考えなければ……。皆のこともいつまでもなぁなぁで済ませるわけにもいかない……。


 この長期休暇で俺の青春の一ページにも何か変化があるだろうか……。



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さらに最新作を連載開始しています。百合ラブコメディ作品です。こちらもよろしくお願い致します。

悪役令嬢にTS転生したけど俺だけ百合ゲーをする
― 新着の感想 ―
[一言] 領地に戻っても仕事なんだよね。休暇ってなんだろ? 近衛騎士団はカーザーンに修行に出されるんでしょうね。フローラもやかん騎士として出されるのかな? それよりも内政パートは楽しみ。
[気になる点] ちなみにヘレーネの順位は……( ˘ω˘ ) [一言] 青春の一ページ(嫁達に押し倒される) あ、でももしかしたらディートリヒや王族が押し掛けてくる可能性も微レ存
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