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第百三十九話「誤解が解ける!」


「ふん♪ふふ~ん♪ふふふ~ん♪」


「随分ご機嫌ですねフローラ様」


 家に帰って来た俺にカタリーナがジロリとこちらを睨みながらそんなことを言ってきた。普通メイドさんが主人に向かってこの態度はないよね。でもまぁもう慣れたし別にいいや。今はそれよりも浮かれた気分の方が上回っている。


「うふふ~。わかりますぅ?」


「そんなに王太子様とのお茶会は楽しかったですか?」


 俯いたままカタリーナがポツリとそんな言葉を漏らした。全然意味がわからない。何でそこでルートヴィヒが出てくるというのか。


「は?王太子様?何ですかそれは?ルートヴィヒ王太子殿下とお茶なんてしても楽しいわけないでしょう?」


「え?」


「……え?」


 カタリーナがキョトンと小首を傾げる。俺も一緒に小首を傾げる。カタリーナは何を言っているんだ?もう少し俺にもわかるように説明して欲しい。


「カタリーナ?私にもわかるように説明していただけますか?」


「あっ、うっ……、それは……、その……」


 しどろもどろになったカタリーナが視線を泳がせる。どうやら言い難いことがあるらしい。


「ですから……、フローラ様がご機嫌なのはルートヴィヒ王太子殿下とお茶会をして楽しかったからだと思ったのです……」


 カタリーナは何とか言葉を絞り出しながらそう言った。でも全然意味がわからない。それはさっき聞いた。それで意味がわからないから聞いているというのに結局何も変わっていない。


 ……いや、待てよ?もしかして……。


「カタリーナ?もしかしてルートヴィヒ殿下に嫉妬しているのですか?」


「やっ!ちがっ!あのっ!?」


 やっぱりか。どうやら俺がルートヴィヒと楽しくお茶会してきたと思ってやきもちをやいているらしい。本当にこういう所は可愛らしい。だけど訂正しておく必要がある。


「何故私がルートヴィヒ殿下とお茶をしたからといって喜ばなければならないのですか?面倒なだけです」


「……え?ですがルートヴィヒ王太子殿下はフローラ様の許婚ですよね?」


 まぁそうなんだけどそれは俺が望んだことじゃない。むしろ嫌だとすら思っているのに何故俺がルートヴィヒと会うのが楽しみかのように思われているのか。とても心外だ。


「確かに現時点では残念ながら非公式ながらその通りですが私はルートヴィヒ殿下と結婚したいなどと思ったことはありません。むしろどうやって婚約破棄しようかと常々考えています」


「えっ!?えええぇぇぇぇぇぇ~~~~~っ!」


「しっ!声が大きい!」


 突然叫び出したカタリーナの口を押さえる。びっくりした。いくら俺の部屋とは言っても、いや、俺の部屋だからこそカタリーナが叫んだりすれば誰が飛んで来るかわかったもんじゃない。


「フローラ様はルートヴィヒ王太子殿下とのご結婚をお望みなのだとばかり……」


 何故そうなるのか……。俺が一度でもルートヴィヒと結婚したいと言ったことがあるだろうか?どうやらその辺りから話し合う必要があるようだな。


 あっ、でもそう言えば結婚したくないとも言ってなかったわ。あまりに公に王子と結婚したくないとか言ったら面倒事になると思って隠してたから婚約破棄したいと思っているということまでは読めないかもしれないな。


「まずはお互い落ち着いて話しましょう」


「はい……」


 声のトーンを落としたカタリーナに俺の気持ちを打ち明ける。


 まず俺はルートヴィヒと結婚なんてしたくない。婚約が決定された時からいかにしてこちらが悪くない形で婚約破棄させるかを考えていた。父も俺にルートヴィヒと婚約しないように働きかけようとしていたけど失敗したようだ。という幼少の頃からの話をカタリーナに聞かせる。


「フローラ様……、フローラ様がルートヴィヒ王太子殿下とのご結婚を望まれておられないことはわかりました。ですが勘違いがございます」


「勘違い?」


 俺が何を勘違いしているというのか。


「アルベルト辺境伯様はフローラ様とルートヴィヒ王太子殿下の婚約・結婚に賛成されておられます。ですからお聞きした最初の頃の話はフローラ様にルートヴィヒ王太子殿下との婚約をうまく纏めるようにとご指示されたはずです」


「…………ん?」


 何だって?父がルートヴィヒと俺の結婚に賛成?んな馬鹿な……。


 ………………いやいやいや!待て待て待て!そんなはずは……。


 でも……、考えてみれば確かにそう考えても辻褄が合うような気がしてきた。俺はずっと父は婚約・結婚に反対だと思っていた。そしてそう受け取っても全て辻褄が合っている。だけどこれを全て父が婚約・結婚賛成推進だったとしても意味が成り立つ。


 どういうことだ?まさか本当に父は俺とルートヴィヒの結婚に賛成なのか?


「アルベルト辺境伯様はルートヴィヒ王太子殿下とフローラ様がご結婚なさってカーザース家と婚姻関係を結ばれることがプロイス王国のためになると考えておられます。ですからフローラ様とルートヴィヒ王太子殿下のご結婚に賛成なのです」


 ……確かに。あの父ならば私情を捨ててでも国や家のことを一番に考えるだろう。そしてカーザース家のことよりも家族の幸せよりも何よりもまずプロイス王国のためを考えるはずだ。今の宮廷の権力闘争を考えればカーザース家がルートヴィヒと縁戚を結んで第三王子派を援護することが国益に適う。


 第一王子は知らないけど第二王子はただのアホだった。アマーリエ第二王妃もアホだ。そんな奴らが王位に就けばこの国は終わってしまう。となればルートヴィヒを王位に就かせるしかなく、ルートヴィヒ派を援護するには俺とルートヴィヒが結婚するのが一番手っ取り早い。


 ルートヴィヒにとってカーザース家の後ろ盾がつくというだけじゃない。カーザース家と王家の領地の間にナッサム家の領地がある。第二王妃派やナッサム家を抑えるには両側から挟撃出来るようにカーザース家と王家が協力するのは効果的だ。


 そう考えれば国の安定のためにはカーザース家がルートヴィヒ派につく以上にこの配置は理想的となり、プロイス王国の安定と優れた王を戴くためには俺とルートヴィヒが結婚するのを父が容認、いや、推進しようと思うのも頷ける。


「ルートヴィヒ王太子殿下はフローラ様とご婚約されるまでは誰が相手であろうとも断っておられました。ですからアルベルト辺境伯様はフローラ様にルートヴィヒ王太子殿下とのご婚約を纏めるようにご指示なされたのです」


 あっ……、あれかぁ~~~っ!あれは婚約をうまく回避しろという意味じゃなくて婚約を成立させろという意味だったというのか!そしてそう聞けば確かにそんな気もしてくる!なんてこった!


「ですからフローラ様も喜んでルートヴィヒ王太子殿下とご婚約なされてご結婚されようとしているのだと思っていたのです」


「……違います」


 項垂れた俺はそう言うのが精一杯だった。確かにそう考えれば父と同じく俺も結婚推進派だと思われていても仕方が無い。俺はそんなこと一度たりとも思ったことはないけど傍目にはそう見えてもおかしくなかっただろう。


 そうか……。そういうことか……。そう考えれば今までのおかしなことも色々と辻褄が合う。


「良いですかカタリーナ?今のことは誰にも言ってはなりませんよ?誰にも知られることなくこちらに落ち度なく婚約破棄させるのです」


「誰にもとはおっしゃられますが協力者は必要ですよね?あの四人にはお話しても構いませんよね?」


 何かカタリーナの顔が怖い……。確かにこれから動くのに身近な協力者が居た方が助かる部分もあるだろう。それにあの四人なら俺を裏切ることはないと思う。いや、根拠はないんだけどね?ただ皆が俺を裏切るとは思わないしもし裏切られてもこの五人に裏切られたのなら諦めもつく。それは俺がこの五人ときちんと絆を作っていなかったというだけのことだ。


「はい。カタリーナを含めた五人には協力してもらいましょう」


 よし。これでさらに俺の計画が捗ることになる。父が俺と意見が逆だったのは誤算だったけど代わりにカタリーナ達五人という心強い協力者を得ることが出来た。


「それで……、それならば何故フローラ様はご機嫌だったのですか?」


「あぁ、それはですね……」


 俺は今日王城であったことをカタリーナに説明した。


 ………………

 …………

 ……


 今日の王城では良いことが色々とあった。まず一番はルートヴィヒの妹、エレオノーレ王女がとても可愛かったこと。エレオノーレ王女となら結婚しても良いかもしれない。もちろん性的な目では見てないからな!


 あれ……?でも俺って前世ではキュアちゃんとか好きだったな……。まさか……、俺ってばもしかして本当にロリペドの気があるんじゃ……。


 いやいや、まさかな……。


 まぁそれはともかくこれはカタリーナに説明する必要はない。それよりももっと肝心なことがあった。


 まずマルガレーテと知り合えたことだ。マルガレーテも綺麗なお姉さんだった。ルートヴィヒもあんな幼馴染がいるなんて隅に置けない奴だ。二人で仲良さげに言い争っている時は二人の世界になっていて俺なんて空気だった。お陰でエレオノーレ王女と遊ぶくらいしかすることがなかったぞ。


 そしてエリーザベト王妃だ。第二王妃があまりにあれだから正妃もどんな相手かと少々心配になっていたけどまったく心配いらなかった。とてもしっかりした王妃様だ。しかも見た目が若くて綺麗だ。とてもルートヴィヒみたいな大きな息子がいる歳だとは思えない。王様も尻に敷かれてるようだし王妃様の方が何かと頼りになると思う。


 プリンを食べた後俺は王妃様の部屋でマルガレーテも加えて話した。美人なお姉さん達に囲まれてウフフホホホと話をするだけでも割と幸せ空間だ。まぁそのかわり随分緊張もしたけど……。あの王妃様はお話もうまいからついつい何でもポロッとしゃべってしまいそうになった。かなり危ない。あの話術は危険だ。


 俺は態度や感じから二人はマルガレーテとルートヴィヒの結婚を望んでいると見抜いた。だから俺はルートヴィヒと結婚したくない。マルガレーテの方がお似合いだと本心を打ち明けた。


 もしこれで二人が善からぬことを考えていれば俺は今頃牢屋にぶち込まれていたかもしれない。だけど俺の賭けはうまくいき二人も俺の言葉に耳を傾けてくれた。


 もちろんすぐにお互いに全部本心をぶちまけて話し合ったわけじゃない。ただ俺の方から先に歩み寄らないことにはうまくいかないと思ってこちらから先にカードを切ったわけだ。


 エリーザベトもマルガレーテも最初は驚いていたけど真剣に俺の話を聞いてくれた。俺はルートヴィヒと結婚しなくてもプロイス王国にもプロイス王家にも逆らわないということ。そして長年連れ添っていてとても仲が良いマルガレーテとルートヴィヒの間には俺は到底入っていけないこと。何より長年ルートヴィヒを想うマルガレーテの想いに勝てる者など存在しないと言っておいた。


 二人は目を丸くしていたけど特に怒り出すこともなかったし俺の本心を理解してくれたことだと思う。


 本当に冗談とかじゃなくてルートヴィヒとマルガレーテのやり取りは幼馴染だからこそのものだと思った。俺は男だからルートヴィヒとの結婚は余計にごめんだけど、美人なマルガレーテとなら結婚も悪くないと思う。だけどあれほど真っ直ぐにルートヴィヒを想っているマルガレーテを自分に振り向かせられるなんて到底思えない。それなら二人にくっついてもらった方が全員のためになるだろう。


「なるほど……。それで王家内でエリーザベト王妃様とマルガレーテ様という方のご協力が得られそうだということで上機嫌だったのですね?」


「そういうことです」


 ようやくカタリーナに俺の考えが伝わったようだ。まぁそれ以外にもプリンを一生懸命頬張って顔中をベタベタにしていた天使の姿が可愛かったからとか色々あるんだけど、何度も言うようだけどそれは言う必要はない。


 カタリーナの誤解も解けたようだと思った俺はご機嫌なままご飯を食べてお風呂に入って眠りに落ちたのだった。




  ~~~~~~~




 昨日王城で良いことがあったから今日も朝から気分が良い。スキップしそうになるほど上機嫌で午前中の授業を終えた俺はお昼を食べるためにミコトと一緒に食堂に移動する。その途中で嫌な場面に遭遇してしまった。


「あ~ら、ごめんなさい。豚がいるのかと思って間違えてしまったわ」


「クスクス」


 食堂へと向かう廊下の途中、わざわざ他の生徒が大勢いて目につく場所でそれは行なわれていた。


 廊下に這い蹲る少しぽっちゃりめの少女。将来は彼女の母親のように太ってドラム缶のようになるのだろうか。ただ救いは今の所彼女はまだそこまで太ってはいない。確かに少々だらしない体型ではあるけど貴族のご令嬢は実は割りとそういう人が多い。飽食というほどではないけど貧民ほど飢えることもなく、ある程度は好き嫌いも出来るので栄養も偏りがちだからだろう。


「…………」


 頭から水をかけられているのはエンマ・ヴァルテックだ。そしてエンマに水をかけているのは他ならないゾフィー・アルンハルト。エンマを囲んでいるのはいつもの他の四人だ。当然クリスタもいる。クリスタは俺達に気付くと目を逸らしていた。やっぱりあんな場に加わりたくはないんだろう。


 他の三人はヴァルテック家よりも序列が下だけどそれでも三人が集まればヴァルテック家よりは力も上回るだろう。何よりもヴァルテック家はアルンハルト家の親戚筋だ。しかもヴァルテック家の方が分家筋だからゾフィーが相手である時点でエンマは逆らえない。他の三人など関係なくエンマとゾフィーの力関係は明白だ。


「貴女の生みの親の白豚は今頃屠殺場で屠殺を待っているんでしょう?子豚ちゃんもさっさと親豚さんの所へ行けば?」


「くっ!」


 うわぁ……、えげつないなぁ……。幼稚ないじめだけど同世代くらいならあんなことされたら相当堪えるだろうな。しかも相手が逆らえないのをわかった上でだもんなぁ。


 多分ヘレーネの指示だろうな。ヴァルテック侯爵夫人が捕まったせいでバイエン派閥がやばそうだから見せしめにしてるんだろう。だけどゾフィーも自分の親戚の子が相手だってのにあそこまで出来るなんて、命令されているからだけじゃなくて元々そういう性格なんだと思われても仕方ないほどノリノリだ。


 何より気分が悪い。折角今日は昨日から機嫌が良かったってのに台無しだ。最初はヘレーネにルートヴィヒを押し付けてくっつけようかと思ったけどもうやめだ。ヘレーネはあまりに性根が腐りすぎている。マルガレーテという素晴らしい相手がいることを知った以上はもうヘレーネを押す必要はなくなった。


「待ちなさい!」


 面倒事だとは思うけど俺は四人組とエンマの間に割り込んだのだった。



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