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第百三十三話「巻き込まれる!」


 怒涛の甘味作りがようやく終わった。結局王様が八個、ディートリヒとクリスタが五個ずつプリンを持って帰るというからあの後から俺はずっとプリン作りだった。


 確かに五個も十個もそう変わらないとは言った。だけど二十七個も作らなければならないとあってはちょっととは言わない。趣味で作ってるレベルを遥かに超えているんじゃないだろうか。


 王様達のお土産用に十八個。両親とガブリエラ、泊まりに来た四人と俺とカタリーナ。これだけでもう最低でも二十七個だ。さらにヘルムートやイザベラの分も用意しようと思っていたからさらに増える。ついでに言えば絶対皆一個で満足するとは思えないからそれ以上に用意する必要があるだろう。そんなわけで結局俺が作ったプリンはなんと四十個だ。これはもう仕事と言っても良いんじゃないだろうか。


 その上クレープも作っていたわけで途中から俺はずっと厨房に篭りっきりだった。おかしいな?俺って一応高位貴族のご令嬢じゃなかったっけ?いつからお菓子職人になったんだろうか?


 だけどそんな疲れも皆の満足そうな笑顔を見たら一気に吹っ飛ぶ。クレープを食べて笑顔で談笑している皆の顔を見ていると作ってよかったと思える。これが料理人の気持ちなのだろうか。なんてな。俺如きが料理人の気持ちなんて言うのはおこがましい。だけど自分が作った物を食べた人が笑顔になってくれたらうれしいと思う気持ちに料理人も素人もないだろう。


 ヴィルヘルムとディートリヒは結局ここではプリンの試食は出来なかった。クレープを食べただけで満足したようで帰ってから夕食後のデザートに家族と一緒にプリンを食べるのだろう。一応感想はまた後で聞きたいとは言っておいたから後日会った時にでも感想を言ってくれるはずだ。一国の王や宰相にどのように感じられるのか。少しばかり興味がある。


 遊びに来ていただけの王様達やクリスタはプリンを持ってホクホク顔で帰っていった。本当にただ食い物が目当てで来ただけなのかなと思わざるを得ない。まぁいいけどね……。


 クレープ大会はお開きとなったので夕食までは俺の部屋で五人と一緒におしゃべりする。クレープを食べた後なのに夕食が食べられるのかと思うけど案外皆平気そうだ。かくいう俺もクレープを一緒に食べたけどまだご飯を食べられそうなので皆こんなものなのだろう。


「フローラ、クレープとってもおいしかったですわ。ありがとう」


「どういたしまして」


 アレクサンドラがにっこり微笑んでそう言ってくれた。とても良い笑顔だ。こんな笑顔が見られるのならまた作ろうと思える。傍から見れば簡単に乗せられているだけだと思うかもしれないけどそれでも良い。


「それにしてもアレクサンドラって変わった髪形をしているわね。どうやってこんな髪型にしているのかしら?」


 ミコトがアレクサンドラの髪型に興味を持ったらしい。というより全員あったようだ。ミコトの言葉に全員がアレクサンドラに集中していた。


「これはフローラが作ってくださったウィッグというものですのよ。ですからほら、脱げますの」


「「「「えっ!?」」」」


 ウィッグを脱いだアレクサンドラに全員が驚いていた。まぁね。むしろ悪役令嬢といったらドリルの方が本体だもんね。その本体が脱げるっていうことはむしろそのウィッグが悪役令嬢の本体で……、何を言っているか自分でもわからん……。


「あっ!もちろん頭の大きさも変わっていますし何年も前のものなのでフローラにいただいた物そのものは換えておりますのよ?ただクルーク商会に同じ物を用意してもらっただけですわ」


 まぁそうだろうな。アレクサンドラにあのウィッグを作ってあげたのはもう何年も前の話だ。それを今でも着用しているとは思えない。パーマもとれてくるだろうし成長期だった俺達ならサイズも変わってくる。元々共同開発とは言っても当時はクルーク商会に作ってもらったものだからヴィクトーリアに言えば同じ物は用意してもらえるだろう。


「もしかしてあの奇抜な衣装もフローラから贈ってもらったんじゃ?」


「ええ、そうですよ?あれもまったく同じものではありませんが贈っていただいた衣装を元に大きさや多少、作りを変えて作り直したものですわ」


 奇抜で悪かったね。俺も今考えたら小学生レベルの子供にあれだけボディーラインが出るタイトなドレスはどうだったかと思うよ。だから今回の夜会ではプリンセスラインのドレスを用意したんだ。


 アレクサンドラがまだ同じ色使いで似たデザインのタイトスカートを着用していたことに俺だって驚いた。当然当時とは体のサイズがまったく違うんだから新しく用意したものだということはわかってたけど、それなら何故わざわざ同じようなデザインと色にしたのか。


「ちょっとフローラ!私にも贈り物してちょうだい!」


「へ……?」


 そこまで聞いたミコトはいきなり首をグルリとこちらに向けてすごい剣幕でそう捲くし立てた。何だ急に?


「皆もそう思うでしょ?アレクサンドラにばかりこんなに贈り物をして!ずるいわよ!」


 あ~……、そういうことか。アレクサンドラにはドレスやウィッグを贈ったのに自分達には何もないから自分達にも何かくれということか。贈り物をすること自体は別に嫌じゃないけど急にそんなことを言われても何を贈れば良いのかわからない。


 それに誕生日とか特別な日でもないのに贈り物をするのもおかしいだろう。普通の日に突然プレゼントを貰ったら何か変な気がしないか?それは俺が現代日本人の感性だからだろうか……。


 だけどルイーザも遠慮気味ながらはっきり頷いていた。カタリーナも言葉や動作では表さないけど明らかに期待している目を向けてきている。そんな中で一人だけ……。


「くふっ、くふふっ!僕は後でもいいよ。僕にはこれがあるからね!」


 そう言ってクラウディアが出してきたのは少しヨレヨレになっている青いサシェだった。そこには『フロトよりクラウディアへ』と刺繍がしてある。昔に俺がクラウディアに贈ったものだ。今でも大事に持ってくれていることは再会を果たしたあの時から知っている。


「こっ、これはっ!まさかフローラの手作り!?ルイーザ!カタリーナ!私達も何かフローラの手作りの物を貰うべきよね?」


 クラウディアのサシェを見たミコトは相当ショックを受けた顔をしてそんなことを言い出した。アレクサンドラの時の比じゃない。そして何故かアレクサンドラもショックを受けたような顔をしている。何故だ?


「手……、手作り……」


 そんなことを呟きながらアレクサンドラは自分のウィッグとドレスを見ている。そんなにショックか?むしろウィッグを開発する方がとても手間がかかった。手が掛かったという意味ではウィッグの方が遥かに大変だったんだけど……。


「まぁ私としてはそれほどでも……。私はフローラ様が直々に私のためだけに料理を研究してくださり新しい料理を手ずから作ってくださいましたので……。友情用の青い匂い袋よりも深い絆で結ばれております」


「「「「!?」」」」


 カタリーナの言葉に全員が驚いた顔を向ける。いやいや……、皆もカタリーナが栄養失調だった話は聞いただろ?何で今更そんなに驚いているんだ?


「そういうことなら私だってフロトが教えてくれた魔法が私の中に宿ってるもん」


「「「「――ッ!?」」」」


 何かルイーザの言い方はちょっとエロティックだな……。自分の中に宿ってるとか変な意味を想像してしまう。皆もそうなのか物凄い形相をしている。


「ちょっと!フローラ!私だけ何もないじゃない!不公平よ!私にも何かちょうだい!」


 自分だけ何もないとばかりにミコトが俺に迫ってくる。だけどそうだろうか?俺とミコトは知らず知らずのうちに共依存になるほどの関係だったんじゃないだろうか?


「私とミコトの中にはお互いに教え合った魔族の言葉と人間の言葉があるではないですか」


 最初の頃のミコトの人間言葉はちょっとカタコトというか不自然だった。俺は魔族の言葉なんてまったく知らなかった。だけどお互いに授業で相手に自分の言葉を教え合った。それが俺達の中に息づいている。それだけじゃ駄目なんだろうか。


「う~!それはそうなんだけど!でもでも……」


 何かの葛藤があるのかミコトがウロウロとし始めた。見ている分には面白くて可愛い。だけど割と真剣に悩んでいそうだから少しフォローしておいてあげるか。


「何でもない日に贈り物をするというのもおかしな話でしょう?特別な日に特別な贈り物があるからこそ意味があるとは思いませんか?私達はこれからたくさんの特別な日や記念日を共に過ごし贈り物も思い出も積み重ねていけば良いではありませんか」


「そうですわね。これからまた積み重ねていけば良いですわ」


 さすが正統派ヒロイン、アレクサンドラ。中々わかっているようだ。それに比べてミコトは相変わらずミコトらしい。そんな風に話している間に夕食の時間になって俺達は食堂へと向かったのだった。




  ~~~~~~~




 夕食の後、結局デザートのプリンは一人一個では足らず念のために作っていた二個目を食べてもまだ足りないという不届き者がいたので『もう作ってやらない』と言ったらようやく泣く泣く諦めていた。その後俺は女子会が開かれるということで五人のいる部屋から追い出されて仕方なくお風呂に入ることにした。


 俺がお風呂に入っている間に五人の間でどんな話し合いが行なわれたのかはわからない。ただ俺がお風呂から出てくると暫くしてクラウディアとルイーザが帰ることになった。二人を見送った後で残りの三人は再び同じ部屋に集まりこそこそと何かを相談していたようだ。


 少しはミコト達ともおしゃべりしたけど基本的に俺は蚊帳の外で俺はいつも通りに過ごして眠ることになった。ミコトが泊まりに来るとは言っても俺じゃなくてアレクサンドラと話すのが目的だったように思う。皆もアレクサンドラに色々と興味があったんだろう。皆が仲良くしてくれるならそんな良いことはない。俺が止める理由もないのだからお互いに交流してもらおうと眠りについたのだった。




  ~~~~~~~




 翌朝もミコトがいること以外はいつもと変わらない。日課の訓練をして朝食を摂って学園に向かう。いつもと違う所は学園に向かう馬車にミコトも一緒に乗っていることだけだ。


 ミコトはミコトで自分の馬車で学園に向かうのかと思っていたけどこちらの馬車に一緒に乗ると言って譲らなかったので一緒に行くことになった。別に無理に別々の馬車に乗る理由はないんだけど折角ミコトにはミコトの馬車があるのに狭い馬車に四人で乗る理由もない気がする。


 馬車での移動中もおしゃべりしたいという気持ちはわからなくはないけど馬車の中ではあまりしゃべれない。揺れるし音はうるさいしで到底ゆっくりしゃべれる環境じゃないからだ。それにあまり下手にしゃべっていると舌を噛む恐れもある。一切何もしゃべらないということはないけど日本の乗り物のように自由にしゃべれるというほど快適なものじゃない。


 それでも少しでもおしゃべりしたいのか一緒に学園に向かった。アレクサンドラは三組の教室で別れて俺とミコトは一組の教室に向かう。その後はいつもの授業を受けただけだった。




  ~~~~~~~




 あっという間に授業も終わって今日はミコトと放課後におしゃべりせずに俺は急いで王城に向かった。今日は面倒な約束がある。


 前から何度も誘われては断っていたルートヴィヒの誘いだけどそういつまでも断ってばかりもいられない。それなら俺の空いている日はいつだと迫られたために今日なら空いていると以前に伝えていたのだ。こちらの空いている日の都合を聞かれたのに一生予定は空きませんなんて答えられるはずもない。渋々今日空いていると答えたらじゃあ今日王城に来いと言われたわけだ。


 ルートヴィヒに呼ばれて来たんだから受付も簡単に通れる。用件を伝えれば承っておりますと返事をされて案内された。案内に付いて城内を歩いていると向こうから見慣れない若い男が歩いてきているのが目に入った。案内役が端に寄って頭を下げたから俺も真似をして横に寄る。


 ルートヴィヒの客人であるカーザース家の息女を案内しているとわかっている案内人が横に寄って頭を下げるということは向こうの方が格上だということだ。俺はただのカーザース家のご令嬢でしかないけど今はルートヴィヒの客人という立場でもある。


 それでも俺の案内人が先に避けるということはルートヴィヒの客人よりも重んじなければならない相手ということであり、そんな立場の者と言えば数えるほどしかいない。誰かまでは知らないまでも大体の想像はつこうというものだ。


 その相手が横に寄って頭を下げている案内人と俺の近くまで来た時に立ち止まってこちらをじっと見てきた。何か気に入らないことでもあっただろうか。俺も一応マナーは習っているからそんなに失礼でもなかったはずだけど……。


「おい、そこの女。お前俺の女にしてやるぞ。可愛がってやるからついてこい」


「…………は?」


 一瞬何を言われたのか意味がわからず呆然とする。この馬鹿は今何て言った?俺を女扱いして、とかそういうことじゃない。普通初対面の相手にいきなり言う台詞か?頭がおかしいか何でも思い通りになると思っている勘違い野郎かのどちらかしかあり得ないだろう。


「聞こえなかったのか!お前のような端女をマウリッツ第二王子殿下が抱いてくださるというのだ!泣いて喜び感謝の言葉を述べぬか!」


 いきなりアホなことを抜かしたボンボンの取り巻きが捲くし立てる。今の言葉からわかる通りこいつが第二王子らしい。そりゃこんな馬鹿が第二王子なら第三王子のルートヴィヒが王太子に選ばれるわな……。第一王子は知らないけど……。


 そもそも今の俺の格好を見て端女って馬鹿なのか?どう見ても貴族のご令嬢の格好だろうが。こいつらからすればそこらの貴族のご令嬢であっても端女と大差ないと言いたいのかもしれないけど、そんな態度を取っていれば周囲から大顰蹙を買うことだろう。


 貴族社会にだってルールはあるし上下関係がうるさいとは言っても上だから下に何をしても許されるということはない。そもそも地方領主の権限が強い緩い集合体であるプロイス王国では地方領主は小国とはいえ王でありその子女もまた王子や王女と同等だ。その代表であるプロイス王家の王子とはいっても相手に対して無礼がすぎれば相応の報いを受けることになる。


 そんなこともわからない馬鹿王子とそれを諌めもせず助長させる側近を置いているなんて親の顔が見てみたい。あっ、一人は知ってるわ。髭面のおっさんだ。もう片方の親はどっちかな。この性格からしてアマーリエの子供っぽいな……。


「何をしている?兄上」


「あぁ?ルートヴィヒ!貴様は下がっていろ!」


 そこへ声を聞きつけたのかやってきたルートヴィヒが俺とマウリッツの間に割り込んできた。どうやら面倒なことに巻き込まれたようだ。



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