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第百三十一話「夜這いなんてなかった!」


 俺はアレクサンドラにそれぞれ皆との出会いと別れを語って聞かせた。もうこの説明も何度目だろうか。何度も説明しているから話もスムーズで順番も綺麗になってまるで物語でも読んでいるかのような出来になっている。


 そしてだからこそ何かまずい気がする。これだけスラスラと順序だててストーリー順に詰まることなく話していたらまるで作り話をしているように聞こえるんじゃないだろうか。でもその心配は無用だったようだ。


 そもそも何故この場で再びこの説明をすることになったかと言えば話に嘘がないように他の者がいる場で話して嘘や矛盾が含まれていないことを確認するためだ。


 それならカタリーナだけでも居れば事足りたと思うか?それは間違いだ。今まで皆に聞かせていたアレクサンドラに関する部分をアレクサンドラと一緒に聞かせることでその部分にも嘘がなかったという証明のためでもある。今まではアレクサンドラの部分は当事者は俺だけしかいない状況で話していたからな。これでアレクサンドラの方の意見も聞けたわけで、俺が嘘を言っていなかったという証明にもなる。


「はぁ……、フローラ……、貴女はどうしてそう……。もういいわ……」


 全てを聞き終えた後、アレクサンドラは額を押さえて首を振っていた。どういう意味だろうか?


「まぁいいじゃないですか。フローラ様がこうだったお陰で助かったというのもあるでしょう?」


「あぁ、そうだね。そう言えばカタリーナの言う通りだ。カタリーナの時点で決着をつけられていたら僕達には一切機会もなかったことになるもんね」


 カタリーナとクラウディアが話し合っているけど俺だけついていけていない。皆はわかったとばかりに頷いてるのに俺だけ何のことだかさっぱりだ。


「確かにフローラがこうだったお陰でまだ決着もつかず助かっている面はあります。ですが待ってください。私はやむを得ず王都に逃れることになっただけで喧嘩したり意見の相違があったり別れたわけじゃありませんよね?私の後にミコト・ヴァンデンリズセン様、いえ、スメラギ・ミコト様でしたか?ミコト様と浮気されたということですよね?」


 えぇっ!?そりゃ……、カタリーナは急に硬い態度になって出て行ったから愛想を尽かされたんだと思った。ルイーザとは喧嘩別れのようになったし、クラウディアには完全に振られてしまった。ミコトは俺達が共依存になっていたからその症状を治すために俺の方から離れる道を選んだ。


 それらに比べれば確かにアレクサンドラとは本人同士の問題じゃなくて当時の俺達じゃどうしようもない問題で無理やり引き離されただけだ。二人が恋人同士だったならば確かに別れたわけでもないのに離れ離れになったからって浮気したみたいな話になるだろう。でもちょっと待って欲しい。


「ちょっ、ちょっと待ってください!確かに私とアレクサンドラは事情によって引き離されただけで私達が何か問題があって離れ離れになったわけではありません。それは確かにその通りですが、だからといってその後にミコトと親しくなったから私が浮気したかのような話はおかしいでしょう?そもそも私とアレクサンドラはまだお付き合いもしていなかったではないですか!?」


 そう。確かに付き合っていたのなら彼女と遠距離恋愛になったのを良いことに地元で浮気した彼氏みたいな感じに受け取れるかもしれない。だけどそもそも俺とアレクサンドラは付き合っていたわけでもないわけで、それなのにその後で他の女の子と親しくなったからって浮気だと責められるのは違うと思う。


「これだよね……。まぁそのお陰で一度はあんな別れ方をしてしまった僕にもまだ機会があるようだし助かってはいるんだけど……」


「ちょっとフロトは鈍感すぎっていうか……。女心がわかってないよね」


 ドキッ!ルイーザの言葉が俺に突き刺さった。そうだ。俺は外側は女の皮を被っているけど中身は男だ。もしかして俺が男だとバレて……?


「まぁフローラ様はこれで良いかと……」


「そうだね。この方が可愛いしね」


「まぁいいですわ。事情はわかりました。つまり私達五人でフローラを守れば良いのですね」


 んん?守る?どういう意味だ?また俺の理解出来ない流れになっている。俺が皆を守るというのならわかるけど俺が皆に守られるのか?何から?


「フローラ様……、そろそろお休みになられた方がよろしいのではないでしょうか?」


 その時扉がノックされてイザベラが声をかけてきた。そういえばそうだな。もう随分遅い時間だ。クラウディアとルイーザは家に帰らなければならないしそろそろ解散にした方が良いだろう。


 それとも今夜は二人も泊まってもらうか?いくら馬車で送るとしてもこんな時間に外を出歩くものじゃない。日本なら夜中でも女性一人で歩いていても平気だけどこの世界はそうじゃない。


 ただ家の人が心配する可能性がある。今日俺の家に泊まると言って出て来たんならともかく一晩も帰ってこなければ家族が心配するだろう。一応聞くだけ聞いてみるか。


「ルイーザとクラウディアはどうしますか?今日はもう夜も遅いので泊まっていきますか?」


「う~ん……、遅くなるとは言って出て来たけど今日は帰らないとは言ってないから家族が心配するかな……」


「僕もそうだね。今日中に帰るつもりだったし明日の王城への出仕もあるしね」


 まぁそうだろうな。家族も心配するだろうし明日の生活にも差し支える。少し遅くなってしまったけどいつも通りに生活した方が良いだろう。


「それではうちに泊まるのはアレクサンドラだけですね。アレクサンドラももう部屋へ戻りますか?」


 だから俺は普通にそう聞いてしまった。そこに何の問題もないと思ってしまっていた。それがこの後の大事の始まりだとも気付かずに……。


「ちょっと待てフロト。今なんて言ったんだい?」


「アレクサンドラさんはこの家で寝るんですか?」


 クラウディアとルイーザが怖い。急にどうしたというんだろうか。リンガーブルク家は王都に屋敷がないんだから身の安全も考えたら当分の間はここで生活することになる。それが一体なんだと……。


「リンガーブルク家は王都に邸宅がない上にまだ狙われる危険もなくなったわけではないので暫くカーザース邸にて一緒に生活してもらうことになっております」


 カタリーナが俺の代わりに説明してくれる。それを聞いたクラウディアとルイーザが『ギギギッ』と油が切れたブリキのように首を動かす。怖い……。


「そういうことなら僕も泊めてもらおうかな!」


「そうね!私もお願いするわ!」


「きゅっ、急にどうしたのですか二人共……」


 いきなり様子が変わってしまった二人に俺は混乱しつつも後ずさることしか出来ない。もの凄い迫力で何でどうしてと聞ける雰囲気ではなかった。


「それではクラウディアとルイーザの家に本日はカーザース邸に泊まる旨を伝える使いを出します。お二人も客室にご案内いたしますのでご一緒にどうぞ」


 まるでこうなることがわかっていたとばかりにカタリーナがテキパキと事を進めて片付けてしまう。俺はただただ頷くことしか出来なかった。


 ちなみにこの日は当然何もなかった。カタリーナ、ルイーザ、クラウディア、アレクサンドラは四人で一部屋に固まって眠ったらしい。何故かは知らない。アレクサンドラ辺りは普通一人部屋か母親であるガブリエラさんと一緒の部屋じゃないのかと思うけど怖くて詳しくは聞けないし聞かない方が良いだろう。


 四人が一晩一部屋に固まって何をしていたのかはわからないけどあまり深入りしてはいけない気がしてスルーすることにした。




  ~~~~~~~




 昨晩夜這いされるということも夜這いに行くということもなく普通に朝を迎えた。今日はちょっと眠かったけど俺が日の出前から両親と日課の訓練をしてから朝食に向かうと他の皆も起きていた。


 現代日本から考えたら相当早起きに感じるかもしれないけどこの世界ではこれが普通だ。夜に明かりを灯すだけでもコストがかかる。現代日本のように二十四時間電気が流れていてスイッチ一つで明かりが灯るというようなものじゃない。


 明かりをとるためにも薪、油、ろうそくなどを消費しなければならず、それでも十分な明かりとは言い難い。そんな中でわざわざ何かしようということもないわけでこれらの時代の人間は総じて日の出と共に起きて日の入りの頃には用事は済ませておくものだった。


 もちろん一切夜起きていないわけではないので日が暮れたからって即座に寝るわけじゃない。だけどあまり余計なことはせずに眠る者が大半だろう。特に明かりを確保出来ない貧乏人は真っ暗になってしまうから何も出来ない。


 そんなわけで日の出から間もなしには皆起きてきていた。ルイーザは朝食の後に一度家に帰ってから農場に向かうと言っていた。クラウディアはこのまま王城に出仕するらしい。ご両親とかが心配してないのかな?と思うけど王城でお父さんと会うらしいからその時説明するとのことだった。


 俺とカタリーナはいつも通りだしそこにアレクサンドラが加わるだけだ。これからはアレクサンドラも俺と一緒に学園に通うことになる。


「あっ!そういえば……」


「何です急に?」


 ルイーザとクラウディアもそれぞれ仕事に向かって俺達もゆっくりしてから学園に向かおうかという時に俺はあることを思いだして声を出していた。俺の声に驚いてアレクサンドラが問い返してくる。


「アレクサンドラはこのまま私と一緒で大丈夫なのですか?あの例の三人組辺りがまた何か言ってくるのでは?もしかしてあの三人のうちの誰かがナッサム家の監視役ですか?」


 アレクサンドラの取り巻きの中にかなり性格がきつそうな三人組が居た。カーザーンでもアデーレ・フォン・アルコ子爵令嬢みたいな変な子に取り巻きをされて担がれてたし、アレクサンドラってああいうタイプを引き寄せやすいんだろうか。これが悪役令嬢の運命なのかもしれない。


 あの三人組は入学式の日から俺の後ろで俺の悪口を堂々と言ってたからな。まぁ本人が目の前にいるって知らずに言ってたんだろうけどその後で俺のことも知る機会くらいはあったはずなのに態度に変化はなかった。


 ただ単純に俺が目の前に座っていたことすら気付いていなくて覚えてなかったのかもしれないけど、普通自分達が入学式で散々悪口を言っていた相手のことを後で知って目の前に座っていたと思ったらもっと気まずそうにすると思わないか?


 それなのにあの三人組は気まずそうにするどころか学食から帰る途中の俺とアレクサンドラのやり取りの時にニヤニヤといやらしい笑みまで浮かべていた。俺が誰か知らなかったとしても一組であることはすぐにわかる。何故なら制服でクラスがわかるようになっているからだ。


 遠くから見ても完全にわかるというほどではないけど近くで見たら見落とすはずがない。襟についているラインの数と小さなクラスの襟章で見分けがつくようになっている。下位クラスの生徒は上位クラスの生徒と揉めたら一大事だから絶対に襟章で相手のクラスを確認するはずだ。それなのにあの三人は一組である俺に対してもあの態度だった。


 もちろん俺がいじめられっ子で恐るるに足らずと思ったのかもしれないけどそれにしてもあまりに露骨すぎる。いくら伯爵家では相当上位であるリンガーブルク家の後ろ盾があると思っていてもあれはおかしい……。


 いや、待てよ?リンガーブルク伯爵家じゃなくてその後ろのナッサム公爵家がついていると思っていたからこそのあの態度か?そうか……。それならまだ説明もつくな。公爵家と辺境伯家では一番下の公爵家と一番上の辺境伯家でも比べるまでもなく公爵家の方が上だ。それくらいは貴族なら誰でも知っている。そう考えればあの態度も頷けるのかもしれない。


「ナッサム家がつけていた監視は他の者ですわ。あの三人組にはほとほと手を焼いておりますけれど無下にするわけにもいかず……、どうしたものかと悩んでおりますのよ……」


 あぁ……、アレクサンドラは割りと引っ込み思案というかそんなにグイグイ言いたいことを言って前に出るタイプじゃないからな。アレクサンドラは絶対顔で損をしていると思うけどこればかりは俺にもどうしようもない。


 そんな話をしながらも結局一緒に馬車に乗って学園へとやってきた。そもそもこの時間だと学園にいるのはほとんど職員ばかりで生徒なんて数えるほどしかいない。人に会う可能性もほとんどないだろう。


 クラスが違うから途中でアレクサンドラと別れて自分の教室で待機していたら鬼がやってきて隣に座った。何か知らないけど滅茶苦茶怒ってる。それだけはわかる。


「フローラ?どうして私が怒っているかわかっているわね?」


「はい……」


 はい……、わかりません……。でもわかりませんって言ったら余計怒られそうだから黙って隣に座った鬼、ミコトの言葉に耳を傾けたのだった。



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