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第百二十六話「裏側!」


 イザベラにアレクサンドラと直接接触するように頼んだ俺は手紙を託した。イザベラやヘルムートに加えていつもの四人にもハンナから聞いた話は伝えてある。あの話を聞いた全員が激怒していた。俺だってそうだ。血が沸騰するかと思うほどに頭に血が昇った。


 だけど安易に動くわけにはいかない。これは相当根が深い話だ。実行犯を捕まえたら終わりというほど単純じゃない。アマーリエとナッサム家に相応の償いをさせるのはほぼ不可能だと思う。それどころか関係性を立証するのも難しい。


 もちろんだからって黙って見過ごすつもりはない。どうにかアレクサンドラを開放して、徹底的に潰せないまでも犯人達にある程度は痛手を与えてやらなければ……。もしこのまま引き下がったらまた何かちょっかいをかけてくる可能性が高まる。ただやられるばかりの獲物ではなく手を出せば痛い目に遭う爪と牙を持っていることくらいは示す必要があるだろう。


 ハンナから聞いた内容をいきなり手紙に書いてアレクサンドラに渡したらすぐさま行動に移してしまう危険もある。あるいは今の俺とアレクサンドラの状態からして俺の手紙なんて読んでももらえずに捨てられる可能性だってあるかもしれない。


 万が一にもアレクサンドラがこの手紙を読まずに捨てて、今住んでいるナッサム家の家人達がこの手紙を回収して中身を読まれたら大変なことになるだろう。


 それでも俺は全てを記した。アレクサンドラが密かにこれを読んで適切に行動してくれることを信じて……。


 これを渡す前にイザベラがアレクサンドラをうまく説得してくれるということも信じている。そしてアレクサンドラもきちんとこの手紙を読んでくれるとも信じている。


 手紙の最後に俺の気持ちとこれから何とかするからくれぐれも早まったことはしないようにと気持ちを込めて書いておく。


 もしアレクサンドラがこの手紙をきちんと読んでくれなかったり、俺の制止を聞かずに早まった行動をしてしまったらそれは俺とアレクサンドラの絆がそれだけのものだったということだろう。


 きっと大丈夫だと自分に言い聞かせてイザベラに全てを託したのだった。




  ~~~~~~~




 イザベラがうまくやってくれたらしい。イザベラの顔はカスパルにも知られている。それなのにどうやってカスパルに知られることなくアレクサンドラだけに接触したのだろうか。少し気になるけど聞くのも怖いのでイザベラに任せたままにしておこう。


 それよりもアレクサンドラから手紙がきた。イザベラが俺の手紙を渡してから少ししてからだ。アレクサンドラの状況からして下手に返信の手紙を持ち歩いていたら危険だろうに、それでも頑張って手紙を書いてイザベラに渡してくれたのだろう。


 あまり頻繁に手紙のやり取りをすればリスクが高まる。だけどその後俺とアレクサンドラは何度か手紙でやりとりをしたのだった。




  ~~~~~~~




 ヴィルヘルムとディートリヒをクレープカフェに案内した礼として渡された紙束を見てみる。そこに書かれていた内容は驚くべきものだった。


 さすがは王様と敏腕宰相ということか。その紙束に記されていたのはアマーリエとナッサム家の裏帳簿、つまり不正の証拠だ。


 今回の俺達に関係ない不正がほとんどでこれを俺に渡す意味は二人にはあまりなかったはずだ。そもそもこれの使い方を間違えればアマーリエ達は徹底的に追及されたら破滅が待っている。そうなれば黙って潰されるよりはと武力蜂起、内戦、他国の干渉と最悪のケースを辿る可能性が高い。


 そんなものを俺に渡した二人の意図は恐らく踏み絵だろう。もし俺が私怨でこの不正を公にすれば国が崩壊する。俺がそんなことも理性的に判断せずに突っ走るようなら今後俺が国にとっての障害になると判断して切り捨てるつもりだろう。


 もちろんあの二人にとってもこれは危険な賭けだ。俺がそんなことをしないだろうという公算が大きいと判断したからこそ渡したんだとは思う。それでも絶対にこれを利用しないとは限らない。万が一俺がこれを利用しようとしても何らかの方法で止める算段があるのかもしれないけどリスクは高い。そんなことをしてまでこれを渡してきたということは俺に『国を裏切るようなことはするな』と釘を刺してきたということだろう。


 俺だって別にプロイス王国を乗っ取ろうとか破滅させようとか内戦に引き摺り込んでやるとかそんなつもりは一切ない。俺としては平穏に田舎で村でも開拓しながらのんびり暮らしたい。そのためにも降りかかる火の粉は払わなければならない。


 折角王様と宰相が信用して渡してくれた証拠だ。有効活用しない手はない。俺達に関係ある部分だけこちらで調査して裏付けを取る必要がある。この書類をそのまま利用は出来ないからな。これがあれば……、決定的証拠が埋まる。首を洗って待ってるが良い、アマーリエ!ナッサム公爵家!




  ~~~~~~~




 今日はようやく俺が直接アレクサンドラと会える日だ。学園で素っ気無い態度どころか俺を突き放すような態度を取っていたのには理由があった。どうやらアレクサンドラの取り巻きに混じってナッサム家の息がかかった者がアレクサンドラを監視しているらしい。そんな監視がある中でイザベラはどうやって接触したのかますます不思議だけど今はそれは置いておく。


 ともかくナッサム家の目がある場所で俺と親しくしていれば最悪身の危険すらあるだろう。だからアレクサンドラは俺を突き放すように接していたとのことだった。直接会った時にまずそのことを謝られた。


 もちろん俺は怒ってなどいないし今の状況を考えればアレクサンドラのお陰でうまく事が運んだとも言える。そう伝えるとアレクサンドラは泣きながら俺の胸に飛び込んできた。二人の胸が押し合って絶妙な刺激を与えてくる。何だか変な性癖に目覚めそうだ。


 それはともかくアレクサンドラと直接会ったのには理由がある。感動の再会も重要だけどそれは全てが終わった後でも出来る。今危険を冒してまで直接会ったのは俺達が今の状況を打開するための打ち合わせのためだ。


 このまま放っておいても碌な結果にはならない。アレクサンドラに聞いてもはっきりとは答えなかったけどやっぱりアマーリエ主催の夜会でアレクサンドラの結婚が発表されるようだ。これだけは何としても阻止しなければならない。


 本当なら俺が格好良くアレクサンドラを救ってあげたい。だけど残念ながらそれは無理だ。今の状況では精々実行犯達を捕まえることくらいしか出来ない。肝心の大元であるアマーリエやナッサム家に何のダメージも与えられないようでは、今回アレクサンドラを救い出してもまた何か手出しされる可能性が高い。


 だから……、アレクサンドラを危険に巻き込んでしまうかもしれないけど手を貸してもらわなければならないだろう。その方法を直接話し合うために危険を冒してまで会ってもらったわけだ。


 とりあえず一つ決まったことは犯人に自白させてそれを王様や有力貴族達に聞かせることだ。俺が王様達を連れてアレクサンドラとカスパルが居る部屋の隣に行かせる。そこでアレクサンドラがカスパルを追及して犯行を自白させる。


 当然カスパルが自白した程度のことで証拠にはならないだろう。現代日本でならば相当重要な証言として捜査されるだろうけど、この封建社会の中でトップクラスの権勢を誇るアマーリエやナッサム家に対して平民の犯罪者が自白した程度で罪に問えるはずがない。


 もう一つ決め手が必要だ。


 別にアマーリエやナッサム家を完全に失脚させようと思っているわけじゃない。そもそもそんなことをすれば全力でアマーリエやナッサム家が抵抗するだろう。そうなれば国を割った内戦に発展しかねない。プロイス王国が内戦になれば周辺国からの干渉を招く。下手をすれば他国を巻き込んだ泥沼の長期戦争に突入だ。


 俺だってそんなことは望んでいない。それにそんなことになりかければ王様やディートリヒが動くだろう。だからあくまでアマーリエやナッサム家に多少ダメージを与えて大人しくさせるだけで、徹底的に叩き潰すというのは不可能だ。


 アマーリエ達の関与をある程度周辺に見せてダメージを与えつつも致命的な破局までは至らないようにする。言うのは簡単だけどそううまくいくだろうか……。何よりも証拠が足りない。実行犯が『こいつに指示されたからやりました』と言っただけで罪に問えるのならば相手を嵌めることなんて簡単に出来てしまう。また証言があったから捜査しましょうとはならない。


 そんな簡単に高位貴族のことについて取り調べが出来るのならそれもまた悪用されるからだ。自分の子飼いの者に犯罪をさせて敵対貴族の命令でやらされましたと自白させれば良い。後はそれを口実に捜査すると言いながら相手に都合の悪い捜査を行なったり、そもそも何も出てこなくとも犯罪をでっち上げることも出来てしまうかもしれない。そう考えれば犯人が自白したからといって何でもかんでも捜査されるわけじゃないのはわかるだろう。


 致命的破局を招かず、かといって何もなしに済ませず、アマーリエ達に俺達に手を出したら相応に被害が返ってくると思わせるだけのものがなければならない。あと一つ……、決定的な証拠がなければ……。まだ裏付けがとれていない。あれが間に合うかどうかが全ての鍵を握っている……。




  ~~~~~~~




 ついにやってきた夜会でミコトと話をして気持ちを落ち着かせる。準備は万全のはずだ。だけど気持ちが昂ぶって落ち着かない。そんな俺を気遣ってくれたのかミコトが和ませてくれた。ようやく落ち着いた俺達の前をアレクサンドラが通る。


 俺が声をかけてもアレクサンドラは応えることもなく通り過ぎる。だけど別に何か怒っているとかじゃない。これは全て打ち合わせ通りだ。俺はもうアレクサンドラと接触して色々と打ち合わせを行なっているんだから無視されたからってショックを受けたりしない。


 それなら何故わざわざ言葉も交わさないのに俺の前を通るように打ち合わせしていたのか。それは今俺の手の中にある小さなメモ用紙を渡すためだ。


 アレクサンドラは通り様に俺にメモ用紙を渡して行った。そこに書かれているのはアレクサンドラとカスパルの控え室がどこであるのかだ。


 前もっての準備もあるから一応そういった使用する部屋割りは決まっている。特にアマーリエの控え室とかは事前に決まっていてまず変更されることはないだろう。


 だけどアレクサンドラ達の部屋が変更されないという根拠はない。もし急に変更でもされていたら事前に知っていた部屋の隣に待機していても意味はない。もし俺が逆の立場だったら事前に準備しなければならないことから敵にも部屋割りが知られている可能性を考える。なら直前や当日にいきなり部屋を変更させて何かしてくるかもしれない敵の裏をかくくらいはするかもしれない。


 だから念のためにアレクサンドラに当日の控え室がどこであるのか最終確認する必要があった。多少危険ではあったけどアレクサンドラがうまくメモ用紙を渡してくれたから助かった。ミコトもさりげなく俺とアレクサンドラのやり取りを体で隠してくれたからね。


 内容を確認してみる。どうやらアマーリエ達は俺達が何かするとは思っていなかったようだ。事前に準備されていた部屋割りのまま変更はないらしい。それとも俺達が何かしてもこの状況をひっくり返せるはずがないと高を括っているのかな?その油断が命取りだと教えてあげよう。




  ~~~~~~~




 本来ならば今日の夜会には王様とディートリヒは参加しないことになっていた。理由は簡単だ。二人に出席されたらアマーリエ達の予定が狂う可能性が高いからだ。


 もし二人がいる場で二人が結婚を許可していないのに勝手に貴族家の結婚をアマーリエ達が発表したとあってはその場で騒ぎになる。当然王様達はその場で否定して取り消させるだろう。


 だけど二人がいない間に結婚を発表して高位貴族達の間で広まってしまえば後から取り消すというのは大変だ。夜会に出ていなかった者達にまで話が流れた後で正式になかったことにしようと思えば大変な労力がかかる。また王家や宰相の落ち度とも判断されるだろう。


 そもそも一度結婚が発表されたのにやっぱりなしですって言われてもその二人に何もなかったと思うだろうか?別に処女信仰があるわけでもないから二人が初夜を迎えた後だったからといって処女じゃなくなった!と騒ぐような者はいないだろう。


 だけど間違いだったとしても一度でも平民と結婚したと思われた貴族のご令嬢と結婚したがる相手がいるだろうか?それも男の方が相当格下で得る物の方が大きいならともかく、家が傾いているリンガーブルク家に婿入りしても得る物はほとんどない。そんな状況で平民と結婚してすぐに別れた形になっているアレクサンドラと結婚しようと思う相手がいるだろうか?


 そんなことになれば後から結婚が白紙撤回されようともアレクサンドラの経歴にひどい傷が残ることになる。今後貴族社会でまともに過ごすことも出来ないだろう。だから一度でも発表されて貴族の間にそれらが広まればアマーリエ達の勝ちだ。となれば当然王様と宰相に出席してもらっては困る。


 なので今日は二人は出席しないことになっていた。アマーリエが色々理由をつけて二人を出席させないようにしていたからだ。ところがどっこい二人はサプライズと称してここに来ている。二人が現れた時のアマーリエ達の驚愕の顔は思い出しても笑えるというものだ。


 その二人が有力な高位貴族や要職に就く者達を連れて控え室に向かう。少し夜会を抜けて控え室で歓談しようと誘われて断る者などいない。アマーリエやナッサム公爵を含めたかなりの人数で控え室へとやってきた。アマーリエ達の顔色が明らかに悪い。何故ならここはアレクサンドラ達の控え室の隣だからだ。


 暫く歓談していたこちらの部屋の声を王様に抑えてもらう。そして聞こえてくるのは隣の部屋の爆弾発言だ。


 俺の魔法によってこちらの音はほとんど向こうに漏れていない。向こうのカスパルはここで俺達が聞き耳を立てていることなど気付いてもいないだろう。次々に暴露される謀略にアマーリエが声を上げた。


「何をしているのです!衛兵!隣の不届き者を捕らえよ!」


「待て!最後まで聞き届けよ。もし万が一邪魔する者があればその者も彼の者の仲間と看做して同罪とする!」


 兵を突入させて止めさせようとしたアマーリエを制して王様が誰も動くなと命令する。ここでいきなり隣に突入していけなどと言えばそれは都合の悪いことを聞かれたくないからだと誰の目にも明らかだろう。『ぐっ!』と言いながらもどうにも出来ないアマーリエ達は憎憎しげに俺を睨んでいたのだった。



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