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第百六話「二号店オープン!」


 あの日四人が集合して以来皆頻繁に会うようになっていた。四人全員が集まって話し合いがもたれることもあるし、誰かが用事で来れなくとも何人かは集まることもしばしばだった。そうして皆で集まって知恵を出し合ったけどやっぱり解決策はない。今のアレクサンドラの状況は容易ではないということだ。


 学園が始まってから早一ヵ月半、皆で集まるようになってから二週間近くが経っている。それなのに解決策がないということはやっぱり現状ではどうしようもないということだろうか。少なくとももっと情報や裏付けが取れないとどうしようもない。


「フローラ様、早く準備をしないと皆が来てしまいますよ」


「はい、わかっていますよ」


 カタリーナに急かされて用意を急ぐ。まぁ俺はカタリーナに着替えさせてもらって準備してもらうだけだから姿見の前で立つだけなんだけど……。その俺がゆっくりしているものだからカタリーナにさっさとこっちへ来いと催促されたというわけだ。


「まさかこの五人で出かけることになるとは思ってもみませんでしたけど……」


「いえ、誰か一人だけがフローラ様とお出かけするなんていう抜け駆けは許されません。全員が出揃った後でフローラ様と出かける約束をするのは良いですが現時点ではこれは必然です」


 今日俺はカタリーナ、ルイーザ、クラウディア、ミコトと五人でカンザ商会の二号店の新規オープンに顔を出すことになっている。もちろん俺はただの客として行くのだから貴族の格好で行くわけにはいかない。前にルイーザと出かけたように庶民の格好で行く。


 またミコトやクラウディアのような元々身分の高い者達にも今日はお忍びだから庶民の格好をしてくるようにと伝えている。クラウディアは騎士爵だから元々庶民に近い生活をしているそうで服装や庶民に紛れることは問題ないと言っていた。


 もし問題があるとすればミコトだろうか。ミコトは王女様だし元々風習も違う魔族の国の育ちだからうまく庶民に紛れられるか心配だ。


 カタリーナもそこそこ良い家の貴族の育ちのはずなのに変装は完璧だった。完全にどこからどう見ても普通の町娘にしか見えない。何でもそういう任務にも対応出来るように庶民に紛れたり、変装なんかもかなり勉強したそうだ。


 漫画じゃあるまいしそんな技術いつ使うんだと思ってたけど案外使えることにようやく気付いた。イザベラやヘルムートもそうだと思うけど情報収集なんかに出てもらっている時は恐らく今のカタリーナのように庶民の格好をしているんだろう。庶民に紛れて情報収集する方が便利なことはたくさんある。


 スパイ映画じゃあるまいしそんなの使うのなんて空想の世界だけだと思うかもしれないけどそんなことはない。昔の忍者だってほとんどは庶民の格好をしてそこらに紛れ込み情報を集めたり、逆に嘘の情報を流して撹乱したりする諜報員がほとんどだ。漫画やアニメのようにわけのわからない忍術を使って戦うなんてことはない。


「フローラ様……、本当にこの格好でお出かけになられるのですか?」


「え?何かおかしいですか?」


 着替え終わったので大鏡の姿見で格好を確認する。別におかしなところはない。前回ルイーザと出かけた時に偽装用に着た町娘の服とそう大差ない。もちろん同じ服を着ているわけじゃないぞ。別にあれから相当日数も経ってるし庶民ならそんなに何着も服は持っていないかもしれないけど、さすがにもし前回と同じ人に会った時に同じ格好だと思われたら格好悪い。だから服自体は新調したものだ。


 デザインも色も違うし明らかに前の服とは違うと一目でわかる。その上でこれもどこにでもある普通の町娘が着ている服を用意してもらった。鏡の前でスカートを摘んで確認してみるけど特におかしな所はない。完璧に町娘の格好だ。


「もう少しそれらしい格好をされた方がよろしいのではないでしょうか……?」


 カタリーナが遠慮がちにそんなことを言ってくる。それらしい格好とはどういう意味だろうか。カーザース家の娘やカーン家の当主としてそれらしいという意味だろうか。それならそんな格好をして行くわけにはいかない。あくまで今日は庶民の客としてお忍びで視察することが目的だ。


「貴族の格好をして行ったらおかしいでしょう?」


「それはそうですが……、もう少し全体に合うといいますか……、フローラ様のお顔や所作に合う格好というものがですね……」


「フローラ様、お客様がご到着されました」


 カタリーナが何か言い難そうにゴニョゴニョ言ってる時にノックされて外から家人の声が聞こえてきた。イザベラじゃない。カーザース家の家人達だ。俺付きは相変わらずヘルムート、イザベラ、カタリーナの三人しかいない。そして今日は二人には休みを与えている。俺だって視察とは言っても遊びに行くようなものだし二人もたまにはゆっくり休む方が良いだろう。


「それでは行きましょうかカタリーナ」


「……はい」


 まだ何か言いたそうにしているカタリーナだけど結局何も言ってこなかったのでスルーしておく。部屋を出てエントランスへ向かうと三人とも俺を待っていた。


 ルイーザはいつもとそう変わらない。元々貴族じゃないんだから普通にしていればそれで十分周りに溶け込めるだろう。クラウディアも自分で貧乏騎士爵だから庶民と変わらない生活をしていると言うだけあって様になっている。今のルイーザとクラウディアが二人で町を歩いていても何ら違和感がない。


 それに比べてミコトよ……。それは何かの冗談か?


「いくら何でも……、ミコトのそれはちょっっっっっとおかしくないですか?」


 俺の言葉に他の三人も頷く。やっぱり皆思ってたんだな。


「何よ?どこがおかしいわけ?」


 ミコトは本気でわからないという風に答えている。何というか……、ミコトはあれだな。庶民というものがわかっていない。天然なのか感覚がズレているのか。


「確かに貴族の装いではありませんよ?ですが貴族の服装をしていなければ何でも良いということではないでしょう……」


 確かにミコトの格好は高位貴族の服装とは違う。だけどド派手な真っ赤なローブを着た、漫画やアニメに出てきそうないかにも魔法使いです!っていう感じのその格好はおかしい。そんな格好をした庶民なんて絶対にいない。


 この世界にも魔法使いはいて、魔法使いには魔法使い相応の格好というものがある。だけどド派手な魔法使いの格好をした少女が庶民の町をウロウロ歩いていたら目立つことこの上ない。明らかに異質だ。


「そうは言うけどフロトだってどうなのよ。はっきり言ってフロトは全然庶民に見えないわよ」


「うんうん」


 ミコトの反論にまずすぐにルイーザが頷いた。俺の格好のどこがおかしいというのか。ミコト以外の俺達四人は皆同じような格好をしている。何もおかしくなどない。


「ルイーザに聞いてたけど、そんなわけないってミコトと笑ってたんだけどこれは笑えないよ……。ルイーザの言う通りだった」


「でしょ?」


 クラウディアまで何か首を振っている。ルイーザはどうだとばかりに胸を逸らして答えているけど俺のどこがおかしいというのか。


「とにかくこのままでは出られません。フローラ様とミコトは私が選んだ服を着てもらいます」


「え?ちょっ!何故私まで……」


「いいから来てください!」


 こうして俺はミコトと一緒に問答無用で再び着替えるために部屋へと連れ戻されたのだった。




  ~~~~~~~




 五人で下町を歩く。結局着替えさせられた俺とミコトは元の格好とは違う服になった。でも一つ納得いかないことがある。俺の格好は庶民の娘というよりは裕福な商人の娘という所だろうか。貴族の格好をさせられたわけじゃないからこのくらいならまだ許容範囲内だ。それよりむしろ納得いかないのは……。


「はぁ~、フロトが着てた服!むふふっ!フロトの匂いと温もりを感じるわ!今もこうしてフロトに抱き締められているみたい。ふふふっ!」


 そう、何故かミコトは俺が着ていた庶民の服を着ている。これが納得いかない。それなら俺がその服を着たままミコトだけが着替えればよかったのではないか?何故俺はあの服では駄目で、その俺から脱がせた服をミコトに着せているというのか。この服の入れ替えがまったく理解出来ない。


 そして今でこそミコトは上機嫌だけど着替えた最初の頃はそれはもうおかんむりだった。理由は……、俺が着ていた服をそのまま着るとブカブカだったからだ……。服のサイズじゃない。ある意味服のサイズだけどもっと場所が限定されている。


 俺があの服を着ていた時は乳袋が出来ていたのにミコトが着ると……。


「ちょっと……、今何か余計なこと考えたわね?」


「ひぇっ!そっ、そんなことはありませんよ?」


 急に振り返ってそんなことを言い出したミコトを真っ直ぐ見れない。怖い。何で俺が胸のことを考えていたとわかったんだ。超能力か?いや、魔法使いだったな……。魔族に伝わる秘伝の魔法か?まだジロリと俺のことを疑わしそうに見ているけど適当に誤魔化しているとそのうち諦めたのかまた前を向いて歩き出した。


 ミコトも決して小さいわけじゃない。年齢や体格から考えたらむしろ普通だろう。特に俺の感性からすると……、あっ!そうか。日本人はあまり胸が大きくない人も結構多い。その感覚で普通ということはこの国では少々小さい部類に含まれてしまうだろう。


 俺はかつてクラウディアの胸をそれほど大きくないと評した。それは俺と比べて明らかに小さいからだ。だけどミコトは標準的日本人くらいしかないかもしれない。クラウディアよりさらに小さいということだ。日本人の標準サイズなんて知らないけど……。ともかく俺に比べて小さいその胸のためにカップ部分が随分余っていた。それをカタリーナがあっという間に針仕事で手直ししてくれたわけだ。それからようやくミコトは機嫌良く今の服を着てくれた。


 ともかくあまりこの話題に触れるのはタブーなようなので忘れることにする。そんなことをしながら下町を歩いているとすでにかなりの人だかりが出来ている場所に辿り着いた。どうやら新規オープンはそれなりに流行っているようだ。


「私達は店内で食べるから向こうに並ぶようですね。あちらへ行きましょうか」


 並んでいる客の列は大半がクレープのテイクアウトのようだ。外の窓口に並んでいる列に俺達が並んでも意味はない。俺達は店内カフェ用の列に並ぶ。こちらは列こそ短いもののいつ順番が回ってくるかわからない。店内の席が空くまで待つ必要がある。大半がテイクアウトに並ぶ理由もわかるというものだ。


 テイクアウトに比べて少々時間はかかったけどようやく俺達も店内に入れたので注文する。俺は今日はミルクレープとお茶にしておいた。皆はどれが良いかわからないようでショーケースに並んでいるサンプルを見てあーでもないこーでもないと言っていた。


 皆が注文を選んでいる間に俺は店内の内装や接客、客の反応を確認する。建物はもともとあった建物を買い取っただけで内装工事だけだったから一ヶ月もあれば十分店内は改装出来た。問題がありそうだったのは板ガラスだけで、板ガラスも予定通り運んでこれたので工事に遅れはなかった。


 店員達の教育はまだ少々甘い所がある。というよりは根本的にこういうスタイルに慣れていないのだろう。ほとんどの店員は元々カンザ商会で働いていたベテランのスタッフばかりで新人は一部しかいない。それでも少々もたついてるのはこの店がまったく新しいタイプの店だから店員も不慣れなせいだろう。これは時間とともに慣れと問題点の改善が進むだろうから最初から完璧を求めるのは酷というものだ。


 客の反応は上々。多少待ち時間が長いのはあるけどそれは期待の高さを表すものでもある。初めて食べるクレープやミルクレープに客達は舌鼓を打っている。チラホラと次はどれを食べよう、何を食べたいという会話が聞こえてくることからリピーターも一定数は確保出来そうだ。


 カフェ店内からは隣のカンザ商会の商品がよく見える。大きな板ガラスに興味津々になっている客も多数だった。カフェでクレープを食べながらふと視線を向けると商会の商品が価格と共によく見える。向こうに興味を持って移動していく客や眺めている客がかなりいた。


 店員達も気軽に見ていくように声をかけているし、カフェの客層は女性が多い。商会の商品も女性ウケが良さそうな物をなるべく見えやすい位置に置いているので商会に誘導されている女性客が随分多いようだった。


 皆の注文が終わって席へと移動して食べながら話が弾む。


「あま~い!」


「こっちもおいしいよ」


 うちの女性陣にも評判は上々のようだ。ルイーザやクラウディアに聞いてみた所価格もお手頃で買いやすいとのことだったので庶民向けに丁度良い設定が出来ていそうだ。値段やラインナップには苦心させられただけにうまくいっていると思うと喜びもひとしおというものだろう。


 皆との会話もしつつ客の流れや会話も盗み聞きしていく。日本の店内席なら長く居座る客もチラホラみるけどここではあまり長居する客はいない。理由はどうやら隣の商会に興味を惹かれてすぐに向こうへ客が流れているからのようだ。お陰で店内の席の回転が早い。思わぬ相乗効果といった所だろうか。


 そんな様子を眺めながらミルクレープを食べていると……。


「あれはっ!?」


「フローラ様?」


「ちょっ!カタリーナ!フロトでしょ!」


 急に立ち上がった俺にカタリーナがついフローラと呼んでしまったようだ。ミコトがフォローしてくれているけど俺はそんなことを気にしている余裕はなかった。今外を通りかかった女性は……。


「ちょっと席を外します!」


「あっ!フロト!?」


 見間違いじゃないはずだ。ずっと探していた人の一人が見つかった。まだ食べかけのミルクレープと皆を放って俺は見かけた人を追って店を出て行ったのだった。



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